いわき市から289号線を西方に向い、福島県東白川郡鮫川村に入ってほどなく左折、南方に向って間もなくたどり着いた青生野地区の丘陵地。牧草が短く刈りそろえられた斜面に敷設された坂道を登りきった場所に、その施設の建設現場がありました。
以前は放牧地として使われていました。昨年の東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の汚染で、牛に「牧草を食わせることができなくなった」(村担当者)。使うことができない放牧地が、近くの住民の理解のもとに計画地に選ばれました。
建設の現場は、福島県の塙町といわき市、茨城県北茨城市との境界にほど近く、いわき市の水源の一つ四時川の水源域と茨城県側に流れ下る久慈川の水源域の分水嶺となる位置。久慈川の水源域に建設されますが、わずか数十メートルで分水嶺を越え四時川の水源域に入ります。分水嶺の真上とみられる場所には、葉を落とした雑木が青く澄みきった空に向かって幹を伸ばしていました。その雑木の向こう側、斜面を下った建設地の陰にあたる谷間には、冷たく透き通った水が沢を流れ下っています。その流れはやがて四時川に合流すると言います。
問題の施設は、鮫川村で環境省が行う「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験にかかる調査業務」で使われる焼却施設。1時間当たりの焼却量が199kgの小型焼却炉で、午前8時から午後5時まで(実際の焼却時間は7時間30分)稼働させ、2013年2月から2014年9月までの20ヶ月間運用し、8,000bq(ベクレル)を超えた放射性物質を含む指定廃棄物28t(トン)など総計600t(いずれも見込量)の汚染された農林業系副産物等の焼却を実施。運用期間終了後は解体・撤去することにしています。事業は、「焼却処理における放射性セシウムの挙動等の安全性に関する知見の蓄積を図りつつ、焼却による減容化について実証試験」(鮫川村説明会資料)が目的です。
この焼却施設の建設には、塙町の住民が反対の声を上げているほか、本市では放射性物質による水源汚染と健康被害への懸念から建設中止などを求める陳情がいわき市長に提出されています。
環境への放射性物質の放出はどうなるのか。環境省担当者は、①焼却施設から排水がないためこれによる水源汚染の心配はない、②焼却に伴う排ガスは設置されているバグフィルターで99.9%以上除去されるというデータがすでに出ており、また排ガスのセシウム濃度は1立法m当たり検出限界値2bq以下(排ガスの国基準はセシウム134で20bq、セシウム137で30bq)となるように管理する――などのために問題がないと言います。
バグフィルターによる放射性セシウムの除去の仕組みは次のように説明されます。
廃棄物を850度以上の温度で燃やすと、放射性セシウムは気化または小さな液滴となって排ガスと一緒に流れ、焼却灰の中にも残ります。排ガスは200度以下に冷やされる仕組みとなっており、その結果、気化あるいは液状になった放射性セシウムは固体状の塩化セシウムとなり、排ガスに含まれる煤塵に大半が凝集・吸着されます。この煤塵がバグフィルターで濾し取られるため、排ガス中の放射性セシウムは大幅に低減できます。
排ガスの放射性セシウムの測定は、運転開始当初は2週間に1回実施し、運転状況が安定してくれば月に1回の測定に切り替えます。排ガスの測定から測定までの間の放射性セシウムの管理は、凝集・吸着していると考えられる煤塵を連続的に測定していることから、この量の変動によって排ガス中のセシウム量の変動を監視できます。
おおよそこんな説明でした。
こうした考えに対しては異論もあります。バグフィルターは目詰まりを利用して濾過効果を高める原理となっているために、定期的な吹き落としが行われ、その際に効果が弱まるし、そもそも気体状の物質は濾過できないという内容などです。
これに対しても反論はあるようで、環境省の担当者は「バグフィルターは一段階ではなく何段階かを通過させるため、一つの段階で吹き落としが行われても、別の段階で煤塵をキャッチできる」し、「排ガスのセシウム測定の試料採取は、排ガスの入り口と出口に濾紙を設置して煤塵をキャッチ、その後、水をくぐらせる形で行わる。試料の多くは濾紙の段階でキャッチされており、水の段階では少ない」、すなわち気体状で通り過ぎるものはごく微量に過ぎないというのです。
いずれにせよ排ガス中の放射性物質はゼロではないということですが、環境省の担当者は前記のように排ガス中の放射性物質の量は1立方メートル当たり2bqを検出限界値として測定し、これ以下に抑えることで安心を担保できるという考えです。
一方、焼却に伴って生じた焼却灰は、施設内の機械を使って自動的にコンクリートで固化した上でフレキシブルコンテナに入れ、施設直近の仮置き場に30cmの覆土で放射線を遮蔽して一時保管する考えです。
排ガス中の放射性物質の量とその影響を、どうとらえるかという問題はもちろんあります。しかし同時に、鮫川村の小型焼却炉による実証実験が問題になってきた経過をたどった時に、説明と理解、そして住民をはじめ周辺自治体との合意という点に難点があったと考えざるを得ません。
鮫川村が焼却施設を必要とする事情は分かります。汚染された落ち葉などの仮置き場が確保できない状況で、発生現場の保管を続けることが風評被害につながりかねず、また、こうした廃棄物を安全に減量化することによって、仮置き場を確保し、住環境、生産環境の向上を図ることにつなげたいと考えることは当然あり得ます。
だからと言っても、経過をたどれば解決するべき問題は明らかです。
鮫川村は4月から環境省との協議をすすめ、村民への周知は10月15日付けの「広報『ほっと通信』」で行いました。そして村からいわき市への通知が11月12日付けとなり、3日後の11月15日には着工という状況です。いわき市は通知を受け、現地調査を行い四時川の水源域ではないことを確認したとしていますが、水源地の安全確認を担保する上で十分な調査をする時間もなかったのではないでしょうか。
放射性物質と放射線の被害は、実際の被害にとどまらず心への影響も考慮しなければなりません。これまで自然界になかった放射性物質から低レベルであっても長期にわたって余計に被ばくすることに関する健康への不安が代表的なものですが、この事などによりいわき市から今なお3,380世帯7,417名が避難して生活せざるを得ない状況にあるわけです。
村民への説明では大きな反発はなかったと言います。しかし、説明などを行っていない塙町の住民からは建設反対の声が上がり、また、いわき市民でも鮫川村に近いうえ四時川下流域に生活する田人町の住民から反対しなければならないのではないかという声が聞こえてきています。さらに離れたいわき市内の保育所の関係者から、この施設による子育て環境への影響はないでしょうかという心配事まで寄せられています。
こうした不安や危惧を少なくしていくためにも、住民への情報開示と説明を粘り強く行うことが求められます。実際、いわき市では災害ガレキの焼却処分を行うために、地区の代表者への説明や住民への説明会の開催、またいわき市議会の一般質問でも何度か議論をされ、さらに安全性を確認するための実証試験などを行うことによって、時間をかけて住民・市民の理解を広げてきました。その結果、いわき市南部清掃センターでは9月19日から焼却する廃棄物に10%程度の災害ガレキを混ぜ、焼却処分を行っています(北部清掃センターは場内の焼却灰の搬出が地元から、ガレキ焼却開始の条件とされ、搬出できないために未実施)。その後、排ガス中の放射性セシウムの濃度が2回測定されていますが、結果はいずれも検出限界値(0.3bq/?)未満という結果になっています。
鮫川村の焼却施設は、建設に向け着工しました。しかし現在、県の条例との関係で工事を中断している状況にあります。いま大切なのは環境省、鮫川村が責任を持って、周辺の住民や関係自治体に説明し、排ガスや周辺環境での放射線の測定体制をしっかり取るなど安全対策に万全を期して、理解と合意を広げ、その合意を持って事業をすすめることにあるように思います。大方の合意が得られないようなら、事業をすすめないことは当然です。
指定廃棄物の最終処分場の建設地選定で、環境省は地元との協議を全くしないまま、栃木県は矢板市、茨城県は高萩市の国の保有する山林を建設地に選定し、それから地元自治体に通知。住民のみならず、自治体からも猛反発を受け、身動きがとれなくなっています。鮫川村の焼却施設の実証試験でも、同様、住民からの反発を招いています。過去の経験に学んで、しっかりとした対応を期待したいと思います。
以前は放牧地として使われていました。昨年の東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の汚染で、牛に「牧草を食わせることができなくなった」(村担当者)。使うことができない放牧地が、近くの住民の理解のもとに計画地に選ばれました。
建設の現場は、福島県の塙町といわき市、茨城県北茨城市との境界にほど近く、いわき市の水源の一つ四時川の水源域と茨城県側に流れ下る久慈川の水源域の分水嶺となる位置。久慈川の水源域に建設されますが、わずか数十メートルで分水嶺を越え四時川の水源域に入ります。分水嶺の真上とみられる場所には、葉を落とした雑木が青く澄みきった空に向かって幹を伸ばしていました。その雑木の向こう側、斜面を下った建設地の陰にあたる谷間には、冷たく透き通った水が沢を流れ下っています。その流れはやがて四時川に合流すると言います。
問題の施設は、鮫川村で環境省が行う「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験にかかる調査業務」で使われる焼却施設。1時間当たりの焼却量が199kgの小型焼却炉で、午前8時から午後5時まで(実際の焼却時間は7時間30分)稼働させ、2013年2月から2014年9月までの20ヶ月間運用し、8,000bq(ベクレル)を超えた放射性物質を含む指定廃棄物28t(トン)など総計600t(いずれも見込量)の汚染された農林業系副産物等の焼却を実施。運用期間終了後は解体・撤去することにしています。事業は、「焼却処理における放射性セシウムの挙動等の安全性に関する知見の蓄積を図りつつ、焼却による減容化について実証試験」(鮫川村説明会資料)が目的です。
この焼却施設の建設には、塙町の住民が反対の声を上げているほか、本市では放射性物質による水源汚染と健康被害への懸念から建設中止などを求める陳情がいわき市長に提出されています。
環境への放射性物質の放出はどうなるのか。環境省担当者は、①焼却施設から排水がないためこれによる水源汚染の心配はない、②焼却に伴う排ガスは設置されているバグフィルターで99.9%以上除去されるというデータがすでに出ており、また排ガスのセシウム濃度は1立法m当たり検出限界値2bq以下(排ガスの国基準はセシウム134で20bq、セシウム137で30bq)となるように管理する――などのために問題がないと言います。
バグフィルターによる放射性セシウムの除去の仕組みは次のように説明されます。
廃棄物を850度以上の温度で燃やすと、放射性セシウムは気化または小さな液滴となって排ガスと一緒に流れ、焼却灰の中にも残ります。排ガスは200度以下に冷やされる仕組みとなっており、その結果、気化あるいは液状になった放射性セシウムは固体状の塩化セシウムとなり、排ガスに含まれる煤塵に大半が凝集・吸着されます。この煤塵がバグフィルターで濾し取られるため、排ガス中の放射性セシウムは大幅に低減できます。
排ガスの放射性セシウムの測定は、運転開始当初は2週間に1回実施し、運転状況が安定してくれば月に1回の測定に切り替えます。排ガスの測定から測定までの間の放射性セシウムの管理は、凝集・吸着していると考えられる煤塵を連続的に測定していることから、この量の変動によって排ガス中のセシウム量の変動を監視できます。
おおよそこんな説明でした。
こうした考えに対しては異論もあります。バグフィルターは目詰まりを利用して濾過効果を高める原理となっているために、定期的な吹き落としが行われ、その際に効果が弱まるし、そもそも気体状の物質は濾過できないという内容などです。
これに対しても反論はあるようで、環境省の担当者は「バグフィルターは一段階ではなく何段階かを通過させるため、一つの段階で吹き落としが行われても、別の段階で煤塵をキャッチできる」し、「排ガスのセシウム測定の試料採取は、排ガスの入り口と出口に濾紙を設置して煤塵をキャッチ、その後、水をくぐらせる形で行わる。試料の多くは濾紙の段階でキャッチされており、水の段階では少ない」、すなわち気体状で通り過ぎるものはごく微量に過ぎないというのです。
いずれにせよ排ガス中の放射性物質はゼロではないということですが、環境省の担当者は前記のように排ガス中の放射性物質の量は1立方メートル当たり2bqを検出限界値として測定し、これ以下に抑えることで安心を担保できるという考えです。
一方、焼却に伴って生じた焼却灰は、施設内の機械を使って自動的にコンクリートで固化した上でフレキシブルコンテナに入れ、施設直近の仮置き場に30cmの覆土で放射線を遮蔽して一時保管する考えです。
排ガス中の放射性物質の量とその影響を、どうとらえるかという問題はもちろんあります。しかし同時に、鮫川村の小型焼却炉による実証実験が問題になってきた経過をたどった時に、説明と理解、そして住民をはじめ周辺自治体との合意という点に難点があったと考えざるを得ません。
鮫川村が焼却施設を必要とする事情は分かります。汚染された落ち葉などの仮置き場が確保できない状況で、発生現場の保管を続けることが風評被害につながりかねず、また、こうした廃棄物を安全に減量化することによって、仮置き場を確保し、住環境、生産環境の向上を図ることにつなげたいと考えることは当然あり得ます。
だからと言っても、経過をたどれば解決するべき問題は明らかです。
鮫川村は4月から環境省との協議をすすめ、村民への周知は10月15日付けの「広報『ほっと通信』」で行いました。そして村からいわき市への通知が11月12日付けとなり、3日後の11月15日には着工という状況です。いわき市は通知を受け、現地調査を行い四時川の水源域ではないことを確認したとしていますが、水源地の安全確認を担保する上で十分な調査をする時間もなかったのではないでしょうか。
放射性物質と放射線の被害は、実際の被害にとどまらず心への影響も考慮しなければなりません。これまで自然界になかった放射性物質から低レベルであっても長期にわたって余計に被ばくすることに関する健康への不安が代表的なものですが、この事などによりいわき市から今なお3,380世帯7,417名が避難して生活せざるを得ない状況にあるわけです。
村民への説明では大きな反発はなかったと言います。しかし、説明などを行っていない塙町の住民からは建設反対の声が上がり、また、いわき市民でも鮫川村に近いうえ四時川下流域に生活する田人町の住民から反対しなければならないのではないかという声が聞こえてきています。さらに離れたいわき市内の保育所の関係者から、この施設による子育て環境への影響はないでしょうかという心配事まで寄せられています。
こうした不安や危惧を少なくしていくためにも、住民への情報開示と説明を粘り強く行うことが求められます。実際、いわき市では災害ガレキの焼却処分を行うために、地区の代表者への説明や住民への説明会の開催、またいわき市議会の一般質問でも何度か議論をされ、さらに安全性を確認するための実証試験などを行うことによって、時間をかけて住民・市民の理解を広げてきました。その結果、いわき市南部清掃センターでは9月19日から焼却する廃棄物に10%程度の災害ガレキを混ぜ、焼却処分を行っています(北部清掃センターは場内の焼却灰の搬出が地元から、ガレキ焼却開始の条件とされ、搬出できないために未実施)。その後、排ガス中の放射性セシウムの濃度が2回測定されていますが、結果はいずれも検出限界値(0.3bq/?)未満という結果になっています。
鮫川村の焼却施設は、建設に向け着工しました。しかし現在、県の条例との関係で工事を中断している状況にあります。いま大切なのは環境省、鮫川村が責任を持って、周辺の住民や関係自治体に説明し、排ガスや周辺環境での放射線の測定体制をしっかり取るなど安全対策に万全を期して、理解と合意を広げ、その合意を持って事業をすすめることにあるように思います。大方の合意が得られないようなら、事業をすすめないことは当然です。
指定廃棄物の最終処分場の建設地選定で、環境省は地元との協議を全くしないまま、栃木県は矢板市、茨城県は高萩市の国の保有する山林を建設地に選定し、それから地元自治体に通知。住民のみならず、自治体からも猛反発を受け、身動きがとれなくなっています。鮫川村の焼却施設の実証試験でも、同様、住民からの反発を招いています。過去の経験に学んで、しっかりとした対応を期待したいと思います。