『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  30

2011-12-16 09:11:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 砦では、パリヌルス、オキテス、オロンテスの三人が、航海中のあらゆる事態を想定して航海日程計画を作り終えていた。
 オロンテスは、その日程に基づいて食事計画の大要を二人に計って組み立てた。700人にも及ぶ者たちが航海中船上で摂る食事である、大変なことであった。その骨子については『まあ~、これでいいだろう』というところで決着した。彼はその計画を頭の中に押し込んで、倉庫で作業しているアンテウスのところに足を運んだ。
 彼は考えあぐんでいた。『どのようにしようか。まあ~、蓄えてある食糧の在庫次第だ』
 彼は大雑把に考えてから、事細かにやろうと決めた。
 パリヌルスとオキテスは、アエネアスらの帰砦の連絡を受け、彼らを北門に出迎えた。
 『お帰りなさい。おおっ、統領 雨にあわれましたか。ずぶぬれですね。広間に火が焚かれています』
 『おっ、そうか。それは有り難い。イリオネス、ギアス、それからトリタスも広間のほうに行こう』
 彼らは広間に足を向けた。
 『パリヌルスにオキテス、話はうまくいった。こちらの要望が全て承諾してもらえた。砦は、残る者たちの住居として、そして、一部はトリタスに任せて収穫物の倉庫として使用することにした。また、残る者たちは、トリタスの生活圏に組み入れることとした。そういうことだ。トリタスは、俺たちが船出するまで砦に逗留する。トリタス、いいな』
 『いいですとも。皆さん、お世話になります。よろしくお願いします。』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  29

2011-12-15 08:19:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、こみ上げる離れがたい感情のるつぼで、もがいている有様であった。
 アエネアスは、エノスの砦を辞した。一行もエノゼリアス領主らも砦の門前に立ち、互いの姿が見えなくなるまで、別れを惜しむ余韻をもってたたずんでいた。
 アエネアスら一行は、帰路を急いだ。太陽が中天にあるといえども、つるべ落としに沈む秋の陽のことである。
 このとき、トリタスは吹きすぎていく風が頬に冷たく感じ、東の空に目をやった。
 『統領、少し急ぎましょう。空模様が変わります。雨が来ます。風は海辺に近づくまでは気にせずともいいと思います』
 これを聞いた一同は、馬にムチを入れた。あと少しで砦という地点にさしかかったとき、一行は篠つくような雨に見舞われた。
 イリオネスは『くそっ!』とひとこと吐いて一行を急きたてた。このところより砦までには雨宿りするところがないのである。
 『統領、ずぶぬれになる覚悟をしてください。お~い、皆、急ぐぞ!』
 彼は一行を叱咤した。
 一行は、この地、一帯に広がる沼沢の地は通り過ぎておりぬかるんだ道に馬の足がとらわれることなく、暮れいく中にくすんだ砦に帰りついた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  28

2011-12-14 07:50:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 別れの酒宴は少しの間続いて、アエネアスらが辞するときが訪れた。アエネアスは座から離れることが出来なかった。彼の心のうちに、もうひとりのアエネアスが住んでいるのではなかろうかと感じられた。『このような時を失いたくはない』という自分がいるように感じられた。後ろ髪が引かれるという優しい力ではない、もっと強い力が自分を椅子に押さえつけているという感覚の中にいた。
 彼は『これは何なんだ。この力を撥ね退ける!』と思案した一瞬のときである。彼の全身にエネルギーが満ちてきた。積水が決するときの怒涛のエネルギーである。
 『アエネアスっ!』
 エノゼリアスが大声で呼んだ。その声がアエネアスを打った。アエネアスのエネルギーのダムを破壊した。心身の駆動エネルギーが堰をきって目指す目標にほとばしった。アエネアスは勢いよく座から立ち上がった。
 『エノゼリアス領主っ!』
 二人は強く、互いの肩を抱いた。生涯で、もう二度とこのようなときが訪れることのない信じあえるもの同士の肩であった。
 『お~っ!お前、なかなか力があるな』
 『領主っ!あなたも』
 二人は、涙を浮かべて互いの顔を見つめあった。瞬きを繰り返して見つめ合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  27

2011-12-13 08:22:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 エノゼリアスは、ゼレカスに声をかけた。
 『おう、ゼレカス。彼らの旅立ちを祝ってやりたい。テーブルを整えてくれんか』
 『判りました』
 少々の間があった。歓談が弾んだ。テーブルが整った。一同はそちらへ移った。
 『さあ~、アエネアス、飲もう!お前の門出だ。力いっぱい祝ってやりたい』
 一同が席に着いた。
 エノゼリアスが起つ、それにつれて全員が起立した。彼らが手にしている杯に酒が注がれていく、座の雰囲気が引き締まった。彼らの心の琴線が絆となる。
 『おうっ!乾杯をする。アエネアスの『建国』の船出だ。彼の望みが成就するよう、力いっぱい祈る!』
 彼は言葉を切って、一同を見渡し、呼吸を整えた。
 『乾杯っ!』
 声は、部屋の空気を振るわせた、一同は一気にに杯の酒を飲み干した。アエネアスは、声を震わせ咽びながら礼を述べた。
 『エノぜリアス領主、有難うございます。私のために、このような心遣いをいただいて厚く礼を申し上げます』
 同道したイリオネス、ギアス、トリタスらの目は、涙で潤んでいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  26

2011-12-12 08:45:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『トリタス、聞くが。いま、アエネアスが言った件、承知しているのか。お前の考えは?』
 『え~え、聞いております。私どもとしましては、この件については、了承する予定でおります』
 『うっう~ん、そうか、判った。アエネアス、その件、判った了解する。それらの者たちの住まいの方はどうする予定でいる?』
 『はい、住まいの方は、砦を住居として住まわせようと考えています。また、砦の一部を収穫物などの収納庫として使ったらどうかと、トリタスに提案しています。エノゼリアス領主殿、何卒、了承頂ければ幸いです』
 『判った、いいだろう。この件、全て了承した。アエネアス、気使いせず『建国』を目指せ!お前らの成功を祈る。我らが先代もお前と同様の望みを抱いて、この地に城壁を築いたことだろう思う。アエネアス、お前もお前の一子も命を大切に養って、願望の達成を目指せ!お前らがいかに遠いところの地にいようが、俺はこの地より、お前の成功を祈っている。判ったな』
 『有難うございます、エノゼリアス領主殿。いま、いただいた言葉、本当に有り難いお言葉です。このアエネアス、一族を率いて船出します。我らのことは、風の便りで貴方様に届くと思います。何卒、いつまでもご壮健にてお過ごしいただきたく、お祈り申し上げます』
 二人は、座を立って、しかっと、肩を抱き合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  25

2011-12-09 08:38:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アエネアス、決心は、堅そうだのう。その決心が崩れると言うことがないのか。また、その意志が命とともに、何者かによって絶たれるということもある。アエネアス、判ってるのか。建国の途につく以上、お前とお前の民族が生活を続けていく土地がなくなるのだぞ!いいな』
 『それは、充分に承知しています。この土地に居ついて、領主との約束のもとに私ども民族の生活圏を構築していく、そのことについても十二分に考えました。ですが、民族として、国を興すことが使命であり、念願なのです』
 『そうか、そこまで言うか。判った。俺は、お前たちを引き止めはしない。もうここには、お前たちが根を張る土地はない。いいな』
 『判りました。そこでお願いがあるのですが、エノゼリアス殿、聞いていただけないでしょうか』
 『何か知らんが言ってみろ。聞くか、聞かないかは事の次第だ』
 『この地に残る者たち、3人の老いたる者、乳飲み子を持つ夫婦者ら合わせて、71人の者たちがこの地にとどまりたいと言っているのです。そのようなわけで、トリタスが宰領している生活圏に組み入れて、彼らをこの土地に住まわせてやってもらえないかとお願いしたいわけです。トリタスのほうでは、この件については、受け入れてもいいように言ってくれています。エノゼリアス殿、何卒、この件ご了承いただけないでしょうか』
 アエネアスは、低頭して懇願した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  24

2011-12-08 09:38:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 決意を述べようとするアエネアスの表情は、鬼気迫る雰囲気をかもし出していた。
 『私の率いている民は、700余りですが、この土地に居残ることを望む者を残して、ここ1週間以内に『建国』の途につこうと考えています』
 エノゼリアスは聞き返した。
 『何っ!建国の途と言ったな。アエネアス、お前、気は確かか。どこへ行って国を興そうというのだ。国を興すということは、植民地を造ることとは違うのだぞ。判っているのか』
 『私としては判っている心算です。植民地として我々の生活圏を構築することと、一国を興すということは、そのプロセスが全く違っていることは充分に承知しています。事が成るか、否かは、全く不明です。しかし、如何なる困難と辛苦があろうとも民族として、為さねばならない事業なのです。一国の民に課された使命なのです。今の私どもには何もありません。あるのはこの『建国』の使命だけなのです。領主、何卒、ご理解いただきたいところです』
 『アエネアス、ところでどこへ向かうのだ』
 『エーゲ海を南へ、クレタに向かいます。向かう先は、今のところそのように決めています。私どもが『建国』の杭を打ち込む箇所が、この世界のいずれかのところに必ずあると堅く信じています』
 言い切ったアエネアスのゆるぎない堅固な信念を一同は感じ取っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  23

2011-12-07 08:27:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 全員がなみなみと酒の注がれている杯を手にして立ち上がった。エノゼリアスが乾杯を声たからかに告げた。
 『一同っ!健やかであることが何よりである。さあ~、飲み干そうっ!乾杯っ!』
 一同は、杯を干した。これを期に一同は肩から力を抜いて腰を下ろした。座の雰囲気に和みが出てきた。
 『アエネアス、ところで肝心の来意を聞いておらんぞ。話してくれ。何ぞ、重要な用件か。人払いが必要なのか』
 『いえ、そのような配慮はいりません。このままでよろしゅうございます』
 『じゃあ、話せ。俺とお前の仲だ。きりだせないなら、背中を押してやるぞ』
 アエネアスには多少の緊張があったが、エノ是リアスのひと言でそれを飛び越えた。
 『では、、、』 と言って、一同の顔を見回して話し始めた。
 『トロイがギリシアの者どもに焼討ちされ、炎上する火の中から、生きているひとにぎりの民を引き連れてトロイを去ったのは、我々に一つの志があったからなのです。その一つの志とは『建国』です。ここを去って、もう一度、新しいトロイを興そう』
 ここでアエネアスは、酒で唇を湿らせた。そして、領主エノゼリアスの目を見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  22

2011-12-06 14:03:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 案内された応接の間には、酒と酒肴、そして、茶を喫する準備がされていた。ゼレカスが一同に声をかけた。
 『皆さん、どうぞ、お掛けになってください』
 アエネアスらは、領主の着席につづいて腰を下ろした。アエネアスは、慇懃と思われるくらいに礼を尽くしていた。彼は、改めて訪問の挨拶をした。
 『エノゼリアス領主殿。今日は、突然、お訪ねしました。領主のご多忙に配慮もせず、お訪ね申し上げた失礼を重々お詫びいたします。私どもが戦火のトロイをあとにしてエノスの浜にまいりました。その時以来、今日まで私どもをエノスの地に住まわせていただいたことに厚くお礼申し上げます。有難うございました。領主殿のお計らいによるものとトロイ民族を代表して深くお礼申し上げる次第です』
 アエネアスは、ここで席より立ち上がり、深く頭を下げた。イリオネスもギアスも、この対応に気づき、急ぎ立ち上がり、アエネアスに続いて、深く低頭した。
 エノゼリアスは、アエネアスの口上と彼らの所作に誠意と他にただならぬ何かを感じた。それはアエネアスの続く口上を聞くまで、それを解することは出来なかった。
 『アエネアス、お前、えらく改まって、いったい何なんだ。まあ~、杯を持て、互いが、今日、達者でこのように会えた。杯を干そうではないか。連れの者たちにもすすめてくれ。お~お、トリタス、お前も杯を持て』
 『領主殿、有難うございます』
 トリタスも礼を述べて、杯を手にして立ち上がった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  21

2011-12-05 07:39:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『まあ~、なんだなアエネアス。館のほうへ行こう』
 エノゼリアスは従卒に言いつけた。
 『ハッタス、お前、館のほうへ行って、ゼレカスに伝えろ。客人が来た、歓迎の準備をするようにと。急げ!』
 従卒は駆けて場を離れていった。向き直ったエノゼリアスは、一行の中にトリタスがいるのを見て声をかけた。
 『おっ!トリタスではないか。達者であったか。いつも浜で獲れた魚の活きのいい奴を届けてくれて有難う。礼を言うぞ。秋になると脂ののりはじめた魚が、なんといっても旨い。お前、今日は何用だ』
 『あ~、私ですか。アエネアス殿から、今日、こちらへ出向くから同道せよと言われて、一緒したようなわけです』
 『おっ、そうか。アエネアスの用向きは、何ぞ重要な用件なのかな。アエネアス、用件は館で聞こう』
 『領主、そのようにしていただければ、落ち着いて話せます』
 館までの道すがらの話題は秋の収穫に関してであった。
 館の玄関口には、ゼレカスが迎えに出ていた。久しぶりに見るゼレカスの風情も元気そうであった。
 『お~お、アエネアス殿ではありませんか。ようこそ、おいでになられた。さあ~さ、どうぞ、こちらへ』 と、一行を応接の間へといざなった。