最終回だと言うのにスペシャル感が無くて「当時は物足りなく感じた」って書きましたけど、この時の裕次郎さんの(健康な頃に比べて)やつれたお姿をあらためて見ると、かなり無理をされて最終回に駆けつけてくれたんやなあって、それをスペシャルと言わずして何と言う?って、今は思います。
声もかなり弱ってる感じがしますからね。あの大手術の時(’81年)以来、身体を冷やさないよう真夏でも足元にストーブが欠かせなかったそうですから、我々が想像する以上に身体は弱っておられたのでしょう。
それを前提にしてこの最終回を観ると、ボス(石原裕次郎)は満身創痍を通り越して……不謹慎な言い方かも知れないけど……既にこの世にはいない存在、ぶっちゃけ幽霊みたいに感じちゃうのは私だけでしょうか?
だって、橘警部(渡 哲也)が刑事部屋に入って来たら、誰もいない中でポツンとボスの後ろ姿があるんですよね、黄昏時にw
瀕死のブルース(又野誠治)と引き換えに自らの生命を天に差し出した、ボスの魂だけが七曲署に帰って来た。だから次の週にはもういないんですよ!(係長役は奈良岡朋子さんにバトンタッチ)
まぁ、そんなワケないんだけどw、裕次郎さんが最終回の撮影に駆けつけてくれた背景には、それに匹敵する位の執念があったように私は推察します。だからこそ伝説になり得たんじゃないかと……
「ブルースが撃たれたそうだな」
「はい。申し訳ありません」
「で、ブルースの行方は?」
「…………」
『さよなら西部警察(PART III 最終回)』以来となる、そして最後の裕次郎さんと渡さんの共演です。藤堂ボスと橘警部はかつて、別の署で先輩後輩の関係だった……なんて設定も要らない位、このお2人の信頼関係ってのは誰もが認識してましたよね。
覆面パトカーの無線でボスの帰還を知ったドック(神田正輝)は、無邪気に喜びます。
「ボス? お帰りなさい、ボス! ヤッホー!!」
「……おかしくなっちゃったんじゃないの」
助手席にいるDJ(西山浩司)は、まだ藤堂ボスとは面識が無いのです。
「いや、でもねドック。ボスが帰って来たって事は、橘警部は本庁に戻るという事ですよねぇ?」
「!? ……そりゃあ、そうだけどよ……何とかなんねえか?」
「いや、なんねえかって……俺、警部と一緒に七曲署入ったから……」
この場面、DJが続けて「まさか俺もお払い箱?」みたいな台詞を言ってたのが、編集でバッサリ切られちゃった感じです。
この最終回は異常なほどハイテンポで、恐らく脚本の5分の1くらいは(撮影したのに)編集でカットされてるんじゃないかと思います。なぜ、そんなに刈り込む必要があったのか? それは後々のシーンで判ります。
さて、ブルース襲撃に協力した恩田の記憶によるモンタージュ写真が役に立ち、ようやく主犯の正体が判明しました。ブルースを罠に嵌めて拳銃で撃ったのは、津坂 久という若い男。
3年前に西署管内で宝石店強盗をやらかし、当時まだ巡査だったブルースに腹部を撃たれたのが、その津坂の兄=肇だった。傷を負ったまま共犯者と2人で逃走した肇は、潜伏した何処かで息を引き取った。
その遺体を故郷の山梨県に埋葬したのが、弟の津坂久。瀕死のブルースを何処かの部屋に放置し、ただ黙って見物していた津坂が、ようやく口を開きます。演じてるのは、若き日の遠藤憲一さん。
「そうやってさ、俺の兄貴も苦しみ抜いてたんだよ」
「兄貴……?」
「お前の撃った鉛の弾でな」
「……津坂……肇か」
「誰が撃ったのか警察は公表しなかった。だけどやっと判ったよ。兄貴撃ったのお前だ。兄貴はお前と同じようにさ、腹から血ぃ出して、苦しみながら死んでったんだ。地獄の様だった……」
「……津坂を……故郷に埋めたのお前か……」
「あん時、俺にはそれしかしてやれなかった。兄貴を埋葬しながらさ、俺は誓ったよ。撃った警官突き止めて、この手で復讐してやるってな……必ず」
ブルースが撃たれた場所(廃屋)も被弾した箇所も、3年前の肇と全く同じ……という事は、今ブルースが監禁されてる場所も、かつて肇が潜伏して息を引き取ったのと同じ場所!
その推理まで辿り着いた七曲署藤堂チームですが、潜伏場所の見当は全くつきません。それを手繰るたった1つの糸口は、3年前に肇と一緒に潜伏し、現在も逃亡中の共犯者=一ノ瀬(時本和也)。
トシさん(地井武男)とマイコン(石原良純)が、看護師を勤める一ノ瀬の妹=僚子(桂田裕子)を訪ねますが、マイコンがあまりにダサいせいか全く協力する素振りを見せません。
「関係無いわ。とっくに他人なんです。あの人の為に、どれだけ苦労させられたか……もう、兄とは思ってません!」
マイコンのせいでたった1つの糸口も絶たれ、完全に捜査は行き詰まります。今、こうしてる間にもブルースの血は流れ、死へのカウントダウンを進めてるというのに!
「……ブルースは体力も精神力も、ずば抜けてる……」
祈るようなボスの呟きが通じたのか、気を失いかけてたブルースが我に返ります。
「いま眠ったら……俺は死ぬ……」
ブルースは自分で自分の傷口に指を押し当て、その激痛で意識を保とうとします。ランボーやレプリカントも真っ青な強靭さですがw、その源はゴリさん(竜 雷太)から受け継いだ『太陽』魂です。
ついに2日目の陽も暮れてしまいますが、藤堂チームの面々は不眠不休で必死の捜査を続けます。刑事部屋でその報告を待ちながら、ボスは橘警部に語り掛けます。
「これもデカの宿命かな……」
ここでマカロニ(萩原健一)、ジーパン(松田優作)、テキサス(勝野 洋)の殉職シーンが回想されます。バラエティー番組等でもさんざん流され、『太陽』ファンでなくともお馴染みの映像かと思います。
「出来る事なら俺が替わりたい……いつもそう思って来た……なぜだろう? 同じ人間でありながら憎しみ合い、時には血を流して殺し合う……」
更に殉職シーンが続き、ボン(宮内 淳)、ロッキー(木之元 亮)、ボギー(世良公則)、ラガー(渡辺 徹)、ゴリさん、山さん(露口 茂)……って、いったい何人死んでるねん!?ってw、ツッコまれても仕方がない殉職者の数です。
「同じ人間でありながら、俺達はそれを取り締まる為に、銃を向けなくちゃならん」
ここで回想された殉職刑事は合計9人ですが、他にもまだ殿下(小野寺 昭)とスコッチ(沖 雅也)が残ってます。殿下は交通事故死ゆえに殉職シーンが存在せず、スコッチは後の取り調べシーンでボスが言葉で回想しますから、尺の都合もあって削除されたものと思われます。(口から大量の血を流すビジュアルが強烈すぎるから、とも推察できますが)
それはともかく、殉職刑事たち全員を知る者は、今やボスしかいません。山さん亡き今、番組スタート時のメンバーはボス以外に誰もいなくなっちゃった。(転勤&退職組は健在だけど)
そういう意味でも、ボス=裕次郎さんが出演不可能になった時点で『太陽にほえろ!』が終了するのは必然ですよね。『太陽にほえろ!PART2』も素晴らしい番組ではあるけど、やっぱ別物だと私は思います。ましてや復活版なんて。
さて、ついに刑事たちの執念が実り、一ノ瀬僚子の誕生日に宅配便でセーターを贈った人間がいた事が判明します。その送り主の名前と住所は実在しない=偽名を使っており、そんな事をする人間は1人しかいません。
つまり僚子は、逃亡中の兄と今も連絡を取り合っている! 捜査に協力しないのはマイコンがダサいからじゃなくて、恐らく兄の居場所を知っているから……そう確信したボスは、いよいよ決断します。
「一ノ瀬僚子を連れて来てくれ」
「いや、しかし……令状が」
「ボス、ちょっとヤバいんじゃ……」
こんな時、捨て身になれるのが藤堂俊介という男なんです。その為に我らがボスは帰って来た。
「構わん。連れてこい」
かくして、後に伝説となるボスの取り調べシーン、すなわち石原裕次郎渾身のアドリブ演技が幕を開けるのでした。
(つづく)
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