ふるさと納税の返礼品経費、138市町村が基準を超過…「寄付の5割以下」守られず
2023/02/16 06:55
(読売新聞)
ふるさと納税の返礼品を含む経費の総額が、国基準の「寄付額の5割」を超過している自治体が、2021年度に全体の8%にあたる138市町村に上ったことが読売新聞のまとめでわかった。このうち27市町村は19年に基準が導入された後、一度も守っていない。送料や仲介サイトへの手数料などがかさんでいるためで、総務省は改善しなければ制度から除外する可能性があるとし、超過している自治体に警告書を送った。(苅田円、北島美穂)
総務省が初の警告書
同省が現在のふるさと納税制度で、自治体にこうした警告書を送るのは初めて。
ふるさと納税は、地方税法に基づき、応援したい自治体に寄付すると、2000円を超える分が住民税などから控除される。08年の制度開始後、趣旨に反して高額な返礼品を提供する自治体が相次ぎ、国は19年、同法を改正。▽返礼品は地場産品で調達費は寄付額の3割以下▽経費の総額は5割以下――との基準を設けた。
経費には、返礼品の調達費以外に、送料や仲介サイトに支払う手数料、広告費などがある。例えば、寄付10万円に対し、調達費は3万円以下、総経費は5万円以下に抑える必要がある。
総務省によると、21年度は1786自治体が参加し、寄付総額は過去最多の8302億円。これに対し、調達費は2267億円で27・3%、経費の総額は3851億円で46・4%だった。
しかし、総務省が公表している自治体別の決算見込み額を読売新聞が分析したところ、経費の総額が寄付額の5割を超えた自治体は21年度に138市町村。基準が導入された19年度は253県市区町村、20年度は174市町村で、27市町村は3年連続で5割を超えていた。
福島・広野は65%
この27市町村のうち、21年度の経費の割合が最も高かったのは福島県広野町の65%。次いで北海道喜茂別町(60・1%)、群馬県榛東しんとう村(58・6%)、北海道中札内なかさつない村(57・6%)、同京極町(56・8%)、岡山県西粟倉村(56・5%)だった。取材では、送料や仲介サイトへの手数料が膨らんでいるケースが多かった。
総務省によると、寄付を受けた翌年度に返礼品を送付すると、寄付と経費を計上する年度がずれる。この場合、寄付額が前年度より落ち込むと経費の割合が高くなることがある。そのため、同省は単年度で5割を超えても基準違反で制度から除外せず、自治体に理由の説明と改善計画の提出を求めていた。
しかし、多くの自治体で改善が進まず、総務省は昨年9月、全自治体向けに5割基準を厳守するよう通知。さらに21年度に5割を超えた自治体に対しては、今後も超過が続く場合、制度への参加の指定が困難になるとの文書も個別に送った。
ふるさと納税を巡っては、調達費が寄付額の3割を超える返礼品を提供したとして、高知県奈半利なはり町、宮崎県都農つの町、兵庫県洲本市が指定を取り消され、制度から除外された。5割基準違反を理由とした除外はない。
総務省は「ルールがある以上、今後は厳格に見ていく」としている。
「税金との意識薄らぐ」
吉弘憲介・桃山学院大教授(地方財政)の話「基準違反が横行している背景には、自治体間の過剰な返礼品競争がある。経費の元になるのは、寄付者が居住地に納めるはずだった税金で、寄付を受けた自治体はその意識が薄らいでいるのではないか。競争を是正するため、自治体がふるさと納税で受けられる年間の寄付額の上限額を設定することも検討していく必要がある」
「地方ほど送料負担重い」
なぜ基準違反が繰り返されているのか。
北海道中札内村は豚肉などの返礼品が人気で、21年度に11億円の寄付を集めた。しかし、都市部からの寄付が多く、肉はクール便で配送する必要があり、送料負担が重い。21年度の送料は寄付額の2割弱にあたる約2億円。経費の総額は約6億3700万円で、3年連続5割ルールを守れなかった。担当者は「地方ほど送料負担が重い」と釈明する。
福島県広野町も「重量のある米の返礼品が人気で、送料が高い」と説明する。別の自治体は「送料は削れず、ルールを守るには返礼品の調達費を抑えなくてはならない。そうすると他の自治体に見劣りし、寄付が集まらない」と訴える。
仲介サイトに支払う手数料も自治体の負担となっている。仲介サイト大手「さとふる」は手数料を「寄付額の1割まで」とするが、「ふるさとチョイス」や「楽天」「ふるなび」は明らかにしていない。各社は利用者に寄付額に応じてポイントを付与しており、原資は自治体が支払う手数料とみられる。
ある自治体はサイト側から今年4月以降の手数料の値上げを提案され、受け入れた。「サイトに掲載されなければ寄付は集まらない。サイト事業者より自治体の方が立場が弱い」と漏らす。
岡山県西粟倉村ではふるさと納税の事務を外部委託しており、経費が膨らんだ。担当者は「小規模自治体では職員が限られ、経費がかかってしまう」と話した。