「ネットの自由」VS. 著作権 TPPは、終わりの始まりなのか
福井健策 著 光文社新書(2012年9月)
「著作権とは何か」、「著作権の世紀」に続く三つ目である。この分野を、事例をうまく使い、明解に説明しているということで著者は際立っているが、「何か」そして「今の時代における著作権の大きな問題」ということに続いて、今回はTPP問題に見る米国主導の知財強化が世界を席巻しかねないということを軸に、さらに今後の問題点、可能性をさぐるというものである。
実は米国政府のTPP知財文書が流出したとされていて、この本にもそれが載っている。このとおりになると、米国の巨大なコンテンツ業界、またメディア、プロバイダーによる世界の囲い込みとなりかねず、それを日本の権利者団体も自らの利益を考えれば歓迎しかねない、という困った状況のようだ。
そうなると私などはこれまで米(こめ)を除外すればTPPは進めて方がいい(米は国防手段の一つとして残しておいた方がいい、米さえあれば貿易封鎖に耐えられる)と考えていたが、知財権がこうだと、この部分は見送った方がいい。
著者の考え方には私もほぼ同感で、このままいくと著者はむしろ創作活動が低下するといっており、また私もデジタルアーカイブをはじめ、ネット社会での過去の資産活用に支障をきたすと考える。
著者がうまくまとめている権利と利用のバランスは妥当なものだと考えるけれども、日本における一般の見方はむしろもっと権利尊重に寄っているだろう。
しかし、ネット社会の変化を見ていると、近い将来、気がついたらいつの間にか知財権がほとんど崩壊している、まるでソ連崩壊のように、ということになっているのではないかとも思う。