ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『HOUSE/ハウス』

2018-12-26 00:00:05 | 日本映画









 
映画ファンなら知らない人はいないであろう、1977年に公開された大林宣彦監督の劇場映画デビュー作です。

夏休みに田舎を訪れた7人の少女たちが、宿泊した屋敷の家具に次々と食べられちゃうという、まさに人を食ったようなお話のホラーファンタジー映画。

オシャレ(池上季実子)、ファンタ(大場久美子)、ガリ(松原 愛)、クンフー(神保美喜)、スウィート(宮子昌代)、メロディー(田中エリ子)、マック(佐藤恵美子)と、7人の少女にそれぞれのキャラを表した片仮名ニックネームがついてるのは、もしかすると当時人気絶頂だった『太陽にほえろ!』をパロったのかも?(後の大林映画『金田一耕助の冒険』でも刑事たちが太陽に向かって吠えたりします)

とにかく遊び心に溢れた映画で、随所に寒いギャグが仕込まれてるしw、意図的にリアリティーが無視され、テーマらしきものも見当たらない。少女たちが家に食われる、ホントただそれだけの映画なんですよねw

ゆえに賛否両論、こんなの映画じゃない!って怒る観客も少なからずいた一方で、辛気臭くて説教臭い当時の日本映画に辟易してた観客、特に子供たちから熱狂的な支持を受け、結果的には大ヒット。現在じゃカルト映画として海外でも高く評価されてます。

私自身は、ある程度カルトも楽しめる年齢になってからの初観賞で、何もかもが「過剰」な演出といい、徹底して「手作り感覚」の特撮といい、とにかく「普通じゃない」大林監督の感性がめちゃ面白い!って思う反面、あまりにシンプル過ぎる内容に眠気を抑え切れないのも、まぁ正直なところ。

だから後の尾道三部作ほど好きにはなれないんだけど、当時まだ新人だった池上季実子さんや松原愛さんの初々しいヌード、そして神保美喜さんのショートパンツからはみ出たプリっプリのお尻&白い生脚には、萌えますw なにせ大林監督は「脱がせ」名人としても知られる方です。

そういうことも含めて、いきなりデビュー作からやりたい放題やられたイメージが強いけど、大林監督ご自身がデビュー作で本当に撮りたかった映画は、なんと『花筺(はながたみ)』なんだそうです。

そう、大林監督が余命半年のガン宣告を受けながらも撮影を続行し、完成させた最新作。不謹慎ながら遺作になるかも知れない映画に、大林監督はデビュー時に実現出来なかった企画を蔵出しされたワケです。

'77年当時の邦画界は既に斜陽のどん底で、『花筺』みたいに地味でヒットの見込みが薄い企画は、まず通らない。で、世界的に大ヒット中だった『ジョーズ』みたいな企画ならどうだ?って事で、大林監督が当時13歳だった娘さんとアイデアを出し合って生まれた企画が、この『ハウス』なんですね。

ところが、いったん企画を通した筈の東宝が、なかなかGOサインを出してくれない。業を煮やした大林監督は、フットワークの軽いニッポン放送に企画を持ち込み、豪華キャストによる長時間ラジオドラマの『ハウス』を生放送。更に複数の人気雑誌でマンガ版『ハウス』を連載させる等、当時の邦画界じゃ前例が無かった「メディアミックス」の手法で話題を作り、会議室の連中の重すぎる腰を遂に上げさせた。

作家性の強さが印象深くて見落とされがちだけど、実は戦略に長けたプロデューサーとしても、大林宣彦という人はずば抜けてたワケです。自ら積極的にメディア露出される映画監督としても先駆者ですよね。

で、そんな大林さんのやり方に強く共鳴し、いち早くタッグを組もうと名乗り出たのが、このあと邦画界を席巻することになる時の風雲児=角川春樹さん。それが『金田一耕助の冒険』や『ねらわれた学園』『時をかける少女』等へ繋がっていくワケです。

それもこれも『ハウス』というチョー個性的なデビュー作があればこそで、もし大林さんが希望通りに『花筺』で劇場デビューされてたら、映画監督としての立ち位置はかなり違ってたかも知れません。

だから、今こそあらためて「反戦」のメッセージを伝えたい気持ちと同時に、もしかすると「あの時『ハウス』を撮らなかった大林宣彦」っていうパラレルワールドの自分を見てみたくて、大林さんは『花筺』の映画化を40年越しで実行されたのかも?

ガン宣告はクランクイン直前に受けたみたいなので、企画段階じゃ「これを遺作に」なんて意図は無かったでしょうが、一ファンとして絶対に見逃しちゃいけない作品であることは間違いなさそうです。

思えば、我らが多部未華子さんの劇場映画デビュー作(宮部みゆき原作『理由』)も、大林監督が撮られたんですよね。そして日本映画のマイ・フェイバリット中のフェイバリット『さびしんぼう』も。

本当に偉大なクリエイターです。私にとっての「日本を代表する映画監督」は、黒澤明さんでも小津安二郎さんでも宮崎駿さんでもなく、大林宣彦監督です。
 

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