優しくて、無骨

2007-02-03 17:57:55 | エッセイ風
 天藤 真の作家の名前をご存知の方はどれくらいるのでしょ?
 (てんどう しん)と呼びます。1番有名な著書は第32回日本推理作家協会賞を受賞した「大誘拐」でしょう。後に松竹から映画化もされています。

 彼の作品を思う時、「善人」という言葉がどうしても1番に来てしまいます。
 ミステリー作家ではありますが、エンターテナーであり、ストーリテラーであり、かけがえのない才能だと思うのです。
 
 先の「大誘拐」は紀州随一の大富豪の老婆・とし子を刑務所帰りの「虹の童子」と名乗る3人の若者が誘拐するという話ですが、途中から老婆のとし子に指揮を取られ彼女に言われるまま、10億円の身代金を請求し、その受け渡しの模様をテレビで全中継するというストーリーです。
 これが書かれたのは昭和50年代です。今ならさして奇抜な印象はありませんが、この当時なら凄いことだったと思います。

 私個人としては「大誘拐」より「死角に消えた殺人者」が好きです。若い女性が主人公で感情移入しやすかったって言うのがあります。
 粗筋だけ説明しますと。断崖から車が転落し、その中に4人の人間が乗り合わせているのです。ヒロインの母親も被害者の1人でした。けれどこの4人には全く面識がありません。彼らは何故1つ車で死んだのか、それは事故か殺人か。残された遺族がそれを探っていくというストーリーです。
 ま、大どんでん返しがありまして。「それってあり?」って感じなのですが、残念ながらネタバレするので、書けません。ご興味を持たれた方読んでみてください。図書館行ってもあります。東京創元社から全集も出てる筈です。
 
 ただこういう展開のさせ方もあるのかって思うの。考え付くようで考え付かない。やれそうでやれない。そういう不思議な話。
 
 天藤さんの作品を読んでいた当時私はまだ中学生でした。だから与えた影響って大きいと思う。
 無骨って気がしてたんです。確か、教員をされていた方で、引退されてからは畑をいじってらしたのかしら。そんな写真か、紹介文を読んだ覚えがあります。ああ、そんな感じって無骨さがあるのです。
 でも、話の転がし方は、うーん。そうくるんだって感じです。残念ながら、結構古い方なので、戦争直後とか、時代背景的にピンと来ない話もありまして。まして中学以降繰り返し読んだ訳でもないので、もう忘れてしまっていることもあるのですが。1度体験すると天藤ワールドへはまりますよ。
 
 個人的には「善人たちの夜」を読んでいないので、読みたいんですけどね。でも、これ、土曜ワイド劇場でドラマ化されていまして、それは観たんですよ。だから原作とどれくらい違うのかなぁって思うけど。
 
 「善人」このタイトルに天藤ワールドのキーがあると思います。「善人」だからこそ起こしてしまう犯罪。そんなことが天藤さんの作品には全体を通してあると思う。悪い奴が悪いことをするんじゃない。善人であっても時に思わぬことで罪を犯してしまう。そういう人の危うさを上手く扱ってるのが天藤さんの作品のように思うのです。
 それだけ人を多面的に見れ、書くことができたってことなのでしょう。

 もっともっと人の心理を理解できるようにならないとね。そしてそれをエンターテーメントの作品に上手く取り入れられるようにならないとね。 
 
 追いつきたい先輩です。