メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

デジタル時代の著作権 (野口祐子)

2010-11-09 21:21:13 | 本と雑誌

「デジタル時代の著作権」 野口祐子著 ちくま新書 (2010年)
 
このデジタルとインターネットの時代における著作権および著作権法について、その全貌とそういう時代であるがゆえに生じてきた問題、その解決への試みと難題、望ましいありかた・提言について、過不足なく、しかも一般の人にわかる形で書かれた、優れた本である。これだけのものはこれまでなかった。
 
著作権とは何か、現代における問題についての前半は、入門書としてじっくり書かれている。そして後半は、問題に対して、いくつかの方向性と取組みの事例について、また著者がこうあるべきと考える形について、充実した著述となっている。
 
特に後半は、これだけ法律家が情熱をもって信じるところを書いたものはこれまでなかったものだろう。しかも著者の師であるローレンス・レッシグ最近の著書「REMIX」が短い口述のようなものの集合で過激なのに比べて、丁寧に諄々と説くトーンになっているのは賢明である。
 
著者が我が国にクリエイティブ・コモンズ推進の中心にいることを知っていなければ、途中までは中立的な記述に見えるであろうが、そのあとは、著作権とは本来何であり、どうあるべきか、それが本来目的の一つとしている創作のインセンティブとの関係でこのままでいいのか、そういう問いに関して、特に終章はうたれるものがある。
 
その上で、あえて注文をつければ、著作権問題の入門書として初めて読む本としては、絵もほとんどなく、通俗的な分野の事例をもとにしたわかりやすい説明が少ない。もし勉強したいけれど何を読んだらときかれたら、まずは先に紹介した、著者とほぼ同じ立場に立つ福井健策氏の「著作権の世紀 - 変わる「情報の独占制度」」を読んで、その後に本書を読むことをすすめたい。専門家でなければ、まずはそれで充分であろう。
 
もう一つ欲ばりをいえば、本当はこの本、2年くらい前に出してほしかった。日本社会におけるクリエイティブ・コモンズの認知、そしてその伸長という見地からは。


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