弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード 法の聖域 ドレビア 自動車

2011年07月05日 | 判事ディード 法の聖域

第16話の真実の闇では、被告人が横領した金で買った車が

ポルシエということでした。
ポルシェは日本でも贅沢な車(スポーツカー)の代名詞です。

そこで、車に注目してみました。

ジョーはフォルクスワーゲンです。

ディードはアウディです。

ジョージはBMWのスポーツカータイプです。

内務大臣のニールは大きなBMWです。

サー・リストフィールドはロールスロイスです。

これで何となくわかりますね。

 

もうひとつ最初から気になっていることがあります。
裁判中の被告人との接見室ですが、特別なものがないのですね。
被告人の拘置室で行われています。
もし、凶暴な被告人なら怖いです。
一人ではないようです。
ソリシターが一緒なのでしょうか。

日本では裁判所内ではあまり打合せなどしないのですが、
東京地裁などは、東京拘置所内のような接見室があります。
例外的な場合に部屋を用意してくれることがありますが、
机を挟んでの面会です。
間に何かないと不安になりますね。

わかると嬉しいです。


判事ディード 法の聖域 第16話 真実の闇

2011年07月04日 | 判事ディード 法の聖域

第16話は真実の闇(DEFENSE  OF  REALM)です。
今回も法廷は大荒れです。
イアンはどうしてもディードを辞めさせたいということで、前回の
「他人を守る罪」での原告との関係を持ちだします。
相手は判事なので、明確な証拠がなければ、動きません。モンティが、
女性が官舎から朝帰りしていたのを目撃したという奥さんの証言だけでは弱い
というのはそういうことです。ただ、みんなディードの行動には
にがにがしく思っているので、結局、同僚のジャッジ達の意見だということで、
ディードを現場から外し、2週間ほどワーウィックでの研修に講師として派遣させます。
ディードとしては選択肢はなく、モンティやニヴァンに説得されて、島流しです。

今回こそは、さすがのディードも終わりかと思わせます。

ディードに代わってジョーがパートタイム判事として頑張ります。
パートタイムで、ほやほやですから、当然、簡単な窃盗事件が配点されます。
今回の事件は日本でいえば横領に当たるのではないかと思います
(一般的には横領は窃盗ほどは簡単ではありません)。
イギリスでは1968年に他人の財産の侵害に関する法律を整理し、
「THEFT ACT」を制定し、
どのようなものがTHEFTに該当するかを侵害の手段・方法等の態様に応じて
類型化しました。
セクション15は「Obtainig property by deception」
(詐欺手段により他人の財産を取得すること)、
セクション15Aは「Obtainig a money transfer by deception」
(詐欺手段によりmoney transfer をうけること)と定めているので、
そういう犯罪なのです。字幕で窃盗、横領、詐欺という字句がいろいろ出てきて
混乱しますが、日本語の字句にとらわれずに、
要は「Obtainig property by deception」と
「Obtainig a money transfer by deception」の犯罪だと
しっかりと頭に入れておいてください。

窃盗は本来はそれほど難しい裁判ではないのですが、
ここではdeception(詐欺手段)が要件ですから、そこが本来は争点です。

被害者のティム・リストフィールドは大実業・大富豪で、産業界に果たした功績で
サーの称号を付与された人物ですから400万ポンドという大金の被害に
直ぐに気がつかなかったとしても不思議ではないのです。
被告人のルーファス・バロンの言い分は、ティムはバイセクシュアルで
二人で将来一緒になるためにくれたとか、
離婚騒動中の奥さんから財産を隠すためというのですが、これは怪しいですね。
弁護人のカントウエルも実際は被告人のいいわけが本当だとは
思っていないようでした。
ですから、パープルのベン判事が「evidence is straightforward」
(証拠ははっきりしている)というのは尤もなのです。
ですから、ジョーが形どおりの訴訟指揮をすれば、
おそらく簡単に被告人有罪になったはずです。

問題は、ジョーはディードの教え子です。
被告人の言い分に理由がありそうなら徹底的に証拠調べをするという
姿勢です。真実が隠されていると思うと(ディードはこの嗅覚がするどいのです)
それを暴きたいという欲求が凄いのです。
それが被告人のためになるという考えです。

ところで、被害の440万ポンドにはどうやら2種類あるらしいことに
気付きますね。
被害者のサー・リストフィールドも370万ポンドも盗られてという言い方を
法廷外でニールにはしています。
つまり、70万ポンドと370万ポンドです。
370万ポンドはサー・リストフィールドのサインのようで
(本人は覚えていない)、money transfer のようです。
被告人の口座に移し替えられ、その後、スペインに別荘を購入したり、
ポルシェを購入したり、ペアウオッチを買ったりなど贅沢三昧です。
70万ポンドは30万ポンドと40万ポンドの2通の小切手です。
サー・リストフィールドの署名は被告人が書いたことは問題がありません。
被告人はサー・リストフィールドに頼まれて署名を代行したというのですが、
起訴事実では被告人が勝手に偽造したことになっています。

被告人の代理人のカントウエルですが、彼は優秀な弁護士です。
優秀な弁護士というのは、一筋縄ではいかず、癖があり、嫌味な感じがします。
少なくともお人好しではありません。
カントウエルとジョーやディードとの関係ですが、
少なくとも悪くはありません。あるいは、カントウエルは巧妙で、
判事の性格を見抜き、うまく立ち回っている可能性もあります。
依頼者のために最大限の弁護をしているように見えます。
裁判官がジョーだとわかったときのカントウエルの表情は、
カントウエルが何かを感じたことを表しています。
その後の訴訟活動から、ジョーの性格をうまーく利用していることがわかります。
ベン判事も被告人側に甘いのではないかと(take advantage )と注意しています。
それに対してジョーは「でも真実発見のためには」というような説明をしています。
きっと「真実発見」というのがキーワードかもしれません。

カントウエルは70万ポンドが勝負とみていますね。
これは現金化しているので、何のための金かの説明がつかなかったら、
被告人がTHEFTした(日本的発想では横領かな)という心証を
陪審員に持たせてしまいます。
それで、裁判所内の拘置所で被告人に執拗に問いただすのです。
しかし、被告人からはいい返事がないので、
カントウエルは弁護士として出来ることをやることにしたのです。
同様な小切手での処理が他にあることの調査をジョーに求めるのです。
形通りの裁判であれば、必要ないとなるのですが、ジョーですから、
当然認めるわけです。17通?もあったのです。
最初はカントウエルも企業文化だと言っています。

10年の懲役もあると説得されて、とうとう被告人も賄賂の資金だと告白します。
爆弾発言ですから、例によって裁判官室で協議します。
その結果、検察側は、取下げ、弁護側も大喜びでした。
ところが、アシスタント役で横に座ったディードは認めません。
裁判は続行です。
弁護側はここで一気に攻勢をかけます。
サー・リストフィールドを厳しく反対尋問しますが当然否認です。

被告人に尋問させ、賄賂の詳細を証言させます。
見返りとして、本来の代金の2倍、3倍が税金の中から支払われる
仕組みを証言します。陪審員としては、サー・リストフィールドは許せない、
利用された被告人は可哀そうとなるわけです。やっぱり無罪でした。

最後のカウントウエルと被告人の会話―同性愛なんて嘘なんだろう、
それなら財産隠しは? そのうち財産を返せという裁判を起こされる、
そうなったら弁護してあげるなどーの発言から実際はTHEFTだったと
言っているわけです。種明かしのようなものです。
そして、カウントウエルの今度は「現金でね」といわせていますが、
これがカウントウエルなんです。

さて、ジョーの被告人寄りの訴訟指揮については、
サー・リストフィールド側(内務大臣も含む)から明らかな脅し
(南アフリカに行ったマイケルに危害を加える、不審電話、誘拐など)があります。
またイアンからベン判事を経由しての干渉もあります。
賄賂の暴露を恐れたものだったのです。

ディード判事に女性にからむ問題行動があることは事実です。
しかし、イアンたちがディード排除を執拗に狙うのは、
政治活動内の腐敗が暴かれることを防止するためなのです。
内務大臣のニールは7000万ポンドの男といわれている(ジョージによる)
のは、こうして危険を冒して地位と金を手にいれたからというのが
ディードの考えなのです。
内務大臣の職務権限からイアンは大臣の圧力に弱いという事情があるのです。

なお、この事件はサー・リストフィールド側の告訴から始まったものと
推測します。
おそらく、被告人は賄賂の資金ねん出のために協力をしているので、
それが世間に知られることを恐れ少々の着服では事件を表ざたにしないと
甘く見ていた可能性はあります。少々ならよかったのでしょうが、
370万ポンドにもなればサー・リストフィールドも無視できない、
金が惜しくなったのでしょう。
そして賄賂など知らない警察は、簡単に勝てるとみて、
起訴することにしたのだと思います。
サー・リストフィールドも本当は370万ポンドですから、最初から
そうすべきだったのでしょうが、後の70万ポンドについては
説明がしにくいので、事情を知らない警察が行きがかり上、
一緒にしたのではと推測します。

今回はディードは裏方だったにもかかわらず、
ディードの本質をはっきりと視聴者に見せることができました。
ジョーが脅しに負けそうになります。
ディードがいなければ、負けたはずです。
ここではジョーは普通の裁判官の象徴かもしれません。
そのジョーが誘拐され脅されたという事実もきちんと捉えたうえで
(他の人は妄想だと見ているようです)、ジョーを叱咤激励しています。

賄賂の件がわかって判事室で関係者が集まって協議する場面がありますが、
おそらく普通ならここでダウンしてしまいます。
でもディードは賄賂の受け取り手の名前もはっきりと言わせます。
ディードは満足そうにほくそ笑んでいました。
また、法廷で、裁判中止を求める検察側に対し、これを拒否し、
続行を決めるなど、つぎつぎと難しい決断を迫られる場面があります。
ジョーは放心状態で何もできないときに、ジョーを思いやりながらも、
また難しい方を選択します。

ディードは女性関係ではだらしないかもしれませんが、
正義を果たすという使命がいかに厳しく、また頼もしいものかを
みんなに知らせてくれたと思います。
ディードが戦っているのは、政府(Government)だということ、
政治の司法に対する干渉だということを、モンティも目の前でみたのです。
だから、最後に気をつけるようにとわざわざ言葉をかけています。
ディードが弱みにもかかわらず、辞めずにすんでいるのは、
正義のために徹底的に戦っているからだと思います。

REALM というのはエギィゼクティブ(政府)のことだったように思います。
やはり司法は国民のためにあるのであり、三権分立、
互いに牽制しあうことが大事だと、ディードは研修で持論を展開しています。
国民が政治家を選んだんだから、という質問には、国民の政治に対する
無関心で政治家が好きなようにすると国民の無関心を嘆いています。
だからこそ、三権分立が重要だともいっています。
この辺りは、最近の日本政治状況をみると、身につまされる思いがします。

私自身聞き取れない言葉がいっぱいですが、すっきりとしないことあるのは、
制度の違いであり、翻訳が難しいことがあります。
しかし、明らかに誤訳とおもわれるところもあります。

たとえば、初めのころのロード・チャニングがイアンに頼まれ
ディードにFellow Judgeたちが辞任を求めていることを伝える場面で、
ディードが「Take council ‘s advice」というのを「従いますよ」
としていましたが、これは「弁護士に相談してみますよ」ということです。
ですから、その後直ぐにジョーの事務所に行っているのです。

「法務官」というのもおかしいと思いました。詳しくは忘れましたが、
ジョーの裁判官としての評価の部分だったとおもうのですが、
Benchというのは裁判官のことBarというのは弁護士のことです。
また、ジョーは裁判官といっても正式にはRecorderという職名です。
法務官というのはあり得ません。

また、一番気になったのがサー・リストフィールドのことを
原告と訳していることです。原告が出てくるのは民事裁判です。
お金が絡んでいるので、民事もあり得ます。
現にサー・リストフィールドは370万ポンドを取り戻したいようですから。
しかし、日本でもよくあることですが、民事狙いではあっても、
刑事告訴からスタートすることはあるのです。
民事は示談で解決するというわけです。
何度も原告という言い方が出てくるので、しっかりと見ましたが、刑事裁判です。
刑事裁判では「原告」はないので、英語ではどうなっているか、
しっかり聞きましたがサー・リストフィールドと名前を言っています。
民事では原告は「Claimant」です。
15話で関係した女性についてはクレイマントと言っています。

実際、サー・リストフィールドは裁判の当事者ではないので、
70万ポンド(これは被告人が現金化したものを
サー・リストフィールドに渡しているのです)の使い道については
サー・リストフィールドは「not  on trial」なので、
そこまで明らかにする必要がないとして、何回も出てきているのです。
本人も自分はvictim(被害者)だと言っています。
ですから、名前を使いたくないなら「被害者」と翻訳すべきものです。

今回のドラマはかなり違ったストーリー展開になっており、ますます今後が楽しみです。


判事ディード 法の聖域 トリビア

2011年07月02日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディード 法の聖域 のブログをお読みいただいているようで
本当にうれしいです。

日本とイギリスで、制度や法律的な考え方に違いがあるので、
弁護士でも本当に理解するのは難しいです。
というか、弁護士だから細かな、日本では当たり前のことが
そうではないらしいと、常に日本のやり方が前提としてあるので、
なんでと、難しく感じるということもあると思います。

16話で、突如、ジョーが裁判官になりました。ちょっと説明しておきましょう。

イギリスでは、日本のようなキャリア裁判官はいません。
まずは弁護士です。
弁護士としての経験を積んだ上で裁判官になれるのです。
ジョーはもともと裁判官狙いでしたが、ディードの元妻のジョージのように
最初から裁判官になるつもりのない人もいます。
いずれにしても弁護士からスタートです。

裁判官の第一歩がRecorderと呼ばれるパートタイム ジャッジです。
ジョーは16話ではRecorderとして登場してきます。
Recorderになるには10年の訴訟代理人としての経験が必要です。
最低1年に15日、通常は30日以上、Recorderとしての仕事をするようです。
任期は5年で更新もあります。

この上には常勤の裁判官 Circuit Judgeがいます。

さらにそのうえがハイコートジャッジとなっています。

Recorderは、弁護士と同じ普通の黒い法服です。

Circuit Judgeは紫いろの法服です。

そしてハイコートジャッジは赤色の法服です。

法服についても2008年に法改正がありました。簡素化されました。
新しい制度のもとでの法服です。法の聖域のドラマとは少々ちがいますが
感じはわかると思います。

       

ディードが何で自分がつまらない事件で、パープルが難しい事件を
担当するの?と文句を言っていたことがありましたが、
パープルとは紫色の法服をきる裁判官、つまりは巡回判事のことだった
のです。

16話でも、紫色の法服を着た裁判官がジョーに困った時はいつでも
といっていましたが、あれが巡回判事です。
いずれはジョーもそうなるのでしょうか。
そして、ディードのこの裁判官に対する態度は少し違っている、
そのように感じましたが、いかがご覧になりましたか。

モンティ・エバラード判事はディードと衝突することはあっても、
ハイコートジャッジ(レッドジャッジ)として敬意をもっていることは
随所でみられました。

こういうちょとした知識があるだけでドラマの見かたが変わってきますね。

 


判事ディード法の聖域(第15話)他人を守る罪  深刻な子供に対する虐待

2011年06月27日 | 判事ディード 法の聖域

第15話は他人を守る罪(IN Defence of Others)です。

レイプや幼児に対する性的犯罪と養子縁組が絡み合った展開です。

幼児性愛症者を殺したアラン・ファールズの弁護をジョーがします。担当は
ディード判事です。
ジョーはマイケルを養子に迎えるための試験期間を過ごしています。
仕事はセーブ中ですが、被告人のアラン・ファールズがどうしてもというので
弁護を引き受けることにしましたが、有罪を認めるしかないとの考えでした。

もう一件の刑事事件はモンティ・エヴェラード判事担当で13歳の少年が先生を
レイプしたという事件です。これは直接ディードとは関係ないのですが、
実はこの少年(ポール・ローレンス)の養母が養子縁組委員会を相手取って起こしている
予備審査がディードの担当なのです。
この少年、不良少年だったのです。養親の10歳の女の子にも性的暴行をし、
養親の家庭をめちゃめちゃに破壊してしまったのです。
養母のハースト夫人は養子縁組前に委員会が養子のポールが家族に破壊的な結果を
もたらすことが予測できたにも関わらず、十分な情報を公開しなかったとして
委員会の責任を争っている事件です。これまでにも2回申立をしていますが、
いずれも却下されています。
この事件の委員会の代理人はジョージです。
担当職員はジョーとマイケルの養子縁組の担当のトレイダウェイでした。

これと絡んで、マイケルの実父が急に南アフリカから出てきます。
いないと思っていた実の父親が現れた以上、ジョーとの養子縁組はどうなるのか?
ジョーは私生活でも問題を抱えることになります。

アラン・ファールズの殺人事件ですが、
彼は7年の刑に服し、後1日で終了というときに、別の囚人のベイリスを殺害したのです。
刑務所内ですから、殺害の一部始終を撮影したCCTVがあるので、殺害の事実は
否定のしようがありません。
しかし、彼は無罪を主張するつもりです。
無罪を主張するには意思能力がなかったことを争うしかありませんが、
彼自身正気だったというのです。
無罪の根拠は何か?

実は被害者のベイリスは幼児性愛症者なのです。最低でも8回逮捕されていますが、
いずれも証拠なしで無罪となっています。今回の服役も、
メインの性犯罪は証拠なしで崩れましたが、証拠隠滅があったという司法妨害罪で
3か月の実刑になったのです。

アランの言い分は、ベイリンが社会に出れば、また必ず幼児に対する性犯罪をおかす
はずである、しかしベイリンは賢く捕まらない、だから、他人を守るために、殺すしかなかった
ので、無罪というものです。

専門的にいえば、他人を守るためであってもさし迫った危険の存在が必要ですが、
そのような危険があったとみるのは難しいです。

しかし、世間の風潮はといえば、性犯罪、特に幼児に対する性的暴行については
極めて厳しい見方です。
CSI(検察)ですら、MURDER(故意または重大な過失がある。終身刑のみ)ではなく、
MANSLAUGHTER(過失致死)で15年での交渉を望んでいます。
無罪を主張するということは、もし、認められない場合には、終身刑しかないので
大変危険です。殺害という事実は否定しようもないからです。
アランは頭がよく、服役中に法律の勉強をして、2つの単位をとったほどです。
ジョーに依頼したのも、ジョーが「囚人には、最良のあらゆる防御を受ける権利がある」
との持論を実行していることを調べてなのです。
ジョーのアドバイスも断り、無罪で戦うことにきめます。
決め手は、新聞が被害者であるベイリンのことを「モンスター(ばけもの)」と呼んでいる
ことから、素人の陪審員の判断に賭けることにしたのです。

ジョーもやるしかないということでしょう。やや問題のある訴訟行為をします。
アランは幼児性愛者と主張しますが、無罪になっているので、法律の世界では
あくまでも推測にすぎないことになります。
しかし、事実あったこととして質問の際に意見をいうなどし、ディードから撤回を注意
されたりしますが、しません。
また、最終弁論でも、これは言ってはいけないのですがと言いながら言います。
明らかに問題ですが、陪審員に印象づけるにはそれしかないわけです。
(検事、弁護士、判事が昼食をしながら、最終弁論の打合せをしています。
その席で、ディードは、他人のためにしたなどという弁論はしないでと言いますが、
ジョーはそれが本人の希望ですとやんわりと断り、検事役の弁護士は、
陪審員はこういう事件には敏感だからと懸念を表明し、でもディードは
陪審員も驚くほど常識を持っているからと楽観的です)

また、アラン本人もいわなければならないことは言います。
6月21日にアップロードした「EXACTING JUSTICE」もそうでしたが、
犯罪の動機となった、本人の受けた心の傷を語ることは、感動を呼ぶものなのです。
アランの言い分は、要は、法律や裁判が役割を果たせていないなら、自分がやるしかない
ではないかということでしょう。
しかし、現代社会というのは、私的制裁は認めない、そのかわりに国が代わって
司法の名の下に正義を行うシステムを作ったはずでした。
というものの、現実の世界では、システムが時代の流れについていけず、ある分野
では耐え難いほどの支障が生じていることは事実です。
こういう場合は、法律やその専門家は無力です。
むしろ一般人の素直な良識こそが力となり得るのです。

さて、アランですが、2歳のときに父親が精神的に病み、いなくなりました、
5歳のときに母親のボーイフレンドに性的虐待をうけました。
9歳のときにはじめて人に話しました。でも何もおこりません。
そのうち母親が薬物依存になり、施設にはいりました。
そこでも施設の職員から虐待を受けました。大人はみんなそうだと思うようになった。
そして自殺を考えるようになり、最後は精神病院入りとなった。
親切な人に会い救われた。

虐待した人を探し出し。告訴しました。
証拠がないということで、起訴されなかった。しかし、その人を攻撃したため、
殺人未遂で7年の実刑になった。悪いことをしたことは事実なので、軽減は断り
素直に刑に服した。
残りあと1日というところで、後数週間で出所するベイリンとあった。
出たらまた幼児に対する性的虐待をすることは確実である、
それを防止するために、ベルト代わりのワイヤーで絞め殺してしまったというのです。
検察側は、復讐ではないかと突っ込みますが、本人は子供たちに対する性的虐待を
防止するためと言い張ります。
検事役の弁護士は、陪審員に判断していもらいましょうと締めくくります。

アランはひとり喋ります。
性的虐待をうけるということは、心が死んでしまうということである(die inside)。
虐待を受けた子供は決して回復しない。
自分を心がなく薄よごれて愛情や尊敬にあたいしないと感じるようになってしまう、
というのです。
これからの人生、子供たちに虐待が起こらないようにしたい。

陪審員、あっという間に評決に達しました。全員一致の無罪です。
さすがのディードもこの評決には反対ですが、仕方ありません。

法律で割り切れないことがあることは事実です。
しかし、ここまでくると、いかがなものかという感じがします。

検察側の弁護士から法律じゃあり得ないよ、よくやったねと祝福されます。

アランは記者会見をもちますが、そこで、本音(復讐だったこと)が出てきます。
ジョーは苦々しい思いです。ディードがこれからは忙しくなるね、などと勝訴を祝福しますが、
ジョー自身は最悪の日だと苦り切っています。依頼者に騙された、利用されたという思いでしょうか。

話がそれるかもしれませんが、今回のアレンのような辛い体験をそのまま語ることは
陪審員だけでなく、専門の裁判官の心を動かすこともあるのです。
私も刑事事件の弁護で経験したことがあります。

素人の場合は、0か100かのような形で現れるという違いがあるのかもしれません。

さて、ハースト夫人の方ですが、養子のポールは合意を争っていましたが、有罪になりました。
当然でしょう。
刑事を担当したモンティもああいうワルを養子にするなど信じられないという意見です。
また、ディードが担当する予審でも、委員会側は、家族に深い悲しみをもたらすかもしれない
と警告しているのです。
ハースト夫人本人さえ、委員会側はポールを罰するかのように養子にさせないようにしていた
というのです。
そして、試験期間中にも、何をしでかすかわからない、一瞬たりとも目が離せない子だとわかり、
夫の方は養子に反対したというのですが、夫人が説得して養子にしたというのです。
実の娘が養子のポールの性的暴行を受けたことで家庭は崩壊し、離婚となったのです。
それでもハースト夫人はポールを見捨てることができず、
委員会に責任転嫁をしようとしているのです。

さて、またまたここで一大事です。
ジョーは突然現れたマイケルの実父マックにマイケルを引き渡すかどうかで、
忙しい殺人事件の合間を縫って、マック、マイケルとの時間も作り出しています。
ディードから電話があってもいつも留守電です。
ディードはジョーがマックに惹かれていくことに強い嫉妬心を抱きます。
ジョーと会えないことで寂しい思いもしています。

一人で食事をしているディードをみてハースト夫人が話しかけてきます。
最初は事件の原告と話すことはできないと断っていましたが、
女好きな本性に逆らず、とうとう官舎で一晩を過ごしてしまいます。
ディードは、どうしてあんな悪い子を養子にしたのとか、委員会に責任転嫁しても
何もかわらないなど、率直に話します。
ハースト夫人も自問自答するけれど、答えはわからないというのです。
自分の責任(一瞬よそ見をした瞬間に激突事故を起こし)で息子を死なせてしまった
後だったいうのです。
息子の死に責任がある自分を罰する、自己破滅願望かもしれないなどの話をします。
いずれにしろ、ディードに話を聞いてもらったことは良かったようです。

ディードはこのハーストの件については、棄却(却下)の裁決をしました。

養子縁組というのは、本当に難しいですね。
日本の場合は、親族間のことが多いようですが、
外国はむしろ他人のことが多いようです。
アンジェリナーとかマドンナなどアフリカやアジアの子供を養子にすることも多いです。
全く赤の他人となると将来どうなるかわからない、実の子だってどうなるかわからないのです、
また、ジョーのように急に実の親が現れるかもしれないのです。
おそらく、こういう問題は多いのではないかと推測します。
理屈ではない、感情の問題なのでしょう。
ですから、ハースト夫人も気持ちの整理がつかなくて何度も委員会を訴えているのでしょう。
(元夫や娘たちを訴えるわけにはいきませんし、ましてや養子のポール
を訴えるわけにはいきませんから)

ディードとイアンとの戦いはまだまだ継続しています。
ハースト夫人が朝帰りするところをモンティの奥さんが目撃しました。
モンティは同じハイコート判事として関わりを持ちたくないようですが、
モンティの奥さんはこういうどろどろがお好みですから、イアンを焚きつけます。
女の弁護士(ジョーのこと)のときは失敗したが、担当事件の当事者と
寝たのだから、今度こそはディードを破滅に追いやってやると鼻息荒いです。
イアンが直接対決しますが、例によってディードは尻尾を出しません。
マスコミに知れたら大変だと言われても、そちらが言わなきゃマスコミは知らないよ
などと、煙に巻くだけです。
モンティは表向きは関係ない、自分も奥さんも証人にはなれないと言いながら、
負けたハースト夫人に「事実を話せば勝てるよ」と言って説得すれば、証言する
かもねと、知恵を授けます。
例によってイアンの部下のジェームズが説得しますが、
ハースト夫人はディードが話を聞いてくれたことで整理がついており、
勝ち負けはどうでもよくなっています。
そして、養親子関係というのも奇妙なもので、親子関係には違いなく、親子としての
情もあるのです。不満がありながらも、何とかそれに対応しようとする気持ちが実の親子
同然にあるのです。
ハースト夫人はディードのアドバイスをうけ、前に進むことに決めたのです。
娘との関係修復をしながら、ポールも決して見捨てないと決めたのです。

またしても、イアンの画策は失敗しました。

おそらく、イギリス社会が抱えている深刻な問題の反映でしょう。

何が良い悪いと一刀両断的に切れるわけではありません。
人間は感情の動物です。
ただ、都合が悪いからと言って、目をそむけるのではなく、
こういう番組を通して、みんなが考える、その中から、ベターな解決策が
見つかっていくことになるのでしょう。
欠点を抱えたままのディードだからこそ共感を得られるのでしょう。

アランの関係部分を編集したものがインターネットでみつかりました。
ドラマの雰囲気も少しはわかるかもしれません。埋め込みで不可でした。

ここをクリックしてどうぞ


判事ディード法の聖域 Exacting Jastice と日英の法律的考え方

2011年06月21日 | 判事ディード 法の聖域

これはパイロット版です。
BBCでは2001年1月放送です。

「Exacting Jastice」はどう訳すべきかわかりませんが、
具体的な事件での正義というのは本当に判断困難ですが、
このシリースでディードのやろうとしていることです。
「正義とは何か」とでも訳すべきでしょうか。

ディードはまだ刑事弁護人としての考え方から抜けきれていない
ハイコートジャッジです、
一人娘のチャーリーは法学部に入学したところです。
ディードは離婚後シングルファーザーとして、チャーリーを育ててきました。
ディードの勤務地はサセックスなので、チャーリーはサセックス大学を選んだ
ようですが、母親のジョージと母方の祖父のチャニング(Law Lord)は
オックスフォードにしなかったが気に入らないと口もきいてくれないようです。

マイケル・ニヴァン判事は、いつもディードに同情的ですが、
そのニヴァン判事が
「法廷に入るのが待ち遠しいと感じていた時期があった。
法律に従い、物事を正して、結局、ケイオスに終っただけだ。
今朝から始まる事件もいやなものだ。
終身刑になどしたくない。
でも法律ではしかたがない。
それにLCD(ディードがいつも戦っている司法の総合監督部門)がいろいろと
ちょっかいを出してくる」などと愚痴を漏らしています。

イギリスでもこのころから司法改革の流れが現実的なものとなってきました。
制度は勿論のこと、価値観も大きく変わってきました。
これまでの法律では律しきれない事件が多くなってきたのです。
国民感情との乖離が、出世や自己保身にしか関心のない人は別にして
良心的な裁判官には、もはや我慢できないほどになっていたのです。
ただ、自ら声をあげて立ち上がるほどには勇気はないのでしょう。
だからディードのような一匹狼的な切れもの判事は、外はもちろん
内部関係者でも共感を呼ぶものがあったのです。

パイロット版では、時代背景がわかるようになっています。

さて、ニヴァン判事が負担を感じていた刑事事件を結局ディードが担当することに
なったのです(ニヴァン判事、病気で倒れる。心労のためかも)。
すんなりとそうなったわけではありません。
序列からいうとディードの番ですが、LCD(the Lord Chancellor's Department)
は、ディードをコントロールできないことはわかっていますから、
他の軽い事件を割り当てようとしますが、ディードはこういう企みがわかると
絶対に引きさがることはありません。
記録を隠してしまったりしますが、ディードは、記録などなくても構わないと
強引に裁判を初めてしまうのです。

刑事事件の内容
ひき逃げの死亡事件を起こしながら実刑になることなく釈放された加害者を
被害者の女の子の父親が射殺した事件で殺人罪に問われているもの。
被告人の父親に世論は同情的です。
ひき逃げの加害者は白人、被害者は黒人。
人種差別だとして、法廷の外では抗議の座り込みデモ。
LCDは、報復事件の連鎖を防止するために前例として、被告人の父親の
厳罰を求めています。
ニヴァン判事にも巧妙な方法でそういうプレッシャーがあったのです。

イギリスでは、殺人にはマーダー(murder)とマンスローター(manslaughter)
の区別があります。
Murderは殺意あるいは重大な傷害の故意がある場合で、終身刑しかありません。
Murderではなくmanslaughterになる場合として、Provocationという抗弁があり、
殺された被害者にprovocative(挑発的な)な行為があったと認められたときは、
一時的に我を忘れたということで軽い殺人となるのです。
manslaughterの場合の量刑は、極めて広く、身柄拘束なし(non-custodial)の判決
も可能なのです。
問題は、Provocationの成立要件です。
つまり、合理的な人間が、突然に、一時的に自己のコントロールを失い、殺してしまいたい
という強い思い(殺意)を持つほどの行為が殺された者にあったこと、つまりトリガー
ですが、の存在が第一要件なのです。
ところが、この場合は、先の交通事故の判決と本件殺人事件との間に4カ月の
ギャップがあったということです。
娘を殺しながら実刑にもならず軽い刑で済んだ、そういう怒りを持って殺すことはあるかも
しれないが、それにしても4カ月は長すぎるというわけです。

それと、この犯人は真面目な人ですが、娘の事故の後、ショットガンを購入して
いるのです(銃の所持については許可があるので、合法です)。
銃の許可申請は判決の前です。銃の所持の許可がおり、銃を購入したその日に
殺人は起こっています。
殺そうという意図があって銃を所持許可、購入をしたのではないかということも
争点になっています。こうなると、Murderしかないし、極めて悪質となり、
社会の秩序維持の観点からLCDが厳罰を希望するのはもっともとなります。

事態を難しくしているのは、被告人の父が、ショットガンで射殺したことだけを
認め、詳細を話さないことにあるのです。
なお、弁護人はジョーです。
なにがトリガーだったかが、Provocationの主張には必要ですが、
本人が語らない以上、推測するしかないのです。

第三者的にみると、軽い刑で済んだことがトリガーとしか考えられません。
そうすると、4か月もたってわれを忘れるほどの怒りとして爆発するメカニズムの
説明が必要です。
この被告人は、娘が死亡してから人が変わり、仕事はしていますが、
外の世界には全く関心がなくなったのです。
仕事もロボットのように機械的にこなしているだけというのです。
でも、弱いですよね。

ディードは例によってなんとかしたい、できればnon-custodialにしたいと、
検事側、被告人側を説得しようとしますが、検事側は譲歩しないし、
弁護人側も、本人はどうでもいい、生きていても仕方がないと、裁判の行方には
全く関心がないので、そもそも話し合いなどできません。
ディードは被告人に証言させるようにジョーを説得しますが、ジョーもお手上げです。

陪審員の評決はmurderです(10対2)。
LCDの役人も法廷に詰め掛けています。
ディードは、被告人は何か言いたいことがあるはずとの考えでした。
そこで、判決を言い渡す前に(終身刑しかないのですが)
何か話したいことはないかと問いかけます。

クライマックスです。
被告人が立ち上がり、話し始めます。
彼もシングルファーザーでした。妻を亡くした時、まだ小さい4歳のモナを
福祉局の職員は父親一人で育てるのは無理だとして、里親に出そうとした、
でも自分たち二人でやっていけるということで、いろいろ抵抗して
そうなった。
そして二人で頑張ってきた。
だから、娘が死んだ後はうちに帰るのも怖い。モナの思い出の品ばかりで
思い出すのが怖い。だから、帰ったことはないというのです。
いつかは死んだお母さんの故郷のジャマイカに
帰ろうと預金を始めた。お金が残れば全部郵便局に預金した。
264ポンドたまった。でもまだ40ポンド不足している。
目標額になる前に死んでしまった。
そして、運命の日です。
モナを引き殺した本人が同じローリーで、何事もなかったかのように
運転しているのを見たのです。
ショックのあまり路上に座り込んで泣き崩れてしまったというのです。
そして、何としてもモナが殺されるのをやめさせなければいけないと思って
ガンを発射したというのです。
「モナが殺させるのをストップしたかった」というのです。

彼の中ではまだモが生きているのです。

陪審員席がざわざわします。無罪だ、間違っていたなどです。

ディードはこういう雰囲気を読むのがうまいのです。
そして恐れず行動するのです。

ディードは「ひょっとして今の話を聞いて何かいいたいことありますか」
陪審長「私たち間違っていました。変えてもいいですか」
検察側は反対の意見を、例によって判例を取り上げて、述べようとしますが、
ディードは強引に抑え込み、
間違っているかどうか確かめるだけだ、とかなんとか言って、
書記官にもう一度評決をとるよう命令します(本当に命令です。
というのはこの書記官はLCDの手先・スパイなんです。
逐一、ディードの行動を報告しているのです。)

なんということでしょう。
無罪の評決です。
ディードもここまでは考えていませんでした。manslaughterとの考えでした。
念を押しますが、not guiltyです。
つまり、陪審員は一時的なものではなく、ずっと正気をなくしていたとの
判断だったのです。

間違いは正せるとの先例はあるのですが、いったん出された評決を変えるという
先例はないようです。
検事側は「評決が出た後、被告人の話を聞いて、変えた」のであり、先例に該当しない
という意見です(多分これが正しいでしょう)が、
ディードは誰にでも間違いはある、間違いと認めて、無罪を受け入れます。
世間では大好評で受け入れられます。

手続き的には問題かもしれませんが、ディードの判断基準は、正義ですから、
真実が一番重要なわけです。

このドラマは常時、600~700万視聴者がいました(人口数を考えると
日本では1200~1400万人が見ていたことになります)。
イギリスでも杓子定規でない、人間味のある裁判を、多くの人が求めている
ことの表れと思います。

私たちももう一度、正義とは何かを、改めて真剣に考えなければならない
時期だと思います。

なお、一連の司法改革の一環として、Provocationという抗弁事由は、
2009年法律改正により廃止されました。
「loss of control」というより概括的な概念に置きかえられました。
イギリスは判例法の国ですから、こういう展開しかなかったのでしょうが、
今では、判例法の国でも制定法が重要な役割を担うようになっています。

外国の事例をみると、スタート地点は違っても、目指すところは同じ(類似)
になるようです。
グローバル化してくると、求めるもの、求められるものがどこに住んでも
似通ってくるのは、当たり前なのでしょう。

パイロット版でも、ディードに対する嫌がらせはありますが、
これはまたの機会にします。