ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『太陽にほえろ!』#385

2020-08-19 23:23:08 | 刑事ドラマ'70年代









 
☆第385話『死』(1979.12.14.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=児玉 進)

前回のサブタイトルが『命』で、今回が『死』ですよw 作品としてはそれぞれ力作で見応えあるんだけど、とにかく刑事たちの躍動こそを求めてた当時中学生の私にとって、この暗~い2連発は本当にキツかったです。

特にこの#385はメガトン級に重い内容で、もしかすると『太陽にほえろ!』全エピソードの中でも一番の問題作かも知れません。

でも、繰り返しますが、作品としては決して悪くないんです。出来るだけ重苦しくならないように書きますので、是非とも読んで頂きたいです。


歯科医の息子で浪人生の清(三輪和蔵)が誘拐され、両親に3千万の身代金を要求する電話がかかって来て、藤堂チームが始動します。

すると、かつて清が家庭教師を務めた先の娘で小学生の圭子(中島香葉子)が、怪我をした清が怪しい男に車で連れ去られる現場を見たらしいと、圭子の母親(執行佐智子)から連絡が入ります。

殿下(小野寺 昭)と長さん(下川辰平)が圭子と一緒に現場へ行ってみると、確かに大量の血痕があり、鑑識の結果、それが清の血液であることも確定されます。

刑事たちの捜査により、歯科医である清の父親の患者だった桑山(金井進二)が有力容疑者として浮上、彼が借りてたレンタカーからも清の血痕が発見され、容疑はほぼ確定します。

そして、清の遺体が八王子で発見されます。恐らくレンタカーで清をはねてしまった桑山が、清の学生証を見て歯医者の息子であることに気づき、遺体を埋めた後で身代金を要求したんだろうと刑事たちは推理します。

そこで、圭子から桑山らしき男に追いかけられた!という電話が七曲署に入ります。桑山はしっかり圭子の顔を憶えていたのでした。

急遽ボディーガードを務めることになった殿下は、行動を共にする内に圭子と、その母親の意外な一面を知ることになります。

それは、死んでしまったペットの熱帯魚に対する、彼女たちの反応。圭子は台所にあった食器の皿にその死骸を捨て、母親は「臭いが付いちゃうでしょ!」という理由で娘をたしなめ、ゴミ箱にポイしちゃったのでした。これが衝撃のクライマックスへの重要な伏線になってます。

さて、事件は急転直下。桑山は通りがかりの軽トラに放火して殿下の眼を逸らし、まんまと圭子を拉致しちゃうんだけど、なぜか清が拉致されたのと同じ場所で、遺体となって発見されます。そこは建築中のビルの下で、どうやら桑山は7階から転落したらしい。

そして、圭子はケロッと無事に戻って来ます。殿下は、厭な予感を覚えるのでした。

ビルの7階を調べてみると注射器が残されており、覚醒剤が検出されます。桑山が使ったものかと思いきや、注射器からは清の指紋が発見された!

監察の結果、清は車にはねられて死んだのではなく、桑山と同じようにビルの7階から転落して死んだことが判明。すなわち、清も桑山も同じビルの同じ場所から転落して死んだことになるんだけど、そんな偶然が果たしてあり得るのか?

殿下は、死んだ熱帯魚のことを思い出します。もしかして、そんな……そんなバカなことが?

「圭子ちゃん……あの時、あのビルの7階にいたんだね? 清くんと一緒にいたんだね?」

「…………」

恐らく、浪人生活のストレスから逃れたくて覚醒剤を使ってた清が、クスリの作用によって錯乱し、圭子に……そして!

「清くんを突き落としたのは、圭子ちゃんなんだね?」

「……つまんない、遊園地に行く!」

急に不機嫌になった圭子を、殿下は遊園地にしてはやけに地味な施設へと連れて行きます。

「なあに、ここ?」

「監察医務院と言ってね、人間が変わった死に方をすると、ここへ連れて来られるんだ」

「遊園地の方がいい!」

そりゃそうでしょうw だけど殿下は、心を鬼にして圭子を霊安室へ連れて行きます。そこではちょうど、薬を飲んで自殺した青年の母親と妹が、遺体にすがりついて号泣する修羅場が展開されてました。それを見て圭子は衝撃を受けます。

さらに殿下は、例のビルの7階に圭子を連れて行きます。

「お母さんや妹さん、友達のみんなが、あんなに悲しい思いをすると分かっていたら、彼だって、きっと自殺なんかしなかったと思うんだ。彼は、死ぬってことがどんなことか、よく分からなかったんだな」

殿下の言葉を理解しているのかどうか、黙って石を積み上げて遊ぶ圭子の表情からは読み取れません。

「オモチャは、壊れたら新しいのを買ってもらえる。だけどね、人間の命っていうのは、かけがえの無いものだ。オモチャのように新しいものに取り替えたりすることは出来ないんだよ」

殿下は辛抱強く、あくまでも穏やかな口調で圭子に語りかけます。

「熱帯魚にだって、命はあるんだよ? 生きものが死ぬっていうのは、悲しいことなんだ。とてもツラいことなんだ」

そこでようやく、圭子が口を開きます。

「……清お兄ちゃん、怖い眼で睨んだの。誰にも言うなよって、とっても怖い顔で言ったの。だから……」

「だから?」

「お兄ちゃんが帰ろうとした時、背中を押したの」

「…………」

そして圭子は、拉致しようと迫って来た桑山もこの7階まで誘き寄せ、物陰に隠れて背後から忍び寄り……

「怖い顔するんだもの! 怖い顔するんだもの!」

そこで初めて、圭子が涙を流します。自分がやったことの意味が、ようやく理解出来たんでしょう。

真相を聞かされた圭子の両親は、8歳の子供を2日間も取り調べるとは何事だ!と殿下に抗議します。突き落としたら人が死ぬってことが、圭子は子供だから分からなかったんだ、というのが両親の主張なんだけど、殿下は毅然とこう返します。

「いえ、知っていました。突き落とせば人が死ぬことは、ちゃんと知ってました。知らなかったのは、死というものの意味です」

いいや、情操教育はちゃんとして来た!と言い張る両親に、殿下は言います。

「でも、人の命については何も教えませんでしたね? 生きものの命すべてについてです」

そう、あの死んだ熱帯魚の扱い方に、全てが象徴されてました。この両親の情操教育には、たぶん肝心なことが抜け落ちてた。

両親との長い面談を終えた殿下を、ボス(石原裕次郎)がねぎらいます。

「分かってくれたか?」

「はい。教護院に送られることは納得してくれました。それから、あの子は今、人を殺した罪をハッキリ自覚していることも、分かってくれました」

「そうか……分かってくれたか。よかったな、殿下」

「はい……」

いつものコミカルなBGMは無く、バラード曲も流されず、異例の静けさでこのエピソードは幕を下ろしました。


これは当時、実際に小学生による殺人事件が起こり、世間に衝撃を与えたことを受けて、生真面目な『太陽にほえろ!』スタッフの皆さんが考えに考えた末、再発防止に向けた1つの提言として世に放たれた作品。その言わんとすることは全て、殿下の台詞に集約されてると思います。

この切実なメッセージに、私は大いに同意します。もちろん現実に起こる低年齢者の殺人事件には、もっと多種多様で複雑な原因があるんだろうけど、大人が「命」についてちゃんと教えてない、あるいはその大人自身がふだん考えてないっていう例はかなり多いんじゃないかと思います。

私自身、父親は小学校の教師だったけど、そういうことをしっかり教わったような記憶はありません。(私がバカだから忘れてるだけかも知れないけど)

「命」について私が初めて深く考えたのは、自分の通ってた小学校で『蜘蛛の糸』の絵本が回覧された時だったと思います。それまではけっこう残虐な方法で無意味に虫を殺したりしてたのが、まぁ明らかな害虫は別として出来なくなりました。

その他の道徳的なことも、親じゃなくてテレビや漫画、それこそ『太陽にほえろ!』から大半を教わったような気がします。わざわざ教えなくてもそれくらい解るだろうって、親は意外と思い込んじゃうもんなのかも知れません。

でも、実際はちゃんと教えなきゃ子供は解らない。解らないまま大きくなったら、取り返しのつかないことをやらかしちゃう可能性はかなり高いでしょう。

だから、その警鐘を鳴らすことには大いに意義があると思います。今回のエピソードは子供に対してじゃなく、その親たちに対する強いメッセージ。大人向けの番組を目指す当時の『太陽にほえろ!』の制作姿勢がここにも如実に表れてます。

だけど当時の私は中学2年生、まだまだガキンチョです。メッセージの意味を理解したかどうかは憶えてないけど、毎回続く暗い作風に死ぬほどウンザリしてたのだけは確かです。

いや、もしかすると私がウンザリしてたのは作風じゃなくて、必要以上に複雑な作劇の方かも知れません。今回『秋深く』『命』『死』と続けてレビューして来て、いずれも事件の構造がやたら入り組んでるもんだから書いててホント疲れました。

もっとシンプルにした方がテーマは伝わり易いだろうと思うんだけど、これも番組が大人向けを意識しすぎた結果なのかも知れません。こんなのが毎週続いたら、そりゃ浅いファンはどんどん離れて行っちゃいます。当たり前です。

今回はそれに加えて、8歳の女の子が2人の人間を死に追いやっちゃうヘビーな内容。いずれも正当防衛という救いどころはあるにせよ、その罪を自覚した彼女がこれから一体どんな人生を歩んでいくのか、想像すると胸が締めつけられます。

圭子を演じた中島香葉子さんがまた、この世代の子役としては非常に上手いんですよね。かといって最近の子役ほど上手すぎないのがかえってリアルで、だから余計に胸が苦しくなっちゃう。

如何でしょうか、皆さん。この時期の『太陽にほえろ!』がどんな感じだったか、それをコメディ&アクション好きの私が毎週どんな気持ちで観ていたか、よく解って頂けたんじゃないかと思います。

一方ではトミーとマツが弾けまくり、団長がショットガンをぶっ放し、Gメンが香港でブルース・リーしてたワケです。時代は明らかに軽妙洒脱&荒唐無稽な方向へと進む中、『太陽にほえろ!』よ、どこへゆく?          
 


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2 コメント

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衝撃 (懐かしドラマー)
2022-04-28 00:20:22
刑事ドラマで検索してこのブログを知りました。
衝撃的な内容で驚きました。
詳しいご紹介ありがとうございます。
ひとつ気になった点があります。
錯乱した清は圭子を性的に乱暴し、それで「怖い顔」で脅して口封じしたのでしょうか?文脈だとその可能性があるですが、当時の太陽でもさすがにそれは無いかな?と思いますが、そうでなければドラマとはいえあまりにも圭子がかわいそうになってしまします・・。
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Unknown (harrison2018)
2022-04-28 00:42:22
レビューしてからかなり日数が経ってるので細かい部分は憶えてないのですが、さすがに『太陽にほえろ!』なので性的な行為を匂わせる描写は無かったと思います。

が、そこを具体的に描かなかったという事は、多分そういう解釈で合ってるんでしょうね。ほんとに残酷な話です。
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