「夢」の扱いを全く変えてある。詞書に「人にもの言ひはじめて」、つまりようやく男女の仲になってとあって、男(名はない)の意を受けたものの、顔から火が出るような純粋な気持ちで、歌を詠んだ。これに先立つ才女たちの、ほぼ同旨の二作を紹介する。艶やかな歌の競演。
1159 夢とても人に語るな知るといへば
手枕ならぬ枕だにせず 伊勢
1160 枕だに知らねばいはじ見しままに
君語るなよ春の夜の夢 和泉式部
【略注】○うたた寝=ここでは、共寝。一夜の契り。
○馬内侍(うまのないし)=源時明の娘。「紫式部・清少納言・和泉式部・赤染衛門ら
とならぶ才女。」(小学版)
【補説】評価。「はかない一夜の逢いを遂げえてのちも、死ぬほどのせつなさにいるのだか
ら、ふたりの恋をうっかり人に漏らしてくれるな、と訴えたのである。女心の哀歓がに
じみ出ている。」(同)