猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

猫と老夫婦、新型コロナ騒ぎのなかの老人介護施設の崩壊

2020-04-19 20:22:36 | 新型コロナウイルス
 
妻と話をしていて、猫がかわいいのは小さいからだとなった。猫は、持ち上げて頬ずりができる。
 
村上春樹は『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文春新書)で次のように言っている。
 
〈要するに猫というのはわれわれ人間より弱い者であって、イノセントであって、だからそういうものをいじめているやつがいると、感情的にアプセット(動揺)するし、かわいそうだと。それに比べると、人間というのは自分に脅威を与えかねないものであって、そういうものが殺されることに関しては、とくに同情はしないということなのかな。〉
 
村上春樹は、物語の語り手としてうまいが、いつも変な理屈を言い、私に不快な思いを残す。
 
彼が猫を「イノセント」というのは意味不明だが、弱いものをいじめるのを見てかわいそうだと思うのは、それはそれでいいことではないか。
 
外猫は人間を見ておびえる。特に、子どもを見ておびえる。子どもたちの中には、自分が強いことを仲間に見せつけるために、わざわざ、小動物をいたみつけて殺す子どもを、私は見てきた。
 
ところで、弱いのは、別に小動物や人間の子どもだけでない。老人も弱い生き物だ。
 
アメリカでの新型コロナ感染流行で、ニュージャージー州の介護施設が崩壊していると報道された。老人介護施設の4人用の野外の遺体安置所に17人の遺体が積み上げられているとの、匿名の通報が町の役所にあったという。老人介護施設での虐待は日本でもあり、珍しいことではない。
 
このアメリカでの件で注目することは、遺体を17人積み上げて放置することはいけないことだと思う人がいたことである。だから、その人は通報したのである。そして、州知事も、これは人間の尊厳を傷つけることだと介護施設を非難したという。
 
老人の介護施設や知的障害者の介護施設の職員、経営者に、弱いものをいじめるのはいけないことだ、という気持ちがなければ、新型コロナの流行がなくても、モラルが崩壊してしまう。
 
津久井やまゆり園殺傷事件の被告が、施設につとめ始めたとき、重度障害者をかわいいと思ったと裁判で証言している。これは、言葉どおりにとってはいけない。もしかしたら、自分より弱いものを、自分の一存で殺すことができると思ったのかもしれない。
 
「弱いものをいじめるな」は、社会的倫理規範が、義務として個人の心に内在化したものかもしれない。それは、それでいいのだ。
 
介護施設は県立といってもどこかに委託しており、結局、営利団体が経営することになる。そして、介護施設の職員の多くは、ボランティアではなく、職業として、生活費を稼ぐために働くことになる。だから、「かわいい」という発言は、要注意である。
 
老人の一人として率直に言うが、老人は汚らしいのである。私も頻尿で妻に臭いと言われている。老人夫婦が仲良く暮らせるのは歴史を共有しているからだ。現在の姿に過去の記憶をかぶせて相手を見ているからだ。それに、年をとると人間として見てくれる人が まわりから だんだん少なくなるから、ふたりの仲間意識が強くなる。
 
歴史を共有していない人を「他人」という。施設の利用者は、施設の職員からみると、他人という関係から始まる。職員ひとりが多数の利用者を担当すれば、他人から「仲間」へと人間関係を変えることが難しい。
 
人間だけでない。猫も年を取ると引き取り手がなくなる。賃貸の別棟に80歳の老人がいて、連れ添いが死んだとき、猫の飼えないところに引っ越すことになった。8歳の猫の引き取り手を探しているというので、それまで付き合いがなかった私が引き取った。(じつは私のところも猫や犬を飼うことが禁じられている。)
 
猫は、年をとっていると、獲物をめがけてとびかかるという遊びができなくなる。猫じらしに興味を覚えないのだ。また、毛並みが汚くなる。毛が長い猫だったので、毛が汚れで固まってしまう。いつも、毛をすいてやる必要があった。3年後に病気で死んだが、老猫は人に甘えるので、じつは、本当にかわいいのである。死ぬときは、人の膝にしがみつき、抱かれて、すさまじい鳴き声を1つあげて、呼吸を永遠に止めたのだ。
 
しかし、歴史を共有していない老人をかわいいと思って介護できるかどうか、難しいことだ。職員にそれを強要できないと思う。猫ほどは人間は小さくない。強要できることは、「弱いものをいじめるな」という倫理規範までであろう。
 
[追記]
4月18日の朝日新聞によると、オランダで、新型コロナウイルスに感染した高齢者に対する救命措置をめぐる議論が続いているという。一部の高齢者が、かかりつけ医から、感染時 治療をしないと通告されたことがきっかけだという。
4月18日現在、オランダは国民の0.18%がPCR検査で陽性だと判定されており、感染者の11%が死んでいる。どうも、老人は邪魔もので、死ねという社会のようだ。
8月8日現在、オランダは国民の0.33%がPCR検査で陽性だと判定されており、感染者の11%が死んでいる。
 
[追記]
4月23日の朝日新聞によると、老人介護施設の介護崩壊はアメリカだけでなく、フランスでも起きているという。