昔、10年以上も前だが、雨宮処凛が『右翼と左翼はどうちがう?』(平凡社)の1章冒頭に
〈イメージとしては、右翼は日本の伝統を守り、国を愛する体育会系の人たち。左翼は権力が嫌いで、自由と平等を唱えるインテリ。といった感じだろうか。〉
と書いた。
もちろん、彼女はそうだと思っているのではなく、そう思っている人が多いのではと言っているのだが。
たぶん、いまは、インテリが「自由と平等」をとなえると思っている人は少ないのではないか。能力主義をとなえ、権利と義務や競争と効率を主張する大学の先生たちが多いと、みんな、感じているのではないか。
「右翼」だ「左翼」だということを、政党だとか、政策の選択だとか思う人にとっては、わかりにくい世の中になっている。
私は「右翼」と「左翼」との違いをつぎのように考える。
「右翼」とは2つの側面からなる。1つは、人はそれぞれ差異があるから平等である必要がないとする立場である。もう1つは、人が人を支配することは当然であるとする立場である。
「左翼」は、これに対し、人はそれぞれ個性があるが、社会的政治的に平等であり、人が人を支配することがあってはならないとするものである。
「保守」とは、平等ではない、人が人を支配する社会を守ろうとすることをいう。「革新」は、そのような社会を壊そうとすることをいう。
このように、「右翼」「左翼」の違いは、生きていくときの立場の違いだと思っている。
すると、確かに、私は「権力が嫌いで、自由と平等を唱えている」ことになる。
雨宮は「右翼は日本の伝統を守り、国を愛する」と言っているが、これは、左翼の「権力が嫌いで、自由と平等を唱えている」の否定ではない。しかし、「人が人を支配することは当然」という立場をごまかすために、「日本の伝統を守る」とか、「国を愛する」とか、言っているだけであると思う。
だいたい「日本の伝統」というのが意味不明だし、「国」というのも意味不明である。
「日本の伝統」というのは、「支配」を安定化させるための人工的に作られた「統合のシンボル」にすぎない。
「能」なんて別に農民や職人が昔見ていたわけではない。それが、現在では、伝統芸能ということで、政府が保護している。
現在の神社は、明治以降のものであり、それ以前は、神仏習合であった。天皇を神とするための政策が「神仏分離」で、日本の隅々の「神」が天皇の下に置かれた。天皇が夜な夜な行っている儀式は、明治時代に創作されたものだ。
新しいお祭りも「町おこし」として、地方自治体や商店街の住人によって始められている。
「日本の伝統」というなかに、昭和の「軍国主義」によって始められたいろいろな習慣がある。小中校での「起立」「礼」も、軍隊の真似である。
このように、「日本の伝統」は、誰かの都合で、常に新たに作られている。
能力主義をとなえ、権利と義務や競争と効率を主張する人も「右翼」である。「人はそれぞれ差異があるから平等である必要がない」とする立場がその背後に隠れている。
しかし、個々の政策で「右翼」「左翼」の違いを明らかにするのは、現実的には、むずかしいこともある。
貧しいもの、弱いものの生活を守るのが「左翼」と思うが、「EU離脱」が、「右翼的」か「左翼的」かを判断するのはむずかしい。イギリスのことだし、どうでも良いのではという気がしてくる。「EU離脱」で何を期待するかで、個人を「右翼的」か「左翼的」か、を判断するしかない。
日本でも外国人を研修生として最低賃金より安い賃金で雇っている人たちがいる。自分が儲かるために、外国人を安くこき使うことは良くないと思う。外国人労働者を雇うなら、日本人と同じ労働条件にさせないと、労働者の待遇の値崩れがおきる。
外国人労働者を入れるか入れないかでなく、労働者の権利が守られるか否か、で「右翼的」か「左翼的」かを判断するしかない。
新型コロナ対策の場合も、「私権の制限」がどこまで許されるかの判断もむずかしい。「左翼」の立場からすると、制限しないですむなら制限しないほうが良い。しっかり必要性の説明がないと納得できない。支配と被支配の構造があると、被支配者の意思が無視されがちである。
政策は、その目的の正当性と、目的達成のための合理性で判断することになる。目的達成のための合理性の判断には、公開された議論が必要だ。政府のなかに議論が閉じていて隠されていると、じつは、その目的も支配者にとって都合の良いもので、被支配者のことが無視されているのではないか、と疑いたくなる。
この1か月で、新型コロナ対策も、生命第一から経済第一に替わったように思える。健康も経済も達成可能な政策はないのか。
新型コロナ対策と称して膨大な補正予算が組まれているが、用途が判然としないものが多い。なぜ、いま、国会が開かれていないのか。支配者にとって、自分たちの支配を維持するために、国に借金させ、その金を仲間内で配っているのではないか、と疑いたくなる。
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