1988年春にスタートした『はぐれ刑事純情派』シリーズも、シーズン18にあたる『〜ファイナル』第10話 “安浦刑事よ永遠に” (2005年6月放映の2時間スペシャル) でいったん幕を下ろすことに。
ところがその年末に早くも復活、2009年まで4本の単発スペシャルが放映されて足かけ約20年(通算444話)に及ぶ長寿番組となりました。
そのたびに『帰ってきた安浦刑事』ってサブタイトルがついてて、“復活するのはお約束だろ?” がキャッチコピーの某映画(前作=完結編では “終わる終わる詐欺じゃねえだろな?” と謳ってたw)を連想させます。
改編期が来るたび若手刑事の殉職を臭わせた『太陽にほえろ!』も後年 “死ぬ死ぬ詐欺” なんて揶揄されるようになったけど、同じことが『はぐれ刑事純情派ファイナル』にも言えるかも知れません。過去に若手刑事が3人死んでおり、この最終回では主人公 “安さん” こと安浦吉之助(藤田まこと)の殉職を匂わせまくってます。
安さんを殺そうとする若者=北見(猪野 学)は、かつて安さんが担当した事件で逮捕され、出所したばかりの前科者だけど、彼には彼の事情がある。(番組スタート時のキャッチコピーが “刑事にも人情がある。犯人にも事情がある” でした。)
北見は、かつて所属した暴力団の元組長で現在は貿易会社を経営してる、黒河という男の命令に従って合成麻薬の売買に手を貸していた。
なぜなら、そいつに逆らうと唯一の身内であるお母さん(山本陽子)が殺されちゃうから。
そんな卑劣にも程がある乳首チョメチョメ野郎=黒河に扮したメインゲストは、2000年代に入ってからやけに悪役づいてる、神田正輝さん。
そう言えば『代表取締役刑事』の最終回でも似たような鬼畜セレブを実に活き活きと演じておられました。『はみだし刑事情熱系PART5 年末スペシャル』しかり、復活版『西部警察SPECIAL』しかり。俳優さんにとって悪役は、正義の味方を演じるよりずっと楽しいみたいです。
で、黒河が北見を操ってると察した安さんが、探りを入れに行った直後のシーン。
「安浦さん、お嬢さん結婚なさるそうですね。おめでとうございます」
「黒河、お前んとこにも女の子がいたな。いくつになった?」
「……!!」
いつも書くけど、人情刑事でありながらこういうハードボイルドも似合っちゃう、安さん=藤田まことさんが痺れるほどカッコいい!(そもそも『必殺』シリーズの主役だったお方です)
しかしこれが黒河を本気で怒らせ、安さんを殉職の危機へと追いやるワケです。
「安浦を殺す。あの男は目障りだ」
それで北見が駆り出され、安さんは腹を撃たれるんだけど、ヤツのお母さんが止めに入ったお陰で死なずに済みました。
川辺課長(島田順司)のセリフによると、安さんが銃弾を食らったのはこれで3度目。大半の警察官は一度も経験せずに終わるのが現実だろうけど、毎週のように刑事が撃たれてた(最後に犯人を射殺する為のお膳立てとして撃たれとく必要があった)『西部警察』等に比べると通算3回は圧倒的に少ない。
もちろん鬼畜中の鬼畜である黒河は、たかが一度の失敗で諦めやしません。今度は安さんが撃たれたことを知らずに北海道を旅行中の愛娘たち=エリ(松岡由美)とユカ(小川範子)をロックオン!
ちなみに結婚を控えてるのは姉のエリで、妹のユカは警察官採用試験に合格したばかり。後の単発スペシャルでエリが結婚式を挙げ、ユカが安さんの部下になることから察するに、この時点で既に復活は織込み済みだったのかも知れません。これぞまさに “終わる終わる詐欺”!
と同時に、退院した安さんが山手中央署の同僚たちにやたら「あとは頼むぞ」的な言葉をかける(ネット用語で言うところの “死亡フラグを立てる” )展開は “死ぬ死ぬ詐欺” でもある。
まあ実際、今回ばかりは安さんも命を投げ出す覚悟を決めたんでしょう。なにせ携帯電話を持ってる筈の愛娘2人と連絡がつかない!
案の定、エリとユカは根室の海岸で北見の襲撃を受けてました。
けど、安さんみたいな刑事になることを目指してるユカが、そこで思い出すんですよね。「どんな凶悪犯でも、最後の最後には必ず人間らしさを取り戻す」っていう父の言葉を!
カエルの子はカエル。説得を試み、みごと北見に銃口を下げさせたユカの姿に、私は泣きました。“はぐれ刑事二世”の誕生です。(ということは後に原田泰造を産む!?)
が、二度も暗殺に失敗した北見はそのあと消されちゃう。あの黒河にだけは安さんの純情派スピリットも通じない!
エリとユカを人質に取った黒河は、交換条件として安さんの命を要求してくる。そこまでは読んでた安さんだけど、ちょっと乳首チョメチョメ野郎を見くびってたかも知れません。
「子供たちを離せ。約束だぞ」
「約束? 安浦さん、あんた人が好すぎる」
まあ、そりゃそうでしょう。この黒河が目撃者であるユカたちを生かしておくワケがない。
ところが!
やっぱり安さんの方が一枚上手だった! 北海道へ発つ前に安さんは、黒河の自宅を訪ねていたのでした。
「卑怯なマネをしやがって!」
「卑怯だと? お前の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ。黒河、娘さんの前で人が殺せるか?」
「…………」
「人の心のカケラが少しでもあるんなら、俺に見せてみろ!」
「あなた、もう何も要らないわ! 家族が、3人いればいいのよ! それだけでいいのよ!」
「パパ、大好きだよ! パパ!」
「……ずるいよ、安浦さん」
どんな凶悪犯でも、最後の最後には必ず人間らしさを取り戻す。安さんの純情派スピリットがついに、黒河をダークサイドの果てから連れ戻しました。
いや、家族の愛が無ければ安さんにも打つ手は無かった筈で、やっぱり『はぐれ刑事純情派』も『はみだし刑事情熱系』と同様、刑事ドラマでありつつホームドラマなんですよね。こっちの方がずっと先輩だけど。
ところで、黒河の妻娘を連れてきた山手中央署の仲間たちは、敵が武装してると知りながら全員が丸腰でした。
「課長、見直しましたよ。拳銃無用。なかなかやりますな」
「なに言ってんだ、人の気も知らないで」
拳銃無用! それもまた番組キャッチコピーの1つでした。
そしてラストシーンの舞台は、やっぱりここ。
「ただいま」
「お帰りなさい」
↑このやり取りがまた、ひと足早くファイナルを迎えた『はみだし刑事情熱系』のエンディングとまったく同じ! 偶然にせよ意図的にせよ、両作ともホームドラマの側面を強調してますよね。
安浦家はもちろんのこと、なんだか『サザエさん』ファミリーみたいな雰囲気さえ感じる山手中央署の温かさといい、高級バーでありながら妙にアットホームな「さくら」といい、すべてが居心地いい空間。
だから安さんは最後までママの由美さん(眞野あずさ)に手を出さなかったんでしょう。亡くした妻への想いもありつつ、何よりこの居心地いい相関図を崩しちゃうリスクを避けたかったに違いありません。
ところが、以前は安さんの来店が待ち遠しかったのに「最近そうでもなくなったの」と由美ママは言います。
「えっ?」
「ここに来なくても、安浦さんはどこかで笑ってる。どこかで怒ってる。そう思うと、それで充分シアワセになれるの」
おいおい、よせよベイビー。それは究極の愛の告白じゃないのか? 知らんけど。
「そうか……でも来るさ。どこにいても必ず、ここに戻って来る」
そこで堀内孝雄 (with五木ひろし) による主題歌『ふたりで竜馬をやろうじゃないか』が流れるワケです。たまらんぜベイビー歯医者さん!
エンドクレジットのタイトルバックでは、木村一八、吉田栄作、西島秀俊、城島茂、七瀬なつみ、ケイン・コスギ、賀集利樹、国広富之ら歴代の若手レギュラーたちが回想されます。若い! 懐かしい!
『〜ファイナル』における若手刑事枠は、村上信五&植草克秀というジャニーズ勢の独占状態でした。良くも悪くも時代を象徴してますね。
「いつか、この景色は変わる。穏やかで平和に満ちた街に……私は信じたい。そして、人々の心も温かい心に。いつか、必ず変わる」
悲観論者の私にそんな明るい未来は想像できないけど、だからこそ、せめてフィクションの世界は希望を持って終わって欲しい。素晴らしい完結編だと思います。完結しないけどw
余談その1。黒河=神田正輝さんの妻に扮した根本りつ子さんは、舘ひろしさんの婚約者を演じた『代表取締役刑事』の最終回で、神田さんに殺されてます。
余談その2。復活スペシャルの1本には、渡辺徹さんも警視庁本部の刑事役でゲスト出演。『太陽にほえろ!』と『必殺』シリーズは切っても切れない縁がある?
セクシーショットは18年間ヒロインを務め、少女から大人への変化を見せてくれた小川範子さんと……
第16シリーズから山手中央署のメンバーとなった五十嵐刑事こと、森ほさちさん。
森さんは元·宝塚歌劇団の花組トップ娘役で、舞台を主戦場とされた女優さんです。
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