伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

平和式典

2021年08月06日 | 平和・戦争
 今年のセミは多いのじゃないだろうか。とにかく、そう思わせる。ほぼ、毎日、夏を終えたアブラゼミが道に落ちているし、何よりも、途切れぬニイニイゼミの声に、複数重なるアブラゼミの声。これを時折突き破るように響くミンミンゼミ。本当に暑っ苦しい朝だ。

 原爆投下の朝、広島では「月曜日の朝は快晴で、真夏の太陽がのぼると、気温はぐんぐん上昇しました」(広島市「原爆被害の概要」より)とされている。暑い夏の朝、セミが盛んに鳴いていたに違いない。原爆被爆を描いた漫画「はだしのゲン」でも、投下さらた朝の場面にセミの声が、暑苦しく描いたあったような記憶がよみがえる。



 きっと、今朝のような日だったのだろう。もっとも、関東以西はクマゼミも生息し、生息数も多いようだ。写真はアブラゼミだが、その声はクマゼミの声だったかもしれない。「シャアシャアシャア」と鳴くらしい。ちなみに、クマゼミはアブラゼミより大きく透き通る翅を持っているようだ。

 さて、放送は、被爆者の思いや、若者達の活動を伝えた後、式典を中継し、広島市長の平和宣言を放送した。

 宣言は、発効した核兵器禁止条について、
「各国為政者がこの条約を支持し、それに基づき、核の脅威のない持続可能な社会の実現を目指すべき」としながら、
「一刻も早く核兵器禁止条約の締約国となる」とともに、
「これから開催される第1回締約国会議に参加し、各国の信頼回復と核兵器に頼らない安全保障への道筋を描ける環境を生み出すなど、核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかりと果たしていただきたい」と政府に求めた。

 2017年の国連総会で、賛成123で核兵器禁止条約が採択され、必要な50カ国が批准したことから、今年初めに発効した状況から考えれば、核兵器の犠牲になった都市として当然の求めだろう。

 しかし、菅首相が、これにまともに応える事はなかった。

 式典であいさつにたった首相は、
「わが国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要」としながら、
「核軍縮を進めていくためには、さまざまな場の国々の間を橋渡ししながら、現実的な取組を粘り強く進めていく必要」として、
具体的には「特に、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石である核兵器不拡散条約(NPT)体制の維持・強化が必要」とした。

 NPTは核保有国の拡大と核兵器の配備を抑制する上では、大きな役割を果たすものではあると思う。しかし、アメリカ、中国、イギリス、フランス、ロシアの5か国以外の核兵器の保有を禁止する条約で、裏返せば、この5カ国には核保有を認める条約となっている。NPT体制下で、核保有国は、小威力の核兵器など〝使える核兵器〟の開発をめざすなど、核戦略の充実をすすめているようだ。この内容に危機感あるいは不満を抱く国は、NPTに参加せず、核保有を継続、あるいは核開発に進もうとすることは容易に想定される。

 NPTは歴史的には重要な意味を持つ条約ではあっても、全ての国に、核兵器の開発・保有を禁止するためには、核の脅威そのものを世界から取り除くことが大切なように思われる。その意味でも、核兵器の脅威から人類が解放されるには不十分な約束事にすぎないと思われるのだ。

 核兵器禁止条約に核保有国が参加しないことを理由に、「現実的」でないなどとするが、かつて米国のオバマ大統領が、核兵器の廃絶をめざすことを表明したことがあるように、核保有国であっても核兵器禁止の立場を確立することは可能にみえる。おそらくそれは、それぞれの国の世論によって動かせるだろう。その意味でも、核兵器禁止条約は大切だと思う。唯一の被爆国の政府として、その立場を明確にし、世界に働きかけることが、政府には求められていると思う。

 同じ式典で、子ども代表が「子ども平和宣言」を読み上げた。

 その中で「平和の尊さや大切さを、世界中の人々や次の世代に伝えなければならない」としながら、「小さな力でも世界を変えることができると信じて行動したい」と宣言した。この子ども達の思いーーいや、おそらくこれは被爆国国民の共通の願いーーこの願いをくみ取った政府の行動こそ求められていると思う。

 首相のあいさつでは、「被爆者の方々をはじめとして、核兵器のない世界の実現を願う多くの方々とともに、核兵器使用の非人道性に対する正確な認識を継承し、被爆の実相を伝える取組を引き続き積極的に行ってまいります」とした。「性格な認識」の表現が、何を意味するのか、いささかいぶかしい表現ではあるが、こうした立場を確立しようと思うなら、「多くの方々」が願う核兵器禁止条約の批准に、政府も進む。これこそが、政府のとるべき行動ではないか。そう思う。

 子ども平和宣言は、「本当の別れは会えなくなることではなく、忘れてしまうこと。私たちは、犠牲になられた方々を決して忘れてはいけない」とした。犠牲になられた方々が、最後に残してくれた私たちに対するメッセージは、核戦争での犠牲は自分達で最後にしてというものだったろう。そのメッセージに応えることこそ犠牲になられた方々を忘れないことになる。核兵器禁止条約の批准は、忘れないという思いを体現する現代的課題だと思う。今年を、この子ども達の願いを未来につなぐ転換点にする政府の行動を望みたい。


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