1980年は、テレビ史上で最も刑事ドラマが熱かった年かも知れません。良く言えば百花繚乱、悪く言えば粗製乱造。
’72年から続く『太陽にほえろ!』を筆頭に『Gメン'75』『特捜最前線』『西部警察』『噂の刑事トミーとマツ』『大空港』『鉄道公安官』『走れ!熱血刑事』『大激闘/マッドポリス'80』『87分署シリーズ/裸の町』『非情のライセンス』『あいつと俺』『警視―K』と、その9割近くがアクション系の作品という激戦ぶり。
そんな時代を勝ち抜くため創り手たちが重視したのは、旬のスターをキャスティングするのは勿論、いかに他作品とは違った個性を打ち出すか?っていう命題だったに違いありません。
そこでテレビ朝日&東映コンビが4月にスタートさせたのが、全22話の痛快アクションドラマ『爆走!ドーベルマン刑事(デカ)』。
放映枠は月曜夜8時台、ライバル局のTBSが『水戸黄門』や『江戸を斬る』といった時代劇シリーズで安定した視聴率を稼ぐ、これまた激戦区。
その枠で勝負するなら、時代劇をあまり観ない若年層にターゲットを絞ろうって事で白羽の矢が立ったのが、ちょっと前に週刊「少年ジャンプ」で人気を博した原作=武論尊、描画=平松伸二による劇画『ドーベルマン刑事』なのでした。
☆第1話『黒バイ部隊出動す!』(1980.4.7.OA/脚本=四十物光男&田波靖男/監督=小西通雄)
ところがどうでしょう、実際に放送されたのは黒沢年男率いるライダー軍団が3頭のドーベルマン……ではなくシェパード犬と一緒にアスファルトジャングルを駆け廻るという、主人公の名前以外に原作との共通点が1つも見当たらない、まさに珍品中の珍品と呼べる番組。
’77年に公開された深作欣二監督&千葉真一主演による劇場版『ドーベルマン刑事』はストーリーこそ原作無視だったけど、劇画に負けないバイオレンス描写で一応の面目は保ってました。
けど、こちらは夜8時台の若年層向けテレビ番組ですから、設定から何から全て再構築する以外にすべが無かったんでしょう。
そうして生まれたテレビ版のオリジナル設定、警視庁・晴海分署「黒バイ部隊」の隊長を務める主人公=加納錠治に扮したのが、『兄弟刑事』『大空港』の黒沢年男(現・黒沢年雄)。
黒バイ部隊随一のイケメンで元・白バイ隊員の矢部雄二に、『おやこ刑事』の名高達郎(現・名高達男)。
本作の直後、名高さんは『ザ・ハングマン』シリーズでも黒沢さんと共演することになります。
続いて第2のイケメン枠を担う若手隊員=酒井一郎に、『刑事くん(第5部)』『鉄道公安官』『大都会 PART III』の星正人。
二枚目半キャラの若手隊員=加山晴彦に、アイドルグループ「ずうとるび」で人気を博した新井康弘。
黒バイ部隊の紅一点で警察犬たちの世話係も務める白鳥冴子に、『熱中時代 刑事編』の神保美喜。
空手アクション担当の平田京介に、『仮面ライダー』『ロボット刑事』の矢吹二朗(別名義は千葉治郎で、JAC総師=千葉真一さんの実弟)。
黒バイ部隊の創設者である晴海分署の署長=西谷正道に、『東京バイパス指令』『Gメン’75』の夏木陽介。
庶務・経理担当で黒バイ部隊のお目付け役=森 鉄之助に、元 ザ・ドリフターズの荒井 注。
そして黒バイ部隊に協力する本庁・特命刑事課の美しき女豹=五十嵐 薫に、『燃える捜査網』『大非常線』『夜明けの刑事』『明日の刑事』『噂の刑事トミーとマツ』の、志穂美悦子。
さらに警察犬のアレックス、シーザー、バロンが黒バイ部隊にこき使われ……いや、率先して常に全力疾走の大活躍!
この番組の刑事たちは犬をバイクで追い回すだけでラクそうだけど、『太陽にほえろ!』のテキサス(勝野 洋)やボン(宮内 淳)は一緒に走ってましたよね、シェパードと。今思えばクレイジーとしか言いようありませんw
そもそも犬をこんなに走らせるだけで現在なら動物虐待とか言われちゃいそうです。
兎にも角にもこの疾走感&スピード感こそが『爆走!ドーベルマン刑事』最大の売りであり、魅力でもあります。走るのは犬とバイクであって人間はサボってるけど、スタントマンたちはきっと命懸け。
↑なにせこういうバイクアクションが毎回登場しますから、スタントマン冥利に尽きるってもんでしょう。バイク好きの視聴者にとっても“美味しい”ドラマだったかも?
初回のストーリーは、未婚のヤングママが何者かに赤ちゃんを拉致されるシーンで幕を開けます。そのママに扮したゲストは前年から『鉄道公安官』『Gメン’75』『太陽にほえろ!』『特捜最前線』『噂の刑事トミーとマツ』等と刑事ドラマに出まくってる、谷川みゆきさん。
そして、みゆきさんと毎晩チョメチョメして子供を産ませながら、ビビって父親になることから逃げてるアホ青年を演じたゲストが、当時いよいよ主演級スターに羽ばたく寸前だったJACの若きエース、真田広之さん。
黒バイ部隊が赤ちゃんの行方を探してるワケだけど、そのアホ青年がなぜか捜査に協力してくれない。
そこで国際的な「逃がし屋」組織を捜査してた本庁の五十嵐刑事が合流してきます。
ということは、赤ちゃん誘拐事件に逃がし屋組織が絡んでる。そして赤ちゃんの父親であるアホ青年は、映像業界でスタントマンを務めるほどの凄腕ライダー。
そう、組織は刑務所に護送される予定の大物犯罪者(今井健二)を海外へ逃がすため、赤ちゃんを人質に取ってアホ青年に協力させようとしてる。
アホなもんで組織の言いなりに動く青年のバイクを黒バイ部隊が追跡し、放置された赤ちゃんの行方を警察犬たちと白鳥刑事が捜索します。早く見つけないと赤ちゃんが死んじまう!
バカ正直に大物犯罪者を港まで運んだアホ青年は、当然ながら口封じに殺されそうになります。
が、悪いことは出来ません。あまりに卑劣なやり方で海外逃亡を謀った犯罪者たちは、まず黒ずくめのアフロ男に鬼の形相で追い駆けられ……
ナナハンの黒バイにも追い回されて撥ね飛ばされ……
あまりに動きが速すぎて静止画だと何をやってるのか判んない、悦ちゃんの女必殺拳を300発ほど浴びて……
サニー千葉の弟には絞首され……
後のハングマンには腕をへし折られ……
最後はやっぱり黒ずくめアフロにタコ殴りされた挙げ句に踏みつけられ……
鬼の形相で恫喝されて、赤ちゃんの居所を吐いちゃうのでした。
これが真の意味での“刑事ドラマ”です。謎解きだの人情だの言ってる間に弱者の幸せが奪われちゃう。目には目を! 暴力で人を傷つけた輩には百万倍の暴力を!
あの頃、西部署の団長(渡 哲也)も、マッドポリスのキャップ(渡瀬恒彦)も、殺人課のミスター(菅原文太)も、四機捜の“加納”主任(杉 良太郎)も、そして走る熱血お祭りサンバ男(松平 健)でさえも、卑劣な悪党には容赦ない体罰を徹底的に与えてました。そりゃもうしつこいほどに!
現実にはそんなこと、誰にも出来やしません。だからせめてフィクションの世界で憂さを晴らしてもらう。それが刑事物だったりチャンバラ物の役目だった筈なんです。
閑話休題。意外と少ないかも知れない、志穂美悦子&真田広之のツーショット。
そして意外と背がちっちゃい真田さん。それでも長年ハリウッドで活躍されてるんだから、やっぱり凄い。こんなアホな役はもう二度と演らない事でしょうw
黒バイ部隊&警察犬たちの活躍により、赤ちゃんは無事に救出され……
目が覚めた青年はアホを卒業し、ようやく父親になる覚悟を決めるのでした。
いや〜凄い。まさに理屈抜き! どういう経緯で黒バイ部隊が生まれ、なんで警察犬が常駐してるのか、説明はいっさい無し! そして何より、原作の要素が1ミリたりとも残ってない!
そんな事どーでもいい、とにかく痛快でスピーディなアクションを見せる為の番組なんだよ!っていう潔さ。
だから、ここであらためて語るべきことも見当たりません。面白い!の一言です。こんな事やってる番組、ほかにありませんから。
10年以上前にCATVで観た時は「やたら芝居が熱いなあ」「テンション高いなあ」ぐらいしか思わなかったのに、ひたすら謎解きしかしない無個性な刑事ドラマ群(の団子レース)を何年も何年も何年も見せられてきた現在は、とっても眩しく感じられます。
比較論を始めると愚痴にしかならんのでやめときますが、つくづく「ええ時代やったなあ」って結論にならざるを得ません。
セクシーショットは白鳥刑事役の神保美喜さんです。
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