カネ
2013年09月22日 | 本
カネが水俣の村々に侵入する。渡辺の家で、判決後の夏のこと、保さんは言うのだった。
「おもしろかもんば見せちゃろか?」そして彼は名刺の束を私たちに見せる。
100以上はあったに違いない。彼はそれを二つに分ける。「こっちは、3月の判決んすぐ前来たマスコミんもんたい。あんたも見たろ、取材の順番ば待ってから外に列ばつくっとったもんたちたい。こっちんとは、マスコミんもんたちの来んごつなったそん日、判決の日から、来はじめたもんたちたい。」
カードをポンとたたいて彼はづづける。「銀行、また銀行、労働金庫、郵便局。郵便貯金のあっとは知っとっでしょ。家具のチェーン店、建築業者、いっぱいこっぱい。この寝椅子も、そこん毛布も、ライターも、万年筆も、全部そげん人たちのくれらしたと。全部おったちの保証金めあてに、こげんさびれてしもうとるとこっまで来っとたい。金ば入るっと、北海道旅行ばさせちくるる銀行もあった。」
写真集 水俣 MINAMATA W.ユージン・スミス、アイリーン・M.スミス