虫めづる姫君 堤中納言物語
作者未詳 蜂飼耳 訳 光文社古典新訳文庫
堤中納言物語はこの本の本書のタイトルにもなっている「虫めづる姫君」をはじめとする十編のタイトルと一編の断章からなる物語集で、平安後期から鎌倉にかけて書かれた短編をあつめたものである。それぞれの作者もよくわかっていないし、この時代の物語にあるように、写本で伝わったことから、本書も流布本をもとにしているが、これも近世に定着したものらしい。
それはともかく、これらの物語は男女の間柄を時にはおもしろく、時にはペーソスを交えながら、今の読者も入っていけるなかなか面白いものとなっている。
多くは貴族の男が、女を見初める、評判をききつける、ちょっと興味をいだく、見定める、そういったところから、この時代の物語によくあるように、和歌に想いを託してやりとりする。
近世以降、少し前に携帯電話・メールが普及するまでの間、互いに声をかけるのが難しかったのに比べれば、ずいぶん素直で容易なようにも見え、日本は意外にこういう感じの時期が長かったのだなあと思う。
同じ訳者の「方丈記」を読んだばかりだが、本書も現代人の私として、不自然なく読め、物語の世界にはいっていける。方丈記のようには原典がついていないけれど、登場人物が交わす会話の多くをしめる和歌は原文と訳をこの中に続けて入れてあるから、その場の気分にひたることができる。
「虫めづる姫君」は、この時代にもいた、自分の眼で見、頭で考える娘が印象的だ。また「花を手折る人」や「思いがけない一夜」などは、西欧中世のドンファンならどうしただろうと楽しく想像してしまった。
作者未詳 蜂飼耳 訳 光文社古典新訳文庫
堤中納言物語はこの本の本書のタイトルにもなっている「虫めづる姫君」をはじめとする十編のタイトルと一編の断章からなる物語集で、平安後期から鎌倉にかけて書かれた短編をあつめたものである。それぞれの作者もよくわかっていないし、この時代の物語にあるように、写本で伝わったことから、本書も流布本をもとにしているが、これも近世に定着したものらしい。
それはともかく、これらの物語は男女の間柄を時にはおもしろく、時にはペーソスを交えながら、今の読者も入っていけるなかなか面白いものとなっている。
多くは貴族の男が、女を見初める、評判をききつける、ちょっと興味をいだく、見定める、そういったところから、この時代の物語によくあるように、和歌に想いを託してやりとりする。
近世以降、少し前に携帯電話・メールが普及するまでの間、互いに声をかけるのが難しかったのに比べれば、ずいぶん素直で容易なようにも見え、日本は意外にこういう感じの時期が長かったのだなあと思う。
同じ訳者の「方丈記」を読んだばかりだが、本書も現代人の私として、不自然なく読め、物語の世界にはいっていける。方丈記のようには原典がついていないけれど、登場人物が交わす会話の多くをしめる和歌は原文と訳をこの中に続けて入れてあるから、その場の気分にひたることができる。
「虫めづる姫君」は、この時代にもいた、自分の眼で見、頭で考える娘が印象的だ。また「花を手折る人」や「思いがけない一夜」などは、西欧中世のドンファンならどうしただろうと楽しく想像してしまった。