『太陽にほえろ!』屈指の名作と言われ、殿下(小野寺 昭)の代表作とも位置づけされるこのエピソードが、匿名の一般ピープルによる投稿プロットを原作にしてるってのは、ちょっと皮肉な話かも知れません。
「こんなエピソードが観たい!」っていうファンならではの発想は、創り手側にはなかなか出来ないものかも知れません。第452話『山さんがボスを撃つ!?』も然り。
また、本作は第70話『さよならはいわないで』で初登場した殿下の恋人=悠木麻江(有吉ひとみ)2度目の登場エピソードでもあります。
プロットを書かれた投稿者さんは、殿下に恋人がいることを執筆時はまだ知らなかった筈で、ゆえに麻江は全く本筋には絡んでません。でも、だからこそ強く印象に残るんですよね。
今回、殿下はとんでもなく酷い目に遭うんだけど、一般人の麻江には全く何も出来ないワケです。ただひたすら気を揉むだけで、そばにいてあげる事すら出来ない。恋人として、それ以上にツラいことは無いでしょう。
また、同僚の立場から殿下の身を案じるシンコ(関根恵子)もいて、さらに小学生時代から殿下を慕う女性まで登場しちゃうという、殿下のハーレム人生を描いたエピソードでもありますw
☆第79話『鶴が飛んだ日』
(1974.1.18.OA/脚本=長野 洋/監督=竹林 進)
殿下が行きつけの喫茶店で目眩を起こし、店のママ=紀子(北島マヤ)に介抱され、紹介された医者(中井啓輔)の手当てを受けます。
そして勧められるまま通院するも体調は改善せず、ついに幻覚症状が出て来て、殿下は戦慄します。そう、医者から毎日打たれてた注射は麻薬だった!
七曲署がGメンと合同捜査でマークしてた麻薬組織が、刑事を密告者にして捜査情報を聞き出すべく、中毒者の紀子を使って殿下を罠にハメたワケです。
監禁され、さらに麻薬を打たれ続ける殿下を、藤堂チームが必死の捜査で居場所をつかみ、救出します。が、時すでに遅し……
禁断症状に襲われ、注射器に手を伸ばす殿下に、山さん(露口 茂)が例によって背後から、クールに言い放ちます。
「苦しいか? 打てばラクになる。だが、その後はまた地獄だぞ」
「……分かってます! しかし……しかし僕はもう駄目なんです! この体はもう、クスリ無しでは生きて行けないんです!」
殿下を罠にハメた紀子は、実は小学生時代の同級生だった。遠足の時に殿下から貰った小石を、今も大事に持ってる紀子。
たぶん紀子は、殿下がすぐ仲間になってくれるものと思ってた。だけど必死に抵抗する殿下を見て、過ちに気づいた紀子は彼を逃がそうとし、組織に殺されてしまう。
「土壇場で彼女は命を張って、お前を救おうとしたんだ。その気持ちを無駄にしてもいいのか!?」
山さんの言葉で我に返った殿下は、禁断症状が治まるまで自分を監禁して欲しいと志願します。それを聞いた山さんは手錠を取り出し、殿下と自分を鎖で繋ぐのでした。
「俺も付き合ってやる。長い夜になるだろうからな」
あのソフト&クールな貴公子=殿下が、絶叫し、髪を振り乱し、眼を剥いてヨダレを垂らしながら大暴れする姿には、ファンならずとも衝撃を受けずにいられません。
本当に物凄い迫力で、このエピソードで麻薬の恐ろしさを思い知った視聴者も少なくないでしょう。
そして手首から血を流し、痛みに耐えながら必死に殿下を押さえる山さん。その血はメイクではなく、本当に撮影で流した血なんだそうです。
「殿下! 苦しいのはお前だけじゃないんだぞ! ボスも、みんなも、そして麻江さんも! 同じように苦しんでるんだ!! 殿下、頑張れ! 頑張るんだっ!!」
2人の壮絶な姿を見てるだけで涙が出るんだけど、殿下の絶叫を部屋の外でじっと聴いてる、麻江の表情を見たらもう、涙腺爆発ですw
たぶんプロットには存在しない、本来なら必要なかった筈の麻江の存在が、このエピソードにより深い感動をもたらしてる。
その代わり、本来ヒロインだった筈の幼なじみ=紀子の印象が薄くなっちゃったのも事実。恐らく女性であろう投稿者さんは、殿下と紀子のメロドラマをメインに想定されてたんじゃないでしょうか?(紀子に自分自身を投影されてたのかも?)
それが番組側の事情で、麻江にウェイトが置かれちゃった。普通なら話のバランスが崩れちゃうところが結果オーライで、より素晴らしいエピソードに仕上がった……てないきさつがあったんじゃないかと推察します。
麻江は3度目の登場エピソード(第87話)で惜しくも事故死しちゃいますが、演じた有吉ひとみさん(当時26歳)は第488話へのゲスト出演を経て、第521話『ボギー刑事登場!』からボギー(世良公則)の姉=春日部正子として、再びセミレギュラー入りされる事になります。
日テレの青春シリーズ『でっかい青春』の生徒役でデビュー後、主に’70年代のドラマで幅広くご活躍された有吉さん。清楚かつ明朗なキャラクターは、実に『太陽』向きの女優さんだと思います。