音の聞こえてくる漫画がある。
実際には聞こえてはないんだが、読んでると頭の中に音のイメージが溢れてくる。
さそうあきらの漫画「マエストロ」を読んで久々にそう思った。
音楽を題材にした漫画は数多くあるけれど、音が聞こえてくる漫画は少ない。
上條淳士の「TO-Y」やハロルド作石の「BECK」などくらいか。
だけどこれをアニメや実写で映像化されるといっつもがっかりする。
TO-Yは主題歌だけよかった。ロックのアニメは難しいよね。浅田有皆のウッドストックなんかアニメ化は無理だろうな。しないでほしい。
BECKの実写映画版での桐谷のラップはまだ許容範囲だったが、佐藤健が歌うシーンは音が無かって笑えた。仕方がないんだけどね(漫画を読んでる人には理由がわかる)。
矢沢あいの「NANA」もダメだった。実写映画版での宮崎あおいの演技が上手すぎてびっくりしたが、バンドの音がダメ。特に中島美嘉の歌がダメ。アニメ版での土屋アンナの声や音はまだよかったんだがね。でも演奏(音)と画像が合ってない。
たぶん、頭の中でのイメージと実際に流れる音楽が違うんだろうね。そのギャップの修正ができないからかもしれない。
漫画で描かれる天才的テクニックを持つ奴の演奏も、実写となると難しい。だいたいよほどすごい演奏させないと見てる人にはわからない。漫画の中でプロデューサーが「荒削りだが心に響く」とか「なんて壮大なスケールの演奏だ」なんて言っても、実写ではそれを表現でききれない。
唯一、二ノ宮知子の「のだめカンタービレ」だけだ。漫画もアニメも実写版も良かったのは。
クラシック音楽なら漫画でも音のイメージがわかりやすい。あぁここの小節ねとか、このフレーズの事だねとか。それでも今までのクラシック音楽やオーケストラを題材にした漫画は、そこを丁寧に描きすぎて一般人にはわからなかったり、恋愛とか人間ドラマをからめすぎて、音が聞こえてくるような漫画さえなかった。
野田メカンターニレは音の聞こえてくる漫画だった。楽器や曲、音へのこだわり、難しさを描いているんだが、随所にギャグを挟み堅苦しくなく読める。なんといっても演奏シーンでは音が聞こえてくる。
これをアニメや実写版でもちゃんと描けれてた。上野樹里の演技も特筆だったが、いろんな演奏シーンの演出や音楽もかなりこだわってた。玉木宏や竹中直人の指揮も、上野樹里のピアノや瑛太や水川あさみのバイオリンなどの演奏シーンもよかった。スイングガールズのように楽しむオーケストラ、そして流れる曲が見事に映像とマッチしてた。原作イメージをここまで再現できた制作スタッフに脱帽。
今後しばらくは、あれ以上のクラシックを題材にした漫画の名作は出ないと思っていた。いたが、ごめん。あった。
マエストロ。漫画も知ってたし、映画化された話も知ってたが、原作のコミックスをなかなか読む機会がなかった。
さそうあきらの漫画って、いっつもちょっと物悲しいし、独特の絵だし、ちょっと苦手。のだめカンタービレのように楽器などを丁寧に描くことは絶対しない人だし。
でも、今回漫画を読む機会ができたので1、2、3巻続けて一気読み。
驚くくらい音が溢れてくる。
作中で使われてる曲はたったの二曲。ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」とシューベルトの第8番「未完成」。
世界で一番有名なフレーズと言って過言じゃないあの出だしの「ジャジャジャジャーン」が鳴り響く。そして続く繰り返される旋律と息が止まるようなブレイク。
漫画を読むうちはあえてこの2曲をBGMで聞かないようにした。iPodの中には二曲とも入ってる。でも頭の中に聞こえてくる音だけで充分。
読み終わってから聴いたが、サブイボが出そうになった。この曲はこんなにすごい曲だったんだと。
ストーリーは簡単に書くと
若きヴァイオリニスト香坂。亡くなったお父さんの音を未だに追い求めてる。そんなある日、彼がコンマスを務めてたオーケストラ再結成の話が舞い込む。
集まったメンバーは再就職がまだ決まっていないか、どこも使ってくれそうにない奴ばかり。しかも集めた張本人の指揮者は無名の怪しいジジイ。
この指揮者が音へのこだわり、演奏をメンバーにガンガン遠慮なしに求め、ぶつけてくる。戸惑い、反発するメンバー。
ここまで読むと「あぁよくある再出発の話ね」とか「最初はいがみ合ってたけどある日まとまって」とかだろうなって思うじゃない。
半分は当たってるが半分ハズレ。
音に真摯に向き合ってみる。破滅と絶望の裏側に、快感と甘美な世界がある。そこに踏み込む勇気があるか。
ネタバレになるからこれ以上は書かない。ぜひ読んでくれ。
漫画があまりにも良かったので続けてDVDを借りに行く。
あの漫画の世界をどれだけ実写化できるというのだ。
松坂桃李はともかく、miwaがフルート?しかも映画初出演。西田敏行の指揮はどうなんだろう、そつなくこなすのかな。
なんて思ってたら、期待以上。西田敏行の演技はすごい。シャブやってると勘違いされるのわかるわ。
漫画で描かれてたオーケストラメンバーの過去や伏線など、ストーリー部分は映画では描ききれてなかったが、演奏シーンは圧巻。
いや、音がすごい。
漫画で描かれてた音が、画面で、サラウンドスピーカーから流れ出てくる。
特に圧巻は本番のオーケストラ演奏シーン。今まで見た映画の中で一番圧巻の音。見事なり。
そしてラストの演奏シーンでの張り詰めた糸のような緊張感。
誰だ音楽監督は。
なんだ佐渡裕さんじゃないか。さすがだなぁ。ケチのつけようが無い演奏はベルリンフィルだと。そりゃ素人の俺が文句つけようが無いのは当たり前か。
映画は漫画の世界を100%表現できたかというとちょっと不満が残るが、原作漫画を読んで無い人がこの映画だけを観たら文句無いのでは無いかな。
映画で不満だったのは漫画で描かれてた細かなキャラクター描写のところだけだもの。
松坂桃李のお父さんへの思い。父と母と西田敏行とその奥さんとの関係。miwaの阪神大震災被災で両親亡くした過去。オーボエ奏者のリードへのこだわりはもう少し映画でも描いて欲しかったなぁ。管楽器のメンテナンスシーンもあっさり。ホルンの修理を暴走族単車の改造マフラーを作ってる職人オヤジがするところなんかもね。どんどんネタバレしてしまうからこの辺でやめておこう。
ブラスバンドをテーマにしたドラマ、「仰げば尊し」は練習中の音がまるでダメ。素人同然の学生が全国大会を目指すって内容だったからそのうちまとまるのかと思ってたら、いつまで経ってもダメなママ。予選や県大会での演奏シーンはまだマシだったが、なんかスタジオの録音音源を充てたって音で、ホール音っぽく無いの。だから臨場感がなくて違和感があった。
このマエストロはその点は万全。徐々にまとまってくる音、指揮者の思惑が見事にハマったときの音、そして公演の圧巻の音。この演奏シーンを観るだけ、音楽を聴くだけでも価値があるよ。
サントラ盤が出てるかと思ったけど、ちょっと見つけられなかった。残念。
その代わり、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」とシューベルトの第8番「未完成」が両方収録されてるアルバムを見つけた。
1968年、まだ30代前半の小澤征爾
巨匠指揮者ワルターの最晩年に録音盤/ニューヨーク・フィル 未完成/コロンビア響 運命
指揮マゼールロリン、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
しばらくクラシック音楽にはまりそうだ。
実際には聞こえてはないんだが、読んでると頭の中に音のイメージが溢れてくる。
さそうあきらの漫画「マエストロ」を読んで久々にそう思った。
音楽を題材にした漫画は数多くあるけれど、音が聞こえてくる漫画は少ない。
上條淳士の「TO-Y」やハロルド作石の「BECK」などくらいか。
だけどこれをアニメや実写で映像化されるといっつもがっかりする。
TO-Yは主題歌だけよかった。ロックのアニメは難しいよね。浅田有皆のウッドストックなんかアニメ化は無理だろうな。しないでほしい。
BECKの実写映画版での桐谷のラップはまだ許容範囲だったが、佐藤健が歌うシーンは音が無かって笑えた。仕方がないんだけどね(漫画を読んでる人には理由がわかる)。
矢沢あいの「NANA」もダメだった。実写映画版での宮崎あおいの演技が上手すぎてびっくりしたが、バンドの音がダメ。特に中島美嘉の歌がダメ。アニメ版での土屋アンナの声や音はまだよかったんだがね。でも演奏(音)と画像が合ってない。
たぶん、頭の中でのイメージと実際に流れる音楽が違うんだろうね。そのギャップの修正ができないからかもしれない。
漫画で描かれる天才的テクニックを持つ奴の演奏も、実写となると難しい。だいたいよほどすごい演奏させないと見てる人にはわからない。漫画の中でプロデューサーが「荒削りだが心に響く」とか「なんて壮大なスケールの演奏だ」なんて言っても、実写ではそれを表現でききれない。
唯一、二ノ宮知子の「のだめカンタービレ」だけだ。漫画もアニメも実写版も良かったのは。
クラシック音楽なら漫画でも音のイメージがわかりやすい。あぁここの小節ねとか、このフレーズの事だねとか。それでも今までのクラシック音楽やオーケストラを題材にした漫画は、そこを丁寧に描きすぎて一般人にはわからなかったり、恋愛とか人間ドラマをからめすぎて、音が聞こえてくるような漫画さえなかった。
野田メカンターニレは音の聞こえてくる漫画だった。楽器や曲、音へのこだわり、難しさを描いているんだが、随所にギャグを挟み堅苦しくなく読める。なんといっても演奏シーンでは音が聞こえてくる。
これをアニメや実写版でもちゃんと描けれてた。上野樹里の演技も特筆だったが、いろんな演奏シーンの演出や音楽もかなりこだわってた。玉木宏や竹中直人の指揮も、上野樹里のピアノや瑛太や水川あさみのバイオリンなどの演奏シーンもよかった。スイングガールズのように楽しむオーケストラ、そして流れる曲が見事に映像とマッチしてた。原作イメージをここまで再現できた制作スタッフに脱帽。
今後しばらくは、あれ以上のクラシックを題材にした漫画の名作は出ないと思っていた。いたが、ごめん。あった。
マエストロ。漫画も知ってたし、映画化された話も知ってたが、原作のコミックスをなかなか読む機会がなかった。
さそうあきらの漫画って、いっつもちょっと物悲しいし、独特の絵だし、ちょっと苦手。のだめカンタービレのように楽器などを丁寧に描くことは絶対しない人だし。
でも、今回漫画を読む機会ができたので1、2、3巻続けて一気読み。
驚くくらい音が溢れてくる。
作中で使われてる曲はたったの二曲。ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」とシューベルトの第8番「未完成」。
世界で一番有名なフレーズと言って過言じゃないあの出だしの「ジャジャジャジャーン」が鳴り響く。そして続く繰り返される旋律と息が止まるようなブレイク。
漫画を読むうちはあえてこの2曲をBGMで聞かないようにした。iPodの中には二曲とも入ってる。でも頭の中に聞こえてくる音だけで充分。
読み終わってから聴いたが、サブイボが出そうになった。この曲はこんなにすごい曲だったんだと。
ストーリーは簡単に書くと
若きヴァイオリニスト香坂。亡くなったお父さんの音を未だに追い求めてる。そんなある日、彼がコンマスを務めてたオーケストラ再結成の話が舞い込む。
集まったメンバーは再就職がまだ決まっていないか、どこも使ってくれそうにない奴ばかり。しかも集めた張本人の指揮者は無名の怪しいジジイ。
この指揮者が音へのこだわり、演奏をメンバーにガンガン遠慮なしに求め、ぶつけてくる。戸惑い、反発するメンバー。
ここまで読むと「あぁよくある再出発の話ね」とか「最初はいがみ合ってたけどある日まとまって」とかだろうなって思うじゃない。
半分は当たってるが半分ハズレ。
音に真摯に向き合ってみる。破滅と絶望の裏側に、快感と甘美な世界がある。そこに踏み込む勇気があるか。
ネタバレになるからこれ以上は書かない。ぜひ読んでくれ。
漫画があまりにも良かったので続けてDVDを借りに行く。
あの漫画の世界をどれだけ実写化できるというのだ。
松坂桃李はともかく、miwaがフルート?しかも映画初出演。西田敏行の指揮はどうなんだろう、そつなくこなすのかな。
なんて思ってたら、期待以上。西田敏行の演技はすごい。シャブやってると勘違いされるのわかるわ。
漫画で描かれてたオーケストラメンバーの過去や伏線など、ストーリー部分は映画では描ききれてなかったが、演奏シーンは圧巻。
いや、音がすごい。
漫画で描かれてた音が、画面で、サラウンドスピーカーから流れ出てくる。
特に圧巻は本番のオーケストラ演奏シーン。今まで見た映画の中で一番圧巻の音。見事なり。
そしてラストの演奏シーンでの張り詰めた糸のような緊張感。
誰だ音楽監督は。
なんだ佐渡裕さんじゃないか。さすがだなぁ。ケチのつけようが無い演奏はベルリンフィルだと。そりゃ素人の俺が文句つけようが無いのは当たり前か。
映画は漫画の世界を100%表現できたかというとちょっと不満が残るが、原作漫画を読んで無い人がこの映画だけを観たら文句無いのでは無いかな。
映画で不満だったのは漫画で描かれてた細かなキャラクター描写のところだけだもの。
松坂桃李のお父さんへの思い。父と母と西田敏行とその奥さんとの関係。miwaの阪神大震災被災で両親亡くした過去。オーボエ奏者のリードへのこだわりはもう少し映画でも描いて欲しかったなぁ。管楽器のメンテナンスシーンもあっさり。ホルンの修理を暴走族単車の改造マフラーを作ってる職人オヤジがするところなんかもね。どんどんネタバレしてしまうからこの辺でやめておこう。
ブラスバンドをテーマにしたドラマ、「仰げば尊し」は練習中の音がまるでダメ。素人同然の学生が全国大会を目指すって内容だったからそのうちまとまるのかと思ってたら、いつまで経ってもダメなママ。予選や県大会での演奏シーンはまだマシだったが、なんかスタジオの録音音源を充てたって音で、ホール音っぽく無いの。だから臨場感がなくて違和感があった。
このマエストロはその点は万全。徐々にまとまってくる音、指揮者の思惑が見事にハマったときの音、そして公演の圧巻の音。この演奏シーンを観るだけ、音楽を聴くだけでも価値があるよ。
サントラ盤が出てるかと思ったけど、ちょっと見つけられなかった。残念。
その代わり、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」とシューベルトの第8番「未完成」が両方収録されてるアルバムを見つけた。
1968年、まだ30代前半の小澤征爾
巨匠指揮者ワルターの最晩年に録音盤/ニューヨーク・フィル 未完成/コロンビア響 運命
指揮マゼールロリン、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
しばらくクラシック音楽にはまりそうだ。