ポール・サイモン「Under African Skies」 (ドキュメンタリー・ビデオ)
2011年、100分
監督:ジョン・バリンジャー 2012年10月 WOWOWの放送録画
ポール・サイモンが1986年に作った「Graceland」は、当時まだアパルトヘイト状態だった南アフリカに彼が入っていった時の活動をもとにして作られており、それはいろいろ波紋を呼んだらしい。アルバムはヒットしグラミー賞も得ている。それから25年たってサイモンが南アフリカを再訪、当時の仲間や意見を対立させた人との再会を軸に、当時の映像を交えて作られた、たいへん貴重なものである。
実はもったいないことに、この「Graceland」のLPレコードを日本発売直後に買っていて何度か聴いているのだが、そういう背景には特に思い当たらず、何度か聴いただけだった。
サイモンがあるところからカセット・テープをもらい、それに入っていたのが南アフリカの人たちが作った音楽、それに興味を持って南アフリカを訪れ何か作ろうと単純にしたらしい。
ところが当時南アフリカはアパルトヘイトを理由に米国をはじめ主要国から様々な場面でボイコットされており、ポール・サイモンのような人が、純粋に音楽活動であれこの国に入るというのは、たとえ相手が迫害されている側の人たちであっても、この国を認めたことになるということから、ずいぶん非難されたらしい。当時それを主張し、今回結局和解した人たちも出てくるし、サイモンの行動に理解を示すハリー・ベラフォンテ(懐かしい!)、ポール・マッカートニー、フィリップ・グラスなどの談話も興味深い。
なお「Graceland」はやはりプレスリーの出身地のことらしい。音楽的な内容とはあまり関係ないようだが、そうはいっても二人のつながりはうれしいことだ。
南アフリカのミュージシャンたちをこうして映像で見ると、本当に音楽の本質というか力というか、アメリカ音楽のルーツというか、直感で感じるところが多い。
ビデオを見た後LPを聴いてみた。歌詞がぎっしりつまっていて、だらしないことだがポール・サイモンが一人になってからのいくつかのアルバムとそんなに違うかというとよくわからなかった。ただ南アフリカの人たち数人をアカペラでやった「Homeless」はやはりすごい。
それからクレジットにリンダ・ロンシュタットの名前があり、はてどこにと調べてみたら「Under African Skies」という曲でポールとデュエットしていた。歌詞に彼女が生まれたツーソン(アリゾナ州)も出てくる。二人の声のブレンドが絶妙で、彼女の発声の良さが生きているようだ。彼女のこと知ってはいたが、今ほど好きではなかったから気がつかなかったのかもしれない。
ともあれ、ポール・サイモンは音楽から南アフリカに入ってしまい、そのあといろいろ言われ、彼自身は人種差別反対だろうから苦しんとは思うのだが、そうはいってもかの国のミュージシャンにやる気がある以上、音楽第一とし、最後はそれが空間と時間に通じた、ということは、彼の意志と音楽の力、と思いたい。
ポールは小柄だし、ずいぶん年取ったなと思う。もう70歳だから当然だけれど。
ポールと南アフリカといえば「明日に架ける橋」、この国の教会で元来のゴスルとして歌われているという話をきいている。おそらくアレサ・フランクリンが1971年にフィルモア・ウェストで歌ってからだとは思うけれど、そのプロセスはよくわからない。
最近NHK地デジで再放送されている「glee2」の3話だったか、教会でこの曲がゴスペルで歌われるシーンがあった。
なお「Graceland」やはりプレスリーの生地のことのようで、音楽的な内容とは関係ないようだが、ポール・サイモンの頭の中にプレスリーがいることは確かで、それが表に出たのはうれしいことだ。