前回に引き続いて。
なぜ、ヘッジファンドダイレクトは、アブラハムプライベートバンク時代の、投資助言契約を
締結していないことを知りながら、投資助言料請求訴訟を起したのでしょうか?
考えてみたいと思う。
1 追い詰められている。
2 嘘が通用することをしり、味をしめ、金融庁や裁判所などを甘くみている。
3 いずれにしても順法精神のかけらもない。
などの理由が考えられる。
消費者、健全な金融制度にとって深刻なのは2である。
金融庁の行政処分の主たる理由は無登録で海外ファンドの販売等をしたことであった。
なぜ、それが問題なのか?
金融商品取引法は、投資者保護の観点から、金融業者の行う内容によって、登録要件を
定め、かつ、それぞれの業務の内容に応じた財産的基礎や行為規制を整備しており、
販売業者には、単なる投資助言業者とは異なり、より、厳しい要件を課しているからである。
ところで、証券取引等監査委員会の「最近の証券検査における指摘事項に係る留意点」
(平成22年4月~平成28年3月公表分)によると、
他の投資助言・代理業者の処分事例については、判で押したように
「今後も、本件と同様の状況が認められた場合には、厳正に対処していく」とのコメントであるが、
アブラハムプライベートバンクについてだけは
「ファンドの募集又は私募の取扱いを行っているにもかかわらず、第一種金商業者又は
第二種金商業者であれば、法令上行わなければならない説明義務を果たしていない等、
投資者保護上の問題を生ぜしめており、登録制度の根幹を揺るがす悪質な問題である。」
と極めて厳しい説明がなされている。
アブラハムプライベートバンクの審査期間は1年以上を要したという。
公表の正式の処分理由には説明義務云々はない。
ということは、公表されない説明義務違反等の制度の根幹を揺るがすような、
投資者保護に反する大問題があったものと推測される。
当時はアブラハムプライベートバンクを信頼していたが、今思えば審査期間中の平成25年に
移管問題があった。
移管というのは、例えば、A株式を甲社から乙社に移すということだが(中味は同じ)、
どうもそうでないようで、当時どうしても納得できないことであった。
ヘッジファンドダイレクトは、いわゆる移管を投資助言だと、訴訟では主張したが、
投資助言でないことはもとより、やはり、そもそも「移管」ではなかったらしい。
本訴になって、当時の資料を調べると、
いわゆるアンブレラ型ファンドで、一定の要件があるとサブ・ファンドへのスイッチ
をすることになっているもののようだ。
しかも、その一定の要件発生までの間、アブラハムプライベートバンクは購入者には
説明もせず、自ら運用できるサブ・ファンドを購入させていたものではないかと思われた。
実際は、買換えであって移管ではなかったのである。
自己の違法行為をごまかすために翻訳する時に意識的に誤訳したのである。
だから、訴訟でもまともな説明はしないし、できない。
つまり、移管というのは、購入者が本来購入したと思ったサブ・ファンドへの買い換え
だったというものではないかと思われる。
実害はなかったのかもしれないが、いや、アブラハムプライベートバンクに手数料を儲けさせた
分、収益減だったのかもしれない。
なお、判決は、言葉のとおり「移管」と解釈し、いずれにしても「投資助言」ではなく、
販売・購入に関するものと判断した。
ひとつ嘘をつくと、果てしなく続くものである。
金融庁は見て見ぬふりをした?
また、少額訴訟では、簡裁の支払督促という簡便な方法が使える。
申立てには証拠すら必要がなく、認められる。
勿論、督促異議の申立てをすると、訴訟に移行するが、簡裁では、争っても
当然のように和解手続きをすることが多い。
大抵は、裁判所の言うことだからと和解にするはずである。
アブラハムプライベートバンク、ヘッジファンドダイレクトが裁判に持ち込む狙いである。
架空請求はそういう意味でおいしかったのであろう。
本判決までは・・
本判決も簡単だったのではない。
絶望的になるほど大変だったのだ。
担当者の陳述の書面はもとより証人申請もしないのであるが(通常はするが、
アブラハムプライベートバンクの場合は真っ赤なうそなのでできないのであろう)、
それでも裁判所の判断は予測がつかなかった。
証人席に座ったのは社長の実弟の取締役だが、その証人尋問で、つぎのように質問した。
というのは、投資助言料は投資完了後、つまり、購入代金の期限内払込手続きを完了後
発生するということだったので。
問「購入の申込はした。でも、予定していた入金がなかった、用意していた資金を使ってしまった、
あるいは、気が変わってしまった、などなどで、兎に角、期限内に払込をしなかった。
当然、ファンドの購入はできないですよね。」
答「はい」
問「その場合は、投資は完了していないわけですが、投資助言料は発生しますか」
答「発生しません」
その瞬間、裁判官の「ウオー」という声が聞こえた。
この瞬間、勝ったと確信した。
こういう決定打が出ると、裁判所も安心して判断ができるのである。
仮に、アブラハムプライベートバンクの「投資先の商品の紹介購入手続き等」の助言をした
との主張が真実ならば、遅くとも「申込み時」には助言済みとなるはずであるから、購入者の
勝手な事情で払込をせず、そのために購入完了しなかったとしても、
アブラハムプライベートバンク流にいうと、折角の助言に従わなかったというだけ。
販売の場合、買い手が購入しなければ、販売手数料は発生しないのとは異なり、
「投資商品の紹介、購入手続など」が助言ならば、助言をした以上、
投資助言料が発生しないというのは理屈上あり得ないからである。
今回の判決は、架空請求・訴訟詐欺(未遂に終わったわけであるが)
アブラハムプライベートバンク、ヘッジファンドダイレクトの訴訟提起自体を違法としたもので、
金融庁の証券取引監視委員会がコメントで登録制度の根幹を揺るがす悪質な問題であることを
裁判所も別の側面から認めたということである。
それは、「法令上の」投資助言をしていないにもかかわらず、投資助言業者のしたことは
何でも「投資助言」であると身勝手・自己都合の解釈をし、
よって「投資助言料」を請求するとでもいうもので、
そういう意味で登録制度の根幹を揺るがすという趣旨である。
つまり、アブラハムプライベートバンク、ヘッジファンドダイレクトは、
無登録販売をして販売手数料をとり、無登録販売を投資助言と称し、登録投資助言者だから
投資助言料をとるという重複請求というわけである。
訴訟を通してわかったことである。
判決には、深ーい意味があるのである。
いやいや、アブラハムプライベートバンク、ヘッジファンドダイレクトの使う
契約の内容を知ると、実際は、もっと底なしの可能性がある。
投資完了後の「完了後」にはもっと深いわけがあるのである。
取り敢えず、今日はここまで。