雲南省保山市高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】
(第9回)アオミドリフチベニシジミHeliophorus androcles Ⅰ
《Heliophorus androclesの♂外部生殖器構造について(被検標本:ヒマラヤ地方産)》
「中国のチョウ」には、刊行時点で本種を撮影・観察し得ていなかったことから、本種の♂外部生殖器構造についてはほとんど触れていなかったと思います。ただし、国外(おそらくネパールまたはインド東北部)産を検鏡していて、特徴は把握しています。ごく大雑把に言えばフカミドリフチベニシジミ&キンイロフチベニシジミに最も近いと考えられますが、両種の持つ幾つかの固有形質の発現は弱く、またvinculum背後縁に大型の突起が生じることではサファイアフチベニシジミと共通します(それ以外の形質のサファイアフチベニシジミとの共通性は少ない)。どこかにメモや略図があるはずなのですけれど、現時点では探し出せないので、それが見つかる(あるいは再検鏡する)までは、詳細は割愛します。なお、ここでは種名をHeliophorus androclesと同定していますが、文献によってまちまちで(ことにサファイアフチベニシジミとの混同が見られます)、近似の複数種が存在する可能性もあります。
アオミドリフチベニシジミ Heliophorus androcles[夏型♂]
(全写真)雲南省保山市高黎貢山百花嶺(標高1700m~2200m) 2007.7.5~6
*1段目と2段目左端の計4カット、3番目3カット、4段目左2カットは、それぞれ同一個体(計6頭)。
《アオミドリフチベニシジミHeliophorus androclesの分布と生態について》
アオミドリフチベニシジミは、雲南からインドシナ半島北部やヒマラヤ東部には広く分布していると思われるのですが、僕は、この高黎貢山百花嶺(白花林)のみでしか撮影・観察していません。撮影地は2か所、百花嶺集落の畑脇の草地(2007.7.5標高1700m付近)と、稜線に向けて数百m登った辺りの林内に開けた草地(2007.7.6標高2000m付近)です。今回は、まず畑脇草地での撮影個体、次回に林内での撮影個体を紹介していきます(高黎貢山百花嶺の自然については、この後、12回に亘って紹介していく予定です)。撮影時間帯は、(今手元に出てきた写真に関しては)午前9時12分からの20分間。観察した個体は全て♂で、ここではフカミドリシジミは目撃していません。
↑怒江(サルウイン河)の畔から望む高黎貢山東面、写真右方の山中に百花嶺があります。上2005.6.30、下2005.2.5(フカミドリフチベニシジミⅡでも同一地点からの写真を紹介済み)。
↑百花嶺の集落。2007.7.5。下の写真の手前がアオミドリフチベニシジミのいた草地。
↑草地の葉上で翅を開いて日浴?中の♂。見渡すとあちこちで見付けることが出来ます。イメージは、日本のベニシジミにそっくりです。高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:17】
↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】翅表の色や金属青色鱗の範囲はサファイアフチベニシジミの夏型と似ていますが、僅かに緑がかっていて、同じ青でも色調が明らかに異なります。
↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:16】前の写真とは別個体。後翅表の朱色班は、夏型で明らかに減少するサファイアフチベニシジミとは、春型(アオミドリフチベニシジミの季節型については未確認)同様に幅広いことで異なります。
↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:17】近づくと複眼を上に持ち上げてこちらを見ているように思えます。
↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:19】裏面はフカミドリフチベニシジミやキンイロフチベニシジミとほとんど変わらないように思います。チェックした個体(次回にもう1個体)に関しては前翅の褐色条が太いようですが、安定した有意差なのかどうかは確かではありません。
↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:12】葉上に止まるとすぐに翅を開きます。
↑高黎貢山百花嶺2007.7.5【9:31】金属光沢青色鱗の範囲はどの個体も安定しています(この個体は前翅が丸味を帯び、基部が濃色)。