お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※早見和真(1977年神奈川県生まれ。桐蔭学園高野球部出身。2学年上に高橋由伸がいた。2008年、その野球部時代の体験をもとに執筆した「ひゃくはち」でデビュー。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。14年「僕たちの家族」が映画化、15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞、テレビドラマ化され大ベストセラーに。ほかに「小説王」「かなしきデブ猫ちゃん」(絵・かのうりん)など)



●愛すべきバカたちの素晴らしい物語

 谷原京子、契約社員、時給998円。店長が、小説家が、弊社の社長が、営業がバカすぎて「マジ辞めてやる!」 でも、でも…。本を愛する書店員の物語。「ランティエ」連載を加筆し書籍化。

 最初は「ほんとバカだな、こいつ」「こういうヤツっていそうだな」なんて軽い気持ちで読み進めたが、やがて「あれれ、ほんとにバカなんかい?」と疑問を持つようになり、もしかして「まさかピエロのふりしてた?」と思うように。終盤は想定外の謎ときも始まり、「えええっ!!」と風雲急を告げる展開。語り口も軽妙で表現も面白過ぎる。「つぐない」の場面では声に出して大笑いし、しばらく止まらなかった。もう、最高。愛すべきバカたちの素晴らしい物語。続編読まなくちゃ(^o^)

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※井戸川射子(87年生まれ。兵庫県在住。関西学院大学社会学部卒業後、高等学校の国語教師として勤務するかたわら、詩や小説の執筆を開始。2018年に第一詩集「する、されるユートピア」を私家版として発行。翌19年に同詩集で中原中也賞受賞。21年小説集「ここはとても速い川」で野間文芸新人賞受賞。ほかの著書に詩集「遠景」がある。23年「この世の喜びよ」で第168回芥川賞受賞。同年春に教員を退職し、創作一本に絞る)



●難解だけど思いは伝わってきた

 幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンター。喪服売り場で働く”あなた”は、フードコートの常連の少女と知り合い…。表題作など全3編を収録した小説集。『群像』掲載等を単行本化。

 「あなた」という二人称は初めて読んだ。最初は「何や、これ?」と違和感いっぱい。読み進めるうちに何となく慣れてきたかな。文章も句読点の置き方に疑問がわいたが、これも慣れてきて詩人が書けばこういう文章になるのかという気がしないでもない。表現力も豊かで、独特の文体とリズムは、読み終えると逆に魅力的にさえ感じた。難解ではあったけど、井戸川さんの「この世の至るところにいろんな喜びがあるものですよねと、言いたかった」という思いは確かに伝わってきた。

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※島田荘司(1948年10月広島県生まれ。武蔵野美術大学卒業。1981年「占星術殺人事件」でデビューした。この作品は「占星術殺人事件」に登場した名探偵御手洗潔シリーズと並ぶ人気の吉敷竹史シリーズで、久々の新作。警視庁捜査一気の吉敷が初めて登場したのは1984年にカッパ・ノベルズから刊行された「寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁」。本格ミステリーとトラベルミステリーを融合した作風で、「出雲伝説7/8の殺人」「北の夕鶴2/3の殺人」と立て続けに刊行して魅了した。ミステリー作品としての面白さとともに、吉敷刑事と離婚した元妻・加納通子との物語もこのシリーズの魅力のひとつ。1984年「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」、85年「夏、19歳の肖像」で直木賞候補。著書に「御手洗潔の追憶」「異邦の騎士」「切り裂きジャック・百年の孤独」「奇想、天を動かす 」「暗闇坂の人喰いの木」「龍臥亭事件」「ロシア幽霊軍艦事件」「星籠の海」など多数。



●吉敷シリーズというより剣豪小説ですな(^_^;

 江戸時代から続く金沢の芸者置屋「盲剣楼」。戦後間もない頃、軍人くずれの無頼の徒に襲われ、出入り口を封鎖されて三日三晩の間、乱暴狼藉の限りを尽くされた。その5人の男たちを一瞬で斬り殺し、女たちを救ったのは赤子を背負った盲目の美剣士。彼は盲剣楼の庭先の祠に祀られた伝説の剣客「盲剣さま」だったのか。その現場を目撃したという鷹科艶子が描いた絵画「盲剣さま」に惹かれた吉敷竹史が、艶子の孫娘の誘拐事件をきっかけに単身金沢へ赴く。

 こんな奇怪で突拍子もない現象を説明できるわけないと思いながら読み進むのだが、最後に「なるほどねぇ」と納得してしまい期待を裏切らない。だから島田荘司さんは好きな作家のひとり。独特の語り口も魅力だ。

 ただこの作品は吉敷シリーズというより剣豪小説ですな(^_^; 520ページのうち350ページにわたる「疾風無双剣」の章は誘拐事件があったことなど忘れさせるほど面白い。少しキツイ表現もあり、会話も関ヶ原直後の江戸時代らしくないような感じがするが、どんどんページが進む。そしてこの章で「盲剣さま」誕生の秘密を知ることになる。

 もっと吉敷竹史の活躍を読みたかったが、最後にはきっちり(あっさりした感じは否めないが)と「赤子を背負った盲目の美剣士」の謎が解かれるので文句は言うまい。

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※柚月裕子(1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年「検事の本懐」で大藪春彦賞、16年「孤狼の血」で第154回直木三十五賞候補、日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。ほかに「ミカエルの鼓動」「チョウセンアサガオの咲く夏」など)



●切ない、悲しい物語

 8歳の我が子と5歳の女児を殺害した遠縁の死刑囚三原響子から知らないまま身柄引受人に指名され、判決から10年後の刑の執行後に断り切れず遺骨と遺品を受け取った主人公吉沢香純。本家の墓におさめてもらうため菩提寺がある青森県相野町を単身訪れるが、そこで「約束は守ったよ、褒めて」という響子の最期の言葉の真意を探り始め、死刑囚の真実に迫っていく。

 切ない、悲しい物語。母親に殺(あや)められた女の子が本当に可哀想。

 地方生まれでもう還暦を過ぎているので、本家だとか同じ墓に入るだとか地元のしがらみだとかは理解できる。小さい頃、法事に行けばそんな感じだった。でも我々の世代となった今はそういう時代でもない気がするが違うのかな。そこまでこだわるものなのだろうか。終盤の謎解きの展開は面白くほぼ一気に読んだ。まあ、何となく「できすぎ感」がないでもないが好感は持てるかな。ラストシーンも心に響いた。

 死刑執行シーンは目を背けるべきではないが、ちょっと辛い。

 ところで娘の遺骨はどこに埋葬したんだろう。

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※山本文緒(1962年神奈川県生まれ。2021年10月13日、膵臓がんのため58歳で死去。OL生活を経て作家デビュー。「恋愛中毒」で吉川英治文学新人賞、「プラナリア」で直木賞、「自転しながら公転する」で島清恋愛文学賞、中央公論文芸賞を受賞)



●一生に一度しか書けないものを命かけて書いた

 ある日突然がんと診断され、58歳で余命6カ月(セカンドオピニオンでは4カ月、これが副題となっている)と宣告された、直木賞作家の山本文緒さん。治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせるしか手はなかった。しかし、副作用が軽くなっているとして臨んだ抗がん剤は地獄だった。がんで死ぬより抗がん剤で死ぬと思ったほどだという。そのため緩和ケアへ進むことを決断し、夫とふたり、無人島に流されてしまったかのような日々が始まった。

 余命宣告をされた衝撃の診断の1カ月後から始まり、死の直前まで綴られた作家の日記である。活字にしてほしい思いがある反面、こんな救いのないテキストを誰が読むんだろうと懐疑的になりながらも決してジタバタせず、淡々と客観的に自分をみつめ、そして作家らしくユーモアも交えながら残された日々の様子を語る。

 余命宣告というのは、言い換えれば人生の残り時間が明確になることでもある。だから「うまく死ねますように」と準備もできる。周囲も覚悟ができる。それでもノンフィクションだけに自然な中にも当事者でなくては語れないような、心にズシリとのしかかる重い言葉が出てくる。病気であることを知らない人へ「心の中でありがとうございますとさようならを言った」にはぐっときた。

 結末が分かっているだけに残りページがどんどん減っていくのが切なくて悲しい。一生に一度しか書けないものを、まさに命をかけて書ききった。

 山本文緒さんは2021年10月13日10時37分、自宅で永眠。亡くなられてから初めて著作を読んだことになったが、ほかの作品も読んでみたい気になった。僕が生きている限り、心の中で生き続けます。
 

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※伊東潤(1960年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業。「巨鯨の海」で第4回山田風太郎賞と第1回高校生直木賞、「峠越え」で第20回中山義秀文学賞を受賞)



●臨場感あふれる遭難場面 もうひと工夫あれば

 明治35年1月に199人の犠牲者を出した八甲田雪中行軍遭難事件。歴史雑誌の編集者が取材で現地を訪れると、実は犠牲者は200人であった可能性を知る。「その1人」は誰でどうなったのか。そして雪中行軍には公にできない秘密があった。

 今年5月にブルベ「十和田クラシック」で八甲田山へ行っていたこともあり、読みたくなった。新田次郎の「八甲田山死の彷徨」は読んでおらず、高倉健の映画「八甲田山」を見た程度の知識しかなく、県道40号の銅像茶屋の先にある第一露営地と第二露営地があまりにも近くにあるのが不思議だったが、これで氷解した。

 雪山ミステリーとしては非常に面白いし、八甲田雪中行軍遭難事件ついての描写も臨場感あふれ、筆致も分かりやすくほぼ一気に読めた。

 ただ、現代パートの描写は先をある程度予想することができ、意表をつく展開もない(最後は流石に驚いたけど、テーマからするとそうなるのが必然?)。主な登場人物に「その1人」がすでに表記されてプロローグから登場しており、謎解きもちょっと巧くいきすぎる感がないでもない。現代パートの人物設定にもうひと工夫ほしかった。着想は良かっただけに、ちょっと残念。

 来年、また「十和田クラシック」に参加するようなら、コースを外れて後藤伍長発見の地までは行ってみたいな。

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※朝井リョウ(1989年岐阜県生まれ。2009年「桐島、部活やめるって」で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年「何者」で第148回直木賞、14年「世界地図の下書」で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他に「チア男子!!」「星やどりの声」「もういちど生まれる」「少女は卒業しない」「スペードの3」など)



●問題作であり、傑作でもある

 あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。というのが、出版社の謳い文句。

 『多様性を認めると言っても、結局、それはマイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない。想像しうる”自分と違う”にしか向けられていない言葉。想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。だから、おめでたい顔で「みんな違ってみんないい」なんて両手を広げられても、困るんです。ほっといてほしいんです』

 冒頭にあるこの言葉が全てを言い表している。認められる多様性と、話しても全く理解されないので話すことさえ諦めた多様性の中のオンリーワン。多数派が正しいのか? 「あり得ない」と認められないものは異常なのか? 登場人物が互いに絡み合うようになった終盤は一気にページが進んだ。

 「ひとりの異性に何十年も性的に興奮し続けることは、誰かにこうして取り調べられることがないくらい自然なことなんですか」。最後に出てくる言葉が強烈だ。よくここまで書けたと思う。問題作であり、傑作でもある。

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※浅田次郎(1951年東京生まれ。95年「地下鉄に乗って」で第16回吉川英治文学新人賞。97年「鉄道員」で第117回直木賞。00年「壬生義士伝」で第13回柴田錬三郎賞。16年「帰郷」で第43回大佛次郎賞)



●「真面目」な悪党3人が織りなすドタバタ喜劇

 鉄砲玉で13年ムショぐらしのやくざ「ピスケン」、湾岸戦争に反対し自決を図った自衛官「軍曹」、収賄事件の罪をかぶり妻にも大物議員にも捨てられた大蔵官僚で元政治家秘書「ヒデさん」。この3人が何の因果か定年した極道まがいの老刑事に集められ、彼らを欺いた巨悪に挑むというお話。デビュー翌年の92年1月に天山出版に刊行。すでに平成となっていたが、昭和の臭いたっぷりで笑わせてくれるユーモア小説。

 「悪漢(ピカレスク)小説」とあるが、主役3人は悪党ではなくいたって「真面目」。出世より筋を通すことに血道をあげる。それが逆に笑いを誘う。特に3人のうち「軍曹」が登場するシーンは抱腹絶倒。作者自身が元自衛官という事もあって、本当に「自衛隊はヒマ」なんだろうかと思ってしまう。ほかにも思わず「クスッ」となる会話の連続。ヤクザの組長と妾のセックスシーンでさえ爆笑するほどで、まるで吉本新喜劇のような掛け合いが続く。あっという間に読み切った。うまいなぁ。

 この人は時代ものを含めどんなジャンルでも書けてしまう凄い作家だとつくづく感心していたが、デビュー当時からもう凄いの書いてたんだね。続きを読もうっと(^o^)

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※高瀬隼子(1988年愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。著書に「犬のかたちをしているもの」「水たまりで息をする」など。本作で第167回芥川賞受賞)



●「おいしいごはん」は人それぞれ

 食品などのラベルパッケージ会社の支店営業部という小さな職場での出来事を「食」を絡ませて描く。仕事はそこそこできるが出世に興味のない二谷さん、皆が守りたくなるような存在で料理上手な芦川さん、仕事ができてがんばり屋の押尾さんの3人の同僚の奇妙な恋愛関係を中心に展開されていく。

 時々、誰が主語なのか分からなくなり、ちょっととまどう。ただ表現の仕方は独特で面白い。少し思考を巡らせ、その図を想像すると腑に落ちる。

 主要登場人物の芦川さん、押尾さんの女性2人の性格は一貫しているのだが、男性の二谷さんがあやふやというか、「あれ、こんな事しちゃうんだ」ととらえどころがない。まあ、こういうのが現実では普通の姿なのかもしれず、実は共感できたりする。芥川賞の選考でも「一面的にいい、悪いではない、人間の中の多面性がよく描かれている」と評価された。

 「おいしいごはん」とタイトルにあるがレシピの類は出てこない。食事やスイーツを作るのは芦川さんだけ。押尾さんはみんなで食べるのは嫌と断言し、二谷さんはご飯を食べるのが面倒とさえ言う。しかし「うまいな」と思うものはある。「おいしいごはん」は人それぞれだ。

 冒頭に出てくる、昭和を感じる支店長の「そば食べたい。みんなで食いにいくぞ」という号令シーンですっと物語に入り、居酒屋で押尾さんが「それじゃあ、二谷さん、私と一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」と言うシーンに心をつかまれ、3人の関係が気になって最後まで読み進めたが、終盤で描かれる職場でのシーンはあまり現実的でない気がしたかな。芦川さんの本音をのぞいてみたい。

 

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※綿矢りさ(1984年京都府生まれ。2001年「インストール」で文藝賞を受賞しデビュー。早稲田大学在学中の04年「蹴りたい背中」で史上最年少19歳で芥川賞受賞。12年「かわいそうだね?」で大江健三郎賞、20年「生のみ生のままで」で島清恋愛文学賞。ほかに「夢を与える」「勝手にふるえてろ」「ひらいて」「憤死」「私をくいとめて」「意識のリボン」「オーラの発表会」など)



●綿矢ワールドにはまりそう

 妻の親友の家に招かれた僕。だが突然僕の行動をめぐってミニ裁判が始まり…。表題作「嫌いなら呼ぶなよ」(「文藝」掲載)をはじめ、心に潜む“明るすぎる闇”に迫る「眼帯のミニーマウス」(「すばる」掲載)「神田タ」(「文藝」掲載)「老は害で若も輩(ろうはがいでじゃくもやから)」(書き下ろし)の全4作を収録。

 表現が斬新過ぎて(爆)。還暦を過ぎた身には理解不能な単語もあり、スマホ片手に調べながら読み進んだが面白い。独特の毒を含んだ物語で、綿矢ワールドにはまりそうだ。表題作よりは「眼帯のミニーマウス」「神田タ」の方が面白く読めたかな。他の作品にも手を出してみよう。

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※窪美澄(1965年、東京都生まれ。短大を中退したあとフリーの編集ライターなどを経て、2009年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞受賞。受賞作を収録した「ふがいない僕は空を見た」が、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10の第1位、2011年本屋大賞第2位。同年、同書で山本周五郎賞受賞。12年「晴天の迷いクジラ」で山田風太郎賞、19年「トリニティ」で織田作之助賞受賞、直木賞候補。そのほか「さよなら、ニルヴァーナ」「よるのふくらみう」「やめるときも、すこやかなるときも」「じっと手を見る」(直木賞候補)「私は女になりたい」「朔が満ちる」など。短編集「夜に星を放つ」で第167回直木賞受賞)



●心にしみる5つの短編

 かけがえのない家族を死別や離婚で失う、あるいは密かに思いを寄せる異性との永遠の別れ……そんな「喪失感」をテーマに据え、星座を織り交ぜながら描いた短編集。「真夜中のアボガド」「銀紙色のアンタレス」「真珠星スピカ」「湿りの海」「星の随に」の5編収録。第167回直木賞受賞作。

 すごく読みやすい文体。淡々と進んでいくのだが、あっという間にその世界に引き込まれ感情移入してしまう。選考委員の林真理子さんが「文章はなめらかに進み構成に無理がなく、短編のお手本のようだと高く評価する人もいた」というだけある。物語自体はなんとなく予想した方向へ展開していくので、あっと驚く結末は待っていない。喪失がテーマなのでハッピーエンドでもない。でも、心にしみる。とくに「真珠星スピカ」は妻を失った身にはぐっとくる。幽霊でもいいからリビングに座って見てて欲しい。

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※鈴木裕和(1975年生まれ。05年からブルベ参加。年間2万キロを走るアマチュアサイクリスト。PBPは07年は事故でリタイアも11年、15年は完走。16年にアメリカで行われた1400キロのレース・Race・Across・the・Westで日本人初の完走を果たす)



●読んだだけでブルベを完走した気分

 一部で大人気の超長距離耐久サイクリング「ブルベ」についての「あるある」が集大成されている。07年からブルベに参加しているが、面白すぎて笑いがとまらない。読むだけでブルベを完走した気分になった。以下は印象に残ったフレーズ。

・(200、300、400、600と増えていくのは)よくできた罠(だよねー)
正月からブルベが走れて嬉しい(おいおい家族は?)
峠あり、雨あり、涙あり、全てが含まれた600キロ(確かにそうだが、峠と雨はいらん)
高い自転車を買っても速くならない(貧脚はコンビニストップの短縮を目指せ)
トラブルこそブルベ(だよねー)

 目から鱗だったのが「ジャージを着たままシャワーを浴びよう」。そうか。その手があったのか。一度練習しよう。

 ブルベの敵は坂なんかじゃなくて(それもあるけど)雨と寒さ(暑さ)と眠気。これに打ち克つ折れない心があれば完走できる(可能性が高い)。「走力や目的、趣味の違いの数だけ、人の数だけブルベが存在する。正解も人の数だけ存在する」。だからブルベって面白いんだよね。何度も同じコースが走れるんだよね。

 僕も昔、こんな事がかかれたブログを読んでしまった。「真夜中のコンビニ。寒さで手が震えてお金が出せない」ーーなんじゃ、これ? いい大人が何やってるの? なんて呆れながらも、いつしかこの世界に足を踏み入れた。「まさかあのちょっとヘンな集団の中に入ることになるとは思わなかったな」。だよねー。で、もう16年(^_^;

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※内舘牧子(1948年秋田市生まれ。88年脚本家としてデビュー。武蔵野美術大学客員教授、ノースアジア大学客員教授、元横綱審議委員、東北大学相撲部総監督。著書に「終わった人」「すぐ死ぬんだから」など)



●面白すぎる!

 夫の寝顔を見ながら「今度生まれたら、この人とは結婚しない」とつぶやいた70歳の夏江。何の不満もない老後だが、人生の選択はこれでよかったのかと自らに問い…。「終わった人」「すぐ死ぬんだから」に続く「老後」小説。

 (70)の衝撃から始まり、次々に巻き起こる意外な展開。息つく暇もなくあっという間に読み終えた。面白すぎる!

 「今度生まれたら」。(64)の自分にとって何度かの人生の岐路でいくつかの選択肢はあった。別の道を進んでいたらどうなっていたかはもちろん興味深いし、想像することもたまにあるのは事実。だが妄想したところで「今度」はない。せめてこれから先の老後人生を、「今度生まれたら」と思わないような生き方をしていきたいものですな。

 「人生百年をどう生きるか」
1.学校に入り直す
2.ボランティアをやる
3.各種の資格・検定を取る
4.まったく新しい趣味を始める

 さて、どうしたもんか。

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※一穂ミチ(2007年「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー。劇場版アニメ化もされ話題となった「イエスかノーか半分か」などボーイズラブ小説を中心に作品を発表して読者の絶大な支持を集める。初の単行本一般文芸作品「スモールワールズ」が本屋大賞第3位、吉川英治文学新人賞を受賞したほか、直木賞、山田風太郎賞の候補に。本作も本屋大賞第3位、直木賞候補作)



●ゆずちゃんにめちゃ感情移入

 医師を父に持つ裕福な家庭に育った結珠(ゆず)。父も知らず古びた団地で母と二人で暮らす果遠(かのん)。着るものも食べる物も住む世界も全く違う二人が7歳の時に偶然出会い、互いに惹かれあう。唐突の別れと再会を繰り返し、愛と友情を確かめ合っていく二十数年が描かれる。

 冒頭に登場するのが小学2年生の結珠ちゃん。実は孫娘も小学2年のゆずちゃん。その顔や仕草を思い浮かべ、めちゃ感情移入しながら読んだ。結珠ちゃんの方が早生まれのゆずちゃんよりしっかり者のような気がするが、成長していく過程はこんな感じなのだろうか。物語よりそっちの方が気になった。

 言葉の紡ぎ方が巧い、というかすごい。分かりやすいという訳ではないが、「なるほど」と腑に落ちるといったところか。美しい水平線は本当はなくて、どこまで行っても空と海が交わることはないという。言われてみればその通り。

 親はどこまでも親、家族はどこまでも家族。みんな優し過ぎるのが気にかかったが、子育ての事(もうしないけど)とかいろいろ我が身に振り返って考えさせられながら、第三章は途中でやめられず一気に読んだ。終盤は涙を誘う展開。急加速するフィナーレも読み応え十分。潮岬付近は一度ブルベで通過したことがあるが、岬までは足を伸ばさなかった。何だか行ってみたくなったなぁ。

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※村田沙耶香(1979年千葉県生まれ。2003年「授乳」で群像新人文学賞優秀作、09年「ギンイロノウタ」で野間文芸新人賞、13年「しろいろの街の、その骨の体温の」で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。ミリオンセラーとなった「コンビニ人間」は22年現在、38の国と地域で翻訳されている。本書の表題作「信仰」は「Faith」(ジニー・タプリー・タケモリ訳)としてイギリスの「Granta Online」に掲載され、2020年のシャーリイ・ジャクスン賞の中編小説部門にノミネートされた。)



●やっぱり宇宙人に違いない

 「信じること」をめぐって読者を揺さぶる作品集(短編&エッセイ)と担当編集者は言う。

 「なあ、永岡、俺と、新しくカルト始めない?」で始まる表題作の『信仰』(文學界19年2月号)。65歳の生存率が20%を切ってしまう私が選んだのは「野人」となることだった『生存』(文學界19年7月号)。続編ではないだろうが、続く『土脉潤紀(どみやくうるおいおこる)』(群像18年2月号)では「野生に返る」といって野人となった姉の巣を妹の私が訪れる。均一とカルチャーショックの二つの街しかない『カルチャーショック』(文學界19年9月号)。「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」というクローンをヨドバシカメラで4体買い、夏子Aの自分と夏子B、C、Dとの奇妙な共同生活を描く『書かなかった小説』(文學界21年8月号)。寿命1億年のKがその全てを使って旅してたどりついたロボットしかいない星で開いた『最後の展覧会』(新潮21年9月号)の6編とエッセイ2編。

 何なんだ、これは。SF? ショートショート? 突拍子もない設定だけど、すっと読めて心に響く。共感もする。そして重い。にやっとする場面や会話もある。これが村田ワールド! やっぱり宇宙人に違いない。

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