青山潤三の世界・あや子版

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近所の森の蝶 第三部 (下巻)「海の向うの兄妹たち」 :予告

2021-12-16 20:14:57 | コロナ 差別問題と民主化運動 身近な自然


近所の森の蝶 第三部 (下巻)「海の向うの兄妹たち」 :予告

日本の蝶の本質を知るためには、“種”全体を俯瞰的に見渡さねばならない。中国大陸産を中心に、日本産と同じ種、或いはその姉妹種が、どのように分布しているのか、日本産全種の対応種について、探って行く(ここでは数組を適当にピックアップして紹介)。

■ ツマキチョウ Anthocharis scolymus  【海の向うの兄妹たち】


Anthocharis bieti 雪融戸尖襟粉蝶 雲南省香格里拉 2005.6.21


Anthocharis bieti 雪融戸尖襟粉蝶 四川省雅江 2010.6.7


ツマキチョウ属は、前翅先端が丸味を帯びるタイプが主流で、ユーラシア大陸に広く分布するクモマツマキチョウ(日本では高山蝶の一種)を始め、北半球温帯域に多数の種が分布している。その中にあって、前翅端が鉤状に尖るツマキチョウは異質のタイプ。日本を含む東アジアに分布するツマキチョウ、中国西南部の高山帯に分布するユキワリツマキチョウAnthocharis bieti、北米大陸東海岸産のアメリカツマキチョウAnthocharis midea、メキシコ高地産のAnthocharis limoneaの4種が、このタイプに属している。

■ ヒオドシチョウ Nymphalis xanthomelas  【海の向うの兄妹たち】


ヒオドシチョウとキベリタテハNymphalis antiopa は外観(色彩斑紋)が著しく異なるが、雄交尾器をはじめとする体各部の構造(翅裏に剛毛を生じることなど)が共通し、極めて近縁な関係にある。ヒオドシチョウが ユーラシア大陸の主に東半部に分布する(西半部には外観のよく似た別種が分布)のに対し、キベリタテハは全北区に分布、日本では亜高山帯の蝶だが北米大陸では低地にも分布し、中米から南米北部にまで至る。キベリタテハの色彩パターンは我々から見れば特異だが、北米大陸には同様の色パターンの種が多く(ダイアナヒョウモン、アオイチモンジ、クロキアゲハなど)その極がキベリタテハ。著者は、キベリタテハは新大陸で特化し旧大陸に再渡来した“ヒオドシチョウ”であると捉えている。メキシコ南部~グァテマラ北部にはNymphalis cyanomelasという両者の中間のようなイメージの種が分布する。広義のヒオドシチョウ属に含まれるシ-タテハの一群にも、例外的に熱帯アジア山岳地中心を中心にルリタテハが分布していることは興味深い。その暗示も合わせ、この種に対し近年使用されている「アオヒオドシ」という(ありきたりな)名称よりも、古くから使われて来た「メキシコルリタテハ」の名を採用したい。

■ ツバメシジミ Cupido argiades 【海の向うの兄妹たち】

 


Cupido huegelii薄墨藍灰蝶(Cupido argiades huegelii) 雲南省香格里拉 2013.5.5


北半球温帯域に広く分布し、幾つかの種に分けうる可能性もある。中国大陸産は通常日本産と区別されないが、雲南省西北部産に関しては、明らかに日本産とは異なる外観を示している(裏面地色がやや灰褐色を帯び季節によっては雄翅表の縁の黒色部が広いことなど)。ただし雄交尾器の形状は相同。一応日本産と同一種と見做したうえで「ウスズミツバメシジミ」の和名を仮称しておく。ヨーロッパにはツバメシジミのほか近縁2種が分布、北米大陸産は東西に棲む2種がそれぞれ独立種とされる。ユーラシア大陸には、より小型で尾状突起を欠く狭義のCupido属数種が分布し、ツバメシジミを含む従来のEveres属の種もこれに移した(雄交尾器など基本構造は共通)。外観がツバメシジミに似た暖地性のタイワンツバメシジミは、ツバメシジミとそれほど近い類縁にはない。他にクロツバメシジミ属の種なども広義のツバメシジミ類の一員である。

■ ミヤマチャバネセセリPelopidas jansonis 【海の向うの兄妹たち】


前翅先端が尖った褐色地に白斑を配する典型的“スキッパー” 「Gegenes類」は、東南アジアとアフリカ大陸を中心に多くの属と種を擁し、ヨーロッパではGegenes pumilioなど数種が、東アジアではイチモンジセセリやチャバネセセリが南方から引き続き分布している。その中でオオチャバネセセリと共に最も北に分布するのがミヤマチャバネセセリ(日本本土、朝鮮半島、中国北部、及び山東半島)。外観がチャバネセセリと顕著に相違するが、雄交尾器の基本構造は変わらず、ことにタイワンチャバネセセリ(台湾と北部を除く中国大陸に分布)とは酷似する。タイワンチャバネセセリの白紋は小さいが配置は共通し(ただし雄翅表に顕著な白い性標を持つ)、共に基部の一個の白斑が明瞭。山東半島の西延長線上の秦嶺にはミヤマチャバネセセリがいずタイワンチャバネセセリが見られるので、両種は分布圏が明確に別れた姉妹種関係にあると思われる。

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あとがき

2年前に緊急帰国し、そのまま中国に戻れないでいる(それで「近所の森の蝶」の探索を始めたわけだが)。その前後にパソコントラブルを繰り返し、ことに複数のHDDがクラッシュしてしまった。古くは2011ー2012年度に撮影した全原版写真。それ以外のHDDに収録されている資料を使って作業を進めてきたところ、2020年暮れになって使用中のHDDがクラッシュしてしまった。幸い、なんとか修復は叶った。しかし、修復費用が47万円。著者にとっては途方もない金額である。毎月数万円を支払い、やっと半分程度。重要な資料の大半はその中に入っているので、それが無くては仕事が出来ない。一刻も早く取り戻すべく資金調達しかない。

著者は老齢である。大きな持病はないものの、背骨を痛めていて重いものを持てない。天涯孤独で、日本には家族はもとより友人もほとんどいない。仕事を得るにあたって必要な「保証人」もいないし、クレジットカードや携帯電話も持つことが出来ない(その理由は不明、なぜか中国はじめとした国外では可能)。当分中国に戻ることが出来ないと悟った1年前の年末年始には、日本で皿洗いや便所掃除の仕事にありつこうと、求人の貼り紙があるたびに片っ端から申し込んだ。しかし、「老齢/保証人なし/携帯電話なし」“うちでは無理なのでお引き取り下さい”となってしまう。インターネットを通じての求人は更に悲惨で、電話やカードがない等、最初の時点で先に進む事さえ出来ない。ハローワークやシルバーセンターにガードマンやチラシ配りの仕事をリクエストしても、最終的には回って来ない。ちなみにクラウドファンディングにも何度か挑戦したのだけれど、一銭も入って来ない。

そうこうしているうちに、パソコンもクラッシュしてしまった。途方に暮れて、日本では数少ない知人の昔の彼女の父上(90歳近く)に助けを求めた。彼も困窮生活の只中にいるのだが、 「パソコン程度なら買ってあげよう」と申し出てくださった。そして彼曰く「青山さんは昔は日本の蝶のフィールド図鑑などを沢山出版していたではないか、一から撮影し、昔のようにメディアと交渉して、新たな本を出版しなさい」と。今更、そんなのは無理、でも、しばらくは中国には戻れないことだし、この機会にやるだけはやってみよう、と取り組んだのが、このフィールド図鑑「(アパートの)近所の森の蝶」なのである。

本書は、既存メディア(出版社など)にプレゼンレーションを行うために試作したものである。首尾よくどこかで出版を引き受けてくれたなら、印税(原稿料)を入手してHDDも取り戻せる。今の出版業界不況の時代「中国の山奥の蝶」をテーマに刊行することはほぼ100%不可能だろうけれど、「日本の都市の蝶」なら僅かながら可能性が残っているように思っている。

しかし、第3章までを整え、既存の出版社から「商業作品に足る」として認めて貰うクオリティに達することは、修復HDDに収納された写真や資料が手許に戻って来ない限り不可能に近い。その資金を捻出するべく、第一章の一応の完成段階で、「特製版」としての「近所の森の蝶/図鑑編」を作成し、資金援助を募ることにした。

どうか、ご協力を頂きたい。

2021年12月吉日
                                             
「近所の森の蝶」(上巻:フィールド図鑑編)

著者 青山潤三
発行 Photo-office 萌葱(MOEGI)
発行日 2021.12.10




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