続・トコモカリス無法地帯

うんざりするほど長文です。

怪獣ソフビのトラウマと克服

2022-05-19 05:21:43 | 収集物

怪獣ソフビを買い集めて20年くらい経ちました。古いビンテージやレア物の類には関心無く、その時期ごとに普通に店頭で売っていた怪獣ソフビをちまちま買い続けて、有名所はだいたい手元に揃いました。安価で頑丈、子供玩具の代表だと思いますが、自分の幼少時は欲しくても買えなかった商品でした。値段の問題じゃなく、バカな子供だったので売り場がわからなかったためです。親に「玩具買ってやるから欲しいの選びなさい」と言われたものの、たまたま別コーナーに紛れていた怪獣ソフビを見つけ、そのまま違うコーナーを探し続け、結局同シリーズの他怪獣を見つけられず、別玩具で妥協した後で怪獣ソフビ売り場を発見し大変な後悔したものの、親相手に泣いてゴネることもなく自分の視野狭窄を強く反省しただけでした。親の出した条件に落ち度はありません。自分がもう2コーナー隣を探していれば望みは叶っただろうに。以降の私は狙ったモノを探す時には執拗に調査探索を重ねるようになりました。物欲児童は痛い目を見て学びました。

生まれる前から既に怪獣映画や特撮TV番組があった世代のため、本来なら物心付く前から派手な絵面で暴れる怪獣デザインを見ながら育つはずでした。しかし、そうはならなかったんだよ。実はそうした映像作品に慣れ親しんだ幼少時ではなく、むしろ遠くから怪獣の姿を眺める機会にすら恵まれない貧しい環境でした。ビデオ普及前だったし。
怪獣映画はどれもとうにシリーズ終了しており、そもそも映画を観に行く習慣など無い家庭に育ち、TVのチャンネル選びは親が決め、手元に怪獣本1冊すら無く、幼少時の自分には「見えないほど遠くにある格好いい姿」として好奇心を強くそそられながらも、アクセスしようのない漠然とした憧れでした。自分よりも年上の世代が熱狂したらしき遠くの最先端ジャンルだと思っていました。要は特撮やSFXといった派手な映像に強い飢餓感を覚えながら過ごしていたわけです。どうせ見るなら、そこらにいる人間の顔ばかりのドラマよりも、架空の異形がありえない大暴れをする映像を見たいというシンプルな欲求です。

そんな文化的素養の貧しい幼少期のある日、友人宅へ遊びに行った時のこと。その家の庭の一角に砂場があり、そこには無造作に怪獣ソフビがいくつも放り出してありました。いやいくつもどころじゃなく、大量にありました。今の知識だとわかるのですが、当時「キングザウルス」という怪獣ソフビ商品が展開中でした。当時の最先端。それがわんさかと屋外砂場にある。幼少時の私は怪獣成分に飢えていました。めったにお目にかかれない貴重品感覚でした。それが大量に砂場で屋外遊び用に置いてある。いわば天然ジオラマ環境で遊び放題なわけで。それを見た当時の私が受けた衝撃の大きさたるや、子供が絶句して動けなくなった程です。しかも、その友人はどちらかといえば活発なスポーツ少年で、怪獣TV番組になど普段はほとんど言及しないタイプでした。

自分が強く憧れ欲しがっていた対象が、相手にとってはスポーツの片手間で嗜む程度の物だった、そんなふうに感じて、なんだか敗北感を受けました。当時の自分には数個の小さな怪獣消しゴムすら貴重な怪獣グッズで、ソフビなど遥か彼方の天上アイテムな感覚でした。それは育った家庭が際立って貧困だったわけではなく、単に子供に厳しかっただけで、特に子供が強く望む物ほどあえて遠ざけ与えない傾向がありました。私の親世代は何かと「ハングリーさを持て」と謎の精神論を掲げ、無意味に子供へ抑圧的な養育したがる傾向がありましたが、自分の家庭内ではそれが特に強く、子供に夢中になる物を与えると耽溺して他が疎かになるから禁ずる、というのが理由でした。おかげでこちらは飢餓感と執着を一生引きずる羽目になったのだから、親の養育方針は大失敗だったと言えます。

それはともかく、その時に自称怪獣大好き貧困児童が片手間怪獣コレクターへ謎の対抗心を燃やしたことは事実で、自分は早速口先マウント取りに行きました。
「すごいねー、何体くらいあるの?」
「数えたことないなー」
「レッドキングはある?」様子見開始
「あるよ」
「じゃあゴモラは?」軽くジャブ


「あるよ」
そのへんからひょいと取り出して見せてくれます。
では少し変化球を入れて牽制だ。
「ギャンゴやケムラーは?」
「あるよ」
「アーストロン、サドラー、ノコギリンは」別作品に切り替えて


「あるよ」
「ベロクロン、バキシム」さらに別作品で


「あるよ」
またも砂場のあちこちから拾い上げて見せてくれました。
これは手ごわい。TV番組出身だけじゃダメだな。だが映画作品ならどうだ。
「ゴジラはある?」


「あるよ」
「ガイガンやメカゴジラは?」さらに捻ります


「あるよ」
ウルトラだけじゃなくゴジラも抑えてるのか。ならば
「ガメラはあるの?」こいつは制作会社が違う映画だ、円谷系列じゃないはずだからさすがに無いだろう。


「あるよ」
なんであるの……もうだめだ。私の小さな意地張りマウント取りは何一つ通じず、木端微塵に砕かれました。持てる者と持たない者の圧倒的かつ絶望的格差を思い知りました。

そして思い知ったのは敗北感だけではなく、自分の作りたい箱庭の具体的な理想像でした。そこで私は先ほどまでの意地張りなどすっぱり捨てて、普段遊ぶ機会のない怪獣玩具ブンドド遊びを満喫させてもらいました。

でもその後に友人宅に行く事はほとんどありませんでした。あの楽しい庭は友人の物であって、自分の庭じゃないから。自分にとっての、さらにもっとこうしたいああしたいという欲求をかなえる場所じゃないから。その頃に、自分が大人になったら自分だけの庭を作って、好きな物を好きなだけ揃えて並べて存分に遊ぶという目的が出来ました。小学校低学年だった当時の強烈な敗北感、口先だけで名前を並べる行為が、現れる実物に尽く跳ね返される圧倒的な存在感。当時の私は確かに全力で立ち向かったのです。それらの映像文化に触れる機会の乏しい子供が、必死に知識を貯め続けてきたけど、元資本が違い過ぎてまったく対抗できませんでした。そして自分が井戸の中の蛙どころかおたまじゃくしですらなく、隣にいた蛙はすでに大海を泳いでいたことを思い知りましたが、そこで生まれたものは敗北や屈辱よりも、さらなる大海への憧れと期待でした。
おかげで現在に至るまで私は完全にインドア人間で、相変わらず怪獣玩具を買い漁っては部屋に並べ続けているのですが、仕方ないだろう。まだ10歳にもならないうちに圧倒的な敗北と目指す希望を同時を得てしまったら、ショックで性癖が多少ひん曲がる執着が生まれるのはむしろ当然のことだと思います。

それで今の自室には幼少時の自分が見たら驚愕するようなメンバーが並んでいます。ウルトラ怪獣と東宝・大映怪獣が競演状態です。怪獣ソフビに関心が無い人達にはピンと来ないでしょうが、初期のウルトラ怪獣と映画怪獣は商品サイズが違いました。値段も旧ウルトラ怪獣シリーズが700円統一サイズだったのに対し旧映画怪獣は2~3千円ほどの大型サイズでした。そして現在ではウルトラ怪獣が13cm程に縮小し、映画怪獣は16~7cm程で、やはり大きさが違います。しかし2000年頃から2012年頃まで両者サイズが一致していた時期があり、ほぼ同寸で揃えることが出来ました。つまり所属作品を超えたクロスオーバーが10年ほどの時期限定ながら可能で、自室の棚に並べながら
ゴジラ対ゴモラ、だの
ガメラ対レッドキング、だの
キングジョー対キングギドラ、だの
メカゴジラ対恐竜戦車、だの
と実現しようもない対戦カードを考えて遊べます。自室で映画の一場面を再現したいわけではありません。どうせなら再現しようのない場面を考えたほうが楽しいです。べつにアイテム無しに想像して楽しむのもかまわないけど、手元に現物あるほうがイメージ膨らませるの捗るじゃない。それで自分の遊び方は、頭のなかに一定ルールを設けて、それに応じたメンバーを収納ケースから取り出し、棚にぞろぞろと並べます。そこでソフビを手に取り怪獣になりきってブンドド遊びをする――なんてことはまったく無く、並べたメンツを眺めながら何分も、長い時には数時間に渡ってひたすら思考の展開と掘り下げを続けます。黙したままほとんど身動きせず延々思考を続ける様子は、傍目に見れば瞑想のように映るかもしれません。つまり目の前に並べた怪獣メンバーを動員して、脚本:自分、監督:自分、観客も自分な物語を作って楽しんでいるわけです。それの何が楽しいのか、何もかもが楽しいですけど。脳内で展開される光景はただの殴り合いではありません。格闘漫画に「競うな!持ち味を生かせ」という格言がありますが、その金言に従いそれぞれの持ち味を生かし、格下でも特技を生かして有利な戦況に持ち込んだり、強者は自身の武器を最大限に使い、互いに持てる能力を全て出し切って激突したならひょっとしてもしかすると意外な結果が起こり得るかもしれません。そうした性能検証も加えた脳内シミュレートを楽しんでいます。

最近のお気に入り大戦カードは「空の大怪獣因縁対決 ラドンVSメガギラス」です。

どちらも東宝怪獣ですけど出演時期が大きく離れており共演したことないので。そもそもデビュー作からすでにラドンはメガヌロンという古代トンボの幼虫を食っており、食物連鎖に歴然とした序列がありますが、その後40年程経ってからメガヌロン側に種族決戦用大型個体メガギラスの設定が出来ました。そのメガギラスは映画内でもゴジラ相手になかなかの健闘を見せたのですが、本来こいつが決戦を挑むべき相手は生まれるヤゴをかたっぱしからパクパクパクパク食ってしまう、天敵捕食者のラドンであるはずで、これは超音速で衝撃波ぶち撒けながら飛び回る巨大翼竜と、生物界最高性能を持つトンボの飛行能力で、前進後退滞空あらゆる立体機動可能な巨大捕食者昆虫との天空大決戦になるのは間違いないでしょう。それなら、同じく高速で飛行するうえに高周波ブレードを吐く、飛び道具持ちのギャオスのほうがさらに強いんじゃないですかね。そういうのもまた後で考えるから。今はラドンとメガギラスの話だから。まずは食物連鎖の因縁と被捕食者の反撃の話を片付けてからです。でも結局は飛行怪獣全体ならモスラが一番強くなるんじゃないの。鎧モスラとかでたらめに強いと聞いてますが。しかしうちにモスラはいません。私は蛾が大嫌いだし、あいつ格闘戦できないし、殴り合いできない怪獣に用はありません。じゃあバトラはどうなのさ。バトラは陸戦型で格闘戦も得意だろうが。バトラはいいんだよ。でもうちにはバトラもいないけどな。

しかし現状ではウルトラ怪獣はサイズダウンされ、映画怪獣もムービーモンスターとして続いているものの、両者はまたサイズ違いのシリーズに別れ、あまりそそられる商品展開はありません。それで3年前くらいに怪獣ソフビ収集趣味も終了したつもりでした。出ている欲しい物は一通り押さえているし、これ以上増えないと思っていました。

プレミアムバンダイでたまーにマイナーな怪獣をウルトラ怪獣5000といったシリーズで出してくれることもありますが、あれ少しサイズが大きいんだよね。もともと特撮怪獣は着ぐるみで中に演者が入って動かすものだから、私は中に入ってる人のサイズ感を重視します。強キャラはデカくても良いし、尻尾の無い人型はその分の材料が背丈にまわり、やや大型化するので、現行の600円シリーズくらいでも良いとも思いますが、旧型直立恐竜タイプのゴジラ体型怪獣に関しては頑なに旧型での同サイズに拘っています。具体的には中の人の肩の高さや腰膝の位置が重要です。そしてプレバンでたまに出る豪華版の怪獣ソフビは、この位置が従来シリーズと微妙に合いません。平均サイズ16cmのところに18~20cmが出てくるのよ。等身大に直したら約30cm差ですから、これは女性と長身男性くらい体格差があるわけで。並べると結構な違和感があります。そんなわけで私にとって怪獣ソフビはもう増やす理由の無い終わったジャンルのつもりでした。幼少時の憧れもここでゴールを迎えたはずでした。

ところが、最近になって怪獣ソフビの供給先が増えました。
「さくらトイズ、Y・MSF」というソフビ製作販売を手掛けている会社があります。去年まで存在を知りませんでしたが、どうやら小ロットで怪獣ソフビを製作しイベント等で販売している様子です。とあるネットの書き込みに「メガロとエビラのソフビはY・MSFので満足した」とあるのを見て、メガロとエビラのソフビ?そんなのあったかな(バンダイのムビモン・メガロの発売告知前です)ブルマァクの復刻じゃなくて?と画像検索したら、ものすげーかっこいいメガロと、ものすげーかっこいいエビラが出てきました。なんじゃこりゃあ、と我が目を疑いましたがこれはまだ序盤の前振りに過ぎません。さらに検索を続けると他にもマイナーな東宝怪獣、初期ラドンに、バラン、サンダとガイラ、メカニコングなど次々出てくる。そしてどうやらサイズが16cm前後と、自分の収集しているシリーズとほぼ一致する様子。マジか、存在したのか、ありえない物を見てしまった衝撃。これらが並んだ自室を見せたら、幼少時どころか3年前の自分でも驚愕すると思います。是非とも欲しくなったので流通方法を調べましたが通販サイト等は無いらしく、たまに中古ショップに出るも現在品切れで、しかも結構お高い。困ったわ―とさらに検索を続けるとどうやら当事者らしきツイッター・アカウントを発見しました。説明欄を読むとフォロー後に直接DMをやり取りして商品購入する方法を取っているのがわかりました。ならば早速フォローしましょう。その後しばらく経ってツイッター上に告知が出ました。
「メガロ販売します」

ついに来た。これを待っていた。初めての申し込みでしたが、購入手続き案内に従いスムーズに進めることが出来ました。メガロ入手。
手元に届いたメガロは想像以上の素晴しい出来栄えでした。プロポーション完璧、表情は精悍、成型色と塗装も文句なしの色調、特に背面の羽根模様が鮮やかです。さらにサイズもちょうど良く、肩や腰位置が他怪獣と並べてもほぼ一致します。だいたい同じくらいの体格の人が中に入っている状態です。そしてやや肩を落としながら低く構えた前傾姿勢は、相方のガイガンが反り気味のポーズなのと対照的で、それぞれの魅力を引き立て合う形状です。さらにつや消しのざらついた質感と、リアル過ぎずチープ過ぎずの絶妙な玩具感は他怪獣ソフビと並べてもまったく違和感が無く、数ヵ月前まで存在すら知らなかったはずなのに、怪獣ソフビ棚に並べた瞬間からまるでずっと昔からそこに居たかのように即馴染んでしまいました。昭和ゴジラ終盤敵怪獣のガイガンとメカゴジラの間にすとんと納まり、両脇の2体が「よう、戻ったのか」と挨拶かわしていそうなくらいに馴染んでいます。
これは良い物だ。買って良かった。

現在の私も喜んでいますが、私の中に残っていた幼い自分も喜んでいます。幼い日に強烈な印象を受けた友人宅の砂場にもたぶんメガロは無かったからな。もう敗北感も消えました。

もちろん、その後も気に入った品物の販売告知が出る度に購入し、初期ラドン、うつ伏せバラン、サンダとガイラ、キングコングとメカニコング、エビラ等を続々と購入。たちまち怪獣ソフビ棚の昭和東宝エリアが充実しました。ここにバンダイ新作のゴロザウルスとヘドラも加わり、もう満足しました。いやまだバラゴンがいないな。首から下はネロンガだからそれで我慢しろ、とは考えません。ゴジラの後を務めるべく新怪獣として作られながら微妙にぞんざいな扱いをされ、しかしながら後にパゴスやネロンガやマグラーなど多くの怪獣の下地として活躍した貴重な存在です。あの特徴的な大きい耳や光る角、やや哺乳類ぽくも見える口元や大きな目など、独自個性を多く持つ良デザインです。私は16cmサイズのバラゴンが欲しいんだ。旧ソフビは造形完璧だが若干ながら大きいんだ。だからムービーモンスターで新商品化されるためにも話題作りのため、今こそ映画「シン・フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」を撮るべきではないでしょうか。そしてもちろん大ダコもソフビ化するべきです。商品名は大ダコでもスダールでもかまいません。バラゴンを倒した後に脈絡なく登場し、最終戦を飾る大ダコは他映画やウルトラQにも登場しますが、出番が多い割にただデカいタコという見た目の地味さから商品化の機会が少なく、16cmソフビと絡めるサイズの商品も自分の知る限りはありません。

指定外来種対決 ミドリガメVSアメリカザリガニ

サンダとガイラ

宇宙ギャオスと昭和ラドン

包丁怪獣ギロンとムササビ怪獣バラン

それはともかく、この1年で私のソフビ欲は急激に解消され、幼少時に感じた心の傷も埋まりつつあります。5年程前まではわりと自暴自棄を起こしており毎日やさぐれて暮らしていましたが、その頃の自分に「2021年まで生きてたら良いことあるよ」と教えてやりたいです。そしたら今頃は来る時に備えて前もって用意した予算をじゃんじゃんY・MSFソフビに投入してばかすか買いまくっていたのに。いや5年前だと2017年、あの当時は既に2015年から始まった1/35ボトムズプラモ企画があちこちから出て、それらを大喜びで追い始めた頃だな。もう自暴自棄になってないや。ならば子供の頃の自分に教えてやりたいです。嫌なことたくさんあっても2020年代まで生きていたら、おめーの消費型生活に大当たりする品物が続々出てきて嬉しい悲鳴上げる事態になるから、それまで耐えな。メジャーどころが一周り二周りして飽きられてくる頃にマイナーアイテムがぞろぞろ来るぞ。好きだろうマイナーキャラ。決して物語に中心にはなれない脇役達にばかり目が向く性質だろう。そんな脇役達の出番がまた来るよ。今後もホビー界隈は楽しみだね。


最新の画像もっと見る