猫じじいのブログ

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「新しい資本主義」でなく「新しい社会主義」こそ必要ではないか

2021-11-14 23:56:01 | 社会時評

今年の9月29日に公表された国税庁の「民間給与実態調査」の2020年の日本平均給与433万円が新聞やネットで取り上げられ、改めて、日本経済に、そして、日本の社会構造に問題があると論じられている。

*「民間給与実態統計調査結果」をここでは「民間給与実態調査」と略称した。

私も新聞やネットの議論、国税庁の報告を読み、何が問題で、どう解決すべきか、1週間以上も悩んだが、まだ、悩んでいる。

しかし、求められているのは、「新しい資本主義」でなく「新しい社会主義」ではないのかという思いが、ますます強くなっている。

現在、株価を上げるという自公政権の政策のもとに、日銀が多くの会社の筆頭株主になっている。株価をあげるだけでは、単に日本の経営者を甘やかしているだけではないないか。国民は政府を通して無能な経営者を入れ替えるべきではないか。

安倍政権下で、日本の実質賃金があがらないばかりか、80%に下がっているという。そして、国民総生産(GNP)はこの安倍政権下で下がっている。悪夢のような自公政権下で日本経済は滅茶苦茶になっている。国歌や国旗に涙して、「大国日本」によって酔っている場合ではない。

2020年は、新型コロナ禍の中にあり、ここでは、それ以前のデータに基づいて日本の現状をみよう。

まず、「給与」とは、雇われて働く人の「年収」である。日本では「給与」は「給料」と「賞与(ボーナス)」の和である。日本は「賞与」という形で賃金を後払いしているのである。欧米にはない習慣である。日本の企業が貧乏だということで、資金の余裕を持つために、「賞与」という形で賃金の後払いの習慣ができた。欧米では「賞与」というのは、一律ではなく、個人が、約束の年俸以上の働きを企業のためにしたときに、支払うものである。

「平均給与」とは、1年間に支払った給与の総額を雇われた者(employees)の数で割ったものである。国税庁の「民間給与実態調査」では、平均給与は、1年間雇われた者の数で割っている。2019年の1年間続けて雇われた者の数を5255万人、平均給与を436万円としている。ところで、IMF(国際通貨基金)の日本の被雇用者数を6724万人としている。雇われている者の数に、1469万人もの大きな差があるのだ。したがって、対象とする被雇用者の範囲によって、平均給与がもっと下がる可能性がある。

「文春オンライン」では、OECDによる2019年のAverage Annual Wagesにもとづいて、日本の平均給与は韓国より低いとしている。2021年公表のOECDの統計データを見ると、2015年からずっと、日本の平均給与は韓国のそれより低い。

2019年で、日本の平均給与はOECD加盟国では21位となる。日本より平均給与の高い国が20ヵ国もあるのだ。

最近、岸田文雄は「成長なしで分配なし」と言い直している。

国民総生産を国民の数でわって、一人当たりの国民総生産額を比較してみよう。ここでは、100万人未満の国を除外して比較すると、日本は22位である。OECDに参加していないシンガポール、香港、ニュージランド、カタール、アラブ首長国連邦が日本の上に来ている。しかし、注目すべき点は、日本より一人当たりの国民総生産が小さい韓国、イタリア、スペイン、スロベニアが、日本より平均給与が上である。2019年の韓国の平均給与42,297ドル、日本の39,041ドルの差は、雇われている者の範囲の差では説明がつかないと思う。一人当たりの国民総生産では、韓国3,193ドル、日本4,069ドルだから、日本の雇われている人びとは おとなしすぎるのではないか。労使協調路線に問題があるのではないか。成果に対する分配にオカシナ点がある。

働いている者が奪われた成果を取り返すのが再分配で、施しや恩恵ではない。とにかく日本の賃金がおかしいのだ。

どこの国も、人口の50%前後が雇われた者、すなわち給与対象者である。ということは、国民総生産の半分が雇われたものに分配されている。残りはどこにいくのだろうかが、私の疑問である。自営業者の収入になるのかもしれない。しかし、自営業者の数は昔と違い、日本では減っている。企業の含み資産になっているというが、株式会社がほとんどだから、株主の含み資産となっているのではないか、と思う。まさに、資本家が日本の富の半分を支配していると思われる。

国税庁の「民間給与実態調査」の雇われた者に、役員が含まれる。株式会社では、社長も雇われた者になる。日本に2,500万円以上の給与をもらっている人が2019年に150,897人もいるのである。その平均給与は4,281万円である。

さらに、男女の差や正規・非正規の差も激しい。つぎの図は、正規雇用の男女の給与、非正規雇用の男女の給与分布を示したものである。正規雇用と非正規雇用に大きな給与の差がある。また正規雇用では男女の間に大きな格差がある。

図のように、分布が金額が高い方に広がっているとき、中央値で見るのがよい。半分の人がそれより少なく、半分の人がそれより多い真ん中の給与額でみるのである。このとき、正規雇用の男の中央値は466万円で、女は254万円である。非正規雇用になると男の中央値は276万円、女の中央値は250万円となる。分布のピークで見ると、非正規は男女とも、200万円を割る。すごく貧困なのだ。

日本は、大きな格差のなかで、安い賃金で輸出産業を支えてきたのであり、まさに、日本が資本主義を選択したことによって、この不幸な事態を招いているのである。

そのうえ、輸出産業の経営者は円安を求め、政府はそれに答えてきた。円安になって海外に製品を売りやすくなるかもしれないが、原材料が輸入であれば、コストが上がるわけで、その分、賃金を安くするしかない。働く者は賃金は安くなるし、輸入のチーズや小麦粉などの物価は上がるし、働く者にとって いいことは何もない。経営者や政府の失敗を働く者の犠牲で始末しているのが、円安誘導である。新自由主義とか言う前に、たんに彼らは自分の利益だけを求めて、そのほかのみんなを不幸にしているのだ。

資本主義が悪いのであって、新自由主義だけが悪いのではない。

また業種による賃金の格差もはなはだしい。国税庁は、14の業種に分けて、男・女、正規・非正規雇用の給与分布を調査している。この中で宿泊・飲食業の賃金の低さが著しい。ついで、卸売・小売業、運輸業、サービス業、農林水産鉱業の賃金が低い。最も高いのは、電気ガスのインフラ業で、ついで、金融業である。電気ガスの給与がこんなに高いとは私は知らなかった。これは、政府が地域ごとの電気会社、ガス会社の独占を許しているためである。医療福祉業の給与分布は製造業と同じくらいで、業種間の平均程度である。本当は医療と福祉との間に大きな格差があると思われる。また、製造業とひとくくりにしているが、その中も大きな格差があるはずである。

よく、経済評論家が成長産業と衰退産業という言い方をするが、社会の中で必要な産業が大きく変わることなどなく、衰退産業といってもゆっくりと入れ替わるだけで、格差の存在を正当化するのに使われている詭弁である。

2020年、2021年の新型コロナ禍で、飲食業、宿泊業の非正規雇用者、職を失い非常に苦しかったと思う。政府は非正規雇用をなくすとともに、観光立国という経済政策をやめないといけない。飲食業・宿泊業は、貧困におちいる人を減らすのに何も貢献しない。国税庁の調査から見るのは、20から24歳の飲食業・宿泊業の雇用人口が大きく、また、極端に給与が低いのである。

この貧困という問題を扱うのが、日本では、厚生労働省であるが、彼らは世帯という見方で見ている。共稼ぎで、世帯の収入が一定以上であればよいと考えている。共稼ぎしないと子育てできない収入の家庭が多い。しかし、共稼ぎすると子どもを産んで子育てできない。日本で少子化が起きているのは貧困問題があるからだ。また、離婚すると、男女の賃金差があるから、生きていくことさえ、すぐに難しくなる。世帯の収入という見方で、貧困をとらえるのは誤っていると思う。

働く者は奪われたものを取り返すしかない。無能な経営者や政府関係者は入れ替えるしかない。今回の選挙で、「新しい資本主義」という言葉に騙された人がいたのは、とても残念だ。