左上:大きな目玉 右上:追っ駆けのスミイカ
左下:イカの腹にアジが、薄紅色の光を放って、 右下:ゲソ焼き
絶品!のスミイカに出会えた幸運
中央市場の楽しみのひとつは、運よく絶品・珍品に出会う時である。
7時半、追っ駆け入荷の場内アナウンス。三浦半島・下浦漁港から、朝網のアジ・カマス・
スミイカの入荷の知らせだ。カラン・カランというセリ場の鐘に誘われてセリ場を覗く。
たった1箱だけスミイカのトロ箱がある。誰が競り落とすか目を走らすが、仲買の指の動き
とセリ人の掛け声だけで、誰が落としたかわからない。
ややあって、トロ箱を覗くと懇意な仲買のセリ札が入っているではないか。しめた!
荷を追うように仲買の店に急ぐ。まだ生きている。甲に触れると反応する。値段を確かめる。
東京湾冬の味覚
スミイカは冬の味覚だ。冬の東京湾のスミイカ釣りはファンが多い。釣り味よりもその味覚
に魅せられてのことだ。短足・肉厚・大きな目玉、ねっとりとして軟らかく、ほのかな甘みは
堪えられない。イカはどれも個性があって美味しいが、冬のスミイカはイカ族の味覚の王様と
言ってよい。
イカの腹から新鮮なアジが
墨に気をつけながら、内臓を引き出す。な、なんと15センチほどの鯵がまるまる消化もさ
れずに入っているではないか!! それも、薄紅色の輝きを放っているではないか。きっと丸
呑みしたその瞬間に網にかかってしまったに違いない。甲の長さに匹敵するような鯵をどうや
って丸呑みできるのだろうか? 墨を噴出すあの口のようなところからだろうか?もう1パイ
からは、5センチほどに折れた骨だけが出てきた。イカは恐ろしい生き物だ。
あまりの見事さに、3枚に下ろしてみる。これなら十分に刺身で食べられると思ったが、何
となく気持ちが向かなくて、後で天ぷらにして食べた。もちろんうまかった。めったにないこ
とだからやっぱり生で食べておくべきだったと今でも思うが、体内の魚を食べるにはちょっと
勇気がいるということか。
お釣りのくる美味さ
イカは、一部の内臓を除いて殆んど食べられるところがいい。捨てるところがなく経済的だ。
皮を剥くのがやや手数がかかるが、このくらいの手間は、十分お釣りのくる美味さを思えば大
したことではない。
刺身を堪能し、肝を絡めたゲソ焼きに舌鼓を打った。美味い、旨いを連発しながら。残りの
半身を味噌漬けにして楽しみを後に残した。そうしてまるまる2ハイを一人で平らげた。家内
がイカを食べないから、久々の満足であった。
*「追っ駆け」:通常の入荷時間に遅れて、入荷してくる魚(荷)を言う。前の車を追っ駆
けて来ることに由来すると聞いた。地場の魚で鮮度が抜群によい。わたしはこれを最も好む。