『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  141

2013-11-07 08:25:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、統領の宿舎を辞して自分の宿舎に歩を運んだ。
 風はなかった、思わず空を仰ぐ、月はない、満天の星は淡い光を降るように投げ落としていた。北に輝く『荷車』(大熊座の七ッ星)を認めて目線を天頂に移し、南の天空の大星座をみとめて、目を向かう先に移した。
 イリオネスの宿舎には、70人余りが寝起きしている。ぼそぼそ雑談の声が耳に届く、ごそごそやっている者、往復高いびきで眠っている者、さまざまの寝風景である。暗闇である、目にはつかない、彼は、きめられている寝所に足探りでたどりつき身を横たえた。まぶたを閉じる、眠りが来ない、考えを巡らせた、そのようにしている間に眠りが彼を誘いに来た。深い眠りの世界で夢を見た。風雨の強い嵐の海に翻弄される船、『おれには、明日がある。お前らにも明日がある。海に呑まれてはならん』と乗り組みの者たちを叱咤激励していた。目を覚ますことはなかった。
 
 朝が来た。イリオネスは、常日頃より早めに朝行事に出向いた。パリヌルスら三人の来たるを浜で待った。朝食後に打ち合わせをやることを伝えることであった。緊張の為せることであった。
 『おう、おはよう。朝めしを終えたら打ち合わせだ。いいな。俺の宿舎の前でやる』
 彼らはうなずいて、思案しながら朝行事を終えて引きあげていった。
 打ち合わせ時となる、三人は、イリオネスの宿舎の前に集まった。彼はまだ宿舎の中にいる、パンを口に運びながら『今日』を考えている。最後のひとかけらを口に入れて咀嚼しながら腰を上げた。宿舎の戸口に立つ、三人の姿を目に入れた。
 『おう、お前ら、早いではないか。よしっ、打ち合わせ開始だ』と言いながら、打ち合わせにふさわしい場を決めて四人は座した。彼は三人と目を合わせて口を開いた。
 『まず、昨日のことを報告してくれ』
 パリヌルスから順に答えていく。
 『つぎは、今日の予定は?』
 パリヌルスが答える。
 『今日の予定は、午前中は、船の点検と整備です。午後は全員、撃剣の訓練です。オキテス、そのように予定を立てているのだが、君のほうはどうだ』
 『俺は、それでいい』
 『判った。ところで懸案の計画の討議の事だが、昼めしを終えたら間をおかず始める、いいな』
 『いいでしょう。判りました』
 三人は同時に首肯して打ち合わせを終えた。オロンテスは持ち場に帰り、パリヌルスとオキテスは、従卒二人を呼び寄せて小隊長格の者の召集を指示した。