アラバマ物語のDVDが届いたので、早速見てみました。
まず白黒なのに驚きですが、むしろそのために1930年代にすんなりとタイムスリップ
出来ました。
ナレーター(スカウト)の成長小説であると同時にナレーターの父(アティカス・フィンチ)
・弁護士の法廷小説でもあるという二面性があるようです。
(なお、ストーリーについてはネットを見てください。)
アティカスは人種差別を戦ったヒーロー弁護士とされてきたようですが、映画をみるかぎり
必ずしもそうだとは言い切れないと思います。
ただ優秀な弁護士であり、人格者であり、ある種頑固者でもあるようです。
ですから、判事から白人女性に対する暴行事件の黒人容疑者の弁護を依頼されたときにアティカス
は断ることもできたでしょうが、引き受けたのです。当然、中傷があることを承知したうえです。
誰かが引き受けるしかないわけですから。
弁護活動のうえ、黒人差別を指摘したのは、それが事実だったからであり、弁護活動のために
必要不可欠だったからです。
人種差別と戦うことが目的だったとまでは言えないと思います。
ただこの作品が発表された1960年、映画が製作された1962年ころは、アラバマでは
モンゴメリー・バス・ボイコット事件が起こるなど人種隔離政策に抗議する運動が、
全国的にも1963年にはキング牧師の「I have a dearm」演説がなされるなど公民権運動
が最高潮に達していた時代でした。
このような時代背景の下、アティカスはヒーロー(人種差別と闘う)になったのだと思います。
人種隔離政策が廃止され、法律上はとっくに人種差別はなくなったはずですが、実際には、
現在も差別は残っているのです。そのことは、黒人に対する警察官による射殺事件の頻発に
よってもわかります。
差別感覚というのは微妙で理屈だけでは解決できるものではないのだと思います。
したがって、ハーパー・リーの続編でアティカスが人種差別的であったとしても驚くことでは
ないのかもしれません。
(無実の依頼者のために、自己の主義主張を棚上げにすることができるというのも評価に
値するともいえますが。あるいはその程度の主義主張は取るに足りないのではともいえる。
実務家としては優秀と認められかもしれませんが。いずれの場合もヒーローにはなれないですよね。)
ハーパー・リーが半世紀も沈黙を守ってきたのは、読者たちを失望させたくないと
いう思いだったかもしれない。
さし当りの感想です。