伝説となった『警視庁殺人課』最終回、すなわち「レギュラー全員殉職!」を「空前絶後でしょう」って前回書きましたが、実はそれに近いことを『大空港』が先にやってるんですよね。
放映開始から1年半で既に4人のレギュラーが殉職しており、更にこの最終回で2人……いや3人? いや4人!?
ずいぶんご無沙汰のレビューなので「空港特捜部」の最終メンバーをご紹介しておきます。さて、誰が死ぬんでしょう?
特攻隊の生き残りで独身を通してる「チーフ」こと加賀警視(鶴田浩二)。
「長さん」あるいは「薮さん」と呼ばれるナンバー2の薮下警部(田中邦衛)と、通信担当の海原刑事(高岡健二)、そして「バクダン」こと菊地刑事(黒沢年男)。
名射撃手の立野刑事(岡本富士太)と、最後の新加入メンバー「バッタ」こと紺野刑事(三浦浩一)。
そしてチーフにホの字の元SP「シスター」こと水島刑事(石川さゆり)。きゃわゆぅ〜い!
☆第77話&78話『空港特捜部よ・永遠に!』
(1980.3.17&3.24.OA/脚本=村尾 昭/監督=長谷和夫)
成田空港で、沖縄に送られる予定だった「戦没者合同慰霊塔」の建設資金6億円が強奪されます。
そのプロジェクトの理事長=大岡(安井昌ニ)は軍隊上がりで加賀チーフとは同期の桜。良き友人でもある彼が20年がかりで集めた、血の滲むような資金が強奪されたとあって、加賀チーフは怒りに燃えます。
そして捜査線上に浮かんで来たのは空港特捜部の宿敵=国際犯罪連合!
組織名に「犯罪」の文字を入れるだけあって、とにかく悪いことがしたくて仕方ないそいつらは、大岡邸を訪れた加賀チーフをとりあえず狙撃! なんて悪いことを!
それで瀕死の重傷を負い、緊急手術を受けることになった加賀チーフ。ところが天涯孤独のチーフには輸血を頼める家族がいない!
そこで名乗りを挙げたのが、以前よりチーフにラブラブ光線を送り続けてきた、我らがアイドル=シスター刑事!
「私、カラダの血、全部チーフにあげてもいいと思ってます。チーフの為なら死んでもいいと思ってます!」
お陰で命を取り留めたチーフに、今こそチャンスとばかりにシスターは想いをぶつけます。
「好きなんです。愛してるんです!」
「何を言い出すんだ。私たちは警察官だ。しかも私は、キミの上司なんだぞ?」
「そんなこと分かってます。チーフ、警察官なら人を好きになっちゃいけないんですか? 上司だから、それは許されない事なんですか?」
「そうは言ってない。しかし……」
「正直に言って下さい。チーフの正直な気持ちを聞かせて下さい!」
もうチョメチョメするしかない状況に追い込まれ、チーフはついに本音を吐露します。
特攻隊の生き残りであるチーフは、童貞のまま死んでいった仲間たちのことが頭から離れず、自分だけイイ思いをすることがどうしても出来ないと言う。
「古いと言われるかも知れない。頑なと言われるかも知れない。だけども、私にはそういう生き方しか出来なかったんだ。これからもずっと、そうだろうと思う」
「だからどうなんですか? それが、私がチーフを愛してはいけないって事になるんですか?」
「シスター、君はまだ若い。もっと似つかわしい、立派な若者が沢山いるじゃないか」
「チーフ! はぐらかさないで下さい! 私、チーフを愛してるんです! チーフとチョメチョメしたいんです!」
「シスターがチョメチョメなどと言ってはいかん!」
「じゃあ、ズッコンバッコンしたい!」
「ズッコンバッコンもいかーんっ!!」
↑セリフが不充分だったので私が補足しておきました。しかし、さすがは演歌の女王、情熱がハンパじゃない! ズッコンバッコン!
さて、事件の経過はまどろっこしいのでサラリと流しますm(_ _)m
国際犯罪連合が強奪したのは6億円だった筈が、実際は3億しか無かった。チーフと同期の桜である大岡理事長が欲をこき、犯罪連合の仕業と見せかけて残りの3億を隠し持ってた。引っ込みがつかなくなった犯罪連合は、チーフがそれに気づく前に抹殺しようとしたワケです。
で、ここで今回1人目の殉職者が出ます。正体を見破ったバクダン刑事が大岡を拘束し、連行しようとしたところ、早く悪いことがしたい犯罪連合に襲撃され、背後から弾丸を浴びて絶命! 彼にはシスターの輸血なし!
同期の桜に裏切られ、部下の命まで奪われたチーフは、3億円の在処を白状しない大岡を靖国神社へと連れて行きます。
「大岡、この社をまともに見ろ!」
「貴様、ここまで来ても気持ちが変わらんのか? 死んでいった仲間たちに、まだツバを吐くつもりか!?」
TVドラマに靖国神社が登場するのはレアじゃないでしょうか? 鶴田浩二さんご自身がいわゆる「特攻崩れ」であることを、この番組は初回からずっとストーリーに活かして来ました。最終回はまさに、その集大成。
で、ようやく大岡が3億円の在処を白状し、空港警察が押収するんだけど、もっと悪いことがしたい犯罪連合は決して諦めません。
ヤツらがしでかした次なる悪事は、なんと、幼稚園の送迎バスをジャックし、幼い子供たちを人質に取ることだった! またかよっ!?w(こっちの方が先だけど)
「撃つなら俺を撃て!」
ここで、悪党を装って犯罪連合に潜入してた立野刑事がたまらず飛び出して、望みどおりに撃たれ、チーフの目の前で絶命! 2人目です。
まだまだ悪いことし足りない犯罪連合のリーダー(椎谷建治)は、顔色ひとつ変えずに3億円プラス追加の2億、さらに逃走用の飛行機を要求して来ます。
「貴様ら……子供を1人でも殺してみろ、世界じゅうの人間を人質に取っても、必ず貴様らを殺してやるっ!!」
いよいよ堪忍袋の緒が切れたチーフから、こっそり最後のミッションを聞かされた薮さんは、顔色を変えます。
そう、特攻です。今度こそチーフは、自分の命を捧げようとしてる。
考えてみれば昭和ドラマの殉職エピソードって、大半が自己犠牲による人命救助ですよね。それをぜんぶ特攻隊に結びつけるのは無理があるけど、今回に限っては間違いないでしょう。
で、零戦替わりの覆面パトカーにミスターが乗り込もうとしたら、助手席にチョメチョメを待つあの人が座ってました。
「シスター、何してる? 降りろ」
「イヤです。私も一緒に行きます」
「バカなこと言うんじゃない、降りろ! これは命令だ!」
「私、もう、チーフを上司だと思っていません。上司だと思っていないんです。だから……だから一緒に死なせて下さい!」
「シスター……分かった。一緒に行こう」
走り出した覆面車に、犯罪連合の悪い銃弾が雨アラレのように降り注ぎます。まさにガントレット!
たとえチョメチョメしなくても、死に向かって心が1つになったチーフとシスターは、そのとき人生最高のエクスタシーを味わったかも知れません。ズッコンバッコン!
車ごとアジトに突っ込み、シスターをバスへと走らせ、チーフは1人で悪いヤツらと撃ち合います。
後方からの援護を頼まれてた藪さんも我慢できず、口を尖らせながら突入! しかし普段はなかなか当たらない敵の銃弾が、最終回だけ次々と2人に命中します。
一方、子供たちが待つバスに突入したシスターは、至近距離から悪党どもに弾丸をぶち込んでいきます。こんなに野蛮な石川さゆりは『大空港』以外じゃ見られない! ズッコンバッコン!
そして、シスターの運転によりバスが安全地帯に避難するのを見届けたチーフは……
ここでいきなり、だだっ広い平原に舞台がワープします。バラバラに散ったはずの3人がなぜか肩を寄せ合い、満身創痍となって歩いてる。
そこに、はるか遠くから2人の若い刑事が走って来て、口々にチーフたちの名前を呼びます。
「さあ、行こう……今日も、みんなが待ってる。俺たちは、命あるかぎり、空港を守らなくちゃならん」
なんだかシュールな締め括りだし、走って来る2人の刑事が(逆光で)誰だかよく判んないもんだから、私はてっきり、死んだバクダンと立野があの世から迎えに来たのかと思っちゃいました。
だから殉職者の数を「3人?4人?」って書いたワケだけど、よーく見れば走って来る2人は海原とバッタ、つまり生き残った刑事たちみたいです。
ってことは、セリフ通り、チーフたちはまた空港に戻ってバリバリ働くのか……
いや、あるいは、死にゆくチーフが最期に見た幻覚とも解釈できます。でないと、急に平原が舞台になった理由が説明できません。(単に撮影の都合だったりしてw)
いずれにせよ、最後はみんなで華々しく散ろう!っていうコンセプトは『警視庁殺人課』と同じですよね。両方に鶴田浩二さんが出演されてるのは、決して偶然じゃないかも知れません。
『太陽にほえろ!』から始まった刑事ドラマの「殉職」ブームも、ここまで来ちゃうと飽和状態。ほんと凄い時代でした。ズッコンバッコン!
今年でデビュー50周年だそうで。いつまでも若々しい方ですね。
「普段は当たらない敵の弾が命中!」の下り、めっちゃ笑いました。
見てる時は気にならないけど、そういう補正は必ず存在しますよねw
自分は最近、007の最終作見たんですが、よくよく考えたら四方八方から撃たれまくってるのに全然死なねーなとw
ようやく、ああいう死に方で天に召されたかと思ったら、無敵過ぎてw いや、むちゃくちゃカッコよかったですけどねダニエルクレイグ。
だけどダニエル・クレイグがすこぶる格好良かったことに異論はありません。最初のカジノ・ロワイヤルあたりは大好きです。
鶴田浩二さんと言えば、かつてNHKで放送していた「男たちの旅路」を思い出します。こちらも鶴田さん演じる主人公は「元特攻隊」でした。桃井かおりさんが想いを寄せるなど、似たような雰囲気がありました。
また、主人公のセリフにも説得力があり、心に残っています。セリフは脚本家の方が書くのでしょうが、演じる俳優さんのバックグラウンドによって、さらに力が増すのだと子ども心に思ったものです。
俳優さんのバックグラウンドが持つ力は
失礼しました。
『男たちの旅路』、大好きでした。鶴田さんが桃井さんに迫られる話もよく憶えてます。
『大空港』の鶴田さんは最後まで人格者だったけど、『男たちの旅路』の鶴田さんは親子ほど歳下の桃井さんに溺れてしまい、たしか最後は失踪しちゃうんですよね。カッコいい大人の男がぶざまに崩れていく様に、私は号泣しました。
「私は、若いヤツが嫌いだ」っていう鶴田さんの台詞にもメチャクチャ共感しました。私自身はまだ中学生ぐらいだったのにw まさに、演じるキャラと似たバックグラウンドを持ってる役者さんが言えばこその説得力でした。