hinajiro なんちゃって Critic

本や映画について好きなように書いています。映画についてはネタばれ大いにありですのでご注意。本は洋書が中心です。

A long Way Gone

2013年01月08日 | 洋書
   

 アフリカ西部に位置する国シエラレオネの内戦時に少年兵とならざるをえなかった青年のメモワールです。
 洋書空間の michiさんのレビューで興味を持って手に取りました。michiさんのブログ。 

 作者のイシュマエルは小さな村で暮らしていました。ところが彼の村はある日突然現行政府の政策に反対する反乱軍に襲われ、家を焼かれ村人は大虐殺されます。
 命からがら逃げ延びて、行くあてもなく、どこに向かっているのかもわからず、ひたすら歩き続ける少年たち。何度か村を訪れますが、どこへ行っても反乱軍の手が伸びてきます。何度も殺されそうになりながらも走り続け、森に潜み、どうにか次の村へとたどり着きます。しかしながら、どの村もいつ襲われるかわからない自分たちのコミュニティを守ることで精一杯。なかなか居続けるわけにはいきません。
 敵は反乱軍だけではありません。飢えと渇き容赦なく照り続ける灼熱の太陽、突然始まる大雨、森の中の主動物たち。そして不安と恐怖に怯える人々は優しさを失いかけ、例え幼い少年であっても信用することができなくなっています。
 ようやく手を差し伸べ迎え入れてくれるところが見つかったのですが、そこは政府の軍でした。
 彼らの拠点を知ったからには生きて逃すわけには行きません。道中反乱軍に脅されて口を割られては困りますから。この場で死ぬか、兵士として戦うかのどちらかを余儀なくされます。
 肉体的にも精神的にも疲れ果てている少年たちには「家族を殺した憎き反乱軍を共に倒そうではないか。この国の平和のために共に戦おう」という将軍の声は簡単に染み込んでいきます。
 兵士としての生活についてもイシュマエルは正直に綴っています。薬漬けにされ、暴力が許されている映画だけを娯楽として与えられ、「人を殺すことを何とも思わなくなっていた」と。振り返って言葉にすることはどれほど辛かったでしょうか。
 その後、ユニセフに救助されリハビリを受け(といっても一筋縄では行かないのですが)、首都に住む親戚の家に引き取られるのですが、そこへもまた反乱軍が押し寄せてきて・・・・・
 最後はアメリカに渡り、教育を受け、今は自分と同じように苦しんでいる少年兵たちを救助する活動をしているのだそうです。

 9 out of 10

 感情に流されることなく、冷静に当時を振り返り、ここまで正直に回顧録を書くのは非常に容易ではないと思います。そして、その雰囲気がとても好感がもてました。
 ただ、反乱軍によるまるで楽しんでいるかのような虐殺シーンがイシュマエルの目に映ったままの状態で鮮明に描写されているので、読む側はそれなりの覚悟が必要となります。
 私が特に読んでいて苦しく思った箇所は、イシュマエルが一人で何週間もあてもなく逃げ続けるところです。絶望と孤独に飲み込まれなかったのはなぜなのか。何が彼を突き進ませたのか。答えは意外なことに最後まで書かれていません。みなさんはどうしてだと思いますか?

イシュマエルが、何度も何度も死に直面しながらも、奇跡的に生き抜いてこれたのはなぜか。
 一つはもちろん上に書いた通り、彼のどんな状況にあっても生き延びたいと願う強い意志。
 そして、何よりも彼の持つ言葉の力だったのではないでしょうか。
 彼の生まれ育った村は、大人達が子供達を集めてストーリータイムをもつ習慣があります。そして、学校で習ったシェイクスピアを始めとする文学への興味、話を聞く耳があるからこそのスピーチ力。これらがはからずとも、数々の絶望的な状況からイシュマエルを救い出してきたのです。
 そして、音楽。音楽によって絶体絶命のピンチをくぐり抜けたというエピソードは、Mozart Question で読んだばかりですが、この作品中にもそのような場面がありました。音楽への愛が彼を救ったのです。

 どうでしょう、 Fellow Bookworms のみなさん、これからも共に本を愛し読み続けていこうではないですか。そして素晴らしい音楽も聴いていこうではないですか。
 お母さんがクラシック音楽ばかり聴かせるから(絶対そんなことない)ロックミュージックを知らなくて困る、と今ぼやいているのも、生まれた直後から読み聞かせをしてきた、そして興味の持ちそうな本を調べ上げせっせと渡しているにも関わらず英語の成績がいまいちなのも、日本語はおろか英語ですら電話でまともな話もできないのも、すべてうちの息子のことですが、いつかなにかのきっかけでこれまで触れてきた言葉や音楽が役に立つごとを願い、今後も図書館に通い続け、クラシックコンサート会場に連れ出し(ははは)、ろくな返事も期待できないけれどしつこく話しかけていこうと思った次第です。
 ちなみに彼に至っては音楽に関してはすでに将来に関わる一大事を救われていますからね、なんて、イシュマエルの運命に比べるとちっぽけな話ですね、、、、、、、
コメント (2)