デイヴィッド・ダフィ 「KGBから来た男」 山中朝晶 訳 (ハヤカワ文庫)
David Duffy Last To Fold
先日読んだ評判作「二流小説家」より、この方が面白い。プロットが込み入っていて、納得しながら読み進むのが難しいのは同様なのだが、この元KGB、それもそれなりの数奇な宿命を背負って、ニューヨークで調査員をしている主人公ターボ、物語はほとんど彼の人称で語られるが、そのつぶやき、行動にひきつけられ、飽きない。
旧ソ連に始まる収容所とそこに不条理に収容されたもの、そこを出てもついてまわるさまざまな影、それにニューヨークの金持ち、ソ連・ロシアから来た新旧権力の流れ、アメリカサイドの人たち。
マネーロンダリング、ハッキングなどについては、細かすぎてついていけないところはあるけれど、最後はなんとか納得できた。
色を添える女性検事、彼の相棒が操っているなんでもわかってしまうお化け検索システム、その近くにいるペットのヨウム(オウムとインコの中間みたいな種類でもっとも人間に近いようなものまねをするらしく、最近はやりだとか。知らなかった。)、主人公が持っている2台の変わったアメリカ車、装飾もうまくできている。
ソルジェニーツィンの作品でも読んでいればもっと感じるところはあったのだろうが、この世界に接したのはショスタコーヴィチのいくつかの曲、その初演、強制された改変など、そしてそれらについて書かれたもの、くらいだろうか。
それにしてもなんという、、、その一方で、先ごろオリバー・ストーンのドキュメンタリーで触れられていたように、スターリンによる殺戮はおそらくヒットラーのそれより数的には多いのだが、あの戦争における連合国側の勝利にはソ連の参戦と戦闘が大きな貢献をした、といわれるようになってきている。
この小説を読んでいて、最近の他のものより気分がいいのは、あの東西冷戦時代のスパイ小説に味をしめていた名残かもしれない。