ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『書けないッ!?』最終回

2021-03-15 01:27:37 | TVドラマ全般









 
今期、欠かさず最後まで観続けたのは、このドラマだけでした。

本作とセットで観続けるつもりだった小芝風花さんの『モコミ/彼女ちょっとヘンだけど』は、ヒロインのママの悪気ない毒親ぶりが、どうしても観るに耐えなくて断念しました。演じた富田靖子さんのせいじゃなく(とってもリアルなのは富田さんが巧いせいだけどw)、ずっと母親に悩まされながら生きてる私には、フィクションとは言ってもキツいんです。あくまで個人的な事情です。

で、この『書けないッ!?/脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活』はどうだったかと言えば、当然、最後まで欠かさず観たんだからメチャクチャ面白かったです。特に最終回! 私は号泣しちゃいましたw

悩み苦しみ、様々なトラブルに見舞われながらも、なんとか第8話まで脚本を書き続けて来た圭佑(生田斗真)だけど、残すは第9話と最終話のみ!ってところで遂にスケジュールが間に合わなくなり、第9話だけピンチヒッターとしてベテランの職人ライターが起用されることに。

で、そのライターがたった2日間で書き上げた脚本は、誰が読んでも文句のつけようがない出来映えで、圭佑はまた例によって自信を失い、それどころか他人のアイデアが入り込んだせいで「書けないッ!?」病が再発しちゃう。

そうして窮地に陥った圭佑を救ったのは、意外な人物でした。それは、今まさに圭佑が書いてる連ドラ『富豪教師Q』で主演してる、チョー売れっ子俳優の八神隼人(岡田将生)。

私を号泣させたのも実は、ワガママでお調子者で一見おバカさんの、この八神隼人なのでした。彼がいきなり吉丸邸を訪れ、圭佑に投げかけた言葉の1つ1つに、私は「おいちょ待てよ!」じゃなくて「そう! そうなんだよ!」って、首を捻挫するくらい何度も頷き、ヤケドするくらい胸が熱くなりました。

まず、非の打ちどころが無く見えた職人ライターの脚本について、彼はこう言いました。

「いや、巧い脚本だとは思いますよ。でも巧いと面白いは違うんだよな」

そう! それですよ、それ! 私がここ最近の連ドラや映画に対していつも不満を抱き、このブログで愚痴ってる最大の理由がそれなんです!

「どこかで観たようなシーン、どこかで聴いたようなセリフばっかで、オレが喋りたいと思うセリフは1つも無い。どうしてだと思います? 本人が面白がって書いてないからですよ」

その通りッ!!! って、うるさいですか?w でもホント、それが昭和ドラマと昨今のドラマとの決定的な違いなんです。私がいつも口を酸っぱくして言ってる「作品に魂がこもってる」かこもってないかの違い。実は創ってる人たちも自覚されてるんですよね。

いや勿論、例外はあります。この『書けないッ!?』がまさにそうです。なぜ本作がこんなに面白くて、私を最終回まで引っ張ってくれたか、その理由も八神くんのセリフに集約されてます。

「監督もプロデューサーも、番組を成立させる為に仕方なくベテランを呼んだけど、本当は吉丸さんに書いて欲しいに決まってる。だって、吉丸さんのホンには愛がある。主人公への愛がある。登場人物全員に愛がある」

そこそこそこそこ! そこですよそこ!! あたたたたたたたたッ!!

「吉丸さんが書かなきゃ、オレは演らない。吉丸さん。オレたちの仕事は、面白いドラマを創ることでしょ?」

一見おバカさんに見えた八神隼人が、実はクリエイターにとって何が一番必要かを誰より解ってるっていう、この意外性。めちゃくちゃカッコいいし、めちゃくちゃ魅力的!

なぜ我々が八神隼人に惚れちゃうのか? それもまた、この『書けないッ!?』っていうドラマの脚本を書かれてる福田靖さんが、ちゃんと八神くんを愛してるから。ストーリーを展開させる為の単なる「駒」じゃなくて、福田さんご自身の分身として扱ってるから。

もちろん八神くんだけじゃありません。身勝手でテキトーで無責任に見えた番組プロデューサーの東海林さん(北村有起哉)も、最終回では魅せてくれました。

「第9話も僕に書かせて下さい! 最終回も僕に書かせて下さい! 絶対、絶対間に合わせますから! 死んでも間に合わせますからッ!!」

そうして初めて覚悟を口にした圭佑に、東海林さんはこう言いました。

「分かったよ。キミと心中するよ」

実は東海林さん、無意識にかも知れないけど、圭佑からそういう言葉が出るのを、ずっと待ってたんでしょう。途中で他のライターを使おうとしたのは、受け身の姿勢しか見せない圭佑を信用出来なかったから。死ぬ気でやらなきゃ出来ない仕事だからそれは当然のこと。

で、無事に最終回までオンエアされた後、圭佑に「僕には才能があるでしょうか?」って訊かれて、東海林さんはこう答えました。

「10年後だな。キミが10年後もちゃんと仕事やってれば、吉丸圭佑は才能があったって事になるんじゃないの?」

これが意味するのは、私なりの解釈だけど、つまりクリエイターにとって何より大切なのは、創作意欲をずっと変わらず持ち続けること。「死んでもやりますから!」って言えるだけの情熱をキープ出来る人こそが、才能ある人って事じゃないかと私は思います。

とまぁ、最終回で特に光ったのはこの2人、八神隼人と東海林プロデューサーだけど、他の人物たち含めみんな魅力的に感じたのも、福田さんの愛がこめられてるからに違いありません。

ただ1人、家庭教師 兼 アシスタントの仙川っていうキャラだけは「こいつ、要らんやろ」ってw、私はずっと思ってました。演じてるのがジャニーズの人気グループの一員で、たぶん大人の事情で使わざるを得なかったんでしょう。

そういうのもまたドラマ制作の「あるある」で、本来必要ないキャラをいかに上手く活かせるか、魅力的に見せられるかも脚本家の腕の見せどころ。さすがは福田靖さん、あんなキャラでも愛らしく見えるよう工夫してくれました。皮肉とかじゃなくホントに頭が下がります。

初回からずっと面白かったけど、最終回でこんなに泣かされちゃったのは想定外。そんなサプライズもまた、面白いドラマの必須条件です。脚本家を目指してる方はバイブルにすべき作品かも知れません。

セクシーショットは圭佑の娘=絵里花を演じた山田杏奈さんと、出版社編集者=ゆかりを演じた野村麻純さんです。


 

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『シェイプ・オブ・ウォーター』

2021-03-13 00:30:57 | 外国映画










 
「自分以外の人が好きな映画も観てみよう」シリーズ、今回はギレルモ・デル・トロさんの監督・脚本・製作による2017年公開のアメリカ映画。例の「POPEYE」誌は'17年に組まれた特集の再編集版なので、当時まだ公開されてなかった本作は載ってません。

だけどタベリストのyamarine師匠がブログでお薦めされてたし、デル・トロ監督と言えばオタク系クリエイターの代表格で『パシフィック・リム』も面白かったしで、ずっと気にはなってたんですよね。

なのに今まで観て来なかったのは、本作が第90回アカデミー賞で作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞を受賞という、モンスター映画としては異例の快挙を成し遂げ、世間でも「これぞ生涯の1本!」と絶賛されまくってたから。

そんな多数派の流れに乗っかりたくない気持ちもあるし、みんながこぞって誉める作品をここで同じように誉めてもつまんないし、そもそも私は「面白い映画」が観たいのであって「いい映画」には興味が無いんです。

それでも今回「観てみよう」と思い立ったのは、町山智浩さんの著書「映画には『動機』がある」を読んで、デル・トロ監督が『シェイプ・オブ・ウォーター』を創った「動機」を初めて知ったから。

監督は、少年時代にモンスター映画の古典『大アマゾンの半魚人』('54) を観て、何も悪いことしてない半魚人が探検隊に射殺されちゃう結末に憤慨し、自分が納得できる結末(つまりハッピーエンド)に描き直したくて、わざわざこの映画を創ったんだそうです。これほど単純明快で説得力ある「動機」が他にあるでしょうか?w

ところが! 『シェイプ・オブ・ウォーター』を絶賛するどの記事を見ても、この映画が『大アマゾンの半魚人』のリメイクであることに誰も触れてない! なんで?! おいちょ待てよ!

それどころか、同じオタク系クリエイターのピーター・ジャクソン監督がやはりアカデミー賞を獲られた『ロード・オブ・ザ・リング』にはチョー有名な原作があるのに『シェイプ・オブ・ウォーター』は100%デル・トロ監督のオリジナルなのが凄い!って書いてる人までいて、それは確信犯的に嘘をついてるのか、あるいは『大アマゾンの半魚人』を知らないのか、いずれにせよプロの映画ライターとしてそれはマズイやろ!って言いたくなる記事が、堂々とメディアで紹介されてるのには唖然とします。

デル・トロ監督はあらゆるインタビューでその製作動機を語られてるでしょうから、日本のメディアが勝手に「それじゃ女性客が寄りつかない」と判断して、意図的に原典の存在を無かったことにしたんでしょう。半魚人を害あるモンスターだと勝手に決めつけ、問答無用で射殺した探検隊と同じように!

そんな事実を知っちゃったもんで、私はこの記事を書く決意をしたワケです。捕らわれ、虐待され、やがて殺されようとしてる半魚人を、軍の施設から逃がす決意をしたヒロイン=イライザ(サリー・ホーキンス)と同じように!w

正確に言うと、本作は『大アマゾンの半魚人』以上に、その続編『半魚人の逆襲』('55) の影響を受けてるみたいです。その映画では半魚人をさんざん虐待した挙げ句に殺しちゃう科学者が、なんとヒーローとして描かれてる! それが当時のアメリカにおける多数派の価値観だった。

明らかにそのキャラをモデルにした軍人(マイケル・シャノン)が、この『シェイプ・オブ・ウォーター』では完全に悪役として扱われ、悲惨な末路を辿ることになります。時代が進み、アメリカ人の価値観も変わったワケです。

いや、ドナルド・トランプみたいな差別主義者が大統領に選ばれちゃう現実を見れば、根本的には何も変わってないのかも? だからこそ、口が聞けないヒロインや、その同僚の黒人女性、隣室に住むゲイのおじさんといったマイノリティたちが、マジョリティに「逆襲」する展開に我々は拍手喝采せずにいられない。時代劇でありながら「今」の現実を反映した世界観なんですよね。

そんな風に社会派の側面もあり、人間ドラマとしてもラブロマンスとしても優れてるし、'60年代の街並みを緻密に再現した美術、ロマンチックな音楽もまた素晴らしいんだけど、この映画が「生涯の1本!」と言わしめるほど我々の心を揺さぶったのは、やっぱりデル・トロ監督のモンスター愛、言い換えればマイノリティへの愛が詰まってるからこそ。

ハイ・クオリティーな映画なら五万とある中で本作がひときわ輝いたのは、まさにそれこそ、作品に「魂がこもってる」から。前回の『クリード/チャンプを継ぐ男』と同じです。だからレビューする気になりました。


 

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『クリード/チャンプを継ぐ男』

2021-03-08 23:13:32 | 外国映画






 
久々の「自分以外の人が好きな映画も観てみよう」シリーズです。例の「POPEYE」誌ではラッパーの宇多丸さんが推しておられるけど、それ以前にスタローン命の友人からも薦められてました。

すでに完結した筈の『ロッキー』シリーズ9年ぶりの続編で、ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)永遠のライバルにして生涯の友だった、亡きアポロ・クリード(カール・ウェザース)の息子を主人公にした初のスピンオフ映画。ライアン・クーグラー監督による2015年公開の作品です。

友人に薦められ、世間で高い評価を受けてることも知りながら、しかも私自身が『ロッキー』シリーズのファンであるにも関わらず、観るのが今更になっちゃった理由は単純明快。主役がロッキー=スタローン先生じゃないから。

師匠としてロッキーも出て来るけど、闘うのはあくまでアポロの息子。あんな今どきの若者に感情移入できるとは思えないし、そもそもボクシングが好きなワケでもない。スタローン先生が口元を歪めながら闘ってナンボのシリーズじゃないの?ってどうしても思っちゃう。同じように先生が自分の息子にバトンを渡そうとした『ロッキー5』もイマイチだった事だし。

けど、実際に観たらすんなり感情移入しちゃいましたw 主人公のアドニス(マイケル・B・ジョーダン)はアポロが愛人とチョメチョメしてつくった隠し子で、父親とは一度も逢えないまま施設で育ち、アポロの正妻=メアリー・アン(フィリシア・ラシャド)に引き取られます。

やっぱりカエルの子はカエルで、アドニスもやがてボクシングの才能に目覚めるんだけど、夫を試合で殺されたメアリー・アンは猛反対。そのせいか地元では誰もボクシングを教えてくれず、彼は裕福な暮らしを捨ててロッキーのいるフィラデルフィアを目指します。

もうボクシングとは距離を置きたいロッキーは、アドニスに師事を請われても頑なに断るんだけど、彼の才能と情熱が本物であることが判ると放っておけず、覚悟を決めてコーチを引き受けます。

で、アドニスはアポロの息子であることを世間に隠してプロデビューするんだけど、世界チャンピオンのマネージャーに素性を知られてしまい、その引退試合の対戦相手に指名されちゃう。そう、かつてアポロの「かませ犬」に選ばれたロッキーのように。

コーチとしては反対しながら、やっぱり支援せずにはいられないロッキー。だけどその矢先に、医者から癌を宣告されてしまう。

愛妻=エイドリアンやその兄=ポーリー、そして師匠のミッキーもみんな癌を患い、化学治療でさんざん苦しみながら死んでく姿を見て来たロッキーは、怖じ気づいて治療を拒否。

そんなロッキーにアドニスが言うんですよね。「オレには死ぬ気で闘えって言ったくせに、あんたは逃げるのか?」って。「最後まで一緒に闘ってくれよ」って。

『ロッキー』シリーズをよくご存じの方なら、本作が原点の第1作を巧みに踏襲してるのにすぐ気づかれた事と思います。アドニスにもエイドリアン的な存在=歌手のビアンカ(テッサ・トンプソン)との出逢いとロマンスがあり、やっぱり彼女に救われ支えられるワケだけど、聴力を失っていく病を患ったビアンカもまた、無謀な闘いに挑むアドニスの姿に勇気をもらう。

もちろんロッキーも行き場を失ったアドニスを救ってるし、こうして人生最大の窮地で逆に救われてもいるという、独りでは成し得ないことをお互い支え合って達成していく姿がホントに感動的で、ヒーロー物じゃなく人間ドラマである『ロッキー』の本質をパーフェクトに捉えてる。

そこに昔のアポロ以上に憎々しい対戦相手がいて、猛反対してた筈のメアリー・アンから星条旗柄のトランクスが届いて、ロッキー対アポロ戦を凌ぐ大激戦が繰り広げられて、もうここしか無い!って場面であの「ロッキーのテーマ」が流れるんだから、そりゃ号泣するに決まってますw

特訓シーンでも流れなかったから、もうあえて使わないのかな?って思い込まされた上で、忘れた頃に満を持して、ホントここしか無い!って場面で来るんですよねw ライアン・クーグラー監督、タダモンじゃありません。

この映画、実はスタローン先生発の企画じゃないんだそうです。先生自身はもう続きをやる気が無かったのに、シリーズの大ファンだったクーグラー監督が話を持ち込み、熱心に口説いて重い腰を上げさせた。まるでアドニスがロッキーを動かしたみたいに。

『ロッキー』1作目がスタローン先生自身の物語だったのと同じように、この『クリード』もまたクーグラー監督自身の物語になってるワケです。……ってのは宇多丸さんの受け売りなんだけどw、ホントにそうですよね。いつも私がこのブログに書く、作品に「魂がこもってる」ってヤツです。

旧作を踏襲しつつ描写は遥かに洗練されてて、特にファイトシーンの迫力が凄いことになっており、格闘技映画としての進化も存分に味わえます。ヒロインのテッサ・トンプソン(『アベンジャーズ』シリーズでもご活躍!)も魅力的だし、高評価も納得の大傑作です。

すでに続編の『クリード/炎の宿敵』も'19年に公開されてますが、そちらは本作ほどの評価は得られなかった模様。アポロを死なせた張本人であるイワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の息子が次なる対戦相手ってことで、そりゃ燃えないワケにいかないストーリーがかえってベタ過ぎたんでしょうか?(その方が私好みかも知れませんw)


 

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「ハンソク先生 VS 金八先生」

2021-03-05 23:48:28 | 探偵・青春・アクションドラマ

私は元々『太陽にほえろ!』マニアでボンボン刑事(宮内 淳)推しだったもんで、『太陽~』卒業後に宮内さんが主役を張られた『あさひが丘の大統領』には大注目し、テレビ雑誌に載った『あさひが丘~』関連の記事を切り抜いて大学ノートに貼ったりしてました。

今回、レビューのオマケとして当時の番宣写真をいくつか載せようと思い、そのノートを何十年かぶりに掘り起こしたら、女の子向け雑誌『セブンティーン』に掲載された面白い記事が見つかりました。

当時『3年B組金八先生』第1シリーズに主演されてた、武田鉄矢さんと宮内さんの対談記事です。

『~金八先生』はその名の通り金曜夜8時にTBS系列で放映されてましたから、我らが日テレ『太陽にほえろ!』のまっこう裏番組であり、『あさひが丘~』と同じ学園物ジャンルでもあって正真正銘のライバルどうし。

だけど当時は『あさひが丘』こそが王道ど真ん中で『金八』はイロモノ的なイメージでしたから、この記事も二枚目スターとコメディアンの爆笑凸凹対談、みたいな趣向になってます。

お二方とも饒舌ですから普通に読むだけで面白いけど、結果的に『あさひが丘』は期待されたほどの人気を得られず日テレ「青春シリーズ」に終止符が打たれ、一方の『金八』は社会現象と言われるほど注目されて日本を代表する学園物シリーズとなる、いわば完全に立場が逆転しちゃう顛末を踏まえた上でこれを読むと、また違った面白さが味わえたりします。

レビュー記事にも書きましたが、あの頃=1980年あたりが、日本人の価値観とテレビ番組の内容が大きく変わっていくターニングポイントだったと私は思いますから、それを象徴する記事としても資料価値があるかも知れません。話の内容自体はチョー他愛ないんだけれどw




武田「宮内さん、先生の役って難しくないっスか?」

宮内「よく聞かれるんですけど、オレあんまり先生の役をやってるんだと意識してないんですよ。なんの役をやっててもそうだけど。だからどっちかっていうと、先生っぽくないんじゃないかなあ」

武田「でも、きょう宮内さんの大統領観たんですけど、ほら(OPタイトルバックで)校舎の上でスッと立って生徒をバーッと見下ろすでしょ。カッコいいんですよね。翼ひろげた火の鳥ですよ、あれは(笑)。あれをオレがやってごらんなさいよ、デパートの屋上の自殺男ですよ(笑)。なかなか飛び降りないで金網にしがみついてる自殺男ですよ」

宮内「そ、それほどでもないでしょ(笑)」

武田「いやあ、宮内先生見てると屈折せざるを得ないもんなあ。だいたいオレが先生の役やりたいと思ったのは、中・高生のころ。テレビでよく先生シリーズやってたでしょ」

宮内「『青春とはなんだ!』とか『でっかい青春』……」

武田「そう、それ。あれ観て学校の先生になってもいいなあと思ったのね。夏木陽介さんみたいに白い短パンはいて(笑)、颯爽と校庭のグラウンド走ってみたいと思いましたよ」

宮内「オレも憧れました。あの頃、ああいう先生必ずいると思ってた」

武田「同感。絶対いると思ってた。なしてか、不思議なことに必ず美人の先生がいてね(笑)。しかも下宿先には、とってもキレイなお嬢さんが下にいてねえ。そこのオバサンがまた、なんとか2人をくっつけようとする(笑)」

宮内「なんか、憶えてる場面が変なところばかりですね」

武田「ああいう先生、だいたい英語の教師なんですよね。宮内さんは?」

宮内「英語です」

武田「これだもんな(笑)。オレは国語。宮内さん英語。大統領と金八。屈折しちゃうなあ(笑)。宮内さん出身はどこですか?」

宮内「四国ですけど、実はオレ、大学、福岡の西南大学なんですよ」

武田「えー、じゃ海援隊の中牟田俊男と同じだ。学年で言うと1つ下かな。オレは福岡教育大なんスけど」

宮内「えー、じゃ、先生になる筈だったんだ」

武田「いや、4年で中退しちゃったんですよ」

宮内「オレ、2年で中退(笑)。じゃあ、中退どうしが先生役やってるワケだ」

武田「そういうことになりますねえ。しかし西南大学っていうと、ちょうど当時チューリップ有名だったでしょ。彼ら西南だから」

宮内「チューリップはもう当時大変な評判でしたよ」

武田「海援隊も大変な評判でした?」

宮内「海援隊、知らなかったなあ(笑)」

武田「おかしいなあ。あの頃は五分に張ってたんだけどなあ(笑)」

宮内「オレあんまり、そういう音楽興味なかったから分かんなかったけど、チューリップだけは凄かったですよ」

武田「チューリップだけは(笑)。どこに下宿してたんですか?」

宮内「博多駅のすぐ裏にウチの伯母さんの家があって、そこから通ってたんです。今の新幹線口の近くの都ホテルのそば。お菓子屋やってまして、そういえばタバコ屋もやってた(笑)」

武田「ムム。しかし、その辺よくうろついたなあ。空港行くとき、必ずまわる道の辺りですよね」

宮内「そう、あの広い道。しかし、こんなこと喋って読者の人わかるかなあ?」

武田「わからないでしょう(笑)。ほんと九州出身はバカだから、出どころ同じだとすぐ悪ノリしちゃうんですよ」




武田「ところで宮内さんは結婚してるんですか?」

宮内「いやオレは、自他共に認める独身主義だから」

武田「はー、そうですか」

宮内「独身の方がいいですよ」

武田「でも独身って、家に帰ってドアを開けると、プーンと灰皿の臭いが部屋に残ってるでしょ。あれがオレ、耐えられなくて結婚しちゃった」

宮内「オレはあの臭い大好きですよ(笑)」

武田「完璧なまでの独身主義者だ。でも宮内さん、いま29歳でしょ。もうすぐですよ。30になれば男は体力的にもガックリきて、嫁さん欲しくなりますよ」

宮内「いくつで結婚したんですか?」

武田「25」

宮内「早いですねえ」

武田「いやあ、オレは25になるまでさんざん女に捨てられたから(笑)。だから今のカカァに巡り会ったとき、これしかもういないと思ったもん(笑)。今後明るい展望なんて一切ないと思ったもん(笑)。とにかく強引でもいいから、この女つかまえておかないと、一発も出来ずに終わっちゃうかと思ったもんな(笑)」

宮内「まさか!?」

武田「まさかって問題じゃないですよ(笑)。オレはもう冗談から生まれた男だから、女に声かけるのだけは得意なのね。これだけは宮内さんより上手い。的中率がめっぽう低いだけで。とにかくズバリ言っちゃう。『しない?』って(笑)」

宮内「ちょっと、ちょっと」

武田「ふつう女の人だったら『しない?』なんていきなり言われたら『やめてよ』と言い返しますよね。そしたらすぐ『ごめんねえ、変なクセがあって』なんてトボケていい子に戻っちゃうワケですよ。ところがウチのカカァに『しない?』って言ったら、じーっと考えやがってさ(笑)。でもその迷ってる顔がすごく嬉しかったのね。ちゅうことはしてもいいっちゅうことですからねえ(笑)。なにせ動物的な男ですから。しかし、なんでまた宮内さん独身主義なんですか?」

宮内「オレは女の人は好きですよ。女の人には優しい男だと思ってるし。でも『愛してる』って言葉は、やっぱり一番好きな人にだけ言わなきゃいけない言葉ですよね。でも世の中には色んなタイプのステキな女の人がいて、これしかないって自分の頭の中で決められない」

武田「モテる人はこれだからヤンなっちゃう(笑)」

宮内「だから、この人と結婚しても、ぜったい破局が来ちゃうと思ってしまうワケですよ。それに結婚っていうのは、お互いにこの人とは一生離れたくないと思ってるふたりが作りあげるものでしょ。ということは、悪く言えばひとりの女性にがんじがらめにされなきゃいけない。それがイヤなんですよ。彼女しかいないっていうのは、すごくオレにとっては消極的な行動に思えてしまうんだなあ。なにしろオレは、がんじがらめって言葉が一番キライだから」

武田「これはかなり重症だ。宮内さんをワタクシが診察しまするに、男が結婚して5年ぐらいして辿り着く心境ってあるんだけど、その心境に独身の段階で達してしまってるのね。こりゃ当分、独身は続きそうですな」




武田「3年B組はほとんど中3の生徒だから、まだ色気のほうが無いからいいけど、そっちは高校生だから大変でしょ」

宮内「大変ですねえ。ウチは芝居を本格的にやってない女の子が多いから、どうしてもオレが教えることになるワケですよ。ところが相手の女の子は、自分のために必要以上にやってくれてるんだと思ってしまうらしいんですね。このあいだも、その子が自分で編んだマフラーを持って来てくれましてね、お礼に。これが中学生だったら、別に芝居教えたからって、どうも有難うございましたで済んじゃうでしょ。変なところで大人なんです、ウチの生徒は。マフラー貰ったときは嬉しかったけど」

武田「ウチは持って来ません(笑)。欲しいワケではありませんが(笑)」

宮内「3年B組はやっぱり中学生って感じですか?」

武田「やっぱりまだ中学生ですよ。このあいだ演技の中で性教育の場面がありましてね。男と女の構造についてなんですけど、『男子の精子は1日で7千万。3日で2億1千万。4、5日ほっとけば中国の人口と同じ数になってしまうんだぞ、凄いだろ』って言いながら、ひとりの男子生徒を指差して言ったワケですよ。『おまえ、いま股ぐら重くないか?』って(笑)。そしたらその生徒、演技できずに真っ赤な顔してうつむいちゃいましてねえ。やっぱ、恥ずかしい年頃なんでしょうね」

宮内「ウチはなにしろ高校生ですからね。完全に異性を意識してますよ。ロケバスに乗るでしょ。男子と女子はしっかりわかれて、かたまって座ってますよ」

武田「ほう」

宮内「オレは1年間いっしょに仕事するんだから、家族だと思ってやろうじゃないかって言ってるんだけど、なかなかうまくいかない。だから、わざと男子生徒の前じゃパンツ一丁になって着替えたり、女子生徒が着替えてるところにバッと入ってしまうようにしてるんですよ。だから、いま非常に生徒たちの間で反感を買ってましてねえ(笑)。オレは親心のつもりなんだけど」

武田「いや、それは宮内さんが悪い。宮内さんのルックスがいけない(笑)」

宮内「でも、そうしなきゃ生徒を叱るシーンなんてよそよそしくなって上手く出来ないと思うんですよ」

武田「でもそれが必要以上にひとりの生徒に集中すると、よくない。ひいきしてると言うんですよ」

宮内「あ、それはありますね。男子生徒はほったらかしてても大丈夫なんだけど、女子生徒がねえ」

武田「実際の学校の先生と同じですよ。ひいきしてるって言われるのが、一番つらい」

宮内「オレはじゅうぶん気を使って、まんべんなく生徒と話してるつもりだから、大丈夫だと思うんだけど」

武田「ま、ルックスでは勝てないけど、視聴率では大統領に負けませんゾ」

宮内「それは、絶対にゆずれない(笑)」




大統領、負けちゃいましたねw そんな結果は武田さんご自身も『金八』スタッフの皆さんも全く予想されてなかったのでは?

確かに『金八』はそれまでに無かったタイプの学園ドラマだし、海岸で夕陽に向かって走るみたいな「青春」描写がダサいとされる空気もあったにせよ、そんな過渡期の流れにたまたま乗っかれたのが『金八』で、乗り損なったのが『あさひが丘』ってだけのことで、内容の良し悪しは関係なかったんじゃないかと私は思います。あの時期は『太陽にほえろ!』でさえ存続の危機に瀕してましたから。

それはともかく、この対談は「モテる男VSモテない男」の代理戦争みたいな側面もあって面白かったです。私は宮内さんのファンだし『金八』という番組が憎いけど、この代理戦争に関してだけは武田さん側に加勢したいですw バレンタインデーに山ほどチョコを貰ってたようなヤツとは、一生解り合えないと私は断言出来ますw


 

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『あさひが丘の大統領』最終回

2021-03-04 09:34:20 | 探偵・青春・アクションドラマ










 
☆第36話『別れる前に抱きしめたい!!』(最終回)

(1980.9.17.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=馬越彦弥)

おちこぼれラグビー部のキャプテン=水野(井上純一)が、実家の事情により急きょ故郷への転校を余儀なくされちゃいます。

別れを惜しみ、最後に何かして欲しいことは無いか?と尋ねるチームメイトたちに、水野は「一度でいいから、涼子先生に抱きしめられたいんだ」と恥ずかしそうに言います。

で、ラグビーの練習中に気分が悪くなってよろけたフリを水野にさせ、涼子先生(片平なぎさ)に介助してもらえば結果的に抱いてもらえる!てな作戦を決行するんだけど、毎回いいところでハンソク先生(宮内 淳)が駆けつけw、代わりに抱いちゃうもんだからことごとく失敗。コメディーの基本ですw

「お前の気持ちはよく解るぞ、水野。よーく解るぞ!」

事情を知ったハンソク先生は、水野の望みを叶えてやるため一計を案じます。送別会の余興として水野を主役にした演劇をやり、生き別れになった母親役を涼子先生に演じてもらうことで、再会シーンで(稽古も含めて)存分に抱き合えるという、画期的なアイデアw

ところが、ハンソクが書いた台本の抱擁シーンがあまりに大袈裟で長すぎることから、女子テニス部の長尾(藤谷美和子)たちがオンナの勘を働かせます。

「これは男の子たちの謀略よ!」

長尾は以前から水野に淡い想いを抱いており、実は彼女も「別れる前に(水野を)抱きしめたい!」っていう願望を抱いてるのでした。(男子が『抱きしめられ』たくて女子が『抱きしめたい』って考えちゃうあたりに、時代の変化が現れてますよね。ほんと1980年あたりがターニングポイントだったように私は感じてます)

で、いよいよ芝居の稽古を始めようとしたら、涼子先生が急に母親役を長尾とバトンタッチすると言い出したもんだから、ハンソク先生が慌てます。

「そんな、どうして!?」

「水野くんを送別するためのお芝居だったら私達にもやらせて欲しいって、長尾さんたちから申し入れがあったんです」

「それじゃ意味がない!」

「あら、どうしてですか?」

「どうしてって……」

「私がやらなきゃ意味のない芝居なんですか?」

「…………」

「答えられないところを見ると、長尾さんたちが言ったことは本当なんですね」

その上、アホアホなこの作戦を提案したのもハンソク、誤字脱字だらけの台本を書いたのもハンソクと聞いて、涼子先生は呆れ果てます。

「あなたは教師なんですよ? よくもこんな不謹慎で、バカバカしいことを……」

「なにがバカバカしいんだよ?」

「これがバカバカしいと思わないの!?」

「思わないよ! 水野はな、先生のことが好きなんだよ。もう会えないかも知れない、ひょっとしたら一生会えないかも知れない、だから一度でもいいから抱きしめてもらいたい……その気持ち、解るよ。オレだって昔そう思ったもん。そうしたいと思ったよ!」

「あなたは生徒の気持ちが解れば何でもしてやるんですか?」

「出来ることならしてやりたいよ! 自分がしたいと思ったことなら、させてやりたいよ!」

「それで教師としての任務が果たせると思ってるんですか?」

「教師としての任務って一体なんだよ?」

「先生は先生なんです、生徒じゃないんです! 教師として、生徒を指導するべき立場にある人間なんです!」

呆然と見守る生徒たちの前で繰り広げられる、ハンソクvsタックルの「理想の教師像」を巡る激しいバトル。これでこそ『あさひが丘の大統領』です!

学園を去るのがハンソクやタックルじゃなくて水野だから、最終回の主役まで生徒に奪われたように見えるけど、真の主役はやっぱりこの2人なんですよね。

「オレはたまたま先生っていう職業に就いてる。生徒よりもちょっと高いところに立って、生徒に向かって何か喋ってる。ただそれだけだよ。あとは生徒と同じ下らん人間だよ」

「先生はすぐそうやって誤魔化すんだから」

「なにを?」

「立派な教師になる努力を怠ってることをです! 教師として、理想に少しでも近づこうと努力なさらないことです!」

「オレはそんな気は無いよ。立派な教師とか、理想的な先生になろうなんて気は全然無いよ」

「なぜですか!?」

「オレはオレだよ、こんな人間だよ! オレは生徒にそれ以外なにも言うこと無いよ!」

「それが怠慢だって言うんです!」

「あのなあ!」

どっちが言うことも間違ってないんでしょうけど、常識の観点からすればハンソク先生の分が悪い。だけど彼はどうしてそんなに、ありのままの自分を見せることに拘るのか? 実はそこにこそ、ハンソクにとっての「理想の教師像」が反映されてるのでした。

「オレが今思い出しても懐かしい先生っていうのは、オレたちの前に生身の自分をさらけ出してくれた先生だよ。たとえ下らなくても、バカらしくてもいい。生身の自分を一瞬でもさらけ出してくれた先生ほど懐かしいんだ」

「…………」

「だからオレは、そんな先生になりたいと思った。立派な先生とか、教師としての理想とか、そんなこと言う先生にろくな先公はいなかったよ。そんな先公に指導されるなんて、オレはまっぴらゴメンだったんだよ」

「だけどあなたは今、先生なんです。生徒だった頃のことはいいかげん忘れて下さい!」

「自分が生徒だった時のことをケロッと忘れて生徒を指導するのが、それが立派な先生だって言うのかアンタはっ!!」

「!!」

本当は、本音の部分では、涼子もハンソクの言い分を理解してるんですよね。実際、第2話で彼女は「あの子たちには、あなたみたいな教師が必要なのかも知れません」って言ってました。

だけどそれを認めてしまったら、涼子自身が働くモチベーションに、生きる支えにさえしてる理想像を否定することになっちゃう。だから意地でも曲げられない。

極論を言えば、両方を兼ね備えた人、ハンソクとタックルを足して2で割ったような人が理想の教師なんでしょうけど、そんなスーパーマンは存在しないって事ですよね。ハンソクもタックルも、我々と同じフツーの人間なんです。だからこそ『あさひが丘の大統領』は面白い!

さて、ハンソク先生は水野だけでなく、長尾の望みも叶えてやるべく、校庭で2人を向き合わせます。

「水野、お前だって涼子先生と別れる前に、抱きしめられたいって思ったろ? 長尾だって同じ想いなんだ。やらせてやれ」

「うん、いいよ」

「長尾、気が済むまで抱きしめろ」

ハンソクはそう言って、他の生徒たちを連れてこの場を離れます。

「ありがとう、水野くん」

「礼なんかいいよ」

「うん。それじゃ……」

ところが! いよいよ長尾が水野を抱きしめようとした時、絶妙なタイミングであの人が通り掛かっちゃう。

「あなたたち、何してるのっ!?」

「あっ、涼子先生……」

「大西先生がしてもいいって言ったんです!」

そう言って長尾は涼子の目の前で水野に抱きつき、サヨナラを言ってから走り去ります。ちなみに大西先生っていうのはハンソクの正式名称です。

「大西先生がしろって言ったの? ホントに? まったくあの人は!」

「そんなに怒んなよ、先生。先生の気持ちも解るけどさ、ハンソクはハンソクで結構いいとこあるんだよ。みんな好きだよ、あの先生を」

「…………」

水野に言われなくたって、そんなことは涼子先生が一番よく分かってる。だから余計に腹が立つんでしょう。自分がモラルやルールに縛られて出来ないことを、あのハンソク野郎は軽々とやってのけ、何の努力もしないで生徒たちに好かれてる。そりゃあ憎たらしいに決まってます。

涼子先生は学校じゅうを駆け回り、プールで泳いでるハンソクを見つけると、水中から上がろうとする彼を待ち伏せて、思いっきり突き飛ばします。

「うわっ!」

ドボン!!と水にはまったハンソクに向かって、涼子は叫びます。

「キライですっ!!」

「…………」

仕方なくハンソクが向かいのプールサイドに泳いで行くと、涼子は全力疾走で先回りし、また突き落とします。北側へ泳ごうと南側へ泳ごうと、涼子は追いかけて追いかけて、突き落とし続けます。

それを途中から楽しみ始めたハンソクは、東側へ向かうと見せかけて西側にターンしたりなどしておちょくるんだけど、涼子はあくまで真剣に、必死に走ってまた突き落とすのでした。何度も何度も……

最終的に水から上がるのを諦め、プールの真ん中で立ち尽くしたハンソクを、涼子は肩で息をしながらプールサイドから見下ろし、睨みつけます。

なのにハンソクはなぜか、とても嬉しそう。彼は真性のマゾヒストなんでしょうか? 否、ハンソク先生は多分、この時をずっと待ってたんですよね。

あさひが丘学園に着任したばかりの頃、ハンソクは無気力な生徒たちを発奮させる為にわざと挑発し、乱闘騒ぎを起こして早速クビになりかけましたw

何のために彼はそんな事をするのか? 相手を本気で怒らせて一体なにが嬉しいのか? その答えは、駅のホームでいよいよ旅立とうとする水野が、涼子先生に残した別れの言葉にありました。

「先生。こないだ、すごくキレイだったよ」

「こないだ?」

「プールサイドから、ハンソクを睨みつけたとき」

そう、水野はあのとき、プールの外から2人の様子をずっと見ていたのでした。

「あのとき先生、自分をさらけ出してた。すごくキレイだったよ」

「…………」

あのとき涼子は、モラルもルールもすっかり忘れ、恥も外聞もなく自分をさらけ出してた。ハンソクはそれが嬉しかったワケです。

「ハンソク、オレの下らない望みにつき合ってくれて有難う……そんな先公いなかったよ、今まで」

「オレだってお前とおんなじだった。初恋の人を抱きしめたくてな。でも、口も聞けないまま終わってしまった」

「…………」

「忘れんなよ、水野。若い頃に、青春の頃に思ったことは、一生忘れんなよ」

「……はい」

そして水野があさひが丘を去り、長尾はもちろんクラスメイトはみんな泣くんだけど、やがてまたいつもの日常へと戻っていく。そんな『あさひが丘の大統領』最終回でした。


いやあ~、いいですね。実にいい! 今、こういうドラマって無いですよね。謎解きもどんでん返しも一切なく、愚直なほどストレートに「人間」を描いたドラマ。そして創り手の言いたいことがハッキリと伝わってくるドラマ。

2020年代の今、そんなテレビ番組はもう創りたくても創れません。創らせてもらえない。視聴率を稼ぐために謎解き要素は必須だし、クレームを避けるために主張は一切しちゃいけない。

いや、この『あさひが丘~』だって、初期はもっとハチャメチャで尖ってて、もっと言いたい放題だったのに、途中からトーンを抑えざるを得なかった。テレビ番組である以上、数字や評判を無視することは絶対に出来ない。だから仕方ないんだけど、それにしたって現在はあまりに窮屈すぎる。この『あさひが丘~』が日テレ「青春シリーズ」の最終作となったのも、なんだかテレビの宿命を象徴してる気がしてなりません。

それでも、最後の最後で本当の『あさひが丘~』らしさを取り戻してくれました。最後だからこそ出来たのかも知れないけど、さすがは鎌田敏夫さんの脚本です。

そしてあらためて振り返れば、なんと豪華なレギュラーキャスト陣! 『太陽にほえろ!』の絶頂期を支えてた宮内淳、後にサスペンスの女王となる片平なぎさ、そして宍戸錠、高城淳一、秋野太作、樹木希林、由利徹、金沢碧、谷隼人という芸達者揃いの職員室に、トップアイドルの井上純一&藤谷美和子。

コメディーとしてのクオリティーが抜群に高いのは、間違いなくこのキャスト陣の力量あればこそ。当時の連ドラにはけっこう未熟な役者さんも多かった(それはそれで成長を見守る楽しみもあった)けど、本作には穴が見当たりません。生徒役のキャストも皆さん素晴らしかった。

これは現在でもじゅうぶん鑑賞に耐えるどころか、少なくともコメディー分野じゃ昨今の作品群に全然負けてません。もう40年も前(そんなに経つのか!)のドラマなのに、ホントに凄いことだと思います。

『あさひが丘の大統領』はやっぱり面白い! いくつかのエピソードをレビューして来て、私はそれを確信しました。


 

コメント (7)
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