メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

P.G.ウッドハウス「ジーヴスの事件簿」

2017-06-06 21:25:38 | 本と雑誌
ジーヴスの事件簿 才智縦横の巻(The Casebook of Jeeves)
P.G.ウッドハウス 岩永正勝・小山太一 訳  文春文庫
 
イギリスのちょっと上流階級の独身男性バーティ、家族から離れて一人で暮らしているが、正確にいえば、極めて有能な執事ジーヴスがついている。
 
バーティはちょっと頭が弱く、苦労も足りないから、性格は悪くないのだが、あぶなっかしく、よく難題をかかえることになる。それをジーヴスに相談したり、頼んだりする前に、憎いことにジーヴスはそれとなく察知していて、解決策を考えていることが多い。
その策はも正しいか、善良かという観点からは、必ずしもほめられたものばかりではないのだが、主人としては、くやしいけれどまあそれしかないかな、というものである。このあたりがおかしいし、読む楽しみともなる。
執事というものを、おそらくデフォルメもして、楽しい読み物の題材にしたのだろう。
 
ウッドハウスという名前、どっかで言及されていた記憶はあるが、ジーヴスとともにはっきり認識したのは、P.D.ジェイムズと同様、日経に連載された有栖川有栖「ミステリー国の人々」で紹介されてからである。
 
ミステリーというほどではないけれど、ちょっとした事件の解決策にユーモアやいじわるがあって、ひまなときの読み物としては上質である。たとえば、主人公の結婚相手になりそうな娘が出てきて、彼が気が進まないとき、ジーヴスがうまくやってくれるのだが、主人が結婚するとそれまでの執事はそこから退くということになっているらしく(まあなるほどとは思う)、そうならなくてよかったということもあるらしい。
 
翻訳はおそらく上質なんだろう。全体にいい、そして面白い空気を出している。もう少し英語ができて、もう少し若ければ、後の楽しみとして、これの原文を読んでもいいのだが。
 
おそらくイギリスの本質、面白さを味わえる文章なんだろう、と想像する。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする