弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード法の聖域(第14話)恐怖への挑戦  陪審制度の見直し

2011年06月19日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディードの法の聖域の第14話は恐怖への挑戦(Above the LAW)です。

シリーズ4(2005年)の第2話になります(1月20日放映)。

麻薬の縄張りをめぐる争いの中での殺人事件です。
3人のチンピラギャング(未成年)が被告人です。
被害者も麻薬のディーラーです。
ピザの配達人を装うつもりだったのか、ピザ持参です。
射殺した後、ピザを顔に押し付けて帰ります。

目撃者はいます。別室で被害者の彼女が一部始終を見ていました。
いかにも杜撰で乱暴な犯罪ですが、このドラマでは、それはどうでもいいことです。

傍聴席は被告人の家族や友人でいっぱいです。傍若無人に騒いでいます。
法廷の権威などには全く関心なしです。
どこかのディスコにいるかのように被告人も交えてワイワイと騒いでいます。

陪審員が集まらないというので書記官さんは頭を悩ましています。
ディードは職業紹介所で見つけてきたらなどと(冗談と思いますが)言っています。
やはり陪審員のなり手がいないようで、深刻な事態なんです。
ようやく見つかりました。
被告人は2人が黒人、1人が白人です。主犯は黒人、ナンバーツーは白人です。
被告人の弁護士は、白人と黒人が半々になるように希望しますが、
12人集めるのがやっとです。結局、ほとんどが白人、ただし陪審長は黒人です。

秘書のクープさんは場をわきまえない被告人の関係者の傍聴には否定的ですが、
理想派のディードは、誰でも傍聴する権利があるなどとカッコいいことばかり言っています。
しかし、実際に始めてみると、悪態の付き放題で、
さすがのディードも法廷侮辱でどしどし退廷を命じます。
いうことを聞かない被告人も退廷させ、裁判所内の拘置所に留置します。
大荒れの法廷です。

こういう状態ですから、目撃者も被告人やその関係者を恐れて証言をしたがりません。
ジョーは検察側の代理人ですが、ビデオリンクでの証言を要求します。
ディードは警察が保護しているのであれば証人の身の安全には問題ないだろうとして
法廷で被告人の面前で証言するように求めます。
途中で証人席を飛び出すほどの侮辱等がありましたが、目撃証人は無事証言を終えました。
ところが、保護にあたる警察官の目を盗んで外出したところで、自動車のひき逃げにあい
死んでしまいます。いったん、引いた後、もう一度、バックして引きなおしているので
完全に殺すつもりだったことがわかります。(後は被告人の関係者の仕業とわかります)

証言は終りましたが、唯一の目撃証人の死亡です。
ディードも責任を感じますがどうすることもできません。
でも、証言した後の死亡なら裁判に影響しないんじゃない、だからいいじゃないと
思われるかもしれませんが、そうでもないのです。

さて、次の重要証人のピザ店のオーナーですが、傍聴に出入りしている数人が
店に押しかけ脅しをかけました。
どうなるのでしょう?

陪審員ですが、最初は2人が病気になったと言って欠席です。
さらに2人が気分が悪くなったといって出てきません。
2人が欠席した時も、どうするかが問題になりましたが、
4人欠席となるともはや裁判は維持できないのではとの疑問が出てきます。
というのは、陪審員の評決は最低9人以上の多数決が必要だからです。
もちろん、評決のときには、欠席した陪審員が復帰し9人以上の多数決に
なるかもしれませんが、一部の証言を聞かないで結論を出した陪審員がいることになります。
そうすると、後で評決の有効性を争われる可能性があります。
もし、これが手続きミスということになれば、この瑕疵はもはや治癒する方法はないわけです。
そういう危険性を内蔵したまま手続きを進めても
結局は、時間と費用の無駄でしかないのです。

4人の診断書を書いた医者は同一人物です。
ディードは医者を証人に呼びます。医者の診断はストレスだというものです。
陪審員の仕事は大変ですからストレスといわれるとディードも返答のしようがありません。
ただ、医者は、うち一人は怪我もしていたと証言します。
ディードは事情を聞くため、その陪審員を訪問することにします。異例です。
転んで怪我したなどと言い訳しますが、ディードはそうでないこと、脅されたことを
悟ります。
陪審の重要性を説明して説得しますが・・・・
そうです。陪審員たちは被告人の関係者に脅されていたのです。

ディードは徹夜で判例を調べますが、8人で審理をしたというような前例はないようです。

となると、裁判をやめるしかありません。
もちろん、もう一度やり直すことは理論上できますが、この場合にはもはや目撃証人は死亡して
いますから、証言させることはできません。
検察側は、事実上やり直しはできないんです。(証言後でも殺す意味があるのです)

実際は方法があるのです。
イギリスの陪審制は500年の歴史がありますが、
2003年の刑事手続法の改正で、陪審員に対する妨害(jury tampering)がある場合には
裁判官だけの陪審員なしの裁判をすることが可能になったのです。
ですから、ディードは、しようとおもえば、裁判を継続することは可能なのです。

ところが、どうやら裁判官たちの間では、陪審員なしの裁判というのは評判が悪いのです。
陪審員による裁判というのは国民の権利のごくごく基本にかかわるものとの認識です。
犯すことのできない権利と考えられているようです。
ですから、陪審なしの裁判をするくらいなら、裁判の中止もやむを得ない、
そのため、犯罪者が罰せられず、自由になっても仕方がないとの考えが強いようです。
モンティ・エバランドですら、できることはなんでもするからねと、ディードに協力の申出をするほどです。

では、なぜ2003年の改正があったのか?
労働党政権では、陪審員による裁判は時間と金がかかりすぎるとの考えだったようです。
また、このドラマにもあるように陪審員のなり手が少なくなったということもあるようです。
ドラマによれば、陪審制を廃止する法案もあったということですが、それは廃案に
なったようです。ですから、jury tamperingがある場合は、陪審員抜きの裁判ができるというのは
一種の妥協だった可能性があります。

例のイアンは役所の人間ですから、何とかディードに陪審抜きの裁判をしてほしいのです。
そのための圧力をかけてきます。
もし、ディードが陪審裁判に拘り、裁判中止などにすると、他の判事たちが大喜びをして右に倣えに
なってしまうことを恐れています。
ディードは、陪審制を守り、その代償として陪審員を脅したり、証人を殺したりするような犯罪人を
自由の世界に戻すか、それとも個人の権利の肝心要の陪審裁判を受ける権利を放棄し、そのかわりに
犯罪人を罰して正義を行うか、の二者択一を迫られます。
悩み悩んだ挙句、おそらくディードだからでしょう、陪審なしの裁判官のみによる裁判を決断します。
被告人の代理人は権利侵害で認められない、裁判を中止し、釈放すべきだと異議の申立をします。
イワンはといえば、これで前例ができたと大喜びです。

ここでまだ、どんでん返しが起こります。
陪審員が全員復帰してきました。
ピザやのオーナーも証言します。
ようやく終わりに漕ぎ着けました。

ところが、裁判所のトイレで例の陪審長が脅されます。
監視員を装って被告人の関係者(目撃証人をひき殺したのも同人物)トイレに侵入したのです。
ディードの耳にも入ります。

脅迫に屈することなく、陪審員は有罪の評決をしました。

そして、陪審長を脅迫し、目撃証人を殺害した者や法廷で騒いだものを全部法廷侮辱等で
拘束してしまいました。

なお、検察側の弁護士のジョーは、たとえ、麻薬の売人同士の争いであったとしても、
犯罪を犯した者には法律で処罰することが、自由で公正な社会を守るためには必要だと
最終言論したのが印象的でした。
そうでなければAbove the LAWになってしまうというのです。

さて、現実の世界では、2009年に初めて、2003年の法律に基づく陪審員なしの裁判官だけの
裁判を認めた画期的な判決が出ました。
法律ができてから6年もかかったことになります。

英米法の国では、処罰するのは国民であり、国民の国民による裁判が保障されているとの考えが
しっかりと根付いているということです。
だからこそ裁判官も陪審員の判断を尊重してきたのです(有罪か無罪かにつき)。
裁判官は法律の専門家であって、事実認定は一般人が専門家ということです。

日本では、ようやく裁判員制度が導入され、いわゆる一般人のものの見方や考え方が
裁判に反映されるようになりました。
陪審制とか裁判員制というのは、裁判官が生きた世界を学ぶ機会であると同時に
一般人が法律的なものの考え方を学ぶ機会です。

陪審制は民主主義の基本原則だというイギリス的なものの考え方、
すなわち、国民が主権者なんだということが、紙の上ではなく
血肉になっていることが、よくわかりました。

今回はディードの女性問題やディードを追放しようとするスパイたちの企みとの戦いは
ありませんでした。
ジョーは携帯電話の原告(脳腫瘍で死亡)の息子を養子にしようとしていますが、役所の審査では
却下、ハイコートに異議の申立をします。
ディードの配慮で、モンティに裁判を担当してもらい、ジョージに代理人になってもらいます。
なにやら、上手くいきそうな感じでした。
今回でわかったことはジョージは感情移入型で、時には興奮して我を忘れることがある、
ジョージはどちらかというと鈍感タイプ、ですから、いちいち反応しません。
気のせいかもしれませんが、養子縁組委員会の委員長や担当職員は、ジョーに嫉妬しているのでは
と思います。ジョーは判事希望なのです。
こういう優秀でやり手の女性で、忙しくてこどもの面倒などみれないくせに、他人のこどもを養子に
迎えようなどというのはけしからんというわけです。
モンティは、ジョーとはディードのことを巡っていろいろあったのですが、それでも
仕事と母親業とが両立できないなどと考えるのは偏見だと、委員会側に意見しているほどでした。

今回のドラマは陪審制をめぐるイギリスでは、タイムリーでホットなテーマだったのだと思います。

アメリカでもそうでしたが、陪審制を論ずると、英米での民主主義が草の根の民主主義であり、
権利は国民がみずからの手でもぎ取ったものであること、そのことを国民のひとりひとりが当たり前のこと
として大事にしていること、一方日本の民主主義は外から与えられてものであり、
根なし草の民主主義であること、だからそれを何が何でも守らなければというような強い意思は
全くないことを痛感します。

イギリス社会を理解するための良い材料となるドラマでした。


判事ディード 法の聖域 第12話 携帯訴訟

2011年06月05日 | 判事ディード 法の聖域

シリーズ3(BBBの最初の放映2003-2004)の最終話です。
シリーズ3は、懲罰法廷(Health Hazard)(2003年11月27日放送、視聴者数660万人)、
      自由を買える男(Judicial Review)(2003年12月4日放送、視聴者650万人)、
      陰謀(Conspiracy)(2003年12月11日放送、視聴者660万人)、
     そして携帯訴訟(Econimic Imperative)(2004年1月26日放送、視聴者620万人)
の4話です。

さて、ANXミステリーでの放送は時機を得たものです。既に皆様もご承知でしょうが、
WHOからこの5月31日、携帯電話の使用で脳腫瘍リスク増大との発表があったばかりでした。
参考のために、CNNの日本語版からコピーしたものを末尾に貼り付けておきます。
本話の携帯訴訟も携帯電話が原因で悪性脳腫瘍になったというものです。

ダイアナ・ハルシーという未婚の母が被害者です。
前段のお話は第9話の「懲罰法廷(Health Hazard)」に出てきます。
(これについては、順序が逆になりましたが近日中にご紹介します。)
ジョー・ミルズが代理人です。
携帯電話会社はワン・ウエイ(One Way)という会社です。
会社の代理人は、ディード判事の元妻のジョージ・チャニングです。
彼女の依頼者は大企業が多いです。訴訟よりは話し合いを好みます。
ジョーとは違ったタイプですが、やり手です。
お父さんは高裁判事のジョセフ・チャニングです。ディードとは違って典型的判事、無難主義です。
ですから、ディードの天敵であるイアンともうまくいっています。

第9話を受けて、ワン・ウエイ社が和解に応じることを決めたところからスタートします。
ジョージが「和解することに決めたことをご報告できて嬉しいです」と神妙に始め、
ディードも「和解の理由が何であれ、こういう訴訟はストレスがきわめて大きいし、費用も嵩むので
良かった、原告もいいですね」と、和気あいあいの雰囲気ですが、
肝心の原告が法廷にまだ姿を見せていません。
「こういうことはこれまでに無かったのですが、連絡もとれていません。
本人の確認が取れていないので、ちょっとお待ちを」というジョーに、ジョージはわざと聞こえるように
「死んでしまったのかも」と呟きます。これがジョージのやり方なんです。
わざわざ相手の神経を逆なでするようなことを平気で言ってしまうのです。

実は、ダイアナの脳腫瘍は取り去ることは危険でできないのですが、プラントを埋め込む治療
をすることになっていたのです。
危険の告知を受け、手術の同意書にもサインしていました。
ところが、急に医療トラストから治療費を出せないといわれ、手術を断念せざるを得なくなったのです。
彼女の治療は試験的なものなので、トラストには負担義務がないというものです。
彼女が裁判に遅れた理由です。

事情が変わったので、ダイアナの気持ちも変わりました。
和解を拒否し、裁判を進めることにしたいというのです。
ジョーが、そうはいっても裁判を進めるかどうかは裁判官次第よと助言しますが、彼女の意思は固いです。
手術ができないとなると、いつ死が来てもおかしくないという状態です。
6歳のマイケルが一人残されます。
彼のために、お金を残してやりたいという気持ちがあるようです。

多分、ディードでなければ、裁判は終わりになったかもしれないのです。
ですが、ディードですから、何でもありです。
(イアンが常々ディードは信頼できない(not reliable)というのはこういうことです)
ディードはこういうタイプの訴訟の大変さを説明しますが、ダイアナとしてはやるしかないわけです。
というのも、手術の中止は、ワン・ウェイ社の圧力があったからなんです。
ダイアナの気持ちはわかりますよね。

ディードは陪審員選任の手続きにはいることを告げます。
早速、ジョージは異議を申し立てます。こういう裁判は技術的、専門的知識が必要でなので、
陪審裁判は適当でない、現に、今ではこういう裁判を陪審員のもとですることはほとんどなくなっていると
いうものです。尤もな意見です。
また、陪審員は感情的になるので、このような裁判では自分の依頼者に不利であると、食い下がります。
「裁判官にも感情はある。ただ、裁判官は感情を隠すのがうまいだけだ」とディードの反論です。
裁判官も感情で動くということなのです(みなさんも納得させられることがあるでしょう)。

ところで、陪審制ですが、コモンローの国では、民事も刑事も陪審が原則でした。
書物によると、裁判官も今のようにプロフェッショナルではなかった、ということで、知識の不足分を
陪審員が補う必要があったというものです(この発想おもしろいですね。)。
話がそれますが、数年前にアメリカの陪審制の視察をしたことがありました。
彼らによると、仮に誤判があったとしても、陪審員の誤判は許せると言っていましたが、
とても印象的でした。
民主主義とはそういうものなのですね。
さて、民事について、実際に陪審がおこなわれるのは現在では全体の1%程度ということですが、
陪審員による裁判を受ける権利は、民事についても今も保障されています。
どういう場合には必ず保障するかなど、法律で詳細な定めがあるようです。
ジョージの異議に対し、ディードは条文を引用して、最後は、裁判官の裁量によることになっている
と撥ねつけてしまいます。

陪審員が選任されました。こういうディードの訴訟指揮をみると、ディードが被害者よりであることは
なんとなくわかりますね。

ただ、ジョージは和解は取り下げることなく、そのまま維持することを明らかにします。

いよいよ証人尋問です。
原告本人が最初です。途中で、放心するような場面があり、確実に健康が損なわれていることが
わかります。
彼女が選んだタイプは小さくてかわいいものです。
選択の理由について、小さいということと無料パッケージの内容の二つを挙げていました。
一日の使用回数・時間(1日平均23分、1回あたり1分30秒)、どういう場合に使うかなど
細かく証言させていました。
なお、彼女の仕事はがん患者のカウンセリングをする看護婦です。
いかに携帯が必要か(仕事上)、必需品化していることも証言させます。
当然、どのような症状がでるのか、その始期、なども詳しく聞きます。
さらに、使用説明書に使い方についての注意書がないことも確認しました。
正直、1日23分は、少ないとはいえないとは思いますが、だからって何なのというのが感想です。
原告の尋問を聞いただけでは、脳腫瘍の原因が携帯電話ということまでの心証は難しいかも?

今度は被告側ジョージの番です。
ミセスと呼びかけます。ジョーが記録をみてミスだとわかっているはず、正確にと異議を申立ます。
ジョージはわかって使っているのです。ダイアナは未婚の母です。
陪審員向けに(中には未婚の母に偏見を持っている人もいるでしょう)、わざとなのです。
陪審員の方を向いたり、陪審員にいかにアピールするか、大変神経を使っているのがわかります。
日本では、相手は裁判官だけですので、かなり違うなと感じます。
なお、ジョージのこのやり方、別のやり手の弁護士カウントウエルと似ています。
興味深いです。

両親のことを聞きます(全部事前に調査済みなのです)。母親は乳がん、父親は脳腫瘍で死亡したと
証言を引き出します。
「その他の身内についてはどう?」
「いるかいないか付き合いがないのでわかりません。」
ジョージ「そうすると、あなたの身内のひとは「全部」がんで死んだということになりますか」と
用心深か~く質問します。「全部」というところをゆっくりと力を入れて強調します。
「そうです」ダイアナはそっけなく認めます。
実際は二人なんです。でも全部なんです。
ですが、こういう風に「全部がんで死んだ」という言い方で纏めることにより、
彼女のがんは遺伝的なものだということが、陪審員の頭に刷り込まれてしまいます。
「だってみんながんで死んだんでしょう」と。
ジョージはなかなかのやり手ですね。

反対尋問は成功です。
ということで、原告本人の尋問が終わった段階では、被告有利と感じました

さて、場外では、例のイアンと、ワン・ウェイ社のCEO、貿易産業大臣のニール(ジョージの現在の恋人)、
もちろんジョージも呼び出されます、が密談です。
ディードをいかに陥れるか、というより辞任させるかについての策を巡らしています。
どうして、ディードが狙われるのでしょう?
イアンは今では意地になっている可能性がありますが、もともとは役人として政治的な圧力に弱い
のです。どの判事も、自分可愛さに、陰に陽に、配慮して行動するのですが、
ディードだけは、自分こそは「正義の味方」あるいは「正義の体現者」と自負していますから、
お偉方の政治的な意向などものともしません。そういう意図や企みに気づくと、逆に頑固になり
断固戦う決意をします。
ディードの反逆に負けた者は、顔を潰されたということで、ますます恨みが積り重なっていくわけです。
今度こそはとなります。
イアンは限界に来ています。
ニールですが、携帯電話事業の認可のときに大きな金が動いていますが、それにかかわっています。
資本主義の原理よなどと一応は反論しても、やはり、大きな力のある事業会社とは、良好な関係を
維持しておきたいわけです。
CEOはというと、こういう裁判になると会社の信用にかかわり、株価は一気に下落してしまいます。
争いが長くなると倒産の危機も出てきます。
事業を大きくするために、妻にも子供にも贅沢をさせず有り金全部を投資してきた、そういう気持ちが
わかるか、20億円の金を儲けるということがどういうことかわかるかなどと
悪態の付き放題です。
ディードを殺せと言いかねないほどの怒り様です。
イアンにはいい策があるようです。

ジョージですが、離婚はしてもディードには一目を置いています。
今もある種の愛情を持っているようです。娘のチャーリーを通して警告をします。
官舎の中は盗聴されている可能性があり危険というので、ディードを外に連れ出して話します。
ホント緊張しますね。
だだし、具体的には何をしかけてくるのかわかりません。
ディードの裁判の進行に直接口出しすることはなくなっているようです。
そういうことは逆効果だと彼らも勉強したのです。
ということで、いかに辞任させるかに集中しています。
ディードは、そこまでやるかとチャーリーの話に半信半疑です。

そして会社の方はというと、法廷外で証人たちに圧力をかけ続けています。
まず、ダイアナの担当医です。
ダイアナにはワン・ウェイから圧力があって治療費が出なくなったと話していましたが、
法廷では、最初は怒ってとんでもないことを口走ってしまったが、冷静になると
間違っていたと証言を変えました。

本件のような場合、重要なことは危険性を会社が知っていたかどうかです。
もし、事前に知っていたとしたら、やはり責任を免れることはできないでしょう。
携帯電話一般というより、このタイプの携帯についてです。

前述しましたが、ダイアナが使っていた携帯電話は小さいものでした。
その携帯電話の開発段階で研究者が危険性を指摘するメールを会社幹部に送っていた
のです。メールによると「時限爆弾を市場に売り出すようなものだ」と警告しているのです。
開発費用に莫大な金がかかっているということで、その警告を無視して売り出したのです。

こういうことがわかりましたが、問題はそのメールは会社から正式に提出されたものでは
なかったということです(詳しくは第9話の懲罰法廷でやり取りがされています)。

証人台の研究者は「時限爆弾を市場に売り出すようなもの」というメールについて聞かれても、
忘れたといって無反応なのです。
こういう証言は、日本の場合、裁判官は大抵、そのまま採用します。
陪審員のような素人の場合はどうなのでしょうか。知りたいですね。
(今回は、残念なことに和解成立なので、陪審員の判断を知るチャンスはありません。)

原告から、専門家(科学者)二人の証人申請をします。
一人の科学者は卒業大学を偽っていたようで、それを見抜けなかったのは原告側の痛手でした
(本件のように一方の当事者が金に糸目をつけないで訴訟活動をすると、一方の当事者は
非力を感じるものです)。
もう一人は、こういう研究の第一人者です。研究中のものについて
絶対かという質問をされると「可能性もある」という回答になってしまわざるを得ないのですが、
やはり専門家証人の限界でしょう。結局は、そのほかの証拠と総合的に判断するということで
それだけでは決定打にはならないのかもしれません。
しかし、それでも、どちらもあり得るという証言は、こちらの主張を認めさせるために必要では
あります。
この証人は、特にこのタイプの携帯(小さい)の危険性について、小さいと光でも一か所に集中しやすい
それと同じように熱を発生しやすいとか、携帯の使い方からどうしても脳の側頭葉が影響を受けやすい
など、原告使用の携帯との関係や被害の具体的状況との関係について具体的な証言を引き出したので、
それなりに有効だったと思います。

ジョーは勝訴の見込みは五分五分との意見、ジョージは被告側が有利とそれぞれの依頼者に説明
しています。ジョーがいうように陪審員がどう判断するかです。特に圧力をかけた証人の証言について
です。また、立証責任は原告にありますから、ディードの最後の説示が影響するかもしれませんね。

メールの真否が問題になったので、その関係の証人です。
会社側は、研究者とメールをやり取りした役員の秘書(秘書がメールの送受信のすべてを管理している、
会社幹部を証人席に立たせないため)を申請します。秘書はそういうメールは一切
見たことがない、会社幹部のコンピューターのものではない、バックオリフィスなどのソフト
を使えば、他人のパソコンに侵入できるなどと証言します。

原告側は、いったん消された情報を復元することができるかとか、パソコンの所有者に知られずに
情報を操作できるかなどの知識をもつ専門家の申請です。
つまり、証拠に提出されたメールは、当然ながら、ワン・ウェイ社のコンピューターからは削除
されているので、復元したものです。
この証人は、復元した本人でもあるのです。この人はアルディ・ウィッテンと言ってブリッジズ巡査部長が
連れてきた人です。
復元の事情を証言します。

さて、ディード陥れ作戦の方ですが、今回はパソコンの情報操作が絡んでいます。
秘書のクープさんが、ディードのパソコンの画面のカーソルが急に動き出し、
ファイルが送られてきたのを偶然見つけました。
不審に思ってクリックすると幼児ポルノの写真です。それが
いっぱい詰まったファイルが突如、ディードのパソコンにダウンロードされたのです。
法廷から帰ってきたディードはクープがパソコンの前で呆然と立ちすくんでいるのをみて
近づきます。
画面を見てショックを受けます。

クープはもちろんディードがそういう人間でないことは知っていますが、
兎に角何とかしなくてはなりません。
ロウに頼んだらなどというクープに、警察に相談すればすぐに噂が広まり、自分の名誉が
傷つく、事実かどうかは関係ない、何とかしなくてはと焦ります。
本当にディードを陥れる策略が進行していたことはわかった。ただ、裏にいるのは誰か、
目的は何かです。
すぐに誰かがこれを見に来る、その人が犯人だ、必ず来るから待っていればよい、とクーには
いうものの、それでは遅すぎます。
誰かが不正操作をしたことは事実だが、これが明るみに出ると誰も信用しないだろう。
でもどうする、何ができる?ディードは自問自答します。

ディードが切れものといわれるのは、こういう危機の対応が抜群だからです。

ショックでソファーに倒れこんだものの、ふとチャーリーの警告を思い出します。
早速、裁判所内にいるはずのジョージを呼ぶようクーに頼みます。
ジョージは、「私また何かしでかしたのかしら」と心配しながら来ます。
ジョージも見て驚きです。
でも、詳しいことはわかりません。ただ、「あの人たちは殺しかねないわよ」とつい口走ってしまいます。
ディードには少し見えてきました。

さて、いったん法廷に戻ります。
心ここにあらずです。ジョーも心配そうです。
ディードは傍聴しているブリッジズ巡査部長に気が付き、クープに裁判官室に来てもらうようにします。
彼との出会いも第9話です。コンピューターの知識がそれなりにあることが分かっています。
ディードが彼を信頼できる人物と見込んでジョーにも紹介しています。
この傍聴もジョーのお手伝いでダイアナ事件に関わっていたからです。

ブリッジズ巡査部長は、消しても復元できるので、パソコンを持っていかれるとどうすることもできない。
自分の知識ではどうすることもできないというのです。
バックオリフィスのようなソフトを使えば、本人に気づかれずに操作できると説明されます。

さあ、とうとう来ました。

イアン(これは予想できました)とエヴァラード判事です。
ディードは仲間のエヴァラードがここまで関わっていることを知って ショックです。
とにかく時間稼ぎをする必要がある(何か菅首相を思い浮かべました)、
だからって何ができる?今のところ何もない。でもとにかく、引き延ばしだということでしょう。
それ以外に、そもそも何でこういうことになったんだ。真相は知っておきたいという気持ちもあった、
こちらの方が主かもしれません。
「警察から、ディードがパソコンに児童ポルノの画像を保持しているとの通報があったので
パソコンを渡してほしい」とイアン。
「どこの警察の誰だ」ディード。イアンはいえません。
横からエヴァラードが助け舟「そういうことは深くは聞かないものだよ」
ディードもないとはいえないので「わけもなくわたせない」などと食い下がるだけです。
イアンは「そういう中傷をそのまま放置することはできない。確かめる必要がある」と、もっともらしい言い訳を
します。
ディードはエヴァラードにも食ってかかります。同じ裁判官じゃないかと。
イアンは「早く渡すように同意してほしい。同意しなければ令状をもらって押収するだけだ。
令状の手続きもすんでいる。関係者は多くなれば、知る者も多くなる」などと脅します。
ディードはジョージが口走ったことを思い出したのでしょう。
「早くっていうのは、この裁判が終わる前か」と罠をかけます。
イアンは返答に窮します。
背後にワン・ウェイ社がいることを知ったはずです。
そういうやり取りをしているとブリッジズ巡査部長が「それよりみたらどうですか」などと
言い出しました。ディードはキョトンとしています。
ブリッジズ巡査部長が検索しても出てきません。
イアンもエヴァラードも怒って出て行きました。

あるはずのものがなくなっているのでディードが「どうしたのか」ときくと
ブリッジズ巡査部長はこともなげに「削除しました」と。
ディードは「証拠をもみ消したといわれてしまう。なんてことをしたんだ」と、これはいかにも
裁判官らしい反応です。
「すぐに復元できます」から、問題ないわけです。
でも、ブリッジズ巡査部長のとっさの機転で、時間稼ぎはできました。
でも、逆にいえば、彼らも容易に復元できるわけで、パソコンを彼らに渡すわけにはいきません。
やはり、どうなるの?

これ以降、ディードはいつもパソコンを持ち歩くことになります。

ディードはまた法廷にもどります。
いよいよ最終弁論です。
ジョーが陪審員に向けて纏めをしています。
最後の締めの言葉かなというときにドアが開いて人が入ってきます。
何かを聞いたアソシエイトの弁護士はジョーの腕を掴んで注意を促します。
「ダイアナが死んでしまった」のです。
ジョーは暫く言葉がでません。
ようやく「死んでしまった」で弁論を締めくくりました。
ディードは心配そうにジョーを見ています。

ジョージはプロに徹していますから、さっそく、当事者の原告が死亡したので、本件訴訟は
終了だと意見を述べます。
でも、こういう場合すぐには終了しないものです。少なくとも日本では。
ディードもすぐ気がつきます。
そうです。息子がいます。息子は相続人です。
日本では相続人が訴訟も承継することなります。
イギリスでもそういう仕組みはあるようです。
そこで、ディードは和解の可能性を指摘します。
ワン・ウェィ社は訴訟を進めるに当たって、前述のとおり和解はそのまま維持するとしていました。
ジョーは残された息子のために和解は願うところです。
ジョージは依頼者に相談したいのでちょっとだけ時間をと言い出します。

そのとき、クープからメモがあり、
アルディ・ウィッテンがブリッジズ巡査部長と裁判官室にいるというのです。
ディードは慌ててしまします。
「アルディ・ウィッテンはこの裁判での証人じゃないか。裁判官室にはいるなど許されない」と。
ディードは相談に時間がかかるでしょうと、急きょ明日まで延期することにして
部屋に帰ってきました。
ワン・ウェイ社の営業幹部は、もうディードは終わったから、何を言っても気にすることはない
と謎めいた言葉をジョージに残します。

つまり、今回の一件にはイアンだけでなくワン・ウェイ社も関与していたこともはっきりとなりました。
怖いですね。

ディードが非難する間もなく、ブリッジズ巡査部長は自分の手に負えないので頼むことにした
と悪びれるところはありません。

アルディ・ウィッテンは自信満々、「任しといて」という感じで、淡々と作業を続けています。
彼によると、新しいハードウエアにポルノ写真以外の情報を移動させる、そのうえで、ポルノ写真だけが
残ったハードウエアをパソコンから外すというものです。
イアンたちも他のパソコンを通してディードのパソコンの中を見ています。
ディードのパソコンから情報が消えていくのが見えます。何もできないというのです。
ジョージの恋人のニールもディードの最後を見るために来ています。
当然、エヴァラードもいます。
エバラードは証拠がなければ、みんなに言った手前、格好がつかない、
また無能と非難されるとイアンを責めます。
ニールも何とかしろと文句です。
イアンも法務長官からディードのパソコンの中にポルノが残っていなければ駄目だと厳しく指示
されているので、とにかく作業を止めさせるしかないと、押し掛けることになりました。

クープはドアのところでイアンたちの動きを見張っています。
「あ。姿がみえました」
あっという間にイアンたちが部屋に到着です。
パソコンからハードウエアを取り外したところです。
ブリッジズ巡査部長「早く処分してください」
ディードは取りだしたCDのようなものハードウエアに火をつけて壊してしまいました。
「早くわたせ」というイアンに壊れた残骸をどうぞと差し出すのです。
要は物理的に破壊したということです。復元のしようはないわけです。

またしても、ディードは危機を脱しました。
そして、またしてもイアンは、そしてエヴァラードもディード潰しに失敗です。

ディードの義父のジョセフ・チャニング高裁判事からは、証拠もないのにあんな酷い中傷では
ディードに謝罪するしかないねと言われる始末です。

さて、ディードの女性関係ですが、カウンセラーのレイチェルとは完全に終わったようです。
レイチェルとはジョーやジョージのことを知った上での付き合いだったのですが、
ディードに電話をしても出てくれないので、法廷に姿を現します。
ちょうど、ジョーとジョージが代理人で戦っています。
それを見て、どちらの女性も素晴らしい、ともて勝てる相手ではないと悟ったようです。
娘のチャーリーには、レイチェルも含め、こういう女性たちと同時に付き合いができれば最高だ
などと言って呆れられてしまいます。

これは次回以降に続くのかもしれませんが、実はダイアナは死後の息子マイケルについて
ジョーに養子にして面倒をみてほしいと頼んでいたのです。もちろん、とても責任重大で
引き受けられないとジョーは拒否をし、ダイアナもそれを受け入れてはいたのですが、
ダイアナの死亡が現実のものとなった今、どうすべきか、そのまま一人にするわけにはいかないと
真剣に悩んでしまいます。
ディードは反対です。仕事のうえに子育てでは「二人の時間がなくなってしまう」などと
ついつい本音が出てしまいました。
ジョーも気づきます。そして、ディードは「あの子は犬が好きかな。ミミ」などと言いながらそのミミと一緒に
ジョーの後に従います。
この二人の恋の行方、気になります。

もうひとつ、堅物にみえる義父のジョセフ・チャニングですが、
エヴァラードの奥さんと何かあったのではないかと思われるのです。気のせいでしょうか。
今後の展開が気になります。

             ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

冒頭のところで、気軽な事件がありました。
何度もお話するとおり、ハイコート・ジャッジは多様な事件を扱っています。
今回は下級審の接近禁止命令に対する判断です。
夫が暴力を振るうので、接近禁止命令が出たようです。
命令の内容は、夫は一階にとどまり、それ以外の部分には立ち入ってはいけないというものです。
家庭内別居のようなものですかね。
でも実際このような命令に意味があるのかどうかです。
現に、ディードのところにきたのは、夫がこの命令に何回か違反しているということなのです。
ところが妻は命令違反を許しているようなのです。
その理由は、死んだ息子の意思だというのです。
(遺灰の入った壺を持たせたり、若干おふざけです)
ディードもうんざりしたようで、どっちもどっちだ、こういう審理は時間の無駄といって命令を取り消して
しまいます。
この手続きではいつもの法廷は使っていますが、普通の背広姿で、鬘なしです。
そもそも、家庭内別居のような場合に、接近禁止命令(あるいは立入禁止)を出したこと自体が
問題だったように思います。
ディードはそのあたりを見て、要は犬も食わぬ夫婦喧嘩に付き合わされたということなのでしょう。

            ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

「新しい発見」
裁判官だけでなく、弁護士や検事役の弁護士も法服に鬘をつけています。
弁護士は事務所から通うわけです。
ただ日本とは違って、弁護士会館が近くにあり、そこに弁護士たちの事務所があるとの理解ですが、
弁護士会館で身支度して法廷に出廷するのか(ときどきそういう姿を見かけていましたので)もしれない
と思っていましたが、謎でした。

裁判所の中に更衣室というかロッカー室があるようです。
そこで、身支度するということが分かりました。

             ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

さて、いつものとおり「題名」についてです。日本訳の「携帯訴訟」はわかりやすいです。
原題の「Econimic Imperative」はどういう意図なんでしょうか。
経済的必要とでもいうのでしょうが、ダイアナの経済的必要とワン・ウェイ社の訴訟を抱えたことの経済的問題の解決の二つをひっかけているのではと、個人的な意見です。
ワン・ウェイ社が謀略に失敗し、結局和解をすることになったのは、裁判の存在自体が会社の評判に
悪影響を及ぼし、経済的に大きなマイナスになるからです(勝つか負けるかは陪審員の判断次第です。
控訴はできますがリスキーなわけです。ダイアナの死亡は陪審員に大きな影響を与えるでしょうし。
被告が勝ったとしても原告は控訴するでしょう。いずれにしても裁判が継続するのです。)
それぞれの経済問題が本件訴訟を起こし、本件訴訟を難しくし、特にディード潰しの動機になったわけです
から。皆さんはいかがお考えでしょうか。

             ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

和解の内容ですが、
学費と毎年2万5000ポンドを大学卒業までというのです。為替相場によりますが、
最低5000万円以上にはなるでしょう。
大きいですね。

             ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

さて、最後にWHOの報告についてのCNN(日本語訳)の報道を載せておきます。
電子レンジについても危険だといわれていましたね。
でも、携帯はなくてはならないものなのであり、常に身近に持つものですから、危険といわれても困惑です。
この記事によるとアイフォーン4では15ミリ離すようにとの説明書があるというのですが、今まで
知りませんでした。
携帯電話で通話するとき、耳をくっつけていましたが、これは良くないということだとわかりました。


判事ディード 法の聖域 第11話 陰謀

2011年05月30日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディード 法の聖域のご紹介ができておりませんが、
ドラマは毎週見ております。
ただ、バルト三国旅行中は、録画取りに失敗し、見逃しております。
こういう機械ものには弱いのです。

さて、第11話まできました。
ディードに対する嫌がらせはますますひどくなっております。
しかしハイコートジャッジをやめさせることはできないので(100年以上前に1回だけあった
ということですが、それ以上にハイコートジャジをやめさせるということは
自分たちの名誉にも関わるので、誰もしたくはないということです)
ディードの弱点である恋人のジョーが狙われています。
これまでの回で、資格をはく奪しようとする企みがあったり
(これはディードの機転で危機を脱しました)、
その後は、検察側の代理人としての仕事を減らしたり、
前回はその名簿リストから外そうとするなど、
陰湿な嫌がらせが続いています。
そしてディード対策としては、つまらない事件だけを配点する、重要な
事件からは外すことにしたのです。

11話では、徐々にジョーにも仕事が回ってくるようになり、
現職国会議員の殺人未遂事件の仕事の依頼がありました。
被告人の弁護士はあのやり手のカウントウエル(第6話政略への反抗)です。
相手に不足はありません。ジョーはやる気満々というところです。
この事件、本来はモンティ・エヴァラードといってディードより上席の裁判官の担当予定でした。

モンティは俗っぽい判事で、官舎の一番いい部屋を自分を差し置いてディードが使っているのが
気に入らないと言って帰ってしまうとか、
EUの人権研修セミナーで自分が目に付けた女性判事をディードが取ったというので
ディードを嫌っているのです。

さて、国会議員の殺人未遂事件は、このようにディードではなくモンティが担当することに
なっていたのです。
ですが、モンティの奥さんは強姦とか殺人とかジューシーな事件がお気に入りなんです。
ということで、ディード担当のそういう事件とMPの殺人未遂事件を交換することにしたのです。
モンティの奥さんの好みはほかの裁判官や弁護士たちの知るところです。
(ドラマだけの世界なのか現実の世界もそうなのかわかりませんが、ありそうにも思います。)

ということで、またまたディードとジョーは法廷で顔を合わせることになりました。
しかし、この殺人未遂事件は被告人が現職の国会議員ですから政治的なものであり、
例のイアンはカンカンです。モンティに取り戻すように指示するのですが、
奥さんが頑として言うことをきかず、ハイコートのジャッジたるもの政治的圧力に屈しては
駄目よなどと、取り合ってくれません。

さて、この事件ですが、本当によくわかりません。
最初は、証拠十分、有罪確実のようにみえるのですが、
ディードの親友のロウも、証拠が怪しいよなどと警察官らしからぬことを囁きます。
知らないソリシターからMPのコートに血はついていなかった、目撃したなどという
無罪を疑わせる情報の提供がジョーに寄せられたりで、
ジョーも自信がなくなります。
誰かがMPの無罪を望んでいるのか、あるいはそもそも殺人未遂事件が陰謀なのかです。

被害者はMPと性的関係があった男です(つまり同性愛ですね)。
お金を渡したりする仲だったようです。
不都合な手紙を取り戻したいMPと金がほしい被害者の男。
動機はあるのです。
もちろん、MPは否認です。

MPは犯行現場から車で逃走する途中で逮捕されたということですが、
緊急手配の指示が出てから逮捕するまで11分ですが、この間に13キロ走っているのです。
ということは、時速70キロで走行したことになるわけで、
一般道路をそのような高速で走ることができたかが大きな疑問点でした。

また、その手配テープですが、その録音開始時間には、まだ犯行前であり、
犯行前に逮捕の指示命令が出ていたというのもおかしいのです。
また、テープが数種類あって、どれがオリジナルかわからいなど、
疑問だらけです。

このMPさん、兵器産業にかかわる若い科学者たちの不審死について調査をしていたようなのです。
そして、ロウも退職が近づき、どうやら兵器産業界に第二の人生を託そうとしていたようで、
陰謀にかかわる動機はあったのです。
ロウの不審な動きにディードは裏切られたと激しく罵ります。
(何かわけがあるような気がしますが、この回ではわかりません)

ということで、ディードはこれ以上裁判を継続することは危険だということで、裁判を
中止します。陪審員に無罪の説示をするのは適当ではないということで、ディード限りの
判断で停止することになったのです。
11話も見てきますと、ディードのこの判断もすっきりと理解できるようになりました。

そういうことで、裁判の方はあまり面白かったというわけではなかったのですが、
ディードの私生活面でおもしろい発見がありました。
ディードの女性関係は、手当たりしだいという感じです。
ですが、ジョーが自分のために嫌がらせを受けていることや、やはり本当は彼女を愛しているの
だと思いますが、
一人の女性(ジョーのこと)との関係を継続させられるようにしたいと、
カウンセリングーを受けることにしたのです。
悪いことに相手は女性でした。

ディードが養子だったことは既に述べました。
その養母は実はディードが10歳のときに鬱が原因で自殺したのです。
カウンセラーがこの辺りのことをしつこく聞きます。
母親が死亡してから、父親はディードと姉と距離を置き、心を閉ざしたようだとか、
何か自分を責めていたようだといい、母親のことには触れたがりません。
ようやく、母親が死亡してから階段の下の物置に閉じこもるようになったこと、
母親のにおいバニラ(パン屋さんですから)が懐かしく、
いまでもそのいい匂いがするというのです。
物置から出てきたくない、ずっと閉じこもったままでいたいと思ったと、
涙を流しながら思いだします。

おそらく、これがディードの女性問題の根本的な原因ではないかと思います。
ディードにとっては、女性との関係は全く物理的なものであり、
朝夕にシャワーを浴びるようなものだ、
だから気持ちは後に残らないというのです。

そして、とうとうカウンセラーとも一線を越えてしまいました。

ジョーにも告白しました。

ということで、ディードの女性問題については今後もいろいろ期待?できそうです。

さて、冒頭で元妻のジョージが代理人を務める民事事件がありました。
新進気鋭の下着デザイナーのデザインを盗用したという損害賠償請求事件です。
前にも述べましたが、イギリスの裁判官はいろんな事件を扱うのです。
全くの盗用だということで、ジョージの方を敗訴させます。
ディードはいつも、ジョージには厳しいようです。
その損害賠償ですが、普通のいわゆる損害のほか、加重損害というものを認めていました。
aggravated damages というのですが、アメリカでいう懲罰的な損害というのではなく、
そこまではいかないが非難すべき行為だと認められたときに命じられるようです。
英法律用語辞典で調べてみると、精神的、あるいは名誉に対する損害のようです。
この加重損害の方が3倍も多かったということは、大きな意味があります。

イギリスの法律事情に詳しくなりつつあります。
楽しみながら勉強できるのが嬉しいですね。
 


判事ディード 法の聖域 第5話 政略への反抗

2011年04月25日 | 判事ディード 法の聖域

第5話の原題は「Political Expediency」です。

今回は、事件は基本的には1つです。サウジ皇太子の義弟(シーク・アリ・マズルイ)の
運転手のアリ・アブドル・モンシュリがコールガールを殺したというのです。

ディード判事とジョーとの関係は険悪になっています。
冒頭で、ジョーが弁護人を務めるサッカーのスーパースター、アーミテージ18歳に
ディードがジョーの主張を無視し実刑(1年の少年院送致)にしたからです。
ディード判事にいわせると、18歳とはいえ、マネージャーも雇い、広報担当もいる
ような有名人は、それ相応の責任を伴うものであり、
普通の若者たちのロールモデルになるべきという考えです。

ジョーがまじめで前歴もないと弁護していると、ピッチでは攻撃的であり、何度も
レッドカードをもらっている、ピッチの外でもそう変わると思えないなどと口をはさんで
いました。
そういう経緯を踏まえての実刑ですから、ジョーがおこるのももっともです。
ただ、ディード判事でなかったら、貧しい家庭で育ち、必死に頑張って、超一流の
フットボーラーになったわけで、同じような境遇にある若者に夢を与えたということも
できるので、保護観察とかコミュニティサービスでいいという考えもあります。
どちらかというと、この考え方が一般的でしょう。
ジョーもそう約束していたのです。弁護士として、メンツは丸つぶれということで、
怒るのももっともです。

こういう判決をするのがディードのディードたる由縁です。

例のイアンも勇気ある判決だとディード判事を褒めます。
ディード判事はsuspiciousになります。
そしてディード判事に控訴院の席に空きがあり、大法官がその席にディードを
と考えているというのです。
若くて進歩的な判事を期待しているというのです。
いつものイアンと違うので戸惑いますが、
ディード判事も悪い気はしません。光栄ですし、関心がありますなどとニヤニヤです。

サウジとの間で100億ポンドの航空機契約交渉が進んでおり、
運転手が被告人になってはいますが、真の犯人は義弟のマズルイであるという噂
があるので、この殺人事件をうまく処理する必要があるのです。
もししくじると、契約はフランスにとられる心配があります。
この契約が成立すると5000人の雇用の創出につながるというので、政府も必死です。

ディード判事に白羽の矢が立ったのは、政治がらみの事件であったので、
兼ねてから正義の実現にうるさいディード判事が担当したとなれば、
途中でやめたり、無罪になっても、みんな納得するだろうという思惑からです。
だからイアンは、ディード判事とは敵対的な関係でありながら、
うまく処理すれば、控訴院判事に推薦するといって、餌を投げたのです。

もともとは、マイケルが担当することになっていたのが、こうしてディード判事の
担当になったのです。
また、こういう著名事件はロンドンのオールド・ベイリーで扱うのが通例ですが、
たまたま犯罪地がブライトンということで、
ディードのいるサセックスが管轄ということでそこで扱うことにしたのです。

弁護人はディード判事の同期で、人種差別主義者の弁護士です。
黒人は大嫌いだと公言していたというのです。
例によって秘書のクープさんと、なのにどうしてアラブの弁護人になったのか、
もちろん金のためだよなどと冗談を言い合っています。
ということで、この弁護士さんは優秀ですが、勝つためなら何でもありと
いう感じでした。

裁判は、災難続きです。
まず、主任の検察官が死にます。殺人だとわかります。
(後任の検事の選任に時間がかかるとして、裁判を放棄させることが目的か?)
その後任には、またまたジョーが就任することになりました。

重要な目撃者、死体をコンテナに捨てるところを目撃した証人は、
統合失調症であり、精神病院に出たり入ったりしていたこともあり、
弁護人の厳しい追及にブレーキダウンしていまいます。
現場で、被告人が落とした財布を、この証人は拾っていたのですが、それを
ブレークダウンするまで隠していたため、証拠として提出すことができない
(弁護人が同意すればできますが、この弁護人は当然しません。
そして反対尋問のときに使えばいいよといいます)など
の失策があり、検察側はますます窮地に追い込まれます。

また、陪審員が病気になり欠席することがあり、急きょ、補充の陪審員を選任
しなければならない(この病気も怪しいのです)とか、
検察側の証人(マズルイの護衛をしていた警察官や被害者が被告人と一緒にホテルの
前で車から降りるのを目撃した同僚のエスコートモデル)が急に外国にいって
出頭できないなど、障害続きです。
また、マズルイが最上階のペントハウスに3日間宿泊していたと陳述していたホテルの
副支配人が、以前に提出した宿泊人名簿は間違いだったなどと証言します。
コンピュータが故障していたので、間違いになかなか気づかなかったなどと弁解です。

ここで捜査にあたった警察官の証言です。弁護人にいじめられますが、ここでは
詳細は省略です。

ここで、イアンが判事室に現れます。
検察側の雲行きが怪しくなった、この辺りで陪審員に無罪を進めてもいいのではないか
などと勧めます。このとき「Political Expediency」という言葉を使います。
そして、いや今日寄ったのは、控訴院判事の件については、みんなの総意だということを
伝えにきただけだと言い残します。
(なお、大法官府というのは、裁判官の人事等を扱う部門で、イアンはその事務方のトップ
です。人事を餌に、裁判に影響を与えようとしているのです。)
経済も大事だが、やはり正義が大事というのがディードの言い分です。

また、障害発生です。今度は、補充された陪審員が、書記官に陪審員が買収されて
いると密告します。金の提供はあったようですが、断ったということで実際には
買収されなかったのですが、ディードは、そもそも、黙っていたことが問題だと
いうので、この陪審員を外すことにしました)
ひょっとして、この補充の陪審員による買収に応じなかったので密告した可能性もあります。
判事室で協議です。ディードは11人でも続行するという意見ですが、
弁護人は、被告人が買収しようとしたとほかの陪審員に疑われてしまうので、中止すべき
と反対します。ディードは「だって被告人は拘留されているのだから接触しようもないじゃな
いかと」これは皮肉でしょうか。
ディードは「陪審員に護衛をつけるか、裁判を放棄するかだ」などといいますが、
ジョーは「被害者や家族のために、裁判は続けるべき」と強硬に反対です。
ディードは「それってバリスターとしての意見、それとも女性としての意見」などと軽率な
発言をしてジョーをまたまた怒らせてしまいます。

医師の証人は、被害者の死体に被告人の毛髪が一本付いていたということと、
死体を運んだ車のトランクから見つかった皮膚の破片が被害者のものだったことなどを
証言します。弁護人のいやらしい反対尋問は当然ありました。

突如、弁護側から大使館の駐車場の管理人の証人申請がありました。
ここで、ディード判事が、被告人の証言はと確かめます。
被告人に尋問すればいいことですから。ところが弁護人は被告人は証言しないと
いいいます。
ディードは陪審員に不利な印象を与えることをアドバイスしたかを確かめますが、
わかっているということです。
これで、前述の財布(決定的な証拠です)が証拠としては一切使えなくなったということ
です。弁護人は、最初から被告人に証言させるつもりはなかったのです。
ますます怪しいのですが、陪審員はこの財布のことは知りません。重要な証拠がこうして
隠されてしまったのです。
ディード判事は秘書のクープさんとこれで有罪はなくなったねとがっかりです。

さて、管理人の証言です。事件当日、死体を運んだという
大使館の車は修理中であったと証言します。記録があるといいます。
事件直後の警察の調べときは、そういう話はなかったのです。おかしいのではと
追及されても、自分の記録が正しいと譲りません。
後は、警察が正しいか、この管理人の記録が正しいかは陪審員に判断してもらい
ましょうとなりました。

前述の同僚のモデルの証人から出頭すると申出がありました。
こういう場合は、やはり弁護人の同意が必要になります。被告人と直接関係がないと一応
は反対しますが、弁護人は意外にあっさりと反対をひっこめました。
ディードはクープさんに、強硬に反対すると思っていたのにどうしたのだろうね
と問いかけしますと、何か企んでいるんじゃないですか。
廷吏が、弁護人の見習いがソリシターに良からぬことを指示しているのを耳にした
ということでしたよ、と教えます。
どこの世界でも同じですが、現場の人間の方が、真相に触れる機会が多いのですね。
クープさんは、ディード判事の目となり、耳となり、なかなか表には現れない情報を
収集しているのでしょう。

やはりです。ピーターズというのですが、前の供述を覆します。
被告人と被害者は見たが、その後部座席にすわっていた人は見ていないなどと
言いだしました(警察にはマズルイを見たと供述していた)。マズルイの名前が隠された
のです。これも間違いだったということで、自分は時々そういう間違いをするなどと
弁解します。ところが、ここで思いがけない展開になります。
マズルイはセレブだが、セレブには興味があるなどと証言させます。
マズルイの写真が載った雑誌を見せて、被告人の運転手の姿も後ろに見えます。
この雑誌を見たかもしれないといわせます。そうすると、被告人の顔をみて、
雑誌でしかみていないマズルイを実際にみたと錯覚したのではないかと、
そうかもしれないといわせます。
さらに、そもそも、被告人を見ていないのではないかと質問します。雑誌で見ていたので
錯覚したのではないかということです。
暗かったかどうか聞きます。街灯が切れていたとの証明を示します。
そして「もし、被告人が、この日、ほかの場所にいたという証言があったとしたら、
被告人を見たというのは、それほど確信があるか」という聞き方をします。
なんかあやしいですね。
ピーターズさんは「だって警察の人が言ったもの」などと口走ります。
みんな大慌てで、陪審員に退席してもらって、弁護人は、この証人は全く信用できない、
こういう状態では、事件の放棄しかないと強硬に主張し、
こういう場合の訴訟の進行が許されるかどうかについて、判例をもとに弁護人と
ディードが激しくやり合います。ディードの優秀さがここで証明されますが、
こういうやり取りは日本ではあまりありません。
英米法の国は、判例が重要ですから、いかに多くの判例を知っているかが重要で、
裁判の勝敗を決することもあるのです。
とっさの訴訟指揮ですから、調べて後でなどということは英米ではないのです。

場所を判事室に移して、弁護人は、こういう状態では、裁判は放棄するか再調査して
retrialするしかないなどと執拗に食い下がります。
しかし、再調査してもこれ以上の証拠が出る可能性はないし、いずれにしろ
ディードは、あまりも妨害が多いので、絶対にやめないとの断固たる決意をしています。
天の邪鬼ですね。
ディードは中止を求める弁護人にクープさんから聞いたことを仄めかします。
弁護人はもじもじし始めます。
やはり偽証工作があったのです。こうして弁護人の意見を封じてしまいます。
だからと言ってピーターズさんの証人尋問は続行できません。

検察側の証人は終わりです。
弁護人は、用意周到です。ここで、マルセイユの特命全権大使の証人申請です。
今日の証人の尋問が予定よりあまりにも早く終わってしまったのでと、みえみえの
言い訳をしながら翌日の出頭を確認します。
被告人がいかに有力なコネクションを持っているかが、これで良く理解できます。
被告人が外国にいたというアリバイ証人です。
殺人のあった日に外国(マルセイユ)にいたとなれば、犯人であり得ないわけです。

証人は、マズルイとフランスの航空機会社の社長と大臣がマルセイユで会談したこと、
被告人がその際、送迎車の運転をしていたことを証言します。
起訴されたことは2か月も前に知っていたというのです。
知っていたのなら、2か月もなぜ知らせなかったのか、裁判など時間と金の無駄では
ないか、それか全くのウソをいっているかとジョーは追及します。
追及された証人は、イギリスの陪審員を信じますなどと神妙なことを言って言い逃れ
します。

このような不審な審理状態ですが、ディードは徐々に真相をつかみ始めています。
イアンも例のスパイ(ジョーンズといいます。彼はイアンの指示でディードを陥れる
べく証拠収集をしている人間です)もたびたび傍聴に来ています。
そして、とうとう、このスパイが、ピーターズの証言など審理の様子を録音していることを
知るのです(これもクープ女史の情報です。クープ女史はなかなか優秀な秘書さんです。
幅広い情報網を持っているようです)。
判事室に呼びつけて、知っているよという脅しをかけます。ディードは喧嘩の仕方も
よく心得ています。

さていよいよ陪審員の出番です。
陪審の議論の様子がかなり詳しく描かれています。
一人の陪審員はぬけましたが、実際は買収は続いていたようです。
仕事がないという人には仕事の世話をする、
孫の手術が必要だが金がないという人にはただでいいという知り合いを紹介する
など、親切な振りをして、巧妙に買収するのです。このおばあちゃんは有罪の急先鋒でした
が、親切な陪審員(例の補充の)が無罪に挙手をするのを見て、いわくありげに
無罪に転向です。
最初は有罪は7人、無罪は2人、保留は2人でしたが、最後には1人を除いて全員無罪
です。10人以上の多数決でいいのですね。
一人残った陪審員の買収されたなどという意見を聞く人は誰もいません。
被告人が証言しなかったのは、有罪だからだという意見を述べていましたが、
補充陪審員は、アラブでは何を言っても聞いてくれないので怖かったのかも
などとわけのわからない理由を述べます。また
金や仕事を提供したと名指しされても、親切にしたあげただけだし、それに自分は
もともと保留だったなどと弁解します。綿密に計画してあったんですね。
意見を代える権利はあると、陪審長の女性は、強引に評決を決めてしまいました。

こうして、無罪の評決が出ました。

その瞬間に、買収されなかった陪審員が、事実をすっぱ抜きます。
ディード判事は、無罪で釈放になる被告人の釈放を直ちにストップします。
弁護士は違法だ、すぐに人権救済命令の申立をするとまくし立てますが、
どうぞ、でも4時半までには間に合いませんよと皮肉たっぷりです。

イアンも押し掛けてきて、すぐに釈放させなければと圧力をかけますが、
ジョーンズもイアンを理論で援護射撃します
(ジョーンズは法律に詳しいのです)。
ディードは釈放の手続きがちょっと遅れただけですよなどとはぐらかしています。
ここでも、すぐに釈放しなければ、昇進の話はなしだとディードにプレッシャーをかけますが、
ディードは、ドアを開けて、すぐに出て行けと促します。
イアンやスパイのジョーンズには、控訴院判事という誰もがほしがる餌
(ディードも魅力を感じています。そうすれば元妻の父と同列になるのですから)
にすら食いつかないディードには信じられないというように出ていきます。
要はディード判事は信念の人なんです。

 

陪審員の中にイギリスの諜報部員がいたことがわかりました。
また、同僚のエスコートモデルの証人も実は脅されていたことがわかりました。
被告人はセックス遊びが好きで、証人もひもで首を絞められたということですが、
被害者は運悪く、首を絞められたことで窒息死したという証言を始めました。

被告人は、釈放と同時に再逮捕されました。

イアンやジョーンズやニール(航空機契約交渉に責任をもつ貿易相大臣で
ディードの元妻ジョージが再婚しようとしている相手)が仕組んだものだったのです。
航空機契約に影響があるということもそうですが、
ニールは、接待にコールガールを使っていることなどがばれることを恐れていたのでしょう。
ジョージによると、ニールはしばしばアラブの接待をこういう形でしているというのです。

ディード判事は、イアンやニールを司法妨害罪で召喚しようと思えばできるということや
イギリス政府の諜報員が陪審員として潜り込んでいたことなどを
ジョーに教えます。
政府が裁判の不正に深くかかわっていたということです。
ディードは政府の数々の妨害に勝ったわけですから
もう興奮して眠れないかもと、ジョーにいうところで終わりです。

原題は政治的ご都合主義ですが、今回は翻訳のタイトルの方がしっくりします。

この回では、失言でジョーを怒らせ、お花を持っていって謝ったり、
娘のチャーリーが母の再婚予定のニールと親しくなり、取り残された寂しさから
友達でいてよと懇願したり、
最後には結婚してなどとプロポーズまでした(ドラマですから、ここで
電話が入り、うやむやになってしまいます)ので、よりが戻りつつあったのです。

今回は陪審員室でのやりとりの場面がかなり詳細に描かれていたのが
勉強になりましたし、陪審員を意識した弁護側、検察側の訴訟活動も
参考になりました。

裁判をつぶそうと企てた帳本人の貿易相ニールが元妻ジョージの再婚予定相手として
出てきたので、娘のチャーリーよりは、ジョージの登場場面が多かったようです。
この二人の関係も微妙で、特にジョージはディードにまだ未練があるような感じです。
ただ、設定では、ジョージがディードを捨てたことになっていますが・・
ディードがジョーと親しくしているのをみると、ジョージは邪魔をするのです。
いずれにしても、結婚すると、法廷に立てなくなると
ジョーが言っていましたので、ジョーとディードの結婚はしばらくはお預けですかね。

ディードがいつもいうことは、
「被害者や被害者の家族のために正義を行う」ということです。
このドラマの視点でもあります。
無私無欲の精神性を持ったロールモデルがいなくなったとディードは嘆きます。
ディードのような勇気ある行動は誰にでも取れるわけではないということで、
大法官府でも心ある人は評価しているのだと思います。
このドラマの人気の秘密もそういうところにあるのでしょう。

最近日本でも、検察官による、違法な捜査が問題になっていましたが、
このドラマのような大がかりな司法妨害ではなくても、日本でも、弁護士が、
あるいは当事者が、公正な判断を、意図的に妨害していることはいくらもあるものです。
そして裁判官も見て見ぬふりをする・・

こういうことを書いていると、またまた日本の現状のだらしなさに、
救世主はいないのか?!と
落ち込んでしまいそうです。


判事ディード 法の聖域 第4話 出生の秘密

2011年04月16日 | 判事ディード 法の聖域

法の聖域も第4話目になりました。
第4話の原題は「Hidden Agenda」です。

今回は事件は次の2つです。
1 殺人事件(GPが末期がん患者を殺したというもの)
2 HIV感染者の母に、9か月の息子のHIV検査を受けるようにとの命令申立事件

ディード判事の私生活が絡んで事件が進行していきます。

殺人事件について

GPとはgeneral practitionerの略で、いわゆるファミリー・ドクターのことです。
女医のヘレナ・ベリューが末期がんの患者レジ・モアを殺害した容疑で起訴されたものです。
遺産を目当てに薬物(ジアセチルモルヒネ)で殺害したというものです。
レジには身寄りが一人(姪)いましたが、なくなる2か月前に、遺言書を書き換え、全財産を
女医ヘレナに譲ることにしていました。遺産は、住んでいたコテジ(8ヘクタールの土地付き)
と30万ポンドです。
また、死体からは大量の薬物が検出されました。

姪は身寄りは一人ですから、遺産を全部もらえると思っていたのです。
ソリシターが、「遺産はお一人が受け取ることになっています」というと、「そうです身寄りは
私一人ですから」などと当然のように答えるのですが、
ソリシターはそっけなく「受取人はGPになっています。2か月前に書き換えましたよ」と、
夫が「気がくるってたんだ」と思わず叫んでも「いえ、ちゃんとしていましたよ」と相手にしません。

こういうことを受けて、姪(及び夫)は、そういえば、死亡当日のヘレナの様子がおかしかった
(姪夫婦が着いたとき部屋は真っ暗だった、電気をつけると、ベッドのそばにヘレナが
座っており、死んだモアは目を大きく開いたままだった。
夫が指摘して初めてヘレナは目を閉じた。
2時間前に死んだという。姪夫婦が来るのをじっと待っていたという。)
死亡診断書はヘレナではなく、
知人の男性医者が書いたものとわかった。
モルヒネの錠剤をさっと隠したなどを思い出し、警察に通報したのです。

殺人ですから、殺意を持った殺害行為が要件です。また動機も必要です。
ですから検察側は、遺言書の存在を知っていたこと、体内に残存の大量の薬物が当日
与えられたものであることを立証しようとします。
また、死亡診断書を自分で書かなかったのは、責任をのがれるためであり、
だから特別な関係にある男性医者に頼んだというような主張です。
なお、死亡診断書の死因は自然死となっています。
一番重要なのは、やはり、死因です。この場合は大量の薬物を与えたことです。
しかも殺意を持ってということはいうまでもありません。

検察側は医師の鑑定証人を立てます。大量の薬物(ジアセチルモルヒネ)が
体内に残存していたことは事実ですから、それが死亡の当日、与えたものであるか
どうかが争点です。
ところで、モアは末期がんですから、痛みを緩和するために、以前からモルヒネを
処方されていました。したがって、大量に残存していたからといって、
それが長期間にわたって蓄積されたものであれば
殺人とはならないわけです。
検察側証人は、モルヒネは臓器に蓄積されることはないとの証言をしました。
このときに中和剤の話が出たので、検察側は飲み物に混入して飲ませたという主張の
ようです。モルヒネは苦いのでそのままでは飲めないので、口当たりがいいように中和剤を
混ぜるということです。
ディード判事は、でも中和剤は体内に残っていないではないかと質しますと、
中和剤は12時間でなくなるが薬物は24時間体内に残る、中和剤は早く体外に排出
されたのだというのです。

ヘレナもその日はもちろん、その前にもどうしても痛みがひどい時は
モルヒネを処方したことは認めています。
モルヒネの処方の証言がでると、ディード判事が、そのつど質問して注射であると確認
したのは、検察側の経口投与を疑っているからなんだと思います。

結局、争点は、モルヒネは臓器に蓄積するかどうかということになります。
検察側の鑑定証人は蓄積しない、だから体内から検出された大量の薬物は、当日
投与したものだということになるわけです。
恋人のジョーは今回は弁護側の代理人です。
この証人が以前に書いた論文、蓄積すると書いているが、意見が変わったのかと
反対尋問します。
「そうではない。それは一般医の研修用として作成した
もので、だから問題提起の意味でそう書いただけだ」などと苦しい答弁です。

弁護側は反対意見の鑑定証人を呼びます。病理学者です。
その証人の著書は20年にもわたって、参考書として使われています。
この証人は蓄積するという証言です。
検察側証人と真っ向から対立する意見です。
心臓が停止する理由はいろいろだが、要は人が死ぬのは心臓が停止するからだから
説明がはじまるのですが、専門過ぎて、英語が理解できませんでしたが、
要は自然死だという証言です。

日本ではあまりこういうことはないのですが、イギリスでは、前に証言した人を
再度証言台に立ってもらって、あたらしく出た証拠について、確認することができます。
ディード判事は検察側の鑑定証人に、弁護側の鑑定証人の証言について聞くことにします。
結局、どうなのと問い詰められ、弁護側のいうこともあるかもと認めてしまいます。

ここで、検察側の立証の要が一気に崩れたわけです。ディード判事は双方を
裁判官室に呼び、検察官に無罪を認めるよう勧めます。
検事役は、男性医師は信用できないとか、殺人を致死罪(murderからmanslaughter)
に変更するからと抵抗するのですが、でもgross negligence(重過失)はないよと
ディードに説得されてしまいます。
これはおそらくヘレナは医者なので、モルヒネを投与することは正当な医療行為になる
わけで、それと関係しているように思います)。
要は、弁護側の鑑定証人に検察側の鑑定証人が負けたんだよと説得され、「あれには
参ったよ、まあしょうがないか。じゃハッピーエンドにしようか」としぶしぶ
無罪を認めます。

さて、この裁判の間に、ディード判事自身も癌の父親を見舞っています。妹は「痛みで
苦しんでいるのをみると早く楽にしてあげたい」とつらい気持ちをディードに訴えます。
今、そういう事件を担当しているんだよというと
妹はヘレナ・ベリュー医師の立場に理解を示します。
「本当に殺したの。でもわかるわ」と聞かれて、陪審員が決めることだよと返事はしていますが、こういうこともあってか、ベリュー医師に同情的だったかも知れません。
あるいは、秘書さんに「彼女魅力的だよね。どう思う、無罪?」と聞いて「魅力的かどうかは
有罪、無罪と関係ないでしょ」などと呆れられていますから、ヘレナが美人だったから?

ところで、父親の死を前にして、妹から、ディード判事は本当の息子でないのよと
初めて知らされます。ディード判事は一瞬絶句し「それって、ママが不倫をしたっていうこと?」
「養子なのよ」と明かされます。
ディード判事はどうして言ってくれなかったのと責めますが、妹は「私たち3人とは
全く違ってあなたはとても優秀じゃない、だから気が付いていたかもと思っていたわ。
気がつかなかったの」などと聞きます。
そして父親が話さなかったのはディード判事が優秀で特にオックスフォードに入り、
さらにはロースクールに進むことになり、そのことを誇りに思うと同時に、
実の親子でないことがわかると自分から離れていくのではないかという恐れから
口に出せなかったという。
「ダディはお父さんだし、マムはお母さんだし、妹は妹だし、自分の今あるのは
ダディが人生の価値観について教えてくれたからだ」といいます。
「52年にもなるんだもの。何にもかわらないよ。愛しているよ。」と最後のお別れをします。
ディード判事が52歳というこがわかりました。
でも、ディード判事は、「本当のことをいうとオックスフォードにいるときはお父さんがパンや
(baker)だというのが嫌でしょうがなかったんだよ」と告白します。
イギリスは身分社会です。労働階級の子として、苦労があったのだと思います。
(ディード判事を陥れたいと思っている大法官府のイアンがパン屋の息子のくせに
と差別発言をしていることからわかります)。

(ここで養子の話が出るのは、2つ目の事件との関連づけです。ドラマというのは、
こういう関連付けで自然な流れになるのです。)

ということで、ヘレナは無罪になったわけです。
なお、字幕では陪審員が無罪評決をしたような訳でしたが、
「quit」(やめる)という語を使っていたことと理屈から 
少なくとも陪審員が評決することはないはずです。そうすると、取下げか判事限りで
無罪の判決をするのかですが、知識がないのでわかりません。
後述するとおり、一事不再理という言葉が出てきますので、
ひょっとすると、被告人に有利なように無罪判決をする可能性はあります。
これは宿題です。

でも、これで終わりではないのです。
ヘレナは無罪になったことに感謝感激し、判事や弁護士のたまり場のワインバーで
ディード判事の姿をみるや、「判事さんのおかげです」
ディードが「弁護人のおかげですよ」といっても「いいえ判事さんのおかげです」といって
ディードに抱きつき、ほっぺにキスをします。

この様子を見た大法官府イワンのスパイは大喜びです。
ディードを破滅に追い込めるかもというわけで監視を強めます。
ヘレナはディナーに誘います。ベリュー医師ではなくヘレナと呼んでなどと思わせぶり。
秘書さんから「女性から手紙ですよ」、ディード「美人だった?」なんて例の調子ですが、
毎日のように手紙が届くようになります。
さすがのリィードもジョーに言われるまでもなく、困る立場になるので
断ります(無罪にした被告人と親しくなるというのは、親しくなりたいので
無罪にしたと疑われることになるからです)。
ところが、ところが、自宅まで押し掛けてきます。
護衛の警察官は休み、執事は自分は関係がないという、土砂降りの雨の中、
門の前で、会えるまではと、動こうともしません。
女性にやさしいディードのこと、雨に濡れてかわいそうというわけで、
とうとう官舎の中に招き入れます。

ヘレナは、どうしても言っておかなくてはならないことがある、でも
手紙では書けないことだという。
2時間半後にようやく官舎を後にしました。
スパイは大喜びです。

翌朝、ジョーが判事室にきます。話をきくうちに、お茶を入れる動作はぞんざいに
なっていきます。
ディードが困ったといっても、そりゃそうでしょう、と冷たいです。
ディードが、実は、自分が殺したんだというだよ、殺してほしいと頼まれたので、
楽にしてあげたというんだ、モルヒネは2アンプルではなく、4アンプルだったというんだ。
どうしたらいいだろうか、と、ほとほと困っている様子です。
実はヘレナは証言で、楽にしてあげようかと思ったが、治るかもしれないと思い、
2アンプル注射したところで、落ち着いて眠ったと言っていたのです。

ジョーは警察に届けてはと言いますが、一事不再理で、いったん無罪になったものは
どうすることもできないといいますが、
でももしほかのことが出てきたときのことを考えると報告しておいた方がなどと
アドバイスします。

ディードにとって問題なのは、自分が間違った判断をしたかどうかです。
ジョーに、実際のところどう思うかを確かめると、やはり無罪だと思うという答えでした。

でもディードは納得しません。もう一度、全記録を見直してみることにします。
徹夜です。ジョーが心配して、朝一で判事室に立ち寄ります。
記録をみたけれど、やはり2アンプルよ。間違いないわと言いますが、
リィードはほかの経路で入手した可能性があるよ。ジョーもそういう可能性も
確かに否定できないという。

ディードはやはり間違っていないと思っているわけですが、その証拠がほしいわけです。
確信が持ちたいのです。
判例等を調べ、ディードは「嘘の自白(false confession)」症候群というのがあることを
知ります。
ジョーに確かめます。ジョーは賛成します。
検察官の尋問でもでてきたのですが、10年ほど前、病院勤務だったときに、
薬の過剰投与で赤ん坊を死なせたことがあったのです。
もちろん、それは、子供の側に問題があり、ヘレンの責任ではなかったのですが、
ヘレンが自分が殺したと、責任を感じていたのです。
こういう場合、罪の意識から、ほかのことでも、自分に責任があると自分を責めることが
特に医師などにはあるというのです。
ジョーはもう済んだことだし、くよくよせずに前に進んだら(move on)と助言です。

ディードは「嘘の自白(false confession)」であるとの結論に達したのですが、
誰かに、正しいかったと言ってほしかったのですね。

それで、弁護側鑑定証人だった病理学者にきてもらうようジョーに頼みます。

鑑定証人は、いったん無罪になったんだし、無罪で間違いないと思う。
要は、何が真実かは、ヘレナ本人と神様しかわからないことです。
こうして検討しなおすなど、普通じゃない(unusual)、
前に進んだら(move on)とジョーと同じことを言います。

ディードは、「今一番言ってほしいと思っていることを言ってくれたら」と言います。
これって、おもしろいですね。
つまり、リィードは間違っていなかったということを、それなりの人に言ってほしい
というだたそれだけなんですね。
鑑定証人のいうように神のみぞ知るということですが、それでは
わからないということ同じです。安心できません。
鑑定証人は自分が何のために呼ばれたのか、わかったのです。
(この鑑定証人さんは証言の時に、やはり依頼者がいます。その依頼者を
喜ばしたいとう気持ちになるものですと。
ディードが、そうはいっても真実をいうわけでしょう、と追っかけます、
それに対して、真実にはいろんなバージョンがありますと、
答えています。含蓄がありますね。)
ということで、こういう話をします。
「様子をみるために1アンプルの半分を投与します。さらに残りの半分を投与します。
その後また1アンプルの半分、また半分と投与します。合計4回に分けて投与した
わけです。
こうして4回に分けて投与したのですが、彼女は、罪の意識から1アンプルを
4回投与したと錯覚したんだと考えられませんか。
知人の医者も罪の意識からこういうことあると話していました。また、ほかの
医者も同じようなことを言っていました・・
もっと例をあげる必要がありますか」

もう必要ありませんね。ディードはほしい答えをもらったのです。

こういう発想は、イギリスでも日本でも同じなんですね。
何か、ほほえましく感じました。

こうして、殺人事件の方はようやく一件落着です。

次は、子供に対する検査命令の件です。 

HIV感染のお母さんランキンは、娘チャーリーの友人です。
彼女の友人には、意識の高いインテリのような人が多いようです。
このランキンは輸血でHIVに感染したのです。
HIVに感染はしていますが、発病はしていないのです。
ヨガや瞑想をし、ベジタリアンであり、アルコールも飲まないなど、彼女なりの健康管理を
しているので、10年も健康です。
治療は必要ないし、こどもは感染していないし、
もし感染していても自分で管理できるというわけです。
しかし、カウンシルは、きちんと検査をすべきであるというわけです。
検査命令の申立がなされます。
チャーリーはリィードに相談します。
リィードは、「HIV イコール エイズ、エイズ イコール 死」が常識である。
発病していないというのはラッキーだけれど、
こどものためには検査を受けさせるべきだよ、そうアドバイスしてあげなさい、と
いいますが、チャーリーは、母親に同情的で、
本人が嫌がることをするのはかわいそうというわけです。

なお、チャーリーもベジタリアンなんです。第3話で、ディードが昼食を誘う場面が
あります。ディードが「あのレストランにベジタリアンの料理方法教えておいたからね。
でもあまりわかっていないようだけど」というセリフがありましたので、間違いないと
思います。そういえば、ヒラリーの娘のチェルシーもベジタリアンと聞きました。
英米では、インテリの若い女性にはベジタリアンが多いということなんでしょうか。

チャーリーが「勝手に検査をされるのではないかと心配しているけど大丈夫?」ときくと
「大丈夫。できるんだったらもうやっているよ。できないから裁判所の申立をする
んだよ」という返事。
こういう考え方は、同じだなと、これも何か嬉しくなりましたね。

チャーリーが裁判に出頭しないかもというとディードが「駄目だよでなきゃ。出なければ
相手のいうままに全部認められるよ」「友人(freind)なんだから、マッケンジーフレンド
(McKenzie freind)として出てあげなさい」と
勧めます。だって、私何も分かんないもんというと、私に聞きなさいですって。
ディードは甘いですね。

ところで、マッケンジーフレンドですが、日本にはない制度です。判例で認められた
コモンロー法上の権利ということで、法曹資格のない人に法廷での補助を認めるのです。
ただし、代理をする権利はないようです。
マッケンジー対マッケンジーの離婚事件で弁護士を立てられない妻のために
友人のサポートを認めたのです。ということで、この権利がマッケンジーフレンド
と呼ばれるようになったのです。
(このブログを書くにあたって、マッケンジーフレンドについて調べました。
こういうコモンロー法上の権利は、イギリスだけでなく、コモンローの国、
オーストラリアやカナダなどのいわゆるコモンウェルスの国だけでなく
アメリカにも共通なんですね。3話のautomatismも同じでした。
いろんな分野でイギリスとアメリカは兄弟国だということなんですね。)

審理するところは、いわゆる法廷ではなく、会議室のようなところです。
ディードが「じゃ裁判所に行ってきなさい。うまくやりなさい」と言っていたので、
裁判なのだとは思います。一種のcourtですが、
インフォーマルな雰囲気での審理に適しています。
大きな長方形のテーブルの一つには裁判官と書記官、速記官が着席、
ただし、裁判官も普通の背広で法服も例のかつらもつけていません。
そして、裁判官に向かって右に申立人側の代理人らが、
左に被申立人のランキン、事実婚の夫、チャーリー等が着席しています。
後で、わかるのですが、裁判官と対面するところには証人が座るようです。
日本のラウンドテーブル方式の法廷のような感じです。
(ここで、気づきました。
日本では、裁判官に向かって左の方に申立をする方(原告、検察官とか申立人)が、
右の方は受けて立つ方(被告、弁護人、被申立人)が着席するのですが、
逆でした。
そういえば、イギリスの法廷でも法壇に向かって右が検察の代理人、左が弁護側の
代理人でした。テレビをみればわかりますが、日本ではこの逆です。)

担当裁判官は、ディードと親しい同僚のニヴァン判事です。
明らかに緊張気味のチャーリーをやさしくみつめています。このあたりの人情も
日本でもありそうな感じの雰囲気でした。
1回目は顔見せのような感じですが、次回期日を決めるときに、申立側は2日後を
チャーリーは、駄目もとで何でも言ってやれという感じで、最低限1か月は必要と
要求します。緊急を要するので2日後と迫る申立人代理人に、
準備をする時間も必要だし、、だけど1か月というのも現実的ではないとして
10日間の期限を認めます
そして、大変な事件なので、代理人をつけなさいと助言しますが、
チャーリーは、本人は司法や裁判官に対する不信をもっているので、代理人は
つけないというのですが、裁判官という言葉に、
念のために聞くけど、どういう偏見なの?と。
身内に医者がいるとか、大きな製薬会社と関係があるかもしれないなど・・
判事が苦笑いしていたので、きっとニヴァン判事のことだと思います
(チャーリーは当然知っているわけです)。

場面変わって、ディードはニヴァン判事に「forget it マイケル」といっているので、
多分間違いないと思います。マイケルはニヴァン判事のことです。
代理人を立てた方がいいよね、などと言いながらニヴァン判事は
「family division の上席の経験があるから、君が担当すればいいよ」と体よく
押し付けてしまいます。
なお、ここでも字幕の訳は「首席」となっていましたが「senior」でしたから、
上席がいいと思います。
イギリスのhigh courtには、これも調査の結果ですが、3つの部(わかりやすく
いうと民事法、家族法、会社法)に分かれており、それぞれの裁判官はどれかに
所属することになります。そして、この3つの部の長には、それぞれ別の官職名が
与えられており、高裁の事件を担当することもあるようなので、
ディードを首席というのはどうかな
と思います。イギリスの制度は古い歴史があり、その中で必要に応じて変更されて
いるのですが、日本のように、一気に画一的にということはないので、
呼び名もまちまちなのです。
ついでにいうと、high courtを高裁と翻訳していましたが、これも明らかに間違いです。
「high court」は普通、「高等法院」と翻訳しています。高等とつきますが、
基本的には1審の裁判所です。日本でも、地裁は簡裁の事件の控訴を担当しますが、
それと同じです。
高裁は「court of appeal」です。このあたりのところは、またいずれ説明するチャンスが
あるとおもいますので、今回はこの程度にしておきます。

さて、本題の検査を受けさせる命令ですが、abuseと言っていましたから、
日本でも最近問題になっている、親の子供に対する虐待とかネグリジェンスの場合
には、地方公共団体が裁判所の命令に基づいて、親に代わって適切な処置を講ずる
ことができる、場合によれば、親から子供を取り上げ、里親に出すことができるという
法律があるのだと思います。
なお、council のことを議会と翻訳していましたが、これも間違いと思います。
もちろん、議会という意味もありますが、要は人の集まりことで、場合によっては
審議会、協議会のこともあれば、市役所や区役所をいうこともあります。
たとえば「council house」といえば、市営(県営)住宅のことです。
一躍有名になったスーザン・ボイルさんも「council house」に住んでいましたし、
実は、ディードも「council house」育ちでであり、そこに父は今回死ぬまで住んで
いたのです。
感じとしては児童相談所とか児童福祉局のようなお役所だと思います。

さて、ニヴァン判事が10日も延ばしたので、カウンシルは緊急保護命令を
とり、こどもを連れていってしまいました。緊急の保護命令は日本の簡裁に当たる
Magistrates' Courtで取れるようです。

チャーリーはディードに泣きつきますが、ディードは法律が決めたことだから
どうすることもできないよ。
「でもパパはスパイダーマンでしょ?」娘にとってみれば、ディードには
できないものはないお父さんなんですね。
ディードは「今度は自分が担当するので、人には邪魔はさせないよ」と約束します。
甘いお父さんですね。
やはり、弁護士が必要ということで、ジョーに頼みます。
プロボノみたいねというジョーに「でも権力を相手に戦う女性を助けるのだから
やりがいがあるでしょ」などと煽てます。

ところで、ジョーは検査を受けても、EU人権法によると治療を拒否できることを
調べました。検査に応じてもいいじゃないかというわけです。

ここで、とんでもことがわかりました。実はランキンは母でもなんでもないというのです。
「まさか誘拐?」
同じころに入院していた女性が死亡し、生まれたばかりの男の子を託されたという
のです。誰も迎えに来ないので、そのまま引き取って帰ったというわけです。
でも、これでは何の権利もありません。
ジョーは頭を抱え込んでしまいます。
ランキンが検査を拒否する本当に理由は、実母でないことがばれるからだったのです。

チャーリーはディードに助けを求めます。
ディードは48時間の延期を決めます。
そして、チャーリーに「さあ、パパはスパイダーマンになるよ」と宣言します。

ディードが慌ただしく動き始めました。
片方では、例のヘレナ医師に電話し、助けてほしい、誰かに尾行されているみたい、
そうだよ尾行されているよ、でも大丈夫、裏口から裁判所に入ってきてほしいといいます。
何を狙っているのか、わかりません。
片方の電話ではチャーリーを呼びます。
ジョーはカウンシルも実母でないことを知ったのかも?
カウンシルの代理人から緊急の事態が発生し、48時間は待てないとして
期日指定の申し立てがあったので、知っているよ。
でも、ディードは、私が知らなければいいんだよ、ですって・・・
ジョーもそそくさと判事室を出ます。

ディードはカウンシルの期日指定があったので事情を聴取します。
気のない風な様子で、実母でないという証拠はありますか?
カウンシルの代理人は意気揚々と証拠を示します。
ディードいわく「女の人がいて、子供を生んだということですね。でもそれだけですね。」
とおとぼけです。
午後一番に再開するのでという理由で、この申立はさしあたり却下です。

なにやら時間稼ぎ?でもわかりません。

裁判所の待合の廊下では、赤ん坊を抱いた女性が洗面所に・・ 
ランキンは、おしめを交換しなきゃなどといいながら洗面所へ・・監視の
カウンシルの職員も逃げるところはないからと気を許しています。
さきほどの女性はこどもを連れて出て行きました。
ランキンがこどもを抱いて出てきました。そして法廷室に来ます。

みんな揃いました。
ジョーが、開口一番休廷中に事情は変わりました、と言い始めました。
ディードは制止します。

ディードはゆっくりと話し始めます。
2つ争点がある。こどもの面倒(care)を誰がみるかということと
HIV検査をどうするかということである。これは別々に考える必要がある。
こどもの面倒については母親側に理があるように思うが、HIV検査については
カウンセル側に理があると思う。
そして、旧約聖書のソロモン王の伝説「Judgment of Solomon」を引用しながら
長々と説明が始まります。
(なお、「Judgment of Solomon」は、二人の女性が自分の息子だと名乗り出ます。
ソロモンは、「生きている子供を二つに分けて半分ずつ持って帰るしかない」と宣言します。
一人は、どうそ殺さないでくださいと、もう一人は、二つの分けましょうと言います。
それで、本当の母親がどちらか分かったというわけです。
それ以外にも、それぞれが思い切り子供の腕を引っ張り合うようにいわれ、片方は
力をゆるめ、片方は力を緩めることはない、など、バージョンはいくつかあるようです。
本来の趣旨とは違うような気がしますが、どちらもどちらというときに、過失相殺などの
ときに、よく引き合いに出されるもののようです)

母のランキンがトイレに行くような感じで、チャーリーに子供を預けて出ていきます。
どういうわけか、ジョーも時計を気にしながら退席しました。

ようやく、こどもの面倒はランキンが、でも検査は受けさせるべきであるという決定です。

カウンシル側は、今すぐ検査をしていいかを確かめますが、Why not ということです。

チャーリーから子供を受け取ると、

「あれ、女の子だ!」

ディードとチャーリーは、何があったの?とキツネにつままれたような様子???

外では、ランキンが事実婚の夫が待つ車に乗り込みます。そこには、
ベイビーがいる・・・・・

3年間養育すれば里親になる資格ができる、そのときは自分が担当するから
大丈夫だよとチャーリーを安心させるディードです。
やっぱりパパはスパイダーマンでした。

スパイが見守る中、ヘレナが裁判所の裏口から出て、自分の赤い車に乗り込みます。
ディードがその後を、護衛の運転する車で追いかけます。
飛行場の駐車場に仲良く並んで車を止めます。
中から出てきた二人は熱いキスを交わします。
ヤッターとスパイは大喜びで証拠写真です。
カメラに向かってヘレナ?が、頭に巻いたショールとサングラスをとります。

あー人違いでした。それはなんとジョーでした。

二人は仲良くチャーター機に乗り込み、今夜はフランスでとまる?
そんな時間はないわ、帰らなくちゃ、でも食事だけなら・・・・・
飛び立っていきました。

さて、日本の題名の「出生の秘密」はもちろん、ディードとブランドンのそれを掛けている
のでしょうが、
原題は「Hidden Agenda」です。Agendaですから、
ディードのスパイダーマンとしての活躍ぶりをいっているのだと思います。
これはよく練られた計画です。
でも、それを偶然のように見せなくてはなりません。ディードが知っていてはならない
ことですから・・・

最後のオチは、赤ん坊がブランドンでなかったことは、
実は巧妙に練られた計画であり、Agendaだったという
種明かしではないかと、私は考えています。

本当によくできたドラマです。ここではかなり、端折っていますが、ドラマは細かなところ
まで、よく考えられています。700~800万人の視聴者がいたというのは当然です。
なお、これは90分ドラマなので内容が盛りだくさんです。

是非、みなさんもご覧になってください。