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『太陽にほえろ!』以降に登場した刑事ドラマを可能なかぎり網羅してきた「刑事ドラマHISTORY」も、2000年代に入っていよいよ本格的につまらなくなって来ましたw
私にとって「本当の意味での刑事ドラマ」は、フィルム撮影のテレビ番組が消えるのと歩調を合わせるように、ほぼ絶滅しました。
2019年現在テレビの地上波で放映されてる大半の刑事物は、刑事ではなく事件が主役であり、描かれるのは人間ドラマではなく謎解きゲーム。レギュラーの刑事にしろゲストにしろ登場人物は皆、ゲームを盛り上げるための駒でしかありません。
勿論、そういう番組があってもいい。謎解きゲーム自体を否定するつもりはないんです。ただ、猫も杓子もそればっかりになっちゃったのがつまんない。
昭和時代の刑事ドラマだって、当然だけど全てが面白かったワケじゃない。個人的な好みは度外視してもクオリティーにバラつきがあったし、俳優さんの演技力は全体的に見れば現在より劣ってたと思います。
だけど各作品に「個性」という何にも替え難い魅力があったんですね。『太陽にほえろ!』が若手刑事の成長をヒロイックに描けば、『Gメン'75』や『非情のライセンス』は大人のハードボイルドを描き、それならこっちは物量で勝負だとばかりに『西部警察』や『大激闘』がどんぱちアクションを強化する。
そもそも『太陽にほえろ!』という番組1つの中にもアクションの回、コメディの回、ロマンスの回と豊かなバリエーションがあり、謎解きミステリーもその枝葉の1つとして存在してました。
我々視聴者は自分の好みに合った番組をチョイスすることが出来たし、同じ番組でも回によって当たり外れがあることを楽しんでもいたと思います。
学校のクラス内で『太陽にほえろ!』派と『Gメン'75』派が対立したり、昨日観た回の内容について議論したり等は、たぶん現在じゃほとんど見られない光景でしょう。だって、どの番組のどの回を観ても同じなんだから。(そもそも若い世代がテレビを観なくなった事実はさておき)
もし『太陽にほえろ!』が毎週、山さん主役の謎解き物ばかりだったら、私が刑事ドラマにハマることは無く、従ってこんなブログも生まれなかっただろうと思います。
なぜ、そんな状況になっちゃったのか? 刑事物と共通点が多い時代劇の衰退理由を分析した新書『なぜ時代劇は滅びるのか』(春日太一 著) を読んで、その理由もだいたい分かりました。
思いっきり大雑把に要約すれば、やっぱり世の中に「余裕」というものが無くなったから。全てはそれに尽きるかと思います。
まずは深刻な不景気の影響で、特に制作費がかさむ時代劇は創られにくくなった。大半がフィルム撮影だった刑事ドラマが全てビデオ撮影になったのも、そして派手なアクションが描かれなくなったのも、まずはお金の問題。フィルム作品は画面が暗いから、アクション撮影は法的規制が厳しくなったから等、敬遠される理由は他にもあるんだけど、多分それは方便で結局はお金の問題。
でも、2010年代になって民放の連ドラから時代劇の枠が完全に消滅したのに対して、刑事物は逆に本数を増やしていくことになります。その運命の岐かれ目は何だったのか?
それは時代劇番組が「お年寄り向け」のイメージを自ら定着させてしまったのに対し、刑事物はテレビ視聴者の中心とされる層=20代~30代の女性たちを繋ぎ留めることに成功したから。そう、番組内容を彼女らが大好きな「謎解き」一色に統一させる事によって!
制作現場に余裕が無くなったことにより、若いスタッフやキャストたちをじっくり育てていくシステムが崩壊しちゃったのも大きな痛手で、特に時代劇は専門的な知識や経験を積まないと優れた作品を生み出せない。その点でも刑事物はまだ誤魔化しが利いたんでしょう。
つまり本来、刑事ドラマは時代劇と一緒にテレビから消えてもおかしくなかったんですよね。実際、私がいつも言う「本当の意味での刑事ドラマ」は絶滅したワケです。
ところがどっこい、臆面もなく女性視聴者に媚びを売りまくることによって、刑事ドラマは生き残った。それどころか、旬の人気俳優に謎解きさえさせれば数字が稼げる、しかもセットや小道具や衣裳はちょっと模様替えするだけで使い回せる=安くつくって事で、'90年代から長らく続いた冬の時代がまるで嘘みたいに、刑事物は爆発的に本数を増やして行きます。探偵物やリーガル物も含めて、日本のテレビ番組がやがて無数の謎解きドラマで溢れ返るという、私にとっては悪夢の時代が始まるワケです。
医療ドラマが大盛況なのも、多分ほとんど同じ理由です。斬新な番組を創るには、新しいフォーマット、新しい人材、新しいセット、新しい小道具、新しい衣裳を用意しなきゃならない=お金がかかる。現在のテレビ業界にはそんな余裕が無い。だから流れ作業で大量生産できちゃう、刑事物と医療物で穴埋めしとこうってワケです。
破滅です。
いや冗談抜きで、このまま進んでいけば確実に破滅は訪れます。いくら女性たちが謎解きや医者が大好きでも、似たような番組ばかり延々と見せられりゃ、当然いつか飽きます。もうそろそろじゃないですか?
あともう1つ、やたらクレームや悪評を恐れる(受け流すだけの余裕が持てない)制作姿勢も確実に作品から個性を奪ってます。誰からも文句を言われないよう無難に無難に作ってたら、そりゃどれも似たような内容になっちゃいます。刑事ドラマに限らず、現在の民放テレビ番組すべてに言えることです。
いま「刑事ドラマHISTORY」で取り上げてる2000年代の作品には、まだ『ルーキー!』や『特命!刑事どん亀』みたいな昭和スタイルの作品、『ケータイ刑事』や『富豪刑事』『時効警察』みたいなぶっ飛んだ作品など個性が感じられます。
中には『ジョシデカ!』や『シバトラ』みたいにトホホな作品もあるけどw、トホホと思えるだけまだマシなんです。だってそれは個性がちゃんとある証拠だから。
一番つまんないのは「可もなく不可もなく」ってヤツで、2010年代に入るとそんな作品がどんどん増えて来ちゃう。
もちろん『デカワンコ』みたいにチャレンジングな作品や『ジウ』みたいな珍作、『ドS刑事』みたいな失敗作も中にはあるんだけどw、おしなべて刑事ドラマはこれからどんどん無難に、ますますつまんなくなって行きます。乞うご期待!w
石川恋さんはグラビアでしか見たことなかったですが、しっかり演技されていて今後も注目していきたいです。
直前に出演されてた『記憶捜査』ではクールで理屈っぽいエリート刑事役で、それも違和感なく演じられてましたから、ほんとに大した役者さんです。