Hは、大学2回生。小学4年からこの教室に学ぶ、いわば当クラブの主である。会員番号は2。別にオニャンコクラブではないのだが…。パソコンを教えたというより、クラブのスピリットを叩き込んだつもり。だが、Hの方がぼくを上回っている気がしている。
独特のバランス感覚というか、要領がいい。悪い意味ではない。頭がよいのだ。余計な回り道をせずとも、要点をつくことができる。抽出能力にかけては群を抜く。譬えれば、どこにおやつを隠そうが、ものの数秒で捜し当てる。割り切り、見切りが適切だ。無駄もない。だからほとんど遊んでいるように見えて、求められたことはきっちり最後の5分で仕上げる。しとめることができる。その能力は進路選択に如実に現れた。
また、ぼくの隙をつくことにかけては天下一品である。決して悪口ではない。ぼくにある種の緊張感を備えさせてくれた。
抜かれるのは隙があるから。
抜かせるように見せて、実は抜かせてない。
思えばしんどい授業である。
そのHがレポートに苦しんでいる。ぼくには、ホラクリで、ずっと溜め込んでいたように思えるのだが…。提出物はWORDの文書にして…云々と、お定まりのものである。
何で苦労しているのかと思えば、縦書きで提出するので、ページ設定で縦書きにしてから文書を作成しているのだ。ぼくには意外だが締め切りを気にするあまり、余裕を失くしているようだ。
「縦書きでレポート書くのは大変やろ?」
「うん、めんどくせーっ!」
「作成は横書きで、仕上げ終わったら縦書きにするんさぁ。」
これが正解である。
文書作成後、
「書式」メニュー→「縦書きと横書き」
第一、縦書きでは。文節の伸び縮みや移動の際にカーソルキーを上下しなければならない。習慣から、つい左右のカーソルキーを押してしまうので思い通りにならずいらいらしてしまう。それに、縦書きだと描画スピ-ドが遅くなるから、幾分待たされることになる。当然、ストレスも溜まる。
最も効率のよい男にしてこれである。厭味をかましてみる。
「取り掛かるのが、一週間ほど遅いなぁ」
不思議と反応がない。図星か。
梅雨が長く感じられてならない。各地で被害も出ているようだ。大したことなければよいのだが。洗濯物が乾かないから、翌日のトランクスを心配しながら、それでも何とかなっている。綱渡りのようだ。
パソコンの中に貯めてある音楽ファイル、なんと1000曲を越している。その中から、リアン・ライムスの「Blue」を今日のBGMにしている。アメリカではカントリーの世界にも天才少女歌手が多く出現する。彼女がこの曲を歌ったのは15歳になったばかりの頃。今さらのように驚いている。