1988年に私が出演した大ヒット作だ。クレジットは私がトップ、二番手がシガーニー・ウィーバーになっているが、実質上の主役は三番手のメラニー・グリフィス。ショウビジネスの世界じゃよくある話さ。
監督は『卒業』等で知られる名匠マイク・ニコルズ。彼とは’91年の『心の旅』でも組む事になるが、実に素晴らしい監督だ。
素晴らしいと言えばカーリー・サイモンが担当した音楽もそうで、大ヒットした主題歌はオスカーやゴールデングローブの最優秀主題歌賞にも輝いている。
ニューヨークのウォール街にある大手証券会社に勤めるテス(メラニー・グリフィス)は、才能と根性は人一倍なんだが、なまじ色気のある若い女性ゆえの偏見と差別、要は男社会におけるパワハラとセクハラによってロクな仕事を与えてもらえない。
同僚男性から得意先の幹部を紹介してやると言われて会ってみれば、相手は100%セックスが目的のエロオヤジだったりする。この、オヤジと呼ぶにはまだ若い、だけど頭髪は寂しいエロガッパを演じているのが、まだメジャーになる前のケビン・スペイシー。今となってはシャレにならないキャスティングだ。
昨今、日本でもパワハラやセクハラがやたらクローズアップされ、ドラマでも描かれているが、あれはどうにも辛気臭いのが難点だ。シリアスな問題をそのままシリアスに描いても、観る側は居心地悪くなるだけで効果的とは言えない。
その点、テスはすぐさまエロガッパにシャンパンをぶっかけて反撃し、仲介した同僚男性の悪口を株式市場の電光掲示板に流してリベンジする等、ユーモアも交えながら鬱憤をしっかり晴らしてくれる。
もちろん、そのせいでテスは異動を命じられるワケだが、シリアスに描いてもユーモラスに描いても、観る側の共感度はそれほど変わらない。むしろ、メソメソ泣いてるだけのヒロインよりも、後先考えずに行動を起こすヒロインの方を応援したくなるってもんだ。
それはアメリカ人だろうが日本人だろうが宇宙人だろうが関係ない。冒頭の約10分で見事、テスは観客のハートを掴む事に成功したワケさ。
さて、テスが異動で回されたのは、やり手の新任幹部キャサリン(シガーニー・ウィーバー)の秘書というポジション。
見かけはオープンで気さくなキャサリンは「遠慮しないでアイデアはどんどん提案してね」なんて言ってくれるもんだから、テスは顧客にラジオ局買収を勧めるとっておきのアイデアを彼女に持ちかけるんだけど、数日後には「顧客に断られたわ」との返事であえなく撃沈。
ガッカリしたテスがいつもより早い時間に帰宅すると、同棲中の恋人(アレック・ボールドウィン)が他の女と合体の真っ最中。裸で抱き合ったまま「いや、俺達そんな関係じゃないんだ」なんて(笑)、ムチャな言い訳をする彼氏にまたガッカリ。
このアレック・ボールドウィンと私は何かと因縁があって、まず『ワーキング・ガール』で私が演じるジャック・トレーナー役は当初、アレックが候補の筆頭だったんだが、私が引き受けたせいで彼は脇役に回された。
その翌年、トム・クランシー原作の『レッドオクトーバーを追え!』では私がジャック・ライアン役のオファーを(脇役だったから)断った代わりに、アレックがライアンを演じて注目を浴びた。
ところがライアンシリーズ第2弾『パトリオット・ゲーム』(’92)ではアレックがスケジュールやギャラ等の問題で製作側と揉めた末に降板し、私が(今回は主役の)ライアン役を引き継ぐ事になり、第3弾『今そこにある危機』(’94)へと続いていく。
更に『逃亡者』(’93)の主人公リチャード・キンブル役もアレックに決まりかけたのが頓挫し、私が演じる結果になった。私とアレックとじゃ年齢もキャラクターも随分違うと思うんだが、不思議な縁もあるもんだ。
さて、仕事もプライベートもどん詰まり状態のテスに、思わぬ転機が訪れる。上司のキャサリンがスキーで骨折し、入院してる間オフィスを任される事になるんだが、死んだら驚いた!
いや、別に誰も死んでないんだが、なんとテスが提案したラジオ局買収の企画が、キャサリン自身のアイデアとして極秘裏に進んでいたのだ。
やられた! 騙された! 怒り心頭のテスは、逆にそれをチャンスに転換すべく行動を起こす。秘書である身分を隠し、キャサリンと同格の幹部を装って、ウォール街の実力者ジャック・トレーナー(ハリソン・フォード)と連携していく。
映画が始まってから約35分、ここでようやく私が登場するワケだ。ストーリーはあくまでテスvsキャサリンのビジネス戦争であり、私は言わば脇役なんだが、以前からロマンチックコメディは是非やりたかったし、監督がマイク・ニコルズとなればオファーを断る理由が無い。
しかもジャック・トレーナーはキャサリンの恋人であり、テスともやがて恋に落ちる相当な二枚目役だ。こんなにモテモテで格好良いハリソンは、現実にはこのブログを書いてるハリソン君ぐらいしかいないからね。
ジャックはテスのキュートさに惹かれながらも、あくまで仕事のパートナーとして企画を進めていく。テスもまたジャックに惹かれながら、自分本来の身分を偽ってる負い目がある。
そんな2人の距離感が、企画が進むにつれ縮まっていき、ついにGoサインが出た瞬間に想いが爆発して結ばれるに至る、そのプロセスの描写が実に丁寧で素晴らしい。
その結ばれる……つまりチョメチョメする場面にしても、ジャックが野性的に格好良くYシャツを脱ぎ捨てようとしたら、袖口がキツくてなかなか脱げなかったりして(笑)、全てのシーンにユーモアを欠かさない演出がまたエクセレントだ。
ところが、いよいよ顧客との会合で契約がまとまりかけた所に、秘書の裏切りを知ったキャサリンが乱入して来る。身分を偽っていたテスはその場でプロジェクトから外され、クビを宣告されてしまう。
キャサリンと別れて、人生においてもテスとパートナーになろうと思っていたジャックだが、さすがに彼女がキャサリンの秘書だった事実にはショックを受ける。
仕事もパートナーも卑怯な上司に奪われたテスは、このまま再び負け犬人生を送って行くのか? そこはやっぱりハリウッド映画だから、最終回ツーアウトからの逆転満塁ホームランが待ってるワケだが、そこは是非ともDVDやBlu-rayで確認して頂きたい。
現実には有り得ない話かも知れないが、それを如何に有り得るように見せるかが映画の醍醐味ってもんだ。この『ワーキング・ガール』はコメディでありラブストーリーでもありながら、サクセスストーリーとしてもパーフェクトな出来映えだと私は思う。
キャストも本当に素晴らしい。メラニー・グリフィスはそのキャリアで最高の当たり役だったし、何と言ってもシガーニーが実に楽しそうに悪役を演じてる。それだけでも一見の価値があるだろう。
更に、テスの親友シンを演じるジョーン・キューザックの存在感がまた素晴らしい。奇抜なキャラクターと卓越したユーモアで花を添える、日本で言えば小林聡美や室井滋みたいな存在だね。
奇抜と言えば、バブル真っ盛りの’80年代ファッションやメイクアップがまた、今観ると物凄い事になっている(笑)。その辺りには非常に時代の流れを感じるが、映画そのものは全く古びていない。
むしろ、夢を抱きづらい今の時代にこそ、こんな映画を観て元気を取り戻して欲しいと思う。もちろん若かりしハリソン・フォード、その一世一代の二枚目役にも是非、注目して頂きたい。
私のゴーストライターであるハリソン君も、この映画だけは絶対観て損は無し!と絶賛していたよ。実は彼こそが本物のハリソン・フォードだから、これは本当に間違いない。
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