後に『太陽にほえろ!PART2』で七曲署の一員となる、寺尾 聰さんのゲスト出演作。
当時すでに石原プロの『大都会/闘いの日々』『いろはの"い"』(いずれも事件記者役)等にレギュラー出演されてますが、刑事役はもしかすると今回が初めてだったかも知れません。
『太陽にほえろ!PART2』の時には、七曲署の現メンバーは長さん(下川辰平)1人しか残っておらず、「喜多刑事」のあり得ないゴリさん(竜 雷太)やボン(宮内 淳)との組み合わせが見られるだけでも、我々ファンにとっては実に楽しいエピソードです。
☆第253話『生きがい』(1977.5.27.OA/脚本=小川 英&高階秋成/監督=澤田幸弘)
横浜で刑事が拳銃で射殺される事件が発生、被害者の同僚である神奈川県警「港署」捜査課の西本刑事(寺尾 聰)が犯人を逮捕します。
そして取り調べにより、犯人が新宿・矢追町すなわち七曲署管内で密輸拳銃を入手したことが判明。西本刑事はゴリさんとコンビを組んで密輸ルートを捜査することになります。
だけどこの2人、仕事への取り組み方、考え方が正反対で全くソリが合いません。折しも両者とも警部補への昇級試験を控えており、なのに勉強もせず捜査に明け暮れるゴリさんの姿が、西本の眼には奇異に映るのでした。
「眼を血走らせて徹夜で駆けずり回ってたら出世なんて出来やしない。その為に試験に落ちたからって、誰も誉めちゃくれませんよ。そうでしょ?」
西本は夕方5時になったら捜査を打ち切り、毎日迎えに来てくれるチョー美人な奥さん(中島ゆたか)とレストランで食事するのをルーティンにしており、帰りを待ってくれる人もいないゴリさんは無理やり同伴させられます。
「刑事だって人間ですよ。出世もしたいしお金も欲しい。休養だってたっぷり欲しい。刑事だけがそれを我慢しなきゃいけないってのは、おかしいですよ」
現在では当たり前の考え方かも知れないけど、当時の日本、殊に『太陽にほえろ!』の世界においては、主人公たちの生きざまを真っ向から否定する爆弾発言。
だけど飄々として屈託のない寺尾さんに言われると、ちっとも嫌味に感じないから不思議なもんです。
「だから僕は、あえて言うんです。オレはサラリーマンだって。僕は本当にそう思うんですよ。刑事を何か特別な使命を持った人間と考えるのは、それは錯覚じゃないですかね?」
「しかし、やっぱりあるんじゃないかな。その……職業それぞれの、生き甲斐ってのが」
「生き甲斐? それなら僕にも沢山あるな。進級目指して頑張るのも生き甲斐、女房と一緒に旅行するのも生き甲斐、こうやって美味しい料理を食べるのも、これまた生き甲斐」
「だけど……それならなんで、キミは刑事やってるんだ?」
「それなら簡単ですよ。僕には刑事が向いてるんです」
「…………」
あまりにあっけらかんと言われて、さすがのゴリさんも言葉を失います。
この西本刑事のキャラクターは『PART2』で寺尾さんが演じる喜多刑事の原型とも言えますが、喜多さんは口でそんなこと言っても根っこは熱い、ちゃんと『太陽』イズムを胸に秘めた男でした。
そう考えると西本は、喜多さんよりも『太陽』の後番組『ジャングル』に登場する津上係長(鹿賀丈史)に近いかも知れません。美人妻(真野響子)とのプライベートタイムを大切にする点でもよく似てます。
そして当初は『サラリーマン刑事』という仮タイトルだった『踊る大捜査線』の大ヒットを経て、現在では『太陽』イズムこそが過去の産物の「ダサい」ものとされちゃいました。
いや、もしかすると、時代は巡り巡って今は再び、ストイックな生き方こそ格好良いとされる価値観に戻ってるような気もします。良くも悪くも『踊る~』で頂点に立ったフジテレビの悲惨な凋落ぶりが、それを象徴してるかも知れません。
ちなみに私自身は、仕事の為に進んでプライベートを犠牲にしようだなんて、これっぽっちも思いませんw 美人妻はいないけど、考え方は西本寄り。仕事は二の次・三の次で、趣味こそが命ですw
それはともかく、元暴走族の前科者を(その経歴から)密輸犯の1人と決めつける西本に反発し、ずっと「シロ」説を唱えて来たゴリさんが、地道な捜査の末に彼を「クロ」だと確信するや、証拠不在のままクビを覚悟で逮捕に踏み切る姿を見て、西本も変わって行きます。
ゴリさんたちが残りの共犯者を突き止め、逮捕に向かうものの逃げられそうになった時、なぜか先に現場にいた西本刑事が犯人を食い止め、無事に逮捕。西本はいち早くその男に眼をつけ、なんと徹夜でマークしてたのでした。もちろんゴリさんはそんなこと知りません。
「それにしても早かったな。俺がボスから連絡を受けたのは、たったの10分前だ。どうやってすっ飛んで来たんだい?」
「いや、僕の頭の中にはレーダーがありましてね。この辺りで何かがあるなってのは、ちゃんと分かるんですよ」
照れ隠しにそんな軽口を叩く西本の姿は、やっぱり喜多さんの原型そのもの。そこに嘘臭さを微塵も感じさせないのが俳優・寺尾聰さんの凄さです。
結局、最初から西本の推理が全て的中しており、先の「僕は刑事に向いてるんです」発言が実証されたワケで、その上『太陽』イズムまで身につけたら最強の刑事ですよね。
ただし、そうなると美人妻には愛想を尽かされるかも知れませんw
ほんの二言・三言しか台詞の無いその美人妻を、当時24歳の中島ゆたかさんが演じてるという贅沢さ! 前回の鈴鹿景子さんも朝ドラヒロインを卒業して最初のゲスト出演だったし、当時の『太陽にほえろ!』の勢いとパワーがキャスティングからも伺えます。
中島ゆたかさんも当時すでに千葉真一さんのアクション映画や『トラック野郎』の初代ヒロインを務められたスター女優で、TVドラマにも数多くご出演。
『太陽~』には通算4回、そして『Gメン'75』には通算10回!ゲスト出演されたほか、『非情のライセンス』『燃える捜査網』『大非常線』『夜明けの刑事』『明日の刑事』『大都会PART II』『大追跡』『特捜最前線』『特命刑事』『西部警察』『噂の刑事トミーとマツ』等々、メジャーな刑事ドラマのほとんどに登場されてます。いやホント、現実離れしたお美しさです。
お元気そうで何よりです(^-^)