私たちはユダヤ人とイスラエル国とを区別しないといけない。
ユダヤ人は歴史をもつ。80年前にはホロコーストを経験している。これをもって、現在のイスラエル政府は、パレスチナの住民を軍事力で追い払ってイスラエル国を守ることを正当化する。
しかし、1948年のイスラエル建国をすべてのユダヤ人が支持したわけでない。当時のパレスチナはイギリスの植民地であった。ユダヤ人は、パレスチナ人とともに、そのイギリスと戦って独立し、パレスチナ国家を立てることができたわけだ。そうすれば、その貢献をもって、ユダヤ人は平和的にパレスチナの地に住むことができただろう。
エルサレムの地にユダヤ人の国家を建設しようとしたユダヤ人の一派をシオニストと言う。ポーランド・ウクライナ・ロシアで、19世紀に起きた運動である。現在のキブツに見られるようなユダヤ人共同体の国をパレスチナの地に作ろうとしたのである。現在のイスラエル国は、ポーランド・ウクライナ・ロシアからのユダヤ人の入植によって生まれたのである。
共同体幻想は排除を生む。それは正義でもなんでもない。
昔々、2800年前に、自分たちの祖先が住んでいたから、と言って、現在の住民を武力で追い払って、自分たちの土地だと主張することは、ホロコーストを経験したからといって、正義だと言えない。ホロコーストを行ったナチスも、ドイツ民族の共同体運動である。
私はコスモポリタンとしてのユダヤ人を尊敬する。祖国を持たないから尊敬に値する。しかし、祖国をもったユダヤ人は、もはや、尊敬に値しない。
イスラエル国民は武器を捨てて、パレスチナ人を呼び戻し、家を与え、土地を与え、共存するよう、路線を変えなければならない。それが軌道にのったとき、イスラエルが国名として適切であるか、の議論が発生するだろう。
現在のイスラエル国は、名称から明らかなように、ヘブライ語聖書の作り話をもとに、古代の統一王国イスラエルの名前をつけている。
考古学的に確認できるのは、対立するイスラエル王国とユダ王国とであって、長谷川修一は、ダビデやソロモンによる統一したイスラエル国はなかったという説を掲げる。
現在のユダヤ人は、ヘブライ語聖書にもとづくと、ユダ王国の末裔となる。かってのユダ王国は、現在のイスラエル国よりはるかに小さい。山岳地帯の痩せた土地がユダ王国であった。
ユダ王国の北に位置するイスラエル王国はアッシリアによって、紀元前723頃に先に滅ぼされた。イスラエル王国の一部の住民がユダ王国に逃げた。この難民を受け入れるため、祖先が短い間だが統一王国を作った、との神話が作られたというのが、長谷川の仮説である。
1948年建設の国名をイスラエルとしたのは、伝説上の統一王国イスラエルの栄光にあずかろうというのだろう。しかし、イスラエル王国とユダ王国とがあった当時、海岸には、いまのガザ地区よりはるかに大きなペリシテ人(パレスチナ人)の都市国家連合があったのだ。ユダ王国には海への出口がなかった。
1948年の国連の仲介によるアラブ―イスラエルの停戦ラインが、日本の地図帳で国境とされているが、イスラエルはアラブとの4回の戦争に勝って、占領地を拡大している。ヨルダン川西岸も占領地であるが、現在もパレスチナ人を追い払ってイスラエル国民が入植している。
今回のハマスの侵入は、パレスチナ人がアラブの国々から見放されるなかの、必死の反攻と見なせる。イスラエル国が弱小のパレスチナ難民に、一時的にせよ、負けると思っていなかったので、この必死の反攻に、イスラエル国民が正気を失ったようだ。イスラエル政府が「ハマスを根絶やしにする」「悪を絶滅する」とか言うのは、気が狂っているか、傲慢かつ身勝手である。
現在のパレスチナ人難民とイスラエル国との争いは宗教によるものではない。パレスチナ人の土地を奪ってシオニストがイスラエル国を作ったからである。パレスチナの地に入植して、イスラエル国を建設したのが誤りのもとである。
イスラエル国が圧倒的な軍事力を持つ間に、イスラエル国民が、自分たちの祖父や祖母が犯した間違いを悟って、イスラエル国内にパレスチナ人とイスラエル人がいっしょになって住めるように、策を尽くすべきだ。
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