IT企業の経営者である母=飛鳥(田中麗奈)に指示されて祖父=穂波(坂東彌十郎)の様子を見に来た葵(柊木陽太)は、謎のVRおじさん=直樹(野間口 徹)が何者なのか探るべくVRゲーム「トワイライト」にアオイ(井上音生)となってログインし、ホナミ(井桁弘恵)とナオキ(倉沢杏菜)のキスシーンを目撃しちゃう。
大人でも理解しがたいその関係性が、小学生のガキンチョにすんなり理解できるワケがない!
きっと好奇心もくすぐられたんでしょう。VRでホナミになりすました葵はナオキとコンタクトし、なりゆきでキスしそうになるんだけど、今度はそれを穂波に目撃されてしまう!
キスしかけたのは葵が変態だからじゃなく、相手がホナミだと信じ切った直樹のせいなんだけど、孫にホナミのことを知られた穂波はなぜか激怒し、「飛鳥には言うなよ!」と釘を刺して自室に籠もっちゃう。
そして、やはり人間関係がニガテらしい葵に共感した直樹が、「反省してるから許してあげて」と仲を取り持とうとしたら、今度はドア越しで「家族の問題に立ち入らないで下さい!!💢」とさらに激怒。
二人して穂波を怒らせ、拒絶されて途方に暮れた直樹と葵は、あらためてトワイライトの「生命の森」で話し合おうと約束するのでした。
「結局、現実でも、こっちでも、ずっと独りだ。そんなオレに、唯一興味を持ってくれた人が、ホナミだったんだ」
「祖父と、ナオキさんは……恋人なんですか?」
「…………」
「樹の下の二人と、現実の二人……二人の関係が、よく解りません」
「そりゃ仕方ないよ。オレだって解らない。ホナミは恋人って言う時あるけど、オレはあんまり……」
「好きじゃないんですか?」
「好きじゃないワケじゃない。……というか、オレ、今まで誰ともつき合ったこと無いから……もう、今後もそういうのとは関係なく生きていくんだろうなって思ってたんだよ。働けなくなったら、周りに迷惑かけないで死ぬ方法とか、考えたこともあってさ」
めちゃくちゃよく解る! 20代後半あたりの私がまさにそんな感じで、当時話題になった『完全自殺マニュアル』なんて本も買って熟読したもんです。
人付き合いを全くしなかったワケじゃないけど、とにかく自分自身が嫌いで嫌いで、こんなオレでも生きる価値があるんだ!って初めて思えたのは、女の子に「大好き」って初めて言われた瞬間でした。至福のときは長く続かないにせよ、その貯金だけでこれまで生きて来られたようなもんです。
「でもね……ホナミと出逢って、よく分からなくなった。そのうち、オレの方がホナミと別れたくなくなった」
「別れたくないのって、恋人どうしって言わないですか?」
「この関係に名前なんて無くたっていい。“初恋”ってだけでいいんだ」
「…………」
その言葉を聞いて葵は、直樹という人を何となく理解できたようで、母の飛鳥にこんなLINEメッセージを送るのでした。
<VRのおじさん、いいひと。心配いらない>
飛鳥は、父親である穂波と何年もの間コンタクトを取ってない。どうやら穂波は色々あって離婚し、溺愛した娘にもなぜかこうして拒絶されてる。
だから主治医に「余命3ヶ月」を宣告されても動じません。
「私は延命治療を希望しません。誰も悲しむ者もおりません。その時が来たら、それまでです」
果たして本当にそうなのか? 穂波にしろ直樹にしろ、そう思い込んでるだけのように見えます。いつも自分のことを「孤独の王様」みたいに書く私が言うのも何だけど。
すでに仕事を引退した穂波はともかく、決して居心地悪そうじゃない職場で働く直樹は違うのでは?と思ってたら、やっぱり彼もそれに気づいて来たみたいです。
いつも“呑み”の誘いは断る直樹なのに、VRのホナミばりにグイグイと誘ってくる同僚の佐々木さん(堀内敬子)に、今回は珍しく「ここ(社内)でなら」と根負けしちゃう。
そんな直樹に、佐々木さんは「心配なんでしょ?」といきなり核心を突いて来ます。
「え?」
「何を話したらいいとか、どう振る舞ったらいいとか。二人だと緊張するし、大勢だと気を遣うし」
「……そういうのはあるかも知れないですけど、職場の人と呑むって、意味ありますか?」
「ありますよ! ふだん語れないことを語り、その人の知らない面を知るのって大事じゃないですか?」
「仕事は仕事なので、その必要は感じないですけど」
「腹を割るって言葉あるでしょう?」
どうやら佐々木さんは、先週から“心ここにあらず”な感じの直樹を心配して、なんとか励ましたくて、呑みに誘ったみたいです。そこまで気にかけてくれる同僚のいる直樹が、本当に孤独な人なのか?
「いったい何があったんですか? 腹を割って話して下さい!」
あまりにグイグイ来られて、直樹は根負けを通り越して笑っちゃう。
「あっ、笑った。珍しい」
「なんか、楽しいです」
「でしょう? 喜びは、人と人との間にあります」
「……そうですね」
「物を買ったって、喜びは一瞬です。人間関係、つらいことも多いけど、乗り越えたところに、喜びはあります」
耳が痛い!……って言いたいところだけど、最近、自分もそういう心境になって来ました。コレクションは確かに楽しいけど、人と心が通い合えた時の嬉しさには遠く及びません。
「カノジョの反応なんか気にしちゃダメです。本心でぶつかって下さい!」
いくらお節介焼きでも、気にかけてなければこんなアドバイスはしない。きっと直樹の人柄が佐々木さんにそうさせてるんでしょう。彼は決して孤独なんかじゃない。
穂波もたぶん同じで、断絶状態とはいえ飛鳥は明らかに父の病状を気にしてる。
父娘がそうなったのは数年前、なかなか友達ができない葵にA.I.搭載のロボットを買い与え、「友達をプレゼントしたんだ」と悪気なく放った穂波の一言に、飛鳥がハイパー激怒したのがきっかけ。
「あなたは解ってない! あなたは死ぬまで解らない!!」
家族だからこそ“デリカシーがない”だけじゃ済まされない、なにか絶望的な隔たりを飛鳥は感じたみたいです。この辺りが私と兄の関係に似てたりするんだけど、それはまぁどーでもいい。
相手の気持ちを推し量り過ぎる直樹と、推し量ることが出来ない穂波。必要以上に引いちゃう人と押しちゃう人。同じ“孤独”でもその原因が実に対照的で、だから二人は磁石みたいに引かれ、惹かれ合ったのかも知れません。
「仲直りって難しいね」
「直樹さんは、祖父と仲直りしたくて僕にメールをくれたんですよね?」
現実世界でまたミーティングしてる直樹と葵も、すでに世代を越えた友達と言えそうです。
「祖父と母も、仲直りしたいんじゃないかって思います」
「穂波が? お母さんも?」
「はい。母が本当に嫌いなら、僕が祖父に会うことも許さない筈です」
のちに判ることですが、飛鳥は幼少期に、穂波に習ってチャレンジしたシュークリーム作りが失敗に終わり、それをこっそりゴミ箱に捨てられたらしく、そのトラウマが断絶へと繋がる伏線になっちゃった。
「僕は、祖父と母に仲直りして欲しい。このまま、おじいちゃんが亡くなったら可哀想です」
「……穂波が望んでればね」
そんなの『探偵!ナイトスクープ』に応募すれば竹山探偵あたりが解決してくれるんだけど、あれは民放の番組だからそうもいきません。(キダ・タロー最高顧問の御冥福をお祈りします)
「直樹さん、確かめてくれませんか?」
「オレが?」
「直樹さんは、唯一祖父が心を開ける人です。二人のために、よろしくお願いします!」
「……やれることを、やってみるよ」
とは言ったものの、人付き合いがほぼ皆無だった直樹にはハードルが高すぎるミッション。どうすればよいやら見当もつかず、途方に暮れる直樹の脳裏に、「本心でぶつかって下さい!」という佐々木さんの言葉がよぎります。
「逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、か……」
なんだか『エヴァンゲリオン』みたいになって来たけど、これこそ人生における最大のテーマですよね。次のステージへ進むには、逃げずに壁をぶち破るしかない。
<またホナミと旅をしたい。仲直りできないかな>
既読スルーが続いても、直樹はめげません。
<嫌かもしれないけど、とにかく来てくれ> <オレはいつまでもホナミを待つ> <あと一日ここで待ってる。来なかったら、終わりにしよう>
決定的に嫌われちゃう恐怖を乗り越え、諦めずに誘い続ける直樹は、もう既に大きな進化を遂げてると思います。私なんぞは「去るもの追わず」なんて言ってカッコつけてるけど、しょせん自分が傷つくのが怖いだけ。やっぱ死ぬことにします。
それはともかく、いつもの喫茶店に来てくれたホナミは、決してナオキが嫌いになったワケじゃなさそうだけど、表情は暗い。
「また怒るかも知れないけど……立ち入ったことだけど……どうしてあんなに怒ったの?」
「…………」
「オレはキミのことが心配で声を掛けただけなんだ」
「もうVRはやめます」
「え……本気なの?」
「本気です」
「本気でやめるつもりなら、オレのメッセージ、スルーすればいい。ここに来たのは、なにか話したいことがある筈だ」
「ずいぶん口が達者になりましたね。会ったときは、ワタワタして可愛かったのに」
「……ホナミにとってこの世界は、どういう存在なの?」
「……引退して、独りの時間を持て余してました。暇つぶしです」
「……オレたちの時間も暇つぶし?」
「ほかに何だって言うんですか? 美少女になって恋愛をする。その感情が本気だって言うんですか?」
「オレは……本気だ。お祭りやショッピング、ホナミが大活躍したシューティングゲーム、特別列車の旅……全てが、オレにはリアルな想い出だ」
「私が、現実でも会いたいって望んだときに、VRは現実と分けて楽しむものだって、あなたが言ったんですよ?」
「そうだよ! そうしようと努力したよ! だけど、もう自分の心の中がシッチャカメッチャカで、オレの初恋は、何に恋してるんだか分かんなくなって……VRのホナミに会えないなら失恋で終わりなんだけど、現実のホナミが心配で、何がどうなってんだか……でも、何かしないと、何か出来ることがあるって、抑えようとしても湧き上がって来るんだ! こんなこと、人生で初めてなんだ! 人と関わらないように生きて来たのに、お節介だって分かってるのに、どうしょうもないんだ!」
溜まりに溜まったマグマが一気に(もしかすると生まれて初めて)爆発したであろう、直樹の心情がリアルに伝わって来ます。暗闇で、しかも口元しか見えないのに! やっぱり野間口徹さんは凄いアクターです。
「私は、死にかけの男です。残された人生は、長くて3ヶ月です。ムダな労力は使わないで下さい」
「え……3ヶ月……」
「ですから、もう終わりにして下さい。静かに死なせて下さい……お願いします」
「……ごめん。自分のことばっかり言っちゃって」
「いいえ。では……」
「穂波の気持ちも聞かせてよ!」
「何もありませんよ」
「伝えたいことがある筈だ! ね、頼むよ! 話してよ!」
「……さっきは酷いことを言いました。申し訳ありません」
「謝って欲しいワケじゃないよっ!!」
「……私は、自分の信じた人生を、生きて来たつもりです。もう、いいですか?」
そう言ってログアウトしちゃう穂波。もしかして彼は……
心配で一睡も出来なかった直樹は翌日、初めて仕事を休んで穂波の屋敷を訪ねますが、留守で車も見当たらない。
「海の見える高台かも?」と葵から聞いた直樹は、自然と全力で走り出すのでした。
「オレ、これまで人と関わって来なかったから分からなかった。穂波は独りでも大丈夫だと思い込んでた。穂波もオレと一緒なんだ。だからオレも……もう一度会わなきゃならない」
「どうして?」
「初恋の相手は、独りで死なせるワケにはいかないから」
「私を?……こんな私を……ありがとう」
「想像もしてなくて……ごめんなさい」
「ううん、来てよかった」
屋敷に帰り、ようやく笑顔が戻って来た穂波に、直樹は最近「ここには居場所がある」と感じ始めた職場についての話をします。
穂波と会ってから、面倒くさいと思ってた佐々木さんとの会話が楽しいものに変わったと言う直樹。
「佐々木さんは穂波のこと“カノジョさん”って呼んでて、いっつもアドバイスくれるワケ。それがいちいち心に刺さるんだよね。もしかしたら、これまでも同じようなこと言ってたのかも知れないけど……それでオレも、だんだん彼女に本音を喋るようになったの。話すこと苦手なのに」
「…………」
「なんで苦手だったかって言うと、上手いこと、面白いこと、相手がどう感じるかってことを、今までは考え過ぎてたと思う」
「…………」
さっき「二人は同じ孤独でも原因は対照的」って書きましたが、それは間違いかも知れないって、後のエピソードを観て今考え直してます。(1週間がかりでこれを書いてるもんで、その間に放映が進んじゃうワケです)
実は「言葉足らず」が原因で人間関係をこじらせてる点じゃ穂波も同じで、たぶんシュークリームやロボットの件もそのせいで飛鳥に誤解されてる。
対照的なのは原因というより性格そのものなんですよね。そんなの最初から判ってることなのに、私も回りくどく考え過ぎたようです。
「なんでこんな話してるかっていうと、VRのホナミは、オレにズカズカ入り込んで来たでしょ?」
「鬱陶しかっでしょう」
「かなりね。でも、あれがキッカケなんだ。ホナミのお陰でオレは、ずっと無視してた恋心を引き出されて、現実でも佐々木さんとの会話を楽しめて、今でもこうやって、自分でも驚くほど話して……嫌がる穂波の家を、会社休んで訪ねるなんて大胆な行動も出来るようになった。全ては、穂波が、オレの心の殻を破ってくれたから始まったんだ」
「初恋の衝動って凄まじいね!」
「ですね!」
ホナミや佐々木さんに心の殻を破られた直樹が、今度は穂波の心の殻を破ってみせました。以前はオドオドしてた振舞いも、今は堂々としたもんです。
以降、まだ2週分のエピソードが残ってますが、もう詳細なレビューを書くつもりはありません。その2週でなにが描かれるかは明白だし、私が本作にハマったのは直樹に“自分自身”を感じればこそで、彼がこんなに逞しく成長したらもう書くことが無い。
テーマが全て佐々木さんのセリフに込められてるのも明白でした。直樹だけじゃなく、穂波、葵、そして飛鳥にもきっと当てはまる筈。
「仲直り大作戦」に活かされるらしい“ブルース・リーの名言”は私も検索しようかと思ったけど、このドラマについて語る人はみんな同じことするだろうから、やめときます。(ハズレ書いたら恥かくし)
何にせよ、2024年上半期の連ドラ・ベスト1はもう確定でしょう。いつも「昔は良かった」的なことを書いてしまいがちだけど、昭和の時代じゃ決して生まれ得なかった、これは令和ならではの傑作エンタメ。
だけど、根本的なテーマ(要するに成長ドラマ)は古今東西ホント変わらない。斬新と言われる作品を観たときほど、つくづく実感させられます。
ポートレートは再びホナミ役の井桁弘恵さんと、少女だった頃の田中麗奈さん。
最終週に登場しそうなアバターの「アスカ」がどんなキャラクターになるか、それが一番楽しみです。(ブルース・リーだったら面白いけどw、普通にイケメンだとつまんない)
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