4月7日の安倍晋三の緊急事態宣言にともなう会見、国民への談話は、とてもよく練られており、素晴らしいものだった。ただ、はじめの医療従事者への感謝、終わりの終息の希望の部分はもう少し短縮したほうが、より良かったと思う。とくに、安倍固有の情緒的はじめの部分は短くしないと、頭の空っぽな若者はその部分で退屈して、話しを聞かないだろう。
会見で安倍の言っていることは、精神論である。本来、日本国民の象徴たる天皇がこのことを端的に話すべきであり、行政機関の長たる首相は、科学的な事実にもとづいて、新型コロナ感染症「対策」を理知的に説明すべきである。精神論なら、心構えの要請なら、緊急事態宣言をしなくてもよく、安倍はもっと早く談話を出すべきだった。
(これは、隠れている令和天皇を非難しているのですよ。皇居で天皇家の先祖の神々に朝に夕に祈りをささげているのに、新型コロナにおびえる国民の心をいやすことができないで、どうする。役立たずの象徴天皇は不要である。)
今回の会見で情緒的に話す安倍に、本当に状況をどれだけ把握しているのか、私は不安を感じてしまう。自分のやろうとしていることの政治的な意味は理解しているが、科学的な裏付けには無頓着である。
ヒトとヒトの接触を8割へらすとは、どのようなことなのかの説明がない。安倍自身が説明しなくても、厚労省クラスター班の西浦博を引っ張り出して、彼に具体的に説明させるべきである。
疫学者の西浦博は、単に、各自治体の保健所が厚労省の報告する患者数を、統計的モデルに当てはめて解釈しているだけである。入力の感染者数の信頼性も吟味していない。統計学に関わってきた者からみれば、疫学者の統計は子どもだましにすぎない。じっさい、ヒトとヒトの接触に対応するモデル・パラメータを8割小さくすると、感染数の増加が2週間後にピークが来て、減少するといっているだけだ。
私も、コンサル業に興味をもって、人間の行動に数値モデルを当てはめることをやったことがある。しかし、これは自然法則による予測と異なって、単にモデルの世界における架空の物語である。コンサル業では、これをシナリオという。素人の経営者に決断を促すため、コンサルタントは、いろいろな施策にもとづいたシナリオを話す。予測ではない。
1ヵ月すぎても、増加数のピークが見つからず、結果論で8割に接触を減らすことができなかったと、政府は言うのだろう。
しかし、そのほうが、まだましだ。もし、増加数のピークが見えると、それで、感染が抑えられたと国民が誤解する可能性がある。これは最悪のシナリオである。
いままで、厚労省新型コロナ対策課は、ちゃんとPCR検査を進めてこなかった。これは、今回だけでなく、2009年のときの新型インフルエンザ流行のときもそうだった。いまだに、新型インフルエンザの感染者の精確な数は分かっていない。(「精確な」とは科学用語“accurate”であって、どの程度 信頼できるかが わかっている数をいう。)
PCR検査が行われないことに国民が不満をもち、いま、医師の判断によるPCR検査が増加し始めている。すると報告される感染者数が急激に増え始める。これはいずれの国でも見られる現象である。これは、いままで見過ごされていた感染者が数えられるようになり、その分の増加が加っているだけである。PCR検査をするか否かの基準が安定すると、本当の増加数になり、一時的に増加数が減少する。
疫学者の西浦がたぶん気楽な気持ちでシナリオを話ししたら、政治家の安倍がそれに飛びついたのが真相であろう。阿呆と阿呆とが反応したのだ。
ヒトとヒトとの接触を8割に減らすとはなにか、誰も具体的にわかっていない。計測できない数値なのだ。そんなことを、要請するとは、到達できない目標を国民に押し付けたことになる。
このいい加減さは、テレワークとか時差通勤とかで公共交通機関の混雑を解消すると言っていることにも、あてはまる。
どれだけ、テレワークや時差通勤が可能であるかを、経産省や総務省や国交省は調査しないといけない。それと、公共交通機関の混雑との関係を調査しないといけない。じっさい、いまは、公共交通機関の混雑度が何割減少しているのか。調査がなくて、混雑解消を言っても達成できない。こちらは実態調査も目標数値もない、さらに情緒的な話である。
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安倍晋三が「緊急事態宣言を発出した」と言っているのに私はびっくりした。「発出」とは役人言葉で、政治家たるものが言う言葉でない。
「発出」とは、国語辞典をみると、「起こること、起こすこと」とある。役人が使ったとき、「天命にしたがって人民に告知する」という意味で、自分の責任を回避しているのだ。
2009年に飯間浩明がネット上に、「発出する」が安倍晋三の口癖であると書いている。私は、悪意があってこの語を安倍が使っている、とは思いたくない。単に天命にしたがって自分は行動していると安倍が思いこんでいるのだろう。
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同じ日の朝に、青木理が、テレビ朝日『羽鳥慎モーニングショー』で、メディアがすべて安倍に緊急事態宣言を早くせよ、というのはおかしいと言っていた。緊急事態宣言を「野党やメディアが『早くやれ!やれ!』となったのは健全じゃない」。私もそう思う。
緊急事態宣言は私権や自由の制限をともなうので、それによって何をするのか、政府は明確にすべきである。安倍が国民に心がまえをただ訴えるなら、「新型インフルエンザ感染症対策特別措置法」を適用するための緊急事態宣言をする必要はまったくない。
私権や自由の制限をともなう緊急事態宣言を急いで求めるメディアは何を考えているのか。どの国も国民の1%も感染していない新型コロナにあわてふためくメディアは阿呆のかたまりではないか。日本は公式発表で国民の0.0033%が感染したところである。100倍しても0.33%にしかならない。これでは、悪意のある政治家がでてきたら、感染症流行を唱えて簡単に権力を奪取し、独裁を行える。
安倍政権は、新型コロナ対策のどさくさで、事業者だけを優遇する「経済補償」を発表している。これは、政権維持、選挙対策のためのバラマキにすぎない。新型コロナの「経済補償」は、財産権の制限に対する対価であって、個人や法人が、政府の指示にしたがい、何を放棄したかによってきまるものである。安倍が会見の後にNHKテレビに出たが、「経済補償」と「経済対策」と混同していた。
もし「経済対策」なら、国民すべてに公平な、消費税を期間限定でゼロにするというのが、理にかなっている。