弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

4630万円誤送金問題のなぜ

2022年05月21日 | 裁判・法律

誤入金、誤送金なのか誤給付?なのか知らないが、
マスコミを賑わすようになってから、かなりの日が過ぎた。
なお、個人的には誤「送金」ではないかと認識する。
誰の問題と捉えるかによる。

私は、「町」の問題と考えている。
第一に、送金先463件を間違えて1か所に送るなどということが、なぜ起こり得るのか
正直理解できない。
第二に、なぜ、可及的速やかに、出金停止措置を講じなかったのかである。

これら新聞記事によると、4月8日に24歳男性の口座に誤送金した。
24歳男性は4月12日を最初に4月18日までほぼ毎日34回にわたって出金したという。
8日は金曜日なので、土、日を挟むが、仮差押なので、急げば11日(月)には裁判所に
申立てできたはず。そうすれば、この男性も犯罪を犯さずに済んだ。
(超特急の場合は、休日でも対応できた可能性もある。)

少なくとも、12日に400万円を決済代行業者に送金した段階では、仮差押えの手続きを
取るべきだったと思う。

最悪の場合、本件では最悪になったが、4630万円という金額を24歳の男性が弁償できるなど
常識的にはあり得ない。回収不能と判断すべきである。
そうすると、一刻も早く法的手続きをとることである。
仮差押えの理由の疎明に問題はない。
第三債務者は一応しっかりとした金融機関(給付金の受取口座なので、
問題にないところであるはず)のはず。

24歳男性に弁解の余地はない。いうまでもない。

しかし、誤送金の原因、なぜ保全措置を講じなかったのか、を知りたいものである。

過ちは起こり得る。
したがって、過ちが起きた場合にどう対応するか(被害を最小化する)が実務の世界ではより重要である。


訴訟提起が不法行為との判決の事後検証ーその7(まとめ)

2022年05月16日 | 裁判・法律

訴訟というのは、当事者の争いに応えるもの。紛争解決の最終手段。
当事者の争い方によって、裁判所の応え方が異なることがある。
思いがけない結果となることがある。
勝負に出て勝つこともあれば、安全策をとって負けることもある。
とすれば、勝負に出て勝つようにすることである。

安全策をとって負けるというのは、争点が呆ける、弱気になった背景を誤解されるなどが
考えられる。

当事者の争いというのは、訴訟では「争点」という形で明確にする。
訴訟では、いくつかの問題点について論じることがある。
本件でいえば、①契約した事実はない、②また、会員規約に合意する契約方式は
契約の意思表示ではない、③そもそも、契約は無効であるの3つの論点である。
契約無効というのは、やや一般論であるが、
②は契約手続きとして論じられているので、本件の①と直接に関連付けられる。

訴訟は、争点に対して応えるものである。
問題点については論ずるが、争点として明確にしないと、裁判所はしかるべき対応をする。
わかりやすくいうと、やり易いやり方をするように思う。
本件では、質の全く異なる大きな3論点だったので、裁判所から争点整理の求めがあった。

②をどうするか、悩んだ。
③の契約無効は、いわば最後の手段であり、つまり、実質は、契約したとした場合の
救済手段だったので、契約していないという本件での争点化はあり得ない性質のものである。
しかし、②については、違う。
むしろ、原告は、甲2のフロー図に従って、つまり②の手順で契約したとして、
訴え提起しているわけだから、これについて当然否定の理由を明確にする必要がある、との
疑問が生じる。理由を論じなければ、裁判所に認めたと思われるのではないかと。
また、一方で、そもそも、契約締結行為という事実そのものがない、というのがこちらの言い分
であり、よって、会員規約方式などということは、当然知らないことなのである。
よって、論点として、(仮に)という前提付きで会員規約方式の法律論を問題としているのであるが、
詳細に議論すればするほど、現実的にみえるような気がしてくる。
②については、見方によって相反する心証を齎すものだった。

証人尋問をして、最初から順を追って尋問しないと答えられないというのがわかった。
つまり、教え込まれているということである。
もう一つは、甲2を証拠ではなく、資料だと、わけもわからない準備書面を提出したことが
決定的だった。それなら②の主張を裏付ける証拠はないということだからだ。

争点は①だけに絞った。②及び③は論点として主張することにした。
勝負に出たのである。

提出後の最後の口頭弁論期日に裁判所に「それでよかったでしょうか」と確認した。
「予想とは違っていた。契約の事実があったかどうか判断しなくてはならなくなった。
そして、反訴についても判断しなければならなくなった」と独り言のように話した。

判決の結果は既にブログで明らかにした。決断は報われた。

さらに、裁判所は判決の万全を期して、つぎのような判断をしていた。
当方の代わりに裁判所が甲2の問題の部分について、原告にとどめを刺してくれたのである。

訴訟というのは本当に難しい。
難しい決断を何度か迫られる。
信念に従い、難しい決断を一つ一つ乗り越えれば、真実は見えてくるのであり、
裁判所もそれに応えてくれるように思う。

 

最後のまとめに反訴認容部分を再掲しておく。

 

アイザック・アシモフが残したという
「大胆に立ち向かったとき困難は消え去るというのが私の人生哲学である」との言葉の
気分である。

 


訴訟提起が不法行為との判決の事後検証ーその6(番外ー無効契約)

2022年05月11日 | 裁判・法律

原告によると、助言をしたことが、投資助言報酬の根拠ではない。
基準日に、助言を受けた資産を保有していることが報酬請求の根拠である。
契約書5条(報酬の額及び支払いの時期)に規定してあるというものだった。
(原告の令和3年1月27日付準備書面6)

法律(金融商品取引法)は、
投資助言業とは、当事者の一方が相手方に対して、有価証券の価値等、又は金融商品の価値等
の分析に基づく投資判断に関し、口頭、文書その他の方法により助言を行うことを約し
相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約(以下「投資顧問契約」という。)を締結し、
当該投資顧問契約に基づき、助言を行うこと
そして、投資助言業務とは上記に係る業務のことをいうと規定している。

原告(アブラハムプライベートバンク、現ヘッジファンドダイレクト(株))の
「保有していることが投資助言報酬の根拠」というのは、虫のいい独自の見解である。
「その5」で述べたとおり、何もしないで報酬名目で支払わせるのが狙いなのである。

原告自身、原告の投資助言契約は金商法のいう「投資助言契約」とはおよそ無関係なことを
自認している。
わかりやすくいうと、原告のところでA会社の株を買うと、その株を保有している限り、
毎年0.945%の投資助言料を払わなければならないということである。
その理由は、原告の契約書に規定してあるからというだけである。
いかに不条理かわかろうというものである。
原告の契約書では、「あらゆる投資商品」(2条※)とあるので、原告との会話で、うっかり口を
滑らせると、助言(原告の契約書では助言指導)により投資したと言いがかりをつけられる
可能性ありである。怖いことである。
※なお、金商法で投資助言業者に認められるのは、金融商品だけである。
「あらゆる投資商品」は投資助言契約の対象ではない。

日本投資顧問業会作成の投資助言契約との対比表を作成したので参考にしてほしい。
内容が同じ条文(1、4、6、8~10)は省略。
対比表はここ

なお、日本投資顧問業協会は、投資者保護を図る等を目的とし、大蔵大臣の許可を得て設立された
金融商品取引法第78条規定の認定金融商品取引業協会である。任意加入であるが、
自主規制ルールの制定などを行っている。原告も加入。
したがって、契約書と作成する場合には、当協会の作成したものはサンプル、模範見本になる。

詐欺商法という理由である。

 


訴訟提起が不法行為との判決の事後検証ーその5(番外ー無効契約)

2022年05月09日 | 裁判・法律

原告(アブラハムプライベートバンク(株)・現ヘッジファンドダイレクト(株))の投資助言契約は
無効と確信している。先にも述べたとおりである。
契約行為が全く存在しなかった被告の場合は直接関係がなかったのであるが、原告の悪性を証明するためにも
無効を主張した。
判決は被告の主張として以下のように消費者契約法10条違反のみをとりあげたが、実際の訴訟では、
履行不能・あるいは金商法違反で無効という主張もしていた。

原告の投資助言契約3条及び5条はそれぞれつぎのとおりである。

これによると、投資助言サービスを受ける投資資産の額は、助言指導により「投資した」有価証券等の
「実際の投資金額」と定める。わかりやすくいうと、1年前の本日A投資信託を中長期保有(5~10年)
目的で、1000万円で購入したとすると、実際の投資額は1000万円なので、1年目の報酬は、
2021年5月9日、94500円である(1000万円×0.945%)。
中長期保有が目的なので本日現在、当然に保有している。売却(換金など)は考えたこともない。
すると原告投資助言契約によると、2年目として、例えば、本日現在のA投資信託の金額が
ウクライナ戦争などの影響で800万円に下落していたとすると75600円の報酬を
原告に支払わなければならないということになる。
しかし、A投資信託がAが運用しているし(運用先のAにはマイナスがでても運用手数料の
支払義務はある。)、売却するつもりもないので、原告に投資助言を求める必要は
全くない。にもかかわらず、0.0945%の報酬を原告に支払い義務があるという。
これが保有している間、継続するわけである。

皆さん、おかしいと思いませんか?
私はおかしいと思う。
なぜか?保有しているのは、A投資信託という現物であって、資金(現金・預金)ではない。
保有していた投資資金(現金)の1000万円は2021年の5月9日(実際にはそれ以前の振込をした日)に
なくなっている。
2022年の800万円というのは、A投資信託の評価額にすぎず、投資に充てる予定の現金(投資資金)ではない。
売却しないかぎり、800万円についての投資先を考えるのは空想でしかない。

原告の投資助言契約2条は次のとおりである。
なお、投資というのはいうまでもなく、利益を得る目的で、事業・不動産・金融商品等に資金を投下することである。

これによると、原告が行う助言は、
「顧客の投資目的に基づき、投資対象の選定及び売買の時期等の投資助言」を行うとしている。
ここで取り上げた例では、A投資信託を購入した後では、投資資金は不存在であり、
A投資信託については中長期保有で買い替えるつもりもない(顧客の投資目的)ので、
もはや「投資対象の選定も売買の時期等」についての投資助言は必要としていない。

そして、1条は、「原告は甲(顧客)のために忠実に投資助言サービスを行う」ことを承諾したとある。

そうすると、第3条が、投資助言サービスを受ける「投資資産の額」を「投資した有価証券等の
実際の投資金額及び5条1項に定める基準日に入手できる最新の評価額」としたのは
顧客の投資目的に忠実な投資サービスの観点からは「不能」を定めたものであるというべきと思う。
なぜなら、「有価証券等を実際に投資・購入した」瞬間に、投資資金(現金)が消滅したので、
最早、投資助言の対象となる投資資金(現金)が存在しないからである。
そうすると、不能な内容を定める3条は無効というできである。
契約の対象たる投資財産が存在しない以上、投資助言契約の目的そのものが
存在しないので、契約全体が無効である。
というのが、私の考えである。
つまり、投資資産を実際に投資すると、投資資産だったものは運用資産に代わったのであって、
もはや投資資産ではない。
運用資産は、投資助言会社ではなく、運用会社の判断で資産を運用することになる。
投資助言会社の投資判断など出番はない。

・・・・・

ところで、有価証券を保有し続けるかぎりは、現金(投資資金)としては存在しないので、
実際に必要とする投資助言(顧客の投資目的に基づき、投資対象の選定及び売買の時期等の投資助言)
サービス提供の機会は存在しない。
つまり不能の契約というわけであるが、これは顧客の方で問題提起をしない限り、取り上げられることはない。
そうすると、当分の間は(当分というのは法律の世界では”いつまでも”の意味であるが)、
助言指導により投資した有価証券等を保有し続ける場合は、自動更新するとの7条の
つぎの規定は、無用な投資助言契約を顧客に押し付ける、原告にとって好都合な条項なのである。
運用は運用会社(例の場合は、A )が行うので、投資助言サービスなど不要なのであるが、原告は、
顧客がサービスを求めなかったと弁解し(申出があれば、随時相談に応じるとしたあるが、
申し出がなかったと)、何もしないで、売却しただけで、3条及び7条の規定により
毎年、0.0945%の報酬が「棚ぼた」となる仕組みである。



原告の投資助言契約書は、詐欺商法のツールなのである。
(真正の投資助言会社であれば、投資した有価証券等を頻繁に売却・購入する顧客こそ、
投資助言サービスを必要とするはず。)

・・・・・

論争がかみ合う事例があれば、是非、原告の投資助言契約の無効を争ってほしいものである。
現ヘッジファンドダイレクトのHPをみても、その商法は現在も同じのように見える。

 

 

 

 

 

 


訴訟提起が不法行為との判決の事後検証ーその4

2022年05月07日 | 裁判・法律

ところで、甲2のステップ1(顧客情報欄を除いたもの)と乙61は同じものであるべきだが、
ヘッダをみても全然、違う。(5月5日のブログ。ここ
また、乙61会員規約の枠内をみると途中から始まっている。これもおかしい。
要するに、嘘に嘘の上塗りということであろうか?

訴訟中に会員規約の第5章が引用する書類を見つけた。原告が提出した書類だった。
提出の会員規約(甲3)は第1章と第2章しかない。
本物の会員規約の提出を求めた。
第5章が存在するのは改正後のものという説明だった。
執拗に要求して提出させた(甲19)。その会員規約は2012年11月改正という。
甲19を見ても、改正後のものか、新設のものかは不明である。

参考にしたつぎのようなブログがあった。
ホンネの資産運用セミナー<インデックス投資ブログ>ここ
吊られた男の投資ブログ(ここ
やまもといちろうオフィシャルブログ(ここ
大変参考になったので、ここで感謝を述べておきたいと思います。

2013年の2月ころには原告のアブラハムプライベート株式会社会員規約をネット上で
見ることができたものと思われる。
訴訟時にはリンク先の会員規約のページは見当たらなかったので、甲19との同一性をチェックする
ことはできなかったが、2012年11月には甲19のような会員規約は存在したようではある。
甲19の会員規約には、投資助言契約書や契約前の交付書面の内容に記載はなく、
甲3とは発想が全く異なる。
甲3のようなものが、平成22年1月~同24年11月の間、存在したのか否かは、確かめようもない。

今日の目的は、2012年11月22日作成のアブラハムプライベートバンク株式会社会員規約として
証拠提出されたもの紹介、及びその保存である。ここ