『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  82

2013-08-16 08:56:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『過ぎたことは仕方がない、この際、許す。各自プライドがあるだろう。今後、規律を乱す行為は取り締まるようにはかる。いいな』
 一同を見るパリヌルス。
 『今、指示したことの処理を終えたら連絡してくれ。俺は船が回航され次第、そちらに移る』
 彼はつづけた。
 『最後は、闘争の場の始末と大掃除だ。それが終わるころには、陽が昇り始める。闘った者たち、お前たちもだ、身体を洗い、さっぱりしろ。そのころには朝めしのパンが届く手筈になっている。以上だ。諸君!ご苦労であった。いい勝利を得たこと、君たちに心から礼を言う。ありがとう』
 パリヌルスは、ありがとうで作業指示と打ち合わせを終えた。
 『あ~あ、それから、もうひとつ、全員が朝行事を終えたら浜に集まってほしい。勝利の宣言、そして、戦死者の霊を弔い、負傷者たちを慰め、私から皆に簡単だが礼を述べたい』
 『判りました。早速、今言われた作業にかかります』
 隊長連は、全員に集合指示を出し、作業の進捗状態を質したあと、改めてこれから取り掛かる作業指示を発した。
 彼らは、作業に取り掛かった。
 パリヌルスは、損害の結果について振り返っていた。大まかに240対100の決戦であった。アバス、ほか2名の戦死、重傷者3名について考えた。悔しかった。3名の戦死は、何としても惜しかった。カイクスの報告によると重傷者3名うちの1名の生命が危ないといっていた。彼は気にかけた。
 ギアスは女たちを一箇所に集めて、従卒4人に見張らせた。パリヌルスは、女たちを戦利として取り扱うことに決めた。
 全船といっても三船である。東の浜にその船体を並べた。ギアスの指示によってパリヌルスは舟艇で1番船に運ばれた。
 海賊の奴らの屍体処理は、総がかりで当たり、思いのほか短時間で処理された。彼らの死体は、大体均等に5棟の掘立小屋に放り込まれ、さらに、その死体の上に火付けした船の燃え残りを積み重ね、一斉に火がかけられた。小屋が燃えあがる、死体も燃焼する、炎は盛大に燃えあがった。煙も盛大に立ちのぼり天空に消えていく。この光景を船上から眺めていたパリヌルスは、海賊といえども、彼らも生きとし生けるものであったのだ。彼は頭を垂れて冥福を祈った。彼らと刃を交えた者たちも冥福を祈る光景をつくっていた。とらわれている女たちもこの光景の部外者ではなかった。
 隊長連が集まって、作業の進捗をチエックした。順調といっていい。
 アレテスが声をかけた。
 『夜明けにはちょっと間がありそうだな。各自、責任担当している部署の作業の進捗はどんな具合だ。うまくいっているかチエックしよう』
 『判った』
 彼らは点検に及んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  81

2013-08-15 08:51:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人が寄った、ギアスがパリヌルスからの用件を伝えた。アレテスが傍らにいる従卒に指示を出した。
 『おい、パリヌルス隊長に伝言だ。急いで伝えてくれ。隊長連が集まりました。と伝えるのだ』
 『はい!』と答えて走った。従卒は、向かってくるパリヌルスに伝言を伝えた。
 『おう、よしっ!判った』
 隊長連が集まっている場にパリヌルスが姿を見せた。
 『おう、皆、ご苦労、急いで打ち合わせる。死体の検分をしているのは、誰の指示だ』
 『はい、私の指示ですが、、、』アレテスが答えた。
 『よう、気づいてくれた。そのまま続けさせてくれ。カイクス、味方の損害状況だが、つかめたか』
 『はい、只今判明しているのは、戦死者の数ですが、三名です。負傷者については、大体34名、深手を負っているのはそのうちの3名です』
 『負傷者の手当てはうまくいっているのか。カイクス見てやってくれ』
 『傷の洗浄作業があるので波打ち際の方でやっています。うまくいっています』
 『判った。では、命令と指示だ。即、手を打ってくれ。先ず、全船をこの東の浜に移動させよ。次、今、アレテスの指示でやっている敵の始末だ。船の移動が終わったら総動員してかかってくれ。どのように処理するかというとだな、あの掘立小屋だが何棟ある?』
 『はい、大小取りまぜて10棟です』
 『その半分を使おう。その5棟に敵の死体を放り込む。そして、船の燃え残りも放り込んで火をかけろ。ところであの小屋のところに兵士らがたむろしているのは何なのだ』
 『あれですか、女です。いうてみれば困ったことです。女がいたのです、20人くらいですが』
 『よし、ギアス。お前が行け。行ってやめさせろ。そして、女どもを一箇所に集めてくれ。どうしようもない事かもしれんが』
 パリヌルスは、困惑しながら、如何ばかりか照れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  80

2013-08-14 08:27:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、『お~い、リナウス』大声で呼んだが姿を見せない、声の届かぬ所にいるらしい。従卒に探させた。間をおいて、リナウスが姿を見せた。
 彼はリナウスの風体を見て声をあげそうになった。全身に返り血を浴びている。本人もかなりの手傷を負っているみたいである。浴びている血にぬくさが感じられるのではないかと、瞬間思った。
 『お前、大丈夫か?』
 『え~え、やっとの思いで敵を倒すことができました。手強い奴でした』
 『そうか、傷の具合はどうだ、耐えられるか』
 『深手ではありません。大丈夫です』
 『手当をやっている者のところへ行って、手当をしてもらうのだ。従卒は連れていけ』
 彼は、従卒に指示を出した。
 『ギアスを探して、俺のところへ来るように伝えてくれ』
 『判りました』
 パリヌルスは、海賊との闘争の収拾について考えた。ギアスが姿を見せた。
 『隊長、海賊との闘争の終了時期が来たようです』
 『おう、ギアス、ご苦労。隊長、副長たちを急ぎ集めてくれ。浜の真ん中だ』
 『判りました。隊長、ちょっと報告します。副長のアバスがやられました。以上です』
 『アバスがか』
 パリヌルスの表情が、無念にゆがんだ。
 ギアスが激しく闘争を展開した浜へと歩を運んでいく。アレテスを見つけた。アレテスを囲んで副長連がいる、カイクスの姿もそこに見つけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  79

2013-08-13 08:16:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 懸命の命のやり取りをすましたアレテスは、へたばった。地面にベタッと腰を落とした。アレテスは気を休ませた。しかし、そのようなヒマはない。彼はやおら立ち上がった。肩で息をしながら闘争の場を見まわした。剣を突き合わせている組があと4組である。そのうちのひと組が血みどろになりながら渡り合っている。彼は、目の前にいる手すきらしい三人に指示を発した。
 『お前ら、手を貸してやれ!やっつけろい!』
 彼は、従卒の一人を連れて闘いの場を見まわっていく。てきぱきと指示を発していく。手すきの者を呼集した。
 『火付けした船もやがて燃え尽きる。お前ら闘いの場を見まわって来い!もしや、虫の息でも息のしている奴がいたら、とどめを刺して完全に息の根を止めるのだ、二度と生き返らんようにだ、直ぐ行けっ!それから、味方の者でケガのしている者がいれば、即、手当をしてやるのだ。その役をする者が三、四人来ているはずだ』
 彼は突如声を荒らげた。
 『今、言ったこと急いでやれっ!急ぐのだ!』 と指示を発した。
 パリヌルスは、カイクスに味方の損害についての調査を急がせた。
 夜明けにはまだ間がある。戦闘を開始して費やした時間は、一刻(2時間)ぐらいと思われる。考えていた通りの時間で事は決着した。
 太陽が夜明けを告げるまでにあと一刻半(3時間)くらいであろう。彼は戦場整理の段取りを考えた。
 偵察隊の面々も武器を手にして戦った。ソリタンは、初めての命のやり取りに加わった。興奮がおさまらない、震えが止まらない、顔は青ざめていた。パリヌルスが声をかけた。
 『闘いとは、このようなものだ。胸のつかえがとれたか?これで親御さんも成仏される』
 『ありがとうございます。私、お役にたてたでしょうか?』
 『おう、ソリタン。それは、充分であったぞ、ありがとう』
 彼は、ソリタンの情報があったればこその部分を心中で感謝した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  78

2013-08-12 09:07:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、炎上する海賊船、その炎によって照らし出されている闘争の場に目をやった。一瞬、その光景にパリヌルスの背筋が凍った。避けて通ることはできないことではあったが、目に映るその惨状に目を見張った。しかし、悔悟の感情はなかった。彼は独り言ちた。『人間とは場合によっては、非情になれるものだな』
 闘いは終盤に至ろうとしている。島の各所に展開する斬り合い、命のやり取りの場、切り結んでいる敵との闘争の場が随分と少なくなってきている。あと12~13か所くらいと見て取れる。敵も必死で抵抗している。いかんせん、当方が優勢である。2対1が4対1となり、敵勢2人には当方が8人が取り囲んで詰め寄り、これを倒している。
 東の浜の真ん中に人垣ができている。海賊の頭領らしき男とアレテスが対峙していた。アレテスがちょっと押され気味である。この男に味方の二人が命を絶たれている。そのうえ、数人がけがを負わされている。アレテスは『こ奴を必ず倒す!』強い思いをもって対峙していた。生かしておくわけにはいかない、何としても倒す。彼が手にしている剣は、まだ貴重な鉄の剣である。青銅の剣に比べてはるかに軽く、斬れ味の鋭い剣なのである。必殺の一撃を打ち込むのに敵にはスキがなかった。ジリッと一歩踏み込む、敵はひかない、剣を構えて不動である。空気の壁が圧縮される、緊迫の度が増した。
 『貴様らはどこのどいつだ!』
 『お前に生きている間はもうない。聞いてもどうにもならんだろうが』
 『言ってみろ!』
 『向かいの浜の集落の弔い討ちだ』
 『ムムッ!』
 アレテスは機をつかんだ。彼は剣先を引きながら、敵の後ろに構えている味方に目くばせを送った。後ろの兵士が動く、敵の肩をめがけて構えていた剣を打ち込んだ。敵は辛うじてこれを何とか避けた。体が崩れる、上段に剣を引き上げている。アレテスはおおきなスキを見て取った。彼は敵の胴を身に着けている革製の鎧とも大きく薙いで脇を走り抜けた。血しぶきがあがる。後ろの味方の者の剣は背後から胴腹を突き抜いた。海賊の頭領に闇が瞬時に訪れた。砂の大地に前のめりに倒れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  77

2013-08-09 08:22:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 草木なしの狭い島である。島域全体に及んで戦闘が展開されている。追う者、追われる者、追われているのは海賊の奴らであった。追いすがってこれを倒す。各所に展開されている打ち込み、斬撃の応酬が燃え盛る炎に照らし出されていた。そこに修羅の光景があった。
 泥縄式であったが、負けることのない闘争のカタチを指導した効果が現出していた。手首に巻いた白い布により敵味方の判別が容易にできる、味方同士が斬り合うというような事態は避けられた。
 斬撃の呼吸も『ビィ~ッ!』『バ~ッ!』が効果的であった。この掛け声にも敵が一瞬の戸惑いを見せる、貴重なスキを誘発した。パリヌルスの戦略が効を奏した。
 阿鼻叫喚の激闘が狭い島の各所に展開している。断末魔の叫びが尾を引いて空に消えていく。
 数は多いとは言えないが女たちもいた。武器を手にして抗う女もいる、彼女たちは逃げ惑った。身を隠す物影がない島である。海賊の奴らが使っている掘立小屋が数棟散在しているだけである。闘っている者たちの感情の制御がままならない。二、三の者が闘っている者たちの目を盗み、感情のおもむくままに女を下にして俊辱に及ぶ。
 どさくさにまぎれ浜にある艀(はしけ)で逃げようとする者もいる、それに追いついた者の手にかかって命が絶たれる。
 パリヌルスは、戦闘の様子を見ている。提唱した正義、あろうことか、この残虐の戦闘行為、『戦わずして勝つ』 そのようなウツクシイ思考は、露ほども考えなかった。この海賊せん滅思考はトロイ民族が、このクレタで生きていく、それに対して『後顧の憂いを完全に絶っておく』 これが彼が考えた海賊せん滅の大義であった。彼は、この大義が俺の正義であるとしていたのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  76

2013-08-08 07:26:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 偵察隊は、島の東側の浜を見渡すことのできる対岸に艀(はしけ)を浜にあげて、その陰に潜んで見張っていた。海賊船の全てが帰港している、奴らの寝静まるのを待っていた。自軍の船団が島の南端に到着している。彼らは、松明信号のタイミングを計って看視し続けていた。気持ちが焦れてくる、時は過ぎていく。機は熟したとみた。
 『よしっ!時だ!もういい。松明準備、2本だぞ。火をつけろ!火が付いたら、俺によこせ!』
 息だけで返事を返して、松明を種火の上にかざした。燃え立つ!松明を隊長に手渡した。すかさず、彼は、宙に高く放り投げた。続けて、もう一本も宙に舞わせた。
 パリヌルスは、対岸の闇の中に宙に舞う二つの松明の光を見て取った。素早く従卒に指示を出す。
 『松明に火をつけろ!』
 従卒は準備していた種火に松明をかざした、勢いよく燃えた。1っ本、2本、3本と宙に放り投げた。草木のないに等しい島である。各所に散っている者たちの目に鮮やかに松明信号の光が飛び込んだ。
 配置についている者たちが待ちに待った時である。先ずは、船に火付け役の出番である。合図を確認した隊長連が指示を出す、海賊の各船から一斉に火の手があがった。戦闘開始を吼えた。船影に潜んでいた者たちが一斉に飛び出した。戦闘の火ぶたはこのようにして切られた。
 初冬の季節である温暖の地方であるとはいえ夜は冷え込む、海賊の者どもも野ざらし状態では休めない、それなりの施設を整えて休んでいた。
 『おい!様子が変だ。明るい、何だ。見てくる』
 彼らは、突如発生した異変に気が付いた。立ちあがって寝所から出た者が目にした。船が燃え盛っている、その壮絶の光景に度肝を抜かれた。何が何だかわからない、戸惑った。そこへ白手首の一団が襲い掛かってきた。
 絶叫似た叫び声をあげた。
 『何者か判らん、襲撃だ。出会えっ!』
 海賊の奴らの持ち船の全てが燃え盛っている。その炎が島の闇を払しょくしている。海賊の奴らは、その光景に度肝を抜かれて、茫然自失の体である。だが、そこはそこ、対人闘争、殺戮行為に慣れている者共である。即座に自分を取り戻し、武器を手に敢然と立ち向かってきた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  75

2013-08-07 07:39:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが闇の中に目を光らせて一同を見渡す、彼は隊長連に確かめた。
 『全員上陸、異常はないな。船への火付け役の準備はいいか、点検するのだ。各隊の編成を確かめるのだ。カイクス、1番船からの人員の割り振りをするのだ』
 彼は少し間を取った。その間に上陸した浜の状態を確認した。
 彼は、ソリタンから島の南端の浜の状態、遠浅の具合を詳しく聞き取っておいた。その状態に誤りはなかった。それに基づく上陸要領で上陸を果たした。
 浜の闇は、上陸を果たした者たちを包んで静寂を保っている。彼らが手首につけている白布が夜目に鮮やかであった。
 『隊長、点検終わりました。全てOKです』
 『判った。集まってくれ』 パリヌルスは向き直った。
 『諸君、いいか。全員を奴らに気づかれないように戦闘配置につかせるのだ、いいな、判ったな。奴らは、略奪、そのうえ、集落の者たち200人を殺害した者どもだ、問答無用だ。やっつけるのだ。いけっ!』
 『はいっ!』
 『おい、リナウス、誰か、松明を三本だ。持たせて一人俺につけてくれ』
 『判りました』
 白手首の兵士たちは、闇の中を目立たぬように移動していく、隊長連が手合図で彼らを配置につけて行った。闇の中とはいえ、夜目のきく者には感づかれる、その恐れを抱きながら、闇を味方にして、揚陸されている船影に身をひそめる、舫っている船影には、海に身を浸しながら寄せていく、彼らは、戦闘配置に散開して、今にも来るだろう攻撃開始の合図を待った。アレテスはパリヌルスの許へ『戦闘配置完了』の伝令を走らせた。
 パリヌルスは、偵察隊からの信号合図を待っている。伝令がアレテスからの伝言をパリヌルスに伝える、時は迫ってきていた。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  74

2013-08-06 08:14:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 島は、クレタ本島から北へ約1キロ海を隔てている。
 船団は島の南端に差し掛かろうとしている。正面にはクレタの浜が横たわっている。波打ち際の薄ぼんやりしたラインが東西に長く伸びている。彼は闇の中にそれらを認めた。
 彼は、船底が海底に接する状態を感じた時点で停船するように指示した。全員を気づかれることなく上陸させることであった。彼は、静かに船を東の方向に向けて回頭させ、船首をやや北東に向けて船を進めさせた。また、水深を探るのに重石綱(この時代の軍船の吃水は約1メートル、重石綱は1メートル40センチくらい)をリナウスに持たせて、そろりそろりと低速で島の南端の浜に向かわせている。慎重を極めた。
 リナウスの手が上がった。重石綱が海底に触れた合図である。
 『カイクス、もうそろそろだ。重石綱が海底に触れた。船底が海底をこすったら停船、上陸開始だ。いいな、ぬかるでないぞ!』
 浜まで40メートルくらいの地点まで来ている。船は波にゆすられている、海底に接している。
 1番船に続いて、2番船も同じ状態である。舟艇はというとその頃には、すでに浜に乗り上げていた。
 カイクスは声をひそめて全員に檄を飛ばした。隊長の指示が各員に伝わっていく次々に海に飛び込む、浜を目指して漆黒の海の中を進む、パリヌルスも海に身を沈めて、島の海岸を目指した。
 上陸した者たちは、目立たぬようにと身をかがめている。隊長は声をひそめて指示を出している。
 パリヌルスが浜に立った。すかさず、隊長連が集まった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  73 

2013-08-05 08:18:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 隊長のカイクスがパリヌルスの傍らにいる。
 『カイクス、どうだ。まあ~、戦さとはこのようなもんだ。船にパンが積んである。1個のパンを4人で食べるように指示してくれ、腹が減っては勝つ戦さができん。詳しいわけは、また次に話す。船の進路と方向転換の指示は、タイミングを計って俺が出す。リナウスを呼んでくれないか。2番船、舟艇はついてきているな。よしっ!急げ!』
 カイクスは、中央の帆柱のもとにある籠を確かめた。パンを配らせ、リナウスを舳先のパリヌルス許へ走らせた。
 船はしのびやかに波を割っている。後続の各船も1番船にならってパンを食べ始めていた。
 月は、西の岬のかなたに消えようとしている。島の西北端の角がパリヌルスの目に入ってきた。
 いよいよだ。あと西へ2スタジオン(約400メートル)、5呼吸ぐらいである。彼は、息を殺して海上を見つめた。
 『よしっ!もういい!』
 『リナウス、方向転換だ。この方向へだ。島の西岸に沿って南へ進めだ。操舵手に伝えろ!急げつ!』
 船は、進行方向を90度、南へと変えた。リナウスは船尾にいて後続の船が進行方向を変えるのを確認した。そして、舳先へと急ぐ。全船、無事方向転換を終えたことをパリヌルスに報告した。
 『よっしゃっ!それでいい。計画通りに進行している』
 船は、波静かな海を進んでいる。島の西海岸の中間地点と思われる地点を通過しようとしている。彼は浜の状態を望見した。舫っている船、浜に揚げている船の数を確認した。船の数はソリタンの言っていた5隻である。燃え尽きようとしている焚き火が3か所で燃えている。浜に立っている者の姿は見えなかった。