『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第4章  怒るアキレス  5

2007-09-18 07:09:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 クリュセスは、外衣を身にまとい憂いを湛えて、連合軍の幕舎をあとにした。
 波打ち寄せる海辺を、外衣のすそを早春の冷たい風になぶらせながら、歩んできた道をひきかえした。クリュセスの目は、怨念に燃えていた。
 海辺を離れ、小高い丘にたどり着いた。
 新しく芽吹いた草の緑が、二月の陽光に輝いていた。そこには、祈りの場にふさわしい張りつめた気があった。
 クリュセスは、ひざまずいた。そして、祈った。自分の祈りが、怨念が、あの男の心情を打ち砕き、愛娘を膝を屈して、我が手に返すことを祈った。