随分前に、美容業を経営していた依頼者がいましした。
みずからは美容師ではありません。
経営だけです。念のため男性です。
弁護士と依頼者ですが、最初のころは依頼を受けた事柄に関する
打合せが中心です。
しかし、事件が進行するにつれ、特に裁判になったりすると
依頼者とともに出頭することが多くなります。
裁判所というのは、しばしば待たされるものです。
前の事件が長引くなど日常的なことです。
というわけで、時間つぶしというのも変ですが、
待ち時間には事件とは関係のない雑談をすることになるのです。
そういうときに、「卵型になるように髪形を整えてあげていたんですよ、
それが評判で随分繁盛していたんですよ」という話をしてくれました。
確かに美人に見えます。
きれいに見えるように髪形を整えるというのは美容院なら当然ではないかと、
当たり前のことをどうしてと、その時は思いました。
でも、実際には、こういうやり方をしている美容院は少ないと思います。
大抵の美容院は、その人の頭の形通りに仕上げるのです。
頭の恰好がいい人の場合はそれでもいいでしょうが、
私などは、天辺がペタンコ、後頭部もペタンコですので、
いくらセットがきれいにできても、カッコ良くはないのです。
もちろん、注文は付けるのですが、天辺だけ、後頭部だけ
をふっくらとはしてくれないのです。
全体的にふっくらとさせるだけなんです。
ということで、私はあまり美容院にはいきません。
(どうでもいいことですが)
良く考えてみれば、弁護士の仕事も同じです。
依頼者の言うことを良く聞くけれど、それだけという人は多いです。
そして依頼者のいうままに、ただ裁判所に伝えるだけ・・・
でも、弁護士の仕事は、依頼者の話を聞いて弱いところ、
強いところを見抜くこと、
そして、理想型と比べて、できるだけ理想型に近づくよう、足りないところ
を補充できないかなどを事実を見ながら考えることです。
つまり、到達点にからみて足りないところをどうするかということです。
到達点について明確な意識を持つと足りないものは何かも
はっきりと把握できるのです。
足りないものが何かがわかれば、それをどうするか、何か方法は
あるのかが考えられます。
明確な到達点がないと、何が不足しているのかすら、思いいたる
ことはないのです。
プロの仕事というのは、美容師であれ、弁護士であれ同じだと思います。
アップルのスティーブ・ジョブズのアイパッドやアイフォンが世界の
人たちの心を捉えたのも、作りたいものについて明確な意識があった
からだと思います。