お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※下村敦史(1981年京都府生まれ。2014年「闇に香る嘘」で江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。数々のミステリランキングで高評価を受ける。15年「死は朝、羽ばたく」が日本推理作家協会賞(短編部門)、16年「生還者」が日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)の候補となる。「真実の鑑」「サハラの薔薇」「黙過」「悲願花」「刑事の慟哭」「絶声」「コープス・ハント」「同姓同名」など)



●「あれ、なんかおかしくね」

 100年の歴史を持つ超高級ホテル「ヴィクトリアン・ホテル」がその歴史にいったん幕を下ろす最後の夜。集まったのは休業した女優、窃盗犯、大スポンサーのやり手宣伝マン、弁当屋を経営する夫婦、文学賞の授賞式に出席した作家、そして…。

 単純な群像劇かと思いきや、読み進めるうちに「あれ、なんかおかしくね」と思い始める。ネタばれになるので多くは語れないが、映画化はできない叙述トリック。ほぼ一気読みした。クレームや批判と、優しさに関する見解は「なるほど」と思わせる。

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※恩田陸(1964年宮城県生まれ。91年、第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となり、「六番目の小夜子」でデビュー。05年「夜のピクニック」で第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞受賞。07年「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞受賞。17年「蜜蜂と遠雷」で第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞。主な著作に「ネバーランド」「黒と茶の幻想」「上と外」「ドミノ」「チョコレートコスモス」「私の家では何も起こらない」「失われた地図」など)



●はい、ただただ笑って読みましたよ

 「蝙蝠」(こうもり)と呼ばれる名品中の名品である「玉」の印章を巡り、上海で繰り広げられる壮大なエンターテインメント。いや、霊となって宙を舞うイグアナ、アウトローながら漢詩が読めるパンダ、ゾンビとキョンシー半々にメイクされた風水師を中心に、25人プラス3匹がハチャメチャでスピーディーな展開で一気に500ページ超を読ませるドタバタ喜劇である。それぞれの群像劇がドミノ倒しのように繰り広げられた結果、なんの因果か最後には大集結してエピローグを迎える。01年の「ドミノ」の続編で、前作の登場人物が舞台を替えて(抱腹絶倒の)躍動を見せてくれている。

 プロローグが「-5」から始まり、カウントダウンして「-1」が終わると、タイトルがど〜ん。映画のようなオープニングにまずびっくり。

 


 その後はユーモラスな語り口で物語はどんどん進んでいく。些細な事がとんでもない事件発展する様は愉快痛快奇々怪々。「教訓も何もない話ですし、ただただ笑って読んでもらいたい、スカッとした気分になってほしい、という思いで書いていました」と作者。その通りでした。前作は読んでないのだが、それでも読み応えは十分。映像映えするシーン続出なのでぜひ映画化してもらいが、顔が左右対称の役者はいないから無理かなぁ。

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※垣谷美雨(かきや・みう=1959年兵庫県生まれ。明治大学文学部卒業。2005年「竜巻ガール」で第27回小説推理新人賞を受賞してデビュー。身近だが、重いテーマを題材にした作品で人気を集める。「老後の資金がありません」(天海祐希主演で21年映画公開)、「夫のカノジョ」「あなたの人生片付けます」「定年オヤジ改造計画」「結婚相手は抽選で」「七十歳死亡法案、可決」「うちの子が結婚しないので」「夫の墓には入りません」など)



●最後の1行がいいね

 郊外の団地でひとり暮らししていた姑が急死。嫁の望登子(もとこ)が自力で遺品整理を始めるが、そのおびただしい数にあ然とする。自分の母は余命を知りすべてを片付け指輪ひとつだけ残して旅立った。それに比べこのだらしなさ。冷蔵庫には食材がびっしり。本棚にも本がぎっしり。奥の部屋には大きなタンスがずらり。それでも入りきらない衣類が部屋の真ん中のポールハンガーにぎゅうぎゅうに掛かっている。床には古新聞や空き箱やらが所狭しと置かれ畳がほとんど見えない。おまけに巨大なウサギまでいたりして…。ゴミとして捨てるにも部屋はエレベーターのない4階。何往復すればいいのか。粗大ゴミシールを50枚買ったものの、永遠に終わらないのではと途方に暮れる望登子だったが、遺品と会話しながらすすめるうちに心境に変化が現れてくる。

 タイトルだけで読みたくなってしまう垣谷美雨の作品。数えるとこれが10作品目。どれも期待に違わぬ面白さだった。この作品もそう。最後の1行がいいね。

 昨年、十数年空き家だった岡山の実家を売却した。当然、両親の遺品整理が必要となったが、この作品に出てくる姑と同様に「もったいない病」だったので、きちんと整理されているものの物はあふれていた。自分でやると、遠方だったこともあり気の遠くなるような時間がかかる。ひと通り確認して写真やビデオに収め、整理(というか廃品回収)は業者に頼み、本当に貴重と思われるもの以外はすべて捨てた。その貴重なものも、自宅に持っては来たが、我が家にも物はあふれており、やがて捨てていくことになるだろう。妻のものも含め、遺品整理はこれからのライフワークのひとつだなぁ。問題は思い出をどこまでとっておくかだな。特にアルバム。我が家の写真のデジタル化は2002年からなので、押し入れの一角をで〜んと占めている(T_T)

 人生の後始末。いつ死ぬか分からないので自分でやっておきたいが、子供にやらせて知らなかった親のエピソードで驚かせるのもいいかもしれない。遺品整理で出てきた両親の恋文に僕が仰天したように…。

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※今村翔吾(1984年京都府生まれ。17年「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」でデビュー。18年「童神」(刊行時「童の神」に改題)で第10回角川春樹小説賞受賞、第160回直木賞候補となる。20年「じんかん」で第11回山田風太郎賞を受賞、第163回直木賞候補。21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第6回吉川英治文庫賞を受賞。本作で第166回直木賞受賞)



●石垣は楯にも矛にもなる

 関ヶ原の戦い直前の近江の国・大津城を舞台に、城の鉄壁の「楯」となる石垣作りの職人「塞王」と、攻め手の無双の「矛」となって城を攻め落とす鉄砲作りの職人「砲仙」との宿命の戦いを描く、武将が脇役で職人が主人公の究極のエンターテインメント戦国小説。

 文句なく面白い。そして読みやすい。両者の戦いの場面は迫力満点で、展開もスピード感あふれている。550ページの大作だが、まったく苦にならなかった。

 なんとなく眺めている城の石垣。綺麗に積んで行くだけでも大変だろうと感心していたが、戦では楯になり、時として矛にもなって逆襲する仕掛けもあったとは。最後までワクワクハラハラの連続だった。

 「懸(かかり)だ!」
 「応!」
 戦場での突貫工事。興奮するねぇ!

 そして塞王も砲仙もその究極の目的は同じ。「戦(いくさ)を終わらせ、泰平の世を築くこと」。いや〜、ほんとに面白かった。

 昨年、1000キロブルベの途中に大津に泊まった。ホテルはちょうど三の丸付近。あちゃー、知っていたらなぁ、残念。

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※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。本作で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。



●シリアスの中にドタバタ喜劇も

 1956年のシハヌーク国王時代からロン・ノルのクーデター、そして75年のクメール・ルージュによるサイゴン陥落、ポル・ポト時代の大虐殺などのカンボジア内戦の中で生きる人々を描く、上下巻で合計700ページ超のSF大作。上巻が内戦、下巻はその半世紀後の模様が語られる。第168回直木賞を受賞した「地図と拳」と同様な展開の群像劇。

 後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子とされるソリヤ。貧村ロベーブレソンに生を受けた、天賦の習性を持つ神童のムイタックを中心として、ホントのようなウソの物語が進行していく。虐殺、拷問、処刑などシリアスな場面があると思えば、ドロと会話できる「泥」、13年間喋っていない「鉄板」、輪ゴムと会話できる「クワン(輪ゴム)」という奇想天外な登場人物も現れる。ほかにも妙な習癖の連中が出てくるが、実はそれぞれが重要な役回りを演じている。

 「意味不明」「訳が分からない」という言葉が何回も現れ、問題を提起しても答えは「自分で調べろ」「知らない」「グーグルに聞け」と笑いを誘うような描写もあちこちにちりばめられ、高校時代によく読み、ファンクラブにも入っていた筒井康隆(※)のナンセンスSFを思い出した。いわゆるドタバタ喜劇だが、これが意外に「ありそうだ」と納得できる内容となっているので面白い。「ゲームにはルールが必要。そしてそのルールを決めるルールも必要。さらに…」。どこかにそんなニュアンスの表現があったような気がする。なんのこっちゃ。

 本人もインタビューでこう語る。「(中高時代は)SFにハマりました。筒井康隆を読んで『めっちゃ面白いじゃん』となり、ショートショートにハマって星新一を読み、フレデリック・ブラウン、レイ・ブラッドベリ、アシモフ、ハインラインを読み...。」「小松左京の『日本沈没』を読んでいない段階で筒井さんの短篇の「日本以外全部沈没」を面白く読み、その後元ネタの『日本沈没』を読んで「これって『日本以外全部沈没』のパロディじゃん」みたいに思ったりして」。影響は少なからずあったようだ。

 史実(リアリズム)の中にとんでもない大ウソ(マジックリアリズム)を織り交ぜ、後半は脳波によるゲームというSF色豊かな展開となる。図書館の返却日を気にしながら読む本ではないな。「地図と拳」とともにもう一度、じっくりと読んでみたい。

 ※筒井康隆…小松左京、星新一と並び「SF御三家」とも言われる。「時をかける少女」「にぎやかな未来」「日本以外全部沈没」「48億の妄想」「家族八景」「七瀬ふたたび」など。「ベトナム観光会社」「アフリカの爆弾」で直木賞候補。

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※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。17年「ゲームの王国」が日本SF大賞。本作で第168回直木賞受賞)




●ノンフィクションかと思った

 国家とはすなわち地図、そして世界の狭すぎる住める土地を求めて拳、すなわち戦争が起こる。桃源郷と言われた満洲の架空の町・李家鎮(リージャジエン、後に仙桃城=シエンタオチヨン)の興亡を舞台に、日露戦争5年前の1899年から満州国創設、支那事変、満州国滅亡を経て終戦10年後の1955年までを描く、600ページ超の壮大な日本人、ロシア人、中国人らの群像劇。

 最初は中国読みの名称が頭に入らずページが進まない。貸し出し期間の2週間で読破できるか不安に思っていたが、登場人物がほぼ出そろったあたりからがぜん面白くなり、寒さで出歩けないこともあって一気にページが進んだ。史実と虚構が絶妙に入り交じっており、空想歴史小説であることを知っていなければノンフィクションかと思ってしまうほど。8ページにもわたる膨大な参考文献が真実味を増し、作品を重厚なものにしている。

 図書館予約殺到でかなり待って読み始めた途端、直木賞受賞のニュースが飛び込んできた。選考委員の宮部みゆきさんも「謎解きあり、アクションあり、うんちくもある満漢全席のような小説。こんな大風呂敷を広げられる作家はほかにいない」と絶賛している。こういうSFもあるんだ。

 中国史をおさらいし、登場人物の相関図でも作りながらもう一度じっくり読みたいが、直木賞受賞で予約者は100人以上まで膨れあがっているので断念。

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※和田秀樹(1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、和田秀樹心とからだのクリニック院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる)



●信じるものは救われる

 人生100年時代だが、健康寿命の平均は男性72歳、女性75歳。80歳を目前に寝たきりや要介護になる人は多い。「80歳の壁」は高く厚いが、壁を超える最強の方法がある。ラクして壁を超えて寿命を延ばす「正解」を教えます! という宣伝文句が裏表紙に書かれている。

 和田さんの著作は「70歳が老化の分かれ道」に続き2作目。まだ64歳で元気いっぱいだが、やはり気になる老い先のこと(^_^;  で、その正解とは「嫌なことを我慢せず、好きなことだけをする」だそうだ。ほかに「食べたいものを食べる」「ガンは切らない」「おむつを味方にする」「ボケることは怖くない」など、目から鱗の提言が満載。認知症は老いれば誰でも程度の差はあれ出てくるし、がんも老化現象のひとつ。80歳過ぎればどこかにひとつやふたつあるもの。怖がらずこれらとうまくつき合っていければいいのだ。信じるものは救われる。気楽に生きれば、バラ色の80代が待っているかも。と、老後に対して前向きになれる。がん保険やめるかな。

 60代とはいえ、明日どうなっているかは分からない。明日死んでもいいように今から嫌なことは我慢せず、好きなことを楽しんでいこう。

 エピローグにあったが、保育園の待機児童問題と同様、特養の待機高齢者問題もなんとかしなければ。

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※浅田次郎(1951年東京生まれ。95年「地下鉄に乗って」で第16回吉川英治文学新人賞。97年「鉄道員」で第117回直木賞。00年「壬生義士伝」で第13回柴田錬三郎賞。16年「帰郷」で第43回大佛次郎賞)



●昭和な話に60代は弱い

 還暦を前後にした登場人物たちが東北のとある新幹線停車駅から1時間に1本のバスに1時間揺られ、老いた母の住む山深い里へ帰ってみると、そこで待っていたのは見知らぬ母と人々。「よく帰って来た」と名も知らぬ母は喜び、地元食材を使った手料理でもてなし、寝物語も聞かせてくれた…。お互いが嘘と知りながらその役割を演じていくうち、まるで本当の母、故郷のような思いに陥っていく。

 母は偉大なり。そしてふるさとも。設定は現代的なのだが、郷愁を誘う昭和なお話。こういうのに60代は弱い。どう決着が付くのかと思ったが、これしかない結末だった。泣けます。

 岩手弁もよく読むとなんとなく理解できた。「どんとはれ」。

 【追記】 24年8月にNHKでドラマ化。子供役に中井貴一、松嶋菜々子、佐々木蔵之介。そして、ちよ役に宮本信子。79歳だが、その演技力に驚かされた。原作のイメージ通り。この役はこの人にしかできなかった。

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※原田マハ(1962年7月東京・小平生まれ。小学校6年から高校卒業まで岡山市で育つ。05年「カフーを待ちわびて」で 第1回日本ラブストーリー大賞受賞。12年「楽園のカンヴァス」で第25回山本周五郎賞、第147回直木賞候補。17年「リーチ先生」で第36回新田次郎文学賞受賞。19年「美しき愚かものたちのタブロー」で第161回直木賞候補。兄は小説家の原田宗典。ちなみに原田宗典はボクの高校の同級生)



●ほっこりする家族の物語

 宝塚で洋菓子店「スイート・ホーム」を営む家族をめぐる心あたたまる連作短編集。はらはらどきどきはあるが、安心のハッピーエンド。こんなところに住みたいなと思ったら、阪急不動産株式会社ホームページ「阪急宝塚山手台(阪急宝塚山手台 くらしさいと)」で掲載されたものを加筆、修正したという。なるほどと思いつつ、嫌らしさもなくすんなりと読ませる巧さはさすが。

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※原田ひ香(1970年神奈川生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に「三千円の使いかた」「そのマンション、終の住処でいいですか?」「事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング」「人生オークション」「母親ウエスタン」「彼女の家計簿」「ミチルさん、今日も上機嫌」「三人屋」「ラジオ・ガガガ」など)


●松坂慶子のイメージが強すぎて…

 わずかな年金と清掃パートで細々と暮らす76歳の一橋桐子が、3食介護付きの刑務所入りを狙って「ムショ活」を始め、犯罪に手を染めようとするのだが…。

 原作を読むより先にNHKのドラマを先に見たため、桐子役の松坂慶子と親友トモ役の由紀さおりが頭の中を駆け巡って困った。ただ、ドラマは原作に忠実ではない部分が多くあり、二重に楽しめた。ちなみに「ムショ活」は原作にはなく、ドラマ内での言葉。

 「子供と別居し、妻に先立たれたひとり暮らしの人」が結婚詐欺のターゲットだそうな。それって俺? 気をつけなくちゃ(^_^; でも、金はないから大丈夫か。

 あちこちでクスリとさせながら、ほろりとくるハッピーエンド。ちょいとできすぎの感がしないでもないが。

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※奥田英朗(1959年岐阜生まれ。コピーライター、構成作家を経て1997年「ウランバーナの森」でデビュー。「邪魔」で第4回大藪春彦賞。「空中ブランコ」で第131回直木賞)



●昭和の情景描写が圧巻

 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年、浅草で誘拐事件が発生。容疑者に浮かんだのは北海道・礼文島出身で空き巣常習犯の男だった。「戦後最大の誘拐事件」と言われた「吉展ちゃん事件」がモデル。

 とにかく情景描写が凄すぎる。昭和52年に取り壊された南千住の東京スタジアム、63年に廃止された青函連絡船など臨場感たっぷり。圧巻は黒電話。公衆電話からかかってきた時、受話器をとると10円玉が落ちる「ガチャン」という音がするなんて懐かし過ぎる。

 電話の逆探知はできず録音もままならない。これが当たり前の状況の中、失態を繰り返しながらも容疑者を追い詰めていく刑事たちの執念。この時代を知る者にとっては文句なく面白い。こういうミステリを読みたかった。

 たまたまだが、これを読んだ後、黒沢明監督の「天国と地獄」を見た。製作はこの小説の舞台と同じ昭和38年で、新幹線はなく「こだま」がまだ特急だった。白黒だが、これも古さを感じさせず見応え十分の作品だった。

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※小川糸(1973年生まれ。本作がデビュー作 。以来30冊以上の本を出版。『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ライオンのおやつ』が日本全国の書店員が主催する「本屋大賞」候補に)




●食事とは命を頂くことなり

 同棲していたインド人の恋人に捨てられ、家財道具一式を持ち逃げされた女性主人公。ショックで声も失ったが、実家に戻り、確執のあった母親に頼み込んで場所を借り1日1組限定の食堂を開く。メニューはなく、事前に面接をして決めるという料理は願いを叶えると評判を呼ぶ。柴咲コウ主演で映画化もされた。

 「ライオンのおやつ」が良かったので、小川糸さんのデビュー作を読んでみた。食堂を手伝ってくれる熊さんがスーパーマン過ぎる(笑)。料理の描写は自分にはよく分からないので飛ばし気味に読んだが、中盤から終盤にかけての展開は泣かせる。食事とは命を頂くことなり。

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※坂井希久子(1977年和歌山県生まれ。「虫のいどころ(男と女の腹の蟲から改題)」で第88回オール讀物新人賞。当時売れっ子SM嬢だったことが話題に)



●「先に死んでごめんね」

末期がんで余命1年の宣告を受けた妻と、定年後も仕事を続ける昭和な亭主関白の夫のお話。家事がまったくできず娘2人にも愛想をつかされた夫が、妻の手のひらで優しくころがされて変わっていく。「先に死んで1人にしてごめんね」と言う妻は素晴らし過ぎる。

一歩間違えば同じ立場かと思いながら一気に読んだ。

10年前に妻が旅立った後、台所でレシピノートを見つけたが、その中にクックパッドのものがいくつか。あ、妻も今の自分と同じように頼っていたのかと思うと何となく嬉しくなった。そのクックパッドのおかげで何とか料理は作れるようになった。生前に作ってあげられなかったのは後悔しかないが…。

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※桐野夏生(1951年10月7日、金沢市生まれ。「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞受賞。99年「柔らかな頬」で直木賞。「OUT」「東京島」など)



●湘南版「ゼロの焦点」

夫を海難事故で亡くした女性が主人公。遺体は見つからず、死亡認定のあと、父親といっていいほど年上の裕福な会社会長と再婚。湘南の海が見える高台の一等地で過ごすのだが、ある日、死んだはずの夫に似た男が現れ…。

序盤はそれほどページが進まないが、元夫の姿が見え隠れし始めるあたりから先が気になり、ページを繰るスピードも上がってくる。さすがの巧さ。消えた夫の過去に迫る妻の姿に「ゼロの焦点」を思い出した。

主人公が住んだ「母衣山(ほろやま)」は披露山がモデルだろう。「ゼロの焦点」の日本海に対し、こちらは湘南が舞台。周辺が分かるだけに親しみも涌いた。

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※小川糸(1973年生まれ。デビュー作 『食堂かたつむり』(2008年)以来30冊以上の本を出版。『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ライオンのおやつ』が日本全国の書店員が主催する「本屋大賞」候補に)



●瀬戸内のレモン島で最期の時を

余命宣告された33歳の女性が、瀬戸内海のレモン島にあるホスピスで人生の最期を過ごす。毎週日曜にはおやつの時間があり、入居者が思い出とともに食べたいものをリクエストするのだが、当然、旅立つ人が次々と…。終盤は涙なくしては読めない。「死ぬまで生きる」。そして最期は「ごちそうさま」と言える。そんな人生が送れたらいい。

ちょうどこの年の夏にしまなみ海道を走り、舞台となった生口島の穏やかな風景が目に浮び感情移入もできた。

それにしても読み違えると大変なことになる人とか、登場人物のネーミングは秀逸。「ライオン」の意味も納得。

最後のおやつ。自分はおやつ(スイーツ)を食べるという習慣があまりないので思い浮かばないが(酒のつまみならあるけど)、あえて言うなら「銀だこ」かな。会社近くの築地場外に店があり、初めて食べた時は「表面がパリッ、中がトロッ、タコはプリッ」に感動したもんだ。

※定年退職して自由な時間が増え、読書する機会も増えました。散歩がてら図書館へ行って本を借り、のんびりと読むのもいいもんです。電車通勤の合間に読むのは細切れでよく内容を忘れましたが、一気に読み終えられるので助かります。

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