ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『この子の七つのお祝いに』

2022-03-28 00:00:19 | 日本映画

1982年秋に公開された角川映画をレビューしたいと思います。増村保造監督が手掛けられた最後の作品で、原作は第1回横溝正史ミステリ大賞を受賞した斎藤澪さんの同名小説。

唐突にこの作品を取り上げたのは、いつも愛読させて頂いてる KT Jacksonさんのブログで、最近KTさんが偏愛されてる映画として何度も登場してたから。

そう言えば予告CMは記憶にあるけど本編は観てなかったし、何よりあんなに面白い文章を書かれるKTさんが、夜な夜な繰り返しDVDを観ちゃうほどハマっておられる映画が、一体どんなだったか気になってレンタルせずにいられませんでした。

KTさんはあくまで「昭和」の風景や文化に対する懐かしさと、主役の1人であるナイスミドル俳優「杉浦直樹」さんへの憧れ……というより、やっぱ「偏愛」と言った方がしっくり来るw、かなりオリジナルな「惹かれる理由」を書かれているけど、それだけで夜な夜な観ちゃうほどハマるだろうか? もしかしたらご本人も気づかれてない、潜在意識に訴えるような何かがこの映画にあったりするのかも?って、そんな興味がメラメラと湧いて来た次第です。で、観ました。

結果、これは想像してたより相当深い作品で、しかも2022年3月現在だからこそ強く胸に迫って来るものがある!……のかも?って、私は感じました。KTさん! これ、もしかしたら凄い映画かも知れません!



この映画の本質を語るには、浜村淳さんばりに結末までストーリーをバラさないと語りようがなく、ミステリー作品ではありますが、浜村淳さんよりも簡潔に解説し、バラしますm(_ _)m

前半のストーリーテラーは雑誌記者の杉浦直樹さんだけど、その杉浦さんが中盤で殺され、後輩記者の根津甚八さんが彼の遺志を継ぎ、連続殺人事件の真相に迫って行きます。

これ、みんな角川さんの宣伝戦略に騙されてホラー映画だと思い込んでるけど、実は幽霊も祟りも一切出てこない、あくまでミステリーです。

杉浦直樹さんが何度も謎の激痛に襲われ、のたうち回るもんだから、てっきり岸田今日子さんの呪いだと思っちゃうんだけど、それも実はミスリード。「オレ、たぶん癌なんだ」っていうオチがつきますw(あの痛がり方は腎臓結石だと私は睨んでるけど)



で、連続殺人の真犯人は、岸田今日子さんに夜な夜な「私たちが貧乏なのは全部、よそにオンナを作って逃げたお父さんのせいよ」「だからお父さんを恨むのよ」「私が死んだら代わりに復讐するのよ」って耳元で聞かされ、言わば洗脳されながら育った娘=麻矢。



根津甚八さん憧れの人だけど杉浦直樹さんと愛し合い、チョメチョメしちゃうスナックのママ=岩下志麻さんこそ、ずっと父親を探し続けてる麻矢なのでした。被害者は皆、その秘密を知ってしまったから殺された。麻矢は杉浦さんを愛しながら、父親への復讐を果たす為に殺すしかなかった。



だけど本作の肝は、誰が真犯人かじゃないんですよね。割と早い段階で岩下志麻さんがそうだろうと察しがつくんです。昨今のミステリーは犯人当てゲームに終始してる印象だけど、この作品は全然違う!



じゃあ何が肝なのかと言えば、岸田今日子さんが娘をずっと洗脳し続けた理由です。時は昭和25年頃。

確かに今日子さんの夫=芦田伸介さんは彼女を捨てて逃げたんだけど、それは単なる浮気じゃなくて、背景に「戦争」があるんですよね。

終戦の時、芦田さんはすでに妻帯者だったけど、戦地から日本に帰国する為に他の女性、つまり今日子さんと偽装結婚する必要があった。

で、帰国しても妻の行方が分からず、そのまま今日子さんと暮らして麻矢という娘が出来るんだけど、麻矢はネズミに喉を噛み切られて死んじゃった!(当時はそういう事故も珍しくなかったとか)

そのショックで今日子さんは精神を病んでしまい、そんな時に芦田さんは偶然、本来の奥さんと再会してしまう! つまり、そういう事です。

芦田さんは充分な手切れ金を渡し、今日子さんは潔く身を引いた……と見せかけて、芦田さんと奥さんの赤ちゃんを誘拐し、麻矢として育てたワケです。



つまり岩下志麻さんは、ずっと今日子さんから嘘を吹き込まれ、実は被害者でもある父親を殺す為だけに人生を捧げ、連続殺人を犯してしまった。

芦田さんと甚八さんからその事実を聞かされ、志麻さんが絶望の淵に追いやられたところで、何の救いも無いまま映画は終わっちゃいます。

だけど、不思議とイヤな気分にならないんですよね。志麻さんは父親が憎いからじゃなくて、育ての母である今日子さんを愛してたから、あくまで彼女の為に復讐しようとしてた。恨みや嫉みじゃない、愛のストーリーだから全然イヤな気分にならない。ただ、果てしなく切ない気持ちにはなるけど……



さて、冒頭で「これは想像してたより相当深い作品で、しかも2022年3月現在だからこそ強く胸に迫って来るものがある!」って書いたのは、これは「愛」だけじゃなく、もしかしたら「戦争」の本質を追究したストーリーなのかも?って思ったから。

単に「女の情念」の恐ろしさや哀しさを描くだけなら、わざわざ戦争を背景に持って来る必要は無かったかも知れません。

一番の罪人は(一番の被害者でもある)岸田今日子さんだけど、彼女をプーチン大統領と置き換えて考えると、岩下志麻さんがロシア軍の兵士たちに見えたりしませんか? ロシアから離れる道を選んで侵攻される羽目になったウクライナが、まさに芦田伸介さんで。

ロシア軍の兵士たちで、自分たちがやってる戦争の意味を正確に理解してる人は少ないかも知れません。志麻さんみたいに洗脳されて。

あらゆる戦争がそんな構図で、みんな愛国心で戦ってるつもりだけど、実は狂人に騙されてるだけっていう……



まあ、この映画で描かれたような悲劇が、終戦から間もない日本には実際いくつもあったでしょうから、単にそれをネタに使っただけの話かも知れません。

で、映画が公開された’80年代にはすっかり過去の話で、2000年代に至ってはおとぎ話になりつつあった。けれど今、それほど遠くない場所で同じような悲劇がまた生まれようとしてる。

そんな今だからこそ、この映画が何かを訴えかけて来てるのかも? KTさんのアンテナがそれをキャッチして、さらに私が引き継いで、今この記事を読んでる皆さんにまた……

別にスピリチュアルな話をしたいワケじゃないけど、物事には必ず理由があると思うもんで、この映画や小説が創られた意味や、今になってKTさんがハマり、なぜか私も観てレビューを書きたくなった理由を、こんな風に「謎解き」してみました。



ところで、杉浦直樹さん。確かに魅力的です。セクシーかどうかは男の私には判らないけど、圧倒的に前向きなエネルギーを感じるし、俺ジナル溢れる演技でこの人が出てるシーンは退屈しません。

「可哀想にぃーっ!」って言いながら志麻さんにかぶりつくゲスさに爆笑しましたw



杉浦さんだけじゃなく、芦田伸介さん、村井国夫さん、室田日出男さん、小林稔侍さん、神山繁さん、名古屋章さん、戸浦六宏さん、坂上二郎さん等々、エネルギッシュかつ俺ジナルな芝居をするオジサンが目白押しで、最年少の根津甚八さんすらあの渋さw ジャニーズ風の兄ちゃんが1人も出て来ないキャスティングが素晴らしい!



女優陣は岩下志麻さん&岸田今日子さんを筆頭に、辺見マリさん、中原ひとみさん、そして畑中葉子さんと、これまた艶のある方ばかり。まさにオトナの映画!

そんなワケでセクシーショットは、後ろから前から畑中葉子さんです。


 

コメント (9)
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