贖罪
2013年09月25日 | 本
一枚の写真がある。
入浴する智子と母
この写真を見てなんともいえない神々しさを感じた。
まるで聖母マリアとキリストのように。
贖罪の羊。
自己を犠牲として、罪を負ったキリストが智子と重なる。
わが子をやさしく抱える母親の優しい眼差しは、まるで聖母マリアのようだ。
一枚の写真から、一言で言い表すことができない、あらゆるエモーションがあふれ出ている。
無償の愛・人間が犯した罪の重さ・権力への迎合・闘争・悲しみ・欺瞞・恐れ・無知・貧・希望…
智子の手は曲がって変形している。
痩せた身体・とても細い足…。
本当はこの写真をブログに載せて、皆に見てもらいたい。
人間が犯した罪を、水俣病のことを皆に知ってもらいたい。
でもご家族の思いを、ネットで見て知ったのでそれはしない。
写真集をみて思う。
同じ過ちを繰り返してはいけないということを。
真実を見ないで、知らないふりをするのも罪だということを。
経済発展の裏で、犠牲になった人たちがいることを。
経済発展の裏で、自然環境を破壊してきたことを。
権力をもつ人間が、先見の明をもちその力を正しく使わないと、どうなるかということを。
見えているものを正しく認識しなければ、歴史という時の流れの中で、汚点として歴史にその名を刻むことになることを。
この写真集の復刻版はこれから先出ないだろう。
戦争と同じように、水俣病があったことを知らない人達が増えていく。
だけど水俣病はいまも終わっていない。
そしてこれから先も、人の命よりも利権を第一に考える人達がいるかぎり、名前を変えて第二、第三の水俣病は続いていくだろう。
写真集 水俣 MINAMATA W.ユージン・スミス、アイリーン・M.スミス